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精霊の森は今日もやかましい。  作者: 森の民
本編
21/31

貴族とは存外めんどくさかったりする5

「だから、やめろとハインリッヒに…」


一時はどうなるかと思われたが、無事に女王陛下の愚痴が吐き出されて3時間。

お茶のおかわりにクッキーやらケーキやらついでにサンドイッチも用意して『そろそろやらねば女王の愚痴吐き相談会』は進行されている。

ただ4公は今回の最初の議題に端を発した『ハインリッヒはダメ国王』という事実に改めて頭を悩ませていた。一方のアルべリアは察しているのかいないのか、もう話題に『リィの婚約話』という議題を持ち込む事は無く日頃のハインリッヒの駄目っぷりを話している。

もしこれが普通の夫婦ならば愚痴も吐かずにとっとと相手を見限って離婚してしまえばいい話だ。


だがアルべリアはそうはいかない存在だ。


完全に一方的で勝手な都合だがアルべリアに離婚されて困るのはエスペリトゥヴェルト側である。

ハインリッヒの代わりにほぼ全ての国政をこなせる王族は彼女だけなのだ。4公と官僚達だけでも国政の実行が可能だとは言っても、元異世界人であるアルべリアとの実務能力の差は歴然だった。

そもそもアルべリアは王妃という立場でありながら、戦えば民の中で一番強く、滅びかけていた国を建てなおし、さらに精霊の加護を得た魂持つ武器の中でも『女王の剣』の異名を持つ『精霊剣ブレイヴィア』に主として選ばれた存在なのだ。

これだけの条件が揃った人物だからこそエスペリトゥヴェルトの全ての民がハインリッヒの伴侶に彼女を望み頭を下げ結婚してもらった。多くの者がアルべリアを『王妃様』や『妃殿下』ではなく好意を持って『女王陛下』と呼ぶ。これこそが王として扱われ慕われている事の証明だった。

ついでに言うなら身分に関係なく大半の者がハインリッヒよりアルべリアの方を好きなのである。


もはや彼女が王でなくば誰が王なのだ。


故にこそエスペリトゥヴェルト側にとっては是が非でも離婚は回避したい案件なのである。

そもそもハインリッヒお得意の『魔導科学』と『異世界文化振興』と『夜の営み』は明確に王の仕事ではない。その上で仕事と称してオタク生活にどっぷり浸かっているのだ。アルべリアからすれば遊んでいるハインリッヒの仕事を肩代わりした上で自分の仕事もしているという状態だ。もっと言うならアルべリアには趣味がない。いや、仕事が趣味なのである。ストレスが溜まるのも当然だ。

もっともアルべリアの方はハインリッヒとの2600年にわたる付き合いと王妃としての責任感からか離婚のりの字も出してこない。そもそもアルべリアにとっての離婚とは『王妃が国王を見限り婚姻を解消する事で民が見捨てられるような事があってはならない』という『するべきではない事』なのだ。つまり責任感の強い彼女は最初から離婚を選択肢に入れていないのである。

まったくもってありがたい事だが余計に罪悪感が掻き立てられる。ちなみに当のハインリッヒは『離婚なんてないない大丈夫でしょ』などと好き勝手している。そろそろ温厚なパトリオートもキレそうである。

こうなるともはや正統なる貴族として4公は頭が上がらなかった。情けない姿を見せるとアルべリアに叱責されるため表面上は『年長者のため自分たちの方が立場的には上である』ように見せかけているが、本当は『ハインリッヒを見捨てず離婚もしないで仕事まで肩代わりしていただきありがとうございます』と土下座したいところだ。

そんなわけで4公は今もキリキリと胃を痛めているのだが流石にそれは悟らせない。ただでさえ迷惑をかけているアルべリアに気を遣わせるなどしてはいけない。ありえない。一方でアルべリアはサンドイッチをハムスターのように頬張っていた。普段人には見せることがない女王陛下の気が抜けた姿は何となしに癒される。

ただパトリオートは決心していた。ここで場を乱しても今日こそ言うべきではないかと。他の3人が何を思っていたとしても、だ。パトリオートは立ち上がり姿勢を正すとアルべリアに向き合った。


「無礼をお許しください。」


そのまま深く礼をして頭を下げる。


「アルべリア。まず貴女にお詫びを申し上げる。本当に心の底から申し訳ないと思っている。…許してくれとは言わない。」


アルべリアは驚いて腰をあげた。他の3人も息が止まる。パトリオートがこのような話し方をする時は公爵としての顔を見せる時だ。さらに今パトリオートが急に頭を下げてきた理由がここにいる全員には皆目見当がつかなかった。


「ランツェ卿。それはどういう―――」

「本来ならば一人の男として安らかに生を全うする所を女にされた。それなのにハインリッヒを止めず自分達の国の為に無理矢理に玉座を押し付けた。まずこの謝罪を済ませなければならない。でなければ私には何一つ語れる言葉が無い。」

「いや、ただの建てなおしとはいえ自分の意志で国を作ったのだ。その上で国王と結婚したのならば王族の責務を負うのは当然の義務だと…」

「それはあるかもしれない。だがハインリッヒのしてきた事に関して貴女には負うべき責務も義務もない。前々から思っていたことだ。アルべリア。ハインリッヒにエルボーをかましてもかまわんかね?」

「エルボー。」

「そう、エルボー。強いのを一撃くらい入れておけば暫くは調子に乗らないと思うのだがね。」

「ならば…パトリオート。私はラリアットを入れたいのだがね。」

「トルバはラリアットか。なら私はシールドバッシュを。」

「ふむ…パトリオートのエルボー、トルバのラリアット、フリードのシールドバッシュ…。アルべリア、私は剣を持ち出しても?」

「それはかまわないが…貴方達が一撃ずつ入れたところでハインリッヒの性根は治らんぞ?」

「いや、性根が治らなくともかまわない。ただでさえ貴族というめんどくさい立場の我々と普段からしんどい思いをしている君に仕事を押し付けているんだ。一度くらい締めあげても罰は当たらんと思わんかね?」

「ランツェ卿。」

「何だい?」

「私も一撃いいか?」


…このしばらく後に簀巻きで吊るされたハインリッヒが目撃されたのだが皆が見なかったことにしたという。

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