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精霊の森は今日もやかましい。  作者: 森の民
本編
16/30

部屋とは何をもって部屋というのか5

一行はハインリッヒを加えアルべリアの私室へと向かっていた。


「…陛下の執務室と妃殿下の私室が分かれているなと思ってはいましたが、まさか寝室まで別だとはさすがに思っていませんでした…。」

「アデル大丈夫?っていうかみんなそろって大丈夫?」

「おとーさん…じゃあぼくはどこで製造されたのですか…。」

「うん、いまから行くお母さんの私室だよ?」

「おかーさんの体みたいに研究室で作ったのではないのですね…?」

「いやほらあのお母さんの体は特別仕様だからね!?リィ!?」

「いや師父を手に入れるために魔導科学でホムンクルス作るみたいに今の体を用意したのお前だろハインリッヒ…。…俺はあの日の恐怖を忘れてないぞ?師父が目覚めた日の恐怖を…」

「ねえ…人の奥さんというか義理とはいえ自分の母親に向かって、そんな魔王でも覚醒したかのような言いぐさはさ…。」

「あの状況からあんな状態で覚醒したんだからほぼ魔王だろ!!そもそも本人の元の性自認は男だし俺にとっても義理とはいえ父親だったんだぞ!?今でこそ女に慣れてるというか性自認が女になっちゃったけど何てことしてくれてんだ本当に!!取り返しのつかないことばかりするなお前は!!」


2人がぎゃいのぎゃいのと騒いでいる間にリィは少し駆け足で距離を取る。ついでに先頭のアデルに追いつきこっそり聞いてみた。


「…これでもおとーさんを敬えますかアデルは…。」

「そうですね。心から敬えるかは別ですが…少なくとも陛下の顔に泥を塗るような振舞いはいたしません。あのようなお方であっても国王陛下です。あの方のお立場をお考え下さい。何よりどなたが相手であっても敬う気持ちを忘れず、またみだりに相手に恥をかかせるような真似もなさらないように。」

「アデルはくそ真面目なのです…というか、さっきの会話はいいのですか…?」

「不敬や恥がどうのという問題では無く純然たる事実なので何と申せばよいのか…。」


思わず眉をハの字にしたアデルを見てアデルの部屋のうさぎを思い出したリィだがここである事に気づいた。


「おかーさんの話で思い出したのですがお部屋の見本を見せるのなら何で1番最初におかーさんのお部屋へ行かなかったのですか?」

「それは…そうですね、リヒトクローネ様にはまだお早いかと思ったのです。」

「もうぼくが生まれてから600年くらいですよ…。…というか、ぼくは1度もおかーさんのお部屋に入った事が無いのですが。あと道が狭く暗くなってきたのですが…」

「そうですね、王宮内でもはずれの方にあたりますから、日差しはあまり差し込んできません。そういえば確かにリヒトクローネ様の来室は今回が初めてになりますね。…ああ、見えてきました。あそこです。」

「ほぼ真っ暗なのですよ!?」

「部屋自体は明るいのですよ?今日はハインリッヒ様がためてしまった書類を片付けるという事で私室にいらっしゃるはずです。」

「おとーさんは仕事をしてなくていいのです…?」

「先ほど陛下の机の上に何かの設計図がありました。だから何もしないで遊んでいるわけではないと思うのですが…」

「趣味か仕事かわからないのがおとーさんの仕事でした…。遊びじゃなくて仕事の時もあるからうっかり叱れないのですよ…。」

「そういう時は妃殿下にそっとお伝えしておくといいですよ?」


リィは『それはチクりでは?』の一言を飲み込んだ。部屋に近づくにつれハインリッヒとラインハルトも追いついてくる。


「あー!あの馬鹿に付き合ってられるか!…っと、もう部屋か。騒がないようにしないとな。」

「ハルトがうるさいからでしょ!」

「おまえもだろ!あーうるさいうるさい!!」

「どっちもうるさいわ!馬鹿者共が!!」


いきなりすさまじい音を立てて扉が開かれる。唐突に光が差し込んで全員が目を眇めた。


「…む?リィとアデルも一緒か。雁首揃えてどうした。」

「お、おかーさん!おかーさんのお部屋に入ってみたいのですがよろしいでしょうか!」

「私の部屋に?…あ、ああ、そうか。多忙が過ぎてお前を1度も部屋に入れたことが無かったな。別にかまわんが…面白いものは何も無いぞ。」

「あ、いえ…お部屋の模様替えのヒントが欲しくて…」

「ああ、あの真っ白な部屋をようやく変える気になったか。いいことだ。入っていいぞ。」

「失礼しま…」


リィの足が止まる。それもそのはず。


部屋は─────小さな木の洞をそのまま部屋にしたような、そんな場所。


旅の宿屋の一人部屋のようなベッド2つ分の広さ。そこにやはり宿屋にあるような木の無造作なベッドが1つ。書類仕事さえできればいいというような小さな木の机といすが1組。くりぬかれた小さな窓には鉄格子。

それがアルべリアの私室だった。


「お、おか、おかーさん…」

「そんなに狼狽えてどうした?」

「何でベッド2つ分の広さしかないのでしょうか…?」

「私しか入らないような部屋だからな。広さはいらない。」

「ベッドが宿屋のものとほぼ同じなのは…?」

「寝れればそれでいいだろう。」

「カーテンはつけないのですか…?」

「こんな小さな窓にか?」

「そもそもなぜ鉄格子なのです…?」

「鳥が入ってきたら大変だからな。」

「本棚は…」

「本は必要な時に必要な分しか持ち込まん。」

「花瓶…」

「花なぞいらんだろう。」


部屋というよりも、もはや牢屋のようなこれは…


「ほらね…リィの部屋のデンジャラス上位互換でしょ…?」

「陛下、言葉を慎んでください。ですが『お早い』の意味がおわかりいただけましたか、リヒトクローネ様。」

「…はい…はい。」

「どうした、リィ。大丈夫か?」

「お母様、私は部屋に戻ります。ありがとうございました…。」

「む。もういいのか?」

「はい、失礼いたします…。」


その後アデルに支えられて部屋に戻ったリィだが、部屋のコーディネートで散々悩んだ挙句『女王陛下の牢屋と比べたら研究室呼ばわりされようが自分の部屋は全然マシ』と、結局部屋の模様替えをやめてしまった。

リィの部屋は今日も真っ白である。

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