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精霊の森は今日もやかましい。  作者: 森の民
本編
12/30

部屋とは何をもって部屋というのか1

どれもが一級品かつ上等で上質で頑丈に誂えられた、無駄な装飾を省いたように無機質な部屋の家具。

真白の寝具。真白のカーテン。真白の天井。真白の床。真白の壁紙。真白の書棚。窓際の花瓶も真白。白白白白白白白からのシンプルイズベスト。

まるで執務室のような病室のような研究室のような。いや、いっそ研究室の方がまだ多少は彩りがあるような気さえしてくる。


「リィ。なあ、リィ。模様替えしないか?」


あまりのことに少し部屋を飾ってはどうかとラインハルトはリィに提案してみた。




部屋とは何をもって部屋というのか




訝しげに自分を見るリィを見て『むしろ部屋をこうしているのは何らかの理由があるのでは?』と逆に訝しげになるラインハルトである。とりあえず寝具周りから提案してみることにした。


「そうだな…カーテンが真っ白って少し寂しくないか?もうちょっとカラフルに…」

「これは防音遮光MAXカーテンなのです。カーテンは可愛さより機能なのですよ。」

「じゃ、じゃあベッドとか寝具とかを可愛いものにするのはどうだ?リィはお姫様なんだからレースとかフリルとかでそれっぽく…」

「別に寝るためだけのものなので可愛さとか豪華さとかいらないのですよ?」

「天蓋とか無いぞ!?」

「あったら邪魔なのですが。」


やや呆れ顔で見返してくるリィに気まずさを覚えつつ部屋を見回す。そうだ、まず置いている家具が少ない。


「なあ、客人用のテーブルやソファを置かないか?」

「お客様は来賓室に案内するのが基本なのですよ。ハルト兄様も知ってますよね。そもそも何でお客様がぼくの部屋に来るのです?私室ですよ?」

「えっと、レベッカとかヒルダとか来た時に困らないか?」

「レベッカはベッドでごろごろしますし、ヒルダ姉様は長居しません。」

「そ、そうか…。」


ここでちらりと本棚が目に入る。


「そうだ。本棚を木の洒落たやつにしてみないか?部屋に温かみが出るぞ?あ、頑丈な物が良いなら銀細工とかはどうだ?部屋のコーデに合ってるだろ。」

「別に本が置ければ何でもいいのです。」

「…あそことかちょっとペンキ剥げてないかな?」

「あとで絵の具を塗るのでいいのですよ。」

「…ちなみに娯楽系の本が無いように見えるんだけど…」

「実用書以外の本は役に立たないですよ?そういうのが読みたい時はおとーさんの部屋に行って居座ればいいのです!」

「そ、そうか…そっかぁ…。」


がっくり肩を落としながら窓際の花瓶に近寄る。


「じゃあ、せめて花瓶だけでも華やかに…」

「このシンプルな部屋で花瓶だけ華やかにするのです?しかもお花を飾るものなのにお花より派手にするつもりなのですか?それじゃ花瓶の意味がないのです。」

「じゃあ、せめて大輪の花を活けよう!大量の薔薇とかどうだ!?」

「お部屋にお花はいらないです。そもそも飾るためだけに摘むなんてお花が可哀想なのですが。」


ジトっとした目でラインハルトを見つめるとリィはため息を吐いて言い放った。


「王族のお部屋によけいなものはいりませんし、このお部屋で満足しているのです。なぜそんな事を言うのです?」


これに少し狼狽えたラインハルトだったがそうはいってもこの部屋には思うところがある。


「いや…俺の知ってる部屋とあまりに違うから…これじゃハインリッヒ…様の研究室だぞ…?」

「研究室はあんまりなのです!どこが研究室なのですか!?」

「いやもう部屋のどこもかしこも全部真っ白だし…本棚には分厚い蔵書ばかりずらっと並んでるしで研究室に見えてくるんだよ!女の子らしい可愛い部屋にしようとか思わないのか!?」

「わー。男らしくとか女らしくとかものすっごい差別発言なのですー。」

「うっ…悪かったよ…。でもアデルの部屋でももう少し色があるぞ?」

「アデルは王位継承権さえあれば本物の王子様ですからねー。」

「じゃあ本物のお姫様のお前は何なんだよ…。」

「じゃあ一応は王子様のハルト兄様はどうなのですか…。」

「俺?俺の部屋はまともだぞ?」

「ぼくがまともじゃないみたいじゃないですか!あんまりなのです!ハルト兄様のお部屋を見せるのです!!」

「別にいいぞ。見せたら模様替えするか?」

「うっ…それはそれで何か負けた気がして嫌なのです…。」


思わず2人がジト目で見つめ合ってると部屋の外から声をかけられる。


「失礼します、リヒトクローネ様。いらっしゃいます…」

「アデル!お部屋に入るのです!早く早く!!」

「どうなさいました?何か問題でも…」


部屋に入ってきたアデルは少し面食らう。


「リヒトクローネ様、喧嘩ですか?」

「いいえ!一方的に文句を言われてるのです!!」

「そりゃそうだけどな…」

「ハルト、リヒトクローネ様に何か失礼なことを…」

「いや、部屋の模様替えを提案しただけだよ。」

「部屋の…しかし、それはリヒトクローネ様の自由ではないのかな?君の決めるところではないだろう。君の部屋ではないのだから。」

「そうだけど…ハインリッヒ…様の研究室みたいで、いたたまれないというか…。」

「確かにそれには同意するが、それも個人の好みが…」

「同意するってなんですか!アデルまでぼくのお部屋を研究室呼ばわりするのですか!?そんなに言うなら2人ともお部屋を見せるのです!!」

「それは私達の私室…という事ですか?」

「そうです!そんなに僕のお部屋を研究室扱いしたいのならお部屋を僕に見せるのです!!」


ふくれっ面で騒ぐリィを制したアデルは少し考えてから何かに気づいたように提案した。


「リヒトクローネ様、それならば色々な部屋を見て回った方がよいかもしれません。模様替えをするかどうかはさておき、許可を得てから皆様の王宮内の私室を見せていただいてもらっては?」

「わかりました。みんなでお部屋ツアーに行くのです!!」

「俺もか!?」

「元はと言えば君がリヒトクローネ様の私室を研究室呼ばわりしたことが原因だからね。君も行かなければいけないよ?」


こうして王宮内私室ツアーは開始されたのだった。

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