王様は遊ぶのもはた迷惑なんです2
リィとレベッカは拘束したハインリッヒを連れて城のど真ん中を突き抜けている中央渡り廊下に来た。
とりあえず執務室にあるハインリッヒのコレクションを盾にとって身動きを封じ、強化魔法を何重にもかけた手錠で拘束して紐までつけ、さらにアルべリアから特別外出許可までもらった。ハインリッヒの性格を考慮した上で出されたこの許可のおかげで何かあってもリィとレベッカは責任を問われない。かなり気楽になったというものである。
…まあハインリッヒが逃げ出した場合を考えて遠隔で発動させる事ができる魔法の小型爆弾を執務室に設置してきたというのもあるのだが。しかもシャイニーリリィ関係の漫画やらグッズやらを集めた場所に複数設置するという念の入れようである。ちなみに部屋の中の物が壊れても部屋自体は無事な仕様なのでこちらもアルべリアから許可が下りている。そんなあんまりな仕打ちを受けたためかハインリッヒは大人しくしていた。
「娘と娘の友達が…鬼畜だぁ…。」
「レベッカー。もし爆弾が失敗したらおとーさんのお部屋で暴れてほしいのですよ!」
「わかったぜ!!」
「うん、やめて!?おとーさんいい子にするから2人ともやめて!?」
「リィのとーちゃん気をつけろよー。そんで何で手錠が部屋にあったんだ?」
「ああ、小説を書くのに色々と参考資料が欲しくてね、木刀とかモデルガンとか百円均一の警察セットとか買ってさー。そしたら警察セットに玩具の手錠がついてたってわけ。意外と頑丈だしちゃんと鍵付きだから鍵で開けるか思いっきり壊さないと外れないよ?この手錠。しかも強化魔法をかけられたせいで今ガチの手錠も同然だしね!!泣いていい!?」
「声を殺すのなら泣いてもいいのですよー。…ところでちゃんと小説は書けたのですか?おもちゃは買ったけど何も書いてませんとかないですよね?」
「失礼だね!書いたよ!!…何故かアルべリアにデータ化されて封印されたけど…。」
「封印されたのですか…。」
「リィのかーちゃんがそーゆー事するのよっぽどだぞ?何書いたんだ?」
「レベッカ、聞いてはいけないのですよ…。とにかくここからどこに行きましょうか。」
リィは中央渡り廊下を見る。
それは渡り廊下というにはあまりにも巨大であった。道幅は大よそ10m程で高さは50mくらいだろうか。道の終わりが視認できない先までずっと続いている。
渡り廊下の両側の壁は、上半分は天井近くまで窓もなく開け放たれ、下半分はしっかりとした壁がある、安全かつ豪華な見た目の柵で封鎖されている。開け放たれた部分からは断崖絶壁をも含む自然の豊かな森が広がっているのが見える。遠くには虹もかかっており青空は澄み渡っていた。差し詰め絶景の見える巨大トンネルといったところか。もはやこの渡り廊下を眺めているだけでも充分暇つぶしである。
とはいえ飽きっぽいハインリッヒは騒ぎ出しかねないし、リィは先程のハインリッヒの誘惑のせいでアルシュに乗りたいとそわそわし出している。
「アデルがいない今がスピード限界ギリギリかっ飛ばしのチャンスなのですよ…。」
「へー。じゃあアデルにチクっちゃおうかなー?」
「あ、爆弾を爆発させますね!」
「やめてやめてやめて!!僕が悪かったからぁ!!」
「つうか、どこに行くか決めねえと廊下に出られねえんじゃねーか?」
「あ、それもそうなのです。んー…ごはんは食べたからお食事エリアに行くのも…やっぱりここは噴水広場にしましょうか。ポッザさんが噴水広場で『ポッザおばさんのラッキー☆ピザ』の新作をお祭り用に1枚描くんだとか。今までのよりも特に大きいのを描くのだそうです。」
「アレかー。めちゃめちゃうまそうだけど食えねーんだよな…。」
「描いてる間にしてくる焼きたてのピザの香りでみんながピザを買い出したらピザ屋さんがもうかりそうですね…。」
「けど毎日ピザのにおい嗅いでたら胸やけでピザを食べたくなくなるかもだな。」
「そもそも何でみんなが集まる噴水広場に…え、ええい!とにかく行くのです!アルシュを出しますよ!!」
リィはやけっぱち気味に空中の多次元収納スペースから自分用のアルシュを取り出す。
2人掛けのソファが縦に並んでいる4人乗り用のシンプルなものだ。とりあえずハインリッヒを拘束したまま後部座席の右に乗せ、レベッカが手錠の紐を確保して後部座席の左に乗る。
「え!?僕がリィの隣じゃないの!?リィが暴走したら誰が止めるのさ!!」
「暴走するって決まったわけじゃねえだろー?それにかっ飛ばす方が楽しいじゃねーか!大体アデルなんかいっつも60以上は出さねえからなー。それじゃつまんねえし。」
「ここのスピード制限は80~90です。安全を考慮して85くらいで行きましょう!」
「それ考慮してるかな!?限界速度より5低いだけとか考慮してるのかなあ!?」
「あんまりうるさくしゃべってると 舌 嚙 み ま す よ ?」
「あんまりだあぁ…。死にたくないぃ…。」
「おとーさんだけベルト外しますか?」
「リィー。さすがにそれはアデルに怒られるって。ベルト外したらリィのとーちゃん飛ばされてくぜ?」
「魔法でお空を飛べるので今更なのです。…でもおとーさんから目を離したらおかーさんに怒られますね。」
「でしょ?ここはせめて70くらいでさ…」
「まあ目を離さなければいいのです!さあベルトをしめてください!かっ飛ばすのですよ!!」
「っしゃ!まかせろ!!」
ハインリッヒがもたつく前にレベッカがすばやく自分のベルトとハインリッヒのベルトを締める。
「いいぜ!!」
「いきます!!」
こうしてリィのアルシュは巨大渡り廊下をかっ飛ばし始めた。風景が流れていく。文字通り川の激流がごとく流れていくのである。
さらに言えば安全を確保するため天井に近いところを走っている。これでは遊園地のジェットコースターである。
「あ、死んだ。死んだ。」
「いや生きてるって。」
「そろそろ広場に着きますよー。」
「え、もう!?早っ!!」
驚愕するハインリッヒの前に噴水広場が見えてきた。




