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第22話

 

 奴隷制度(スレイブゾーン)とは、社会秩序を維持するべく最上位の王族から順に、上級と中級層の貴族、一般庶民・常民(ヒゥウォ)、貧困層の触民(トゥシェ)にふりわけられた法的な序列である。四民(しみん)による成員のほか、職にも階級があり、身分は出生によって所属する階層がきまり、個人の努力で移ることはできない。上下関係を明確にすることで、王族や特権をもつ貴族は、低い身分に固定化された人間を支配した。


 上級貴族のファーデン家に生まれたユグムの社会的立場は、王族とも親密な交流が可能だったが、政治的な介入をせず平穏な日々を過ごすうち、領地ごと(ほろ)ぼされてしまった。ファーデン家にかぎらず、大陸では領地の略奪や奴隷(スレイブ)の収奪は頻繁に起きやすく、グウェンのような救世軍が編成されたり、島国から屈強な人材を雇用して防衛にあたらせる領主もいた。


 古くから海に浮かぶ群島諸国の人々は、大陸による四民のふりわけから除外され、独自の風習を築きあげている。とはいえ、生まれた島を離れて大陸に永住する場合、戦闘奴隷(ストレンジャー)傭兵(アムルーク)、触民のような下位の身分に固定化されるため、あらかじめ運動能力や剣の腕を磨いておく必要があった。リューベックは、家督を継げない将来に備え、早くから大陸に渡るための鍛錬を積み、ギタールの港町では傭兵として登録され、戦地をめぐり、のちに商人の護衛として個人に買収された。用済みとなったあと、ファーデン家と契約を結び、幼いユグムの専属従者となり、現在にいたる。



「……シャダ王が引きとった人たちは、なにをされるのかな。……まさか、暴力をふるわれたりしないよね?」


「昼間からヒュドルの屋敷へ近づくものは誰もいない。夜になると、馬車の出入りがある」


「馬車には、誰がのっているの」


「竿師だ」


「さお……?」


 

 性行為を仕事とする男の隠語である。ことばの響きから連想できないユグムは、まぬけな顔をした。リュベクは無表情だが、わずかに、主人の体重を支える腕に力をこめた。裏社会の事情など、なにも知らなくていい。本来ならば、これほど危険な旅をする必要のない青年だ。ユグムの身を案じるリュベクは、親しみにくい相手との接触は避けるべきだと考えた。


「ねえ、さおし(、、、)ってなに?」


 これまで、俗語を耳にする機会の少ないユグムは、黙りこむリュベクを肩ごしに見つめて聞き返した。純真な顔が近い。主人と従者は数秒ほど見つめ合い、リュベクのほうで溜息をついた。



「竿というのは、男性器のことだ」


「……そ、それって」


「竿師ってのは性奴隷(バハール)(しつ)ける連中を()す。たいてい、悪趣味な富裕層が女遊びの延長として引き受ける生業(なりわい)で、実際、性欲を持て余す年寄りばかりの集団だ」


「おじいちゃんたちが竿師?」


「ああ」


「そんな、ひどい……」


「なにがだ」


「え?」


「なにがひどいと思うんだ」


「だって、無理やり痛いことをされるんでしょ? そんなの、つらいじゃないか……」



 性奴隷にとって、竿師の調教は必須過程である。商品価値を高めるため、肉体を細部まで(あば)かれてしまうが、そのさい、自尊心も徹底的に排除された。性奴隷は、無条件で相手に降伏する要素が絶対条件であり、竿師との交接をくり返し、順応力を試される。そして、最終的に性奴隷として地下施設へ送られる人数は、当初の半分以下に減らされた。調教の途中で精神に破綻を(きた)したものや、適応性が低いと判断された場合、闇医者へ引き取られて人体実験の材料にされたり、人手不足の現場で重労働を強いられるのだった。



✓つづく

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