第49話
シャダ王の寝床へいちどでも呼ばれた経験がある性奴隷は、寵愛を受けた証拠として、腹部にふたつ目の烙印を押される。さらに、他者へ買収されることになった場合、所有権を破棄する代償として三つ目の烙印を焼きつけられた。ブレイクが身に受けた痛みを想像でしか語ることができないリュベクは、やや強引に腕を摑み、「裸身にするぞ」と威圧した。
「おいおい、主人の前で大胆な従者だな。ま、どうせ、おれの躰は生まれたときから自由がきかない。脱がせたけりゃ、勝手にどうぞ」
リュベクは、両手を軽くあげてたたずむブレイクをにらみつけながら、相手の衿をひらいてゆく。パサッと単衣が素肌をすべり落ちて下着姿になるブレイクは、静かにまぶたを閉じた。自尊心が邪魔をして、拒むようすはない。ふいに、下着の紐を解くリュベクの手がとまる。長椅子の近くに立つユグムから、ブレイクの下半身は見えない。だが、下着の中身が見えたリュベクは、繃帯が巻いてある部位を見て、息を呑んだ。
「どうだ? 笑えるだろ」
「否、笑えない。これは重症ではないのか」
「さあな。押されたばかりで痛てぇけど、不能になったかどうかは、はっきりしねぇな」
「頃合をみて、たしかめる必要があるということか」
「そのときは、あんたに頼むよ。ユグムにやらせるのは気が重いぜ」
「……いいだろう」
「ちょっとふたりとも、なんの話をしているのさ。ぼくにも教えてくれなきゃ、わからないよ。ブレイクの怪我は、どうなの?」
従者同士のやりとりであっても、仲間はずれにされては、たまらない。ユグムが近づこうとすると、ブレイクは素早く単衣を着直して、話題を変えた。
「屋敷をでたら、宿屋に帰るまえに、宝石商のところへ行こうぜ」
「宝石商? なんで?」
「見ろよ、こいつ。青い石だぜ。かなり高く売れると思う。旅の資金になるぞ」
耳輪の片方をはずして差しだすブレイクは、ユグムがつけている紫水晶の耳飾りに目をとめ、「悪かったな」と謝罪した。大事な形見を手放してまで、ラーギルを薄暗い地下から引きぬいている。なぜ、これほど信用されているのかは不明だが、ユグムとの出逢いは、ブレイクにとって新たな人生の出発となった。
残るユグムのイヤリングは、右の耳たぶでゆれている。それは「守られる人」という意味があり、多くの場合、男性は左につけ、「命をかけて守る存在」を耳輪にみたて、左につける。騎士の謂れを知らないユグムは利き手の耳飾りを残したつもりだが、恋人にみたてられる意味が含まれていた。おそろいではないが、ユグムとブレイクは対比する片側にだけ耳飾りをつけているため、ふたりの関係が親密であることを示す結果となった。リュベクは承知していたが、とくに言及せず、「食扶持が増えたんだ。ありがたく売りさばけ」といって、青い石をユグムに受けとらせた。
「じゃあ、みんなで市場へ行こう」
主人の声にうなずくふたりの従者は、肩をならべてうしろを歩きだす。門扉の使用人から契約成立の書類を手渡されたユグムは、最後に屋敷へ向かって頭をさげた。ひとりの性奴隷を買収したところで、現実はなにも変わらない。しかし、シャダ王が築きあげた奴隷商としての立場は、断じて、無慈悲な道楽者ではないと判明し、ユグムが口をはさむ余裕はなかった。
このままではないけないと思ういっぽう、早まっても事を仕損じる恐れがある。シャダ王には、おおいなる野望と権力があり、ユグムには高貴な血筋として生まれた遺産と他者への思いやりがある。相反する性格の二者がふたたび対峙するとき、いかなる変革が巻き起こるだろうか──。
時刻は昼を過ぎていた。空腹だった三人は港町の飲食店で食事をすませ、市場の奥にある宝石商の天幕へ足を運んだ。
「……っ」と、歩きながら顔をしかめるブレイクに、となりのリュベクが「つかまっていろ」と腕を貸す。「ハッ、昼間から情人の男と腕を組む趣味なんてねぇぞ」「烙印の痕が痛むのだろう。おれの腕を摑んでいろ。少しは楽になる」
「おれにやさしくする必要はないぜ」
「そうではない。おまえが弱っていると、足手まといになる。おれたちの仕事は、主人を守ることが最優先だということを忘れるな」
「なんだそれ、先輩ヅラか? 心配しなくても、おれはユグムの盾になってやるさ。飛んでくる銃弾も弓矢も、この身に受けてやる」
「そうやって死に急ぐな」
「べつに死にたいわけじゃない。おれとあんたとでは闘い方がちがうって話だ」
「ならば、おまえに被弾させないよう、おれが防ぐまでだ」
「ハッ、さすが戦闘奴隷」
少し先を歩くユグムは、従者の会話を聞き逃していたが、宝石商の看板を見つけてふり向いた。
✓つづく




