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[BL]スレイブゾーン/涯底のリュベクは混沌に愛を秘す  作者: 地底乃人M


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46/50

第46話


 命乞(いのちご)いをする罪人の首を刎ねるリュベクの表情は、人間味を感じさせないほどひややかだが、断末魔の叫びをあげる一瞬の隙をあたえず、死にぎわの苦痛を軽減するため、正確に打ち落とす。傭兵(アムルーク)は感情をもたない兵器である。国旗に敬礼することもなければ、愛するものを失って喪服に身をつつむことはない。戦争でも世界の終わりでも、その身に流れる血潮が()れるまで、生ける肉体は死に(あら)がい、闘いつづける──。


 

 生きること、生きさせること

 人生に在るやさしさと悲しさ

 他者の苦悩を理解した者は

 不滅の正義を目ざめさせる

 


 応接間へ案内されたユグムは、革張りの長椅子(ソファ)に坐り、持参した書類と紙幣の束を机のうえに置いた。わけしり顔のシャダ王があらわれると、ユグムは無垢な盗人のように、ラーギルの買収を名乗りでた。


「構わん。ほしければ持っていけ。ただし、書類手続きの例外は認めない。リュベクには、わが詰問すべてに答えてもらうぞ」


「ラーギルの特徴について、ですね」とユグムが挑むような表情を向けると、シャダ王は「クククッ」と静かに笑った。ユグムが身につけている長衣は高価な絹糸(シルク)で、水鳥の羽の刺繍が施されている。シャダ王による贈物(おくりもの)で、ユグムの躰にぴったりと合っていた。着丈が手足の長さと一致しているだけでなく、自然と高貴な雰囲気をまとっている恰好(かっこう)に、本人が無頓着であるようすが滑稽だった。


「リュベク、お願い」


 ユグムのうしろにたたずむ従者は、主人のとなりへ移動して腰をおろすと、シャダ王を正面から見据えた。ラーギルを拐って凌辱した直後のヒュドルは、島国出身の戦闘奴隷(ストレンジャー)に寝取られるとは、少し予想外に感じた。とはいえ、ユグムが用意した金銭に不足はない。あとは、情人(イロ)として関係をもったリュベクに、真意を(たず)ねるだけだ。



「まずは感想を聞こうか」


「とくになにも」


「あの性奴隷の孔は名器だぞ。よもや不感症ではあるまいに、手応えを表現できぬとあらば、情人としての条件に問題ありと見なすがよいか」


「外からの働きかけによる興奮や快楽は、脳の化学物質がつくりだす要素にすぎない。おれがラーギルを抱いて味わう感性など、いちどきりの関係では解き明かしようがない」


戦闘奴隷(ストレンジャー)よ、おれをしらけさせるな」


「胸廓を撫でるとき、鎖骨と脇腹にある烙印は目障りだった。性の搾取は営為などではない」


 まともな話では通用しないため、リュベクはラーギルの身体的特徴を述べた。ユグムの表情に変化は見られないが、主人の前で性奴隷と肌を合わせた事実を語るリュベクは、わずかながら罪の意識に捉われた。必要な手順だったとはいえ、ラーギルが受け身の性奴隷であることを承知して、立場を利用した。女の性奴隷は卵管を縛るという避妊手術を施されており、妊娠のおそれは少ないが、万が一、ラーギルが女であった場合、選択肢は絞られてくる。


 

 シャダ王は黙りこみ、リュベクをにらみつけた。性奴隷(ラーギル)の心を守ることなど、不可能である。とうに、シャダ王が奪いとっているからだ。



✓つづく

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