表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[BL]スレイブゾーン/涯底のリュベクは混沌に愛を秘す  作者: 地底乃人M


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/50

第35話


 近くの椅子に勢いよくドカッと坐るラーギルは、ユグムとリュベクに向かって股をひらき、陰部を見せつけた。どよめく周囲の奇声には反応せず、「どうだ、色も形も悪くないだろ? そっちの戦闘奴隷(ストレンジャー)がおれのを舐めたら、小者(ガキ)の質問に答えてやる」と、リュベクを挑発した。


「なんで、そんなことをさせるの? だ、だめだよ、リュベク。ギル(、、)の云うとおりにしないで」


 ユグムは敬称を失念したが、それどころではない状況につき、「ギル」と、さらに呼び捨てた。


「きみの値打ちは、いくらなの?」


「なんだいきなり。金の話かよ」


「そうだよ。ぼくは、今すぐきみを買う。そうすれば、きみの主人は、このユグム・アレッツォになる。命令に(さか)らうことは許さない」


「ハッ、正気かよ」


「ぼくには、きみが必要なんだ」


「おれがなんの役に立つって?」


「世間とはちがう意見が聞ける。ギルとぼくは、生まれたときから身分が異なっている。そうでしょ?」


「……だから? おれを専用の慰みものにでもする気かよ。小者のくせに、云うだけのものをぶらさげているのかどうか、たしかめてやる」


 正面から摑みかかってきたラーギルを避けずに円卓(テーブル)へ押し倒されたユグムは、無遠慮な手つきで長衣の裾をめくられた。ラーギルは、太腿に装着してある小刀(ナイフ)を見つけて床に捨てると、ユグムの股のあいだをさぐった。



「ハッ、小せぇな。こんなもので、おれが満足するとでも?」


「……ギル、やめて」


「せっかくだし愉しめよ。もっと気持ちよくしてやる……よ……」 



 ユグムの視界にラーギルの鮮血が散った。一瞬の出来事につき、誰も身動きできず、なにが起きたのかさえ、判断に遅れた。


「てめぇ、やりやがったな!」 


 創口(きずぐち)(おさ)えてラーギルが叫ぶ。床に捨てたユグムの小刀(ナイフ)を拾ったリュベクは、その動作の流れのまま性奴隷(バハール)に向かって切りつけた。咽喉(のど)を狙うつもりだったが、絶命されては事後処理が厄介につき、首筋を浅く裂いた。思いのほか、大量の血が噴きだし、あたりは惨状になった。



「リュベク、なんてことを……」


「これくらいで死にはしない」


「でも、たくさん血が!」


「……くそっ、この戦闘奴隷(ストレンジャー)が!」


「頭を起こすな。(うつむ)いていろ」リュベクは止血のコツを心得た傭兵(アムルーク)気質で、衣袋(ポケット)から眼帯用の布切れを取りだすと、ラーギルの首筋へあてがい応急処置をした。無表情だが、的確な動きに見入るユグムの背後で、亭主が「おまえらなぁ」と、大きな溜息をついた。


「そういうことは外でやれ。どうすんだよ、この床板は。まるで殺人現場じゃねーか」


「あ……、ご、ごめんなさい。ぼくが弁償します!」


「ユグム坊っちゃんがか? さっきも、ギルを買うとかなんとか云ってたが、そんな大金、どこにあるんだよ」


「これを売ります」



 紫水晶(アメジスト)の耳飾りをはずして差しだすと、亭主は鑑定するまでもなく「こいつは高価だな」と、肩をすぼめた。ファーデン家の形見だが、ふたつあるうちのひとつを手放すユグムを見たリュベクは、微かに眉をひそめた。そうまでして、ラーギルを()う必要があるとは思えない。だが、ユグムの表情は真剣で、従者が口をはさむべきではなかった。



「リュベク! いっそ()れよ。おれが死んでも、おまえらは自由だ」


「しゃべるな。止血している」


「てめぇで切り裂いておきながら、よく云うぜ。そんなにユグムが大事かよ」


「ああ」


「だったら、なおさら、今のうちにおれを(たお)しておきな。血がとまったら、あの坊っちゃんを殴り飛ばしてやる」


「その前に腕と足の骨を折る」


「ハッ、できるもんなら……」



 リュベクはラーギルの背中を支え、楽な姿勢を取れるようにしている。血が流れる感覚も、おさまりつつあった。暴力によって(かな)う相手ではい。隻眼の男は、ユグムのためならば、迷わずラーギルを無力化する。だが、いっさいの殺気は感じさせない。無表情でありながら、強い意志の力を秘めていた。


「なんなんだよ、おまえら。……くそっ。おれがほしけりゃ、好きにしろ。買収の窓口はヒュドルの屋敷だ。行けるもんなら、行ってみやがれ」


「ユグム、罠かもしれんが、どうする」


「ぼくは、行くよ。ギルを地下売春宿(オンデゥルアンダー)には帰さない」



✓つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ