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第26話


 ギタールの港町には、地下売春宿(オンデゥルアンダー)という公認施設がある。触民(トゥシェ)性奴隷(バハール)が肉体奉仕をする簡易宿で、利用客の多くは富裕層の人間だった。窓口などに一般庶民も雇用されており、そのほとんどがシャダ王を崇拝していた。



「それじゃ、地下にある施設へいけば、触民に逢えるんだね」


「接触は難しくない。ただし、料金が発生する」


「いくら?」


「さあ、そこまでは知らん。利用したことはないし、看板が出ているわけではないからな」


「やっぱり、高いのかな……」


「そうとはかぎらない。性奴隷は、等級(ランク)ごとにふりわけられている。低いやつほど、安価に利用できるはずだ」


等級(ランク)って、なんの?」


「品性の問題ではなく、外見の美的価値が優遇される。ようするに、性格に難があっても顔がよければ上等だ。なにより、容姿が大事なのだろう」


 

 性奴隷に必要な要素は、相手を一方的に満足させることである。容貌に恵まれた触民は、上級貴族の愛人として買収されることもあり、生まれついての特徴や多少の努力によって、性奴隷といっても、それぞれ待遇は異なった。


「いちばん等級(ランク)の低い人がいれば、ぼくでも利用できるってこと?」


「否、二十歳(はたち)以上という年齢制限がある。おまえは利用できない」


「じゃあ、どうすれば……」


「客をよそおって、おれが手引きしよう」


「そんな、リュベクがひとりで行くなんて、だめだよ……」


「この方法がいちばん現実的だ。職のない触民は、生活領域を厳重に管理されている。外部の人間が近づくことはできん」


「……少し考えさせて」


 いくら作戦とはいえ、リュベクを売春宿へ向かわせるなど、ユグム的には複雑な心境だ。シャダ王に買い取られた触民のうち、厳しい調教に耐えて客を相手にできる人数は、そう多くない。ラーギルのように健康を維持する性奴隷は稀少(まれ)で、たいていの場合、腎虚を患って地下で生涯を終える。たとえ愛人として金持ちに囲われても、正妻による折檻(せっかん)は日常的に発生した。


 悩んだ(すえ)、地下施設の入口まで足を運ぶことにした。なかにははいらず、あくまで観察が目的である。そうまでしてなにが知りたいのか、堅物を落としたいわけではあるまいと邪推するリュベクは、要らぬ勘をよそに腰をあげた。窓辺に移動して外のようすをうかがうと、停泊中の蒸気船へ目をとめた。


 大陸のいたるところで差別を受ける触民は、定期的に収奪され、奴隷商のもとへ運ばれてくる。おもて向きは常民(ヒゥウォ)のシャダ王だが、一般人が所有する資産で、地下売春宿(オンデゥルアンダー)の運営は不可能ではないかと思われた。富裕層に人脈があり、後楯(うしろだて)を得ている場合はべつの話だ。



「リュベク、なにを考えているの?」



 無表情で腕組みをする従者は、ユグムの挑戦に危ぶみつつ、「なにも」といって首を横へふった。


「日が暮れる前に宿屋(ここ)をでる。荷物をまとめておけよ」


「長居は無用ってことだね。この場所はシャダ王に知られているし、ぼくも、ちがうところへ移ったほうがいいと思っていたんだ」


 旅人や行商人には、臨機応変な判断力が求められる。何事も注意深く見極める必要があり、状況を正しく把握して行動する。そうして、環境に応じた耐性を身につけ、世のなかをうまく渡り歩くのだ。安全なエンドレ城を去った今、ユグムの決断しだいで、リュベクの命運が左右されるといっても過言ではない。



 町はずれの宿屋へ移動したユグムとリュベクは、荷物を鍵付きの収納棚にいれて身軽になると、夕食をすませ、地下施設付近に身を潜めた。



✓つづく

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