電光掲示板は口ほどに顔文字を語る2
王宮内は基本石造りで蔦系の植物が壁や床や天井にめり込み迷宮を形作っている。
歩くたびに迷いそうなものだが100年単位で通い続ければもう慣れたものである。3人は国王の執務室へ向かっていた。
「今日は珍しく人がいませんね。」
「第2騎士団と第3騎士団が合同演習だそうだ。他の団はいつも通りの仕事をしてるはずだから詰所にいるんだろ。」
「わー近衛専属騎士はすごいなー。騎士団の予定まで知ってるー。」
「それはお前もだろうが第6騎士団団長フィン殿?」
「まあそれもそうなんですけどね?…いや、改めて第5騎士団の詰所って遠いなーって…」
「いや第8騎士団の方が遠いだろ………うちの王立騎士団、多くないか?いや本当に。」
それもそのはず。エスペリトゥヴェルトの王立騎士団は1個の近衛騎士団と9個の護衛騎士団で構成されている。つまり騎士団が全部で10個あることになる。まあ団によって仕事の役割が9割違うからこの数でいいといえばいいのだが。
「必要なことだろう?妃殿下がそう判断を下されたのだから。我々は何があろうと国のために尽くすだけだ。(`・ω・)」
「さすが王子様は言う事が違いますね。」
「いや王子はハルトだろう?(´・ω・)?」
「一応、戸籍だけはな。」
不満げにため息をつくラインハルトにアデルは慌てる。
「まさかリヒトクローネ様を差し置いて次期国王になるつもりか!?(;゜Д゜)」
「誰がなるか!?王子様扱いされてるけどただの女王の養子だからな俺!?」
「女王陛下ではなく妃殿下。だが。( ゜д゜ )」
「あ、あー…でも皆にとっては女王陛下だからな、師父は…。それはそうと第一王子の肩書はいらない。分不相応だろ。」
「いや私の王子扱いはおかしいが、ハルトのそれは分不相応ではないだろう?(;´・ω・)」
フィンはジト目で2人を見る。
「どうした?フィン。(;´・ω・)」
「これだから…自分を理解してない人達はこれだから…。」
「ハルトが第一王子なのは分不相応ではないだろう?(´・ω・)」
「それも当然ですがアデルさんを王子様扱いするのも分不相応ではないですからね?」
「えっ。(;゜Д゜)」
この態度にいよいよフィンの顔が引きつる。それも当然。ラインハルトとアデルは色々と規格外なのだ。
まずラインハルトだが出自はともかく王妃アルべリアの養子である。血縁の繋がりは無いので王位継承権は持たないが、それでも戸籍上の第一王子で間違いはない。またアルべリアに幼少期から容赦なく鍛えられたため武術の腕前も確か。さらに本人の能力と国王夫妻との親子関係を考慮した結果としてアルべリアの近衛専属騎士となっている。
ついでにいうと『緊急時の国王の護衛』『前線での切り込み隊長』『前線での陣頭指揮』『女王陛下の補佐』などが仕事のため、騎士団長のいない近衛騎士団において多くの者達からこっそりと『影の騎士団長』などと呼ばれている。
続いてアデルだがエスペリトゥヴェルトの正統な貴族であるリッター4公の中で最も重要視されている『全てを守護する王の盾』リッターシルト公爵家の3男である。
2人の兄達と同様に高い教養を持ち、ラインハルトと並ぶ確かな戦闘力を持ち、誠実で善良な性格をしている。故に第一王女リヒトクローネの教育係に選ばれ彼女の近衛専属騎士にもなっている。
さらに自分と子供達の王位継承権を返上した彼の母親は国王ハインリッヒのいとこである。そしてアデルにとって王女リヒトクローネははとこである。つまるところ彼は王族の縁戚の一員なのだ。そんな彼が王位継承権を復権した場合、戸籍だけのラインハルトとは違いガチで正真正銘の王子様となる。
ついでに言えばこの国に2人しか存在しない特別な騎士である『近衛専属騎士』とはこの2人の事である。
…という、立場的にも能力的にもエリートかつ王子様な2人が王子という立場を分不相応とか言い出している。ナニコレムカツク。
「…フィン?(;´・ω・)」
「どうした?」
フィンはいきなりアデルの背後に立つ。
「………えい。」
指をぱちん、と1つ鳴らす。
次の瞬間、そこにはアデルと同じ服装で電光掲示板を背負った1m弱の大きさのうさぎがいた。
しかもアデルの髪色と同じ毛色をしている。
「えええええええ!?(;○Д○)」
「いやお前ぇ!!アレ使ったな!?」
「うわ愉快な状況だな。でもアデルさんなら自分で元に戻れますよね?」
ラインハルトがここで言うアレとは精霊のみが使える変化の魔法『フェアエンデルング』のことである。
有機物にも無機物にも変化する事ができ、性転換すら容易く行え、使い方によっては軍事行動などに応用する事も可能。さらに変化の対象は自分以外の存在にも及ぶ。
アルべリア曰く『物質変化という錬金術師の得意技に近く、もし魔導士が使おうものなら使いこなすのに相当難しい部類に入る魔法で、物質を瞬間的に分解し高速で再構築するという手段を極限まで極めた行為』らしい。
精霊だけがこれを指パッチン1つでたやすく行える。むしろ死ぬ気でやれば指を鳴らすことすらなく無詠唱かつ無行動で行える。また精霊しか使えない故にこの魔法の存在は国外の者には他言無用となっている。…であるにも関わらずエスペリトゥヴェルトの民は気安くこの魔法を使うのだ。今フィンがアデルに使ったように。
アデルは慌てて指を鳴らして元の姿に戻る。
フィンが指を鳴らしてまたウサギの姿に変える。
アデルが戻す。
フィンが変える。
この攻防はしばらく続いていたのだがついにアデルの方が折れた。
「もう…うさぎでいい…。フィンがそれでよいのならば…。(´;ω;)」
「いや諦めんなよ!」
「いえいえ諦めればいいですよ、ねー。」
フィンは気が済んだのかどこ吹く風だ。
一方でアデルはなされるがままフィンに抱き上げられて足をぶらぶらさせるしかなかった。
そしてフィンがアデルを抱き上げたことで3人は気づいた。
「僕…画面すり抜けてません?」
フィンの体は電光掲示板をすり抜けていた。