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第24話


 人間でありながら他人の私有財産として取り扱われる奴隷(スレイブ)に、人権や自由意志は認められない。主に労働を強要され、譲渡、売買の対象であり、生まれながらに差別される存在である。奴隷を許容する社会制度は、自治領などの勢力を増やす手段としても有効につき、全体として、永続的に(死亡するまで)支配者されつづけた。


 ギタールの港町で奴隷交易を仕切るヒュドル(通称シャダ王)は、酒場の帰り道、真夜中の市場をうろつくユグムを発見すると、いきなり首を絞めて押し倒した。こっそり宿屋を抜けだしてきたつもりが、従者の名前を叫んで助けを求めるユグムは、主人を尾行してきたリュベクの登場により、ますます気まずい状況へと陥った。



「どうした、リューベック(、、、、、、)とやら。その背中の大剣は飾りもんか」


 

 単衣を破かれて下着姿で仰臥するユグムは、シャダ王の背後にたたずむリュベクに見おろされ、ゴクッと唾を呑んだ。逆光のせいで従者の表情は確認できないが、なぜか無言でたたずんでみせるため、軽率な行動を責めているように感じた。実際、シャダ王に首を絞められるユグムを見ても、しばらく物陰で傍観した。



「た、助けて……リュベク……、ごめんなさい……」



 単独行動によって迷惑をかけた事実を即座に詫びて反省すると、片刃剣を構えるそぶりをしたリュベクだが、シャダ王に攻撃を加えるほど、身の程知らずではなかった。今にも泣きそうな顔でふるえるユグムの脇へ片膝をつくと、ヒュドルの顔を正面から見据えた。



「隻眼のリュベク(、、、、)か。その肌色、島国の男だな」


「シャダ王、わが主人(あるじ)に非道な真似はご遠慮願う」


頸椎(けいつい)の骨なら折れちゃいねぇよ。小者(ガキ)の従者にしちゃ、ずいぶん助けるのが遅いな。おまえら、そんなに仲が悪いのか。否、波止場の宿屋(やど)で、愛し合ったばかりだったな」



 まるで、ふたりの関係をすべて見透かしているかのような科白(せりふ)に、愚かなユグムは「なんでそれを……」と、うろたえてしまった。港町にはヒュドルの部下が点在し、商人や旅人の動向を監視している。ユグムとリュベクの存在も例外ではない。状況の悪化に眉をひそめる従者は、上衣を脱いでユグムの躰にあてがうと、腋窩を支えて立ちあがらせた。リュベクの胸もとへうなだれるユグムは、シャダ王の言動に威圧され、神経がすり減った。このまま無事に退散できるのか、不安になってリュベクの顔を見あげると、なぜか唇を塞がれた。


「リ、リュベク? なにして……」


 シャダ王の目の前で主人と口づけにおよぶリュベクは、ユグムを抱きあげるなり、(きびす)をかえした。


「帰ってつづきをやるぞ」


「え……(今、なんて?)」


「いいから、おれに合わせろ(小声)」


「あわせる?(……こう?)」


 ぎゅむっと、リュベクの首筋にしがみつくユグムは、シャダ王に背を向けて歩きだす従者の意図を(あとから)察した。奴隷商の男は、ほくそ笑んでいる。月あかりの下で存在感は増し、夜の覇者といった狂気を身にまとっていた。



 宿屋にもどるまで無口だったリュベクは、ベッドのうえにユグムを落ちつかせると、「怪我はないか?」といって顔をのぞきこんだ。細い首にシャダ王の指の痕が残っている。赤く腫れていたが、あまり痛みは感じなかった。リュベクいわく、口づけのつづきをやるのかどうか、ユグムはそればかり気になって視線を泳がせた。


 時刻は真夜中だが、室内は洋燈(ランプ)の灯りで黄色くかがやいている。妙な緊張感に捉われたユグムは、「す、するの?」と口走った。鞘から抜いた片刃剣を見つめていたリュベクは、「なにをだ」と無表情で聞き返した。


「だってさっき、ぼくにそう云ったじゃないか」


「お子さまは寝ている時間だ」


「な、なにそれ、信じられない!」


 シャダ王の脅威をうまくかわしたリュベクだがうっかり口をすべらせ、ユグムに憤慨された。



✓つづく

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