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精霊の森は今日もやかましい。  作者: 森の民
本編
10/31

流行っているので乗っかってみた4

「何をお考えになっていらっしゃるのですか!!!」


事情を全て聞いたヒルダから容赦のない喝が飛ぶ。

王位継承権を放棄したとはいえ彼女の父親は国王ハインリッヒのはとこである。つまり王族の縁戚の一員である彼女は王位継承権を復権すれば王女の1人だ。しかもリィより年上であるためリィに実質上の姉として敬われている。ある意味ではヒルダはここにいる少女達の中で1番偉いともいえた。

その上で王太子のリィが正座して頭を下げている。これはお説教が長くなるなと全員が覚悟した。が。


「理由はよくわかりました。ですがごっこ遊びといえど中途半端な断罪は許せません!正しく設定を決めなさい!!」


これには全員が目を丸くした。


「設定ですか?」


恐る恐る確認するリィを睨みつけヒルダは言った。


「よいですか。婚約破棄は衆人環視の下で個人の独断によって行われるものではございません。リヒトクローネ様ならご存じですね?」

「はい。相手を次期国王の伴侶に相応しくないと判断した場合、国王陛下と妃殿下の許可を得て事実確認と抜き打ち調査を行い、決して王族の地位を与えてはならない者だと関係者各位が判断した場合のみ、婚約者への謝罪を前提に同意書や慰謝料等の用意を済ませ、場合によっては婚約者側の爵位の剥奪等も考慮して関係を正しく清算する。これらの行為を全て済ませてから初めて公の場で婚約破棄を発表する、というものが基本的な手順になりますが…。」

「そうなりますね。相手に非があればこそ、これらの前提は明らかにしなければなりません。」

「あの…ヒルダ姉様…」

「何でございましょう。」

「相手にまったく非が無い前提なのですが…?」

「ええ。今回の場合は悪役令嬢に非はございません。つまり断罪するための前提が間違っている。だからこそ設定を考慮しなければなりません!」


これは面倒くさい事になってきた。ただの悪役令嬢ごっこではすまない予感がする。


「具体的には…?」

「では申し上げましょう。先程の前提を踏まえた上で婚約破棄を行う場合。まず『手順を無視して王太子殿下の感情だけで独断で婚約破棄をしている』または『手順内の調査で判明した情報が悪役令嬢に濡れ衣を着せるための偽りであった』という2つの可能性が考えられます。皆さん、よろしくて?」


少女達は納得したように互いに顔を見合わせる。


「王子がいきなり婚約破棄宣言するんだから確かに手順を無視してるかも…」

「そもそも基本的に馬鹿王子が1人で勝手にやってるのよね。」

「あと濡れ衣ね。ぶりっ子悪役ヒロインが裏で手をまわしてるでしょ?」

「それなんだけど階段落ち多すぎない?」

「簡単に起こせる悪質イベントだからね。周囲にアピールできるし。」


そんな中でレベッカはもう飽きたという顔でヒルダを見た。


「なー、結局ヒルダは何を言いてーんだ?」

「そうですね…馬鹿王子の一方的な婚約破棄か、馬鹿王子に対して悪役令嬢が反撃するか。このどちらかに決めて悪役令嬢ごっこを全力でやりましょう、と言いたいのです。そのために設定が必要だから確認していたのですよ。」

「せってい…最初にこーするって決めてるやつの事か?」

「ええ、そう。今回は…そうですね。悪役令嬢はまったく悪くないという設定です。それで、馬鹿な王子にやりかえすかやりかえさないかを決めましょう、という事ですよ。」

「やりかえすっ!!」

「流石レベッカ。褒めてさしあげましょう。」


レベッカはヒルダに優しく頭をなでられてまんざらでもない様子だ。

しかしリィはそれどころではない。『ただの婚約破棄では終わらない、カウンターが飛んでくるぞ』と宣言されたようなものである。


「あの…それで最終的にどうすれば?」

「リヒトクローネ様はどうなさりたいのです?」

「みんなの意見を聞きたいと思いまして…。」


見回すと全員がキラキラした瞳でヒルダを見ている。

あ、不味い。これ主導権を完全に奪われた。


「その、ヒルダ様はどのような断罪劇を考えて…?」

「私も知りたいです!」

「私も!!」

「皆さん、落ち着いてください。」


ヒルダは全員を見回すと高らかに宣言した。


「王太子殿下への反撃に賛成する者!手を挙げなさい!!」


次の瞬間、リィ以外の全員が手を挙げた。


「では馬鹿王子が独断…いえ、勝手に決めた事か、それとも王子が騙されていたか、どちらがよいですか?」

「「「どっちも!!」」」

「では調べた結果ウソの証拠に騙された王子が勝手に婚約破棄してしまう設定でいいですね?」

「「「はい!」」」

「レベッカは大丈夫?ついてこれていますか?何かわからない事は?」

「えっと…リィが結婚するやつを悪いやつかどうか調べたら、悪いやつだってウソつかれて、信じたから結婚の約束をやめるぞ!っていうのでいいのか?」

「ええ、よろしい!では…そうですね。正しい反撃をお見せしたいので私が悪役令嬢を演じましょう。よろしくて?」

「「「よろこんで!!」」」


少女達は『存在しない悪役令嬢』が『美少女すぎる悪役令嬢』に変わった事に黄色い声で沸き立った。一日で何回沸き立っているのやら。

その一方でリィはもはや逃げ出す口実を考え始めている。もちろん逃げられないのだが。


「リヒトクローネ様。『断罪とは罪を断つもの。罪無き者を裁くは罪と共に運命を絶たれる。』…王太子殿下の愚かな行動如何では廃嫡や処刑も選択肢に入りましてよ?ご存じ?」

「よく存じ上げております…。」

「ならばよいでしょう。ごっこ遊びだからといって軽々に行わないように。その覚悟で臨まれませ?」

「はい…」


全員が配置につきヒルダがさも突き飛ばされましたという姿勢で東屋の床に座る。

さあ始まりだ。

リィは深呼吸する。

…いざ気合を入れ全力を込め高らかに!!


「リッターアクスト伯爵家令嬢ヒルデアリア!!今この場をもって貴様との婚約を破棄する!!」


次の瞬間。


「いや待て待て待て待て!?ヒルダはお前の婚約者だったのか!?」


通りすがりの義兄がいきなり乱入してきた。

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