第20話 ※一部過激描写あり
不穏な空気が流れる地下売春宿に、黄金色の睛をしたレオハルトが正面扉をあけて、なかへはいってきた。詰襟の長衣を身につけているため、肌の露出は極めて少ない。
「レオか、遅かったな!」
「ラーギル、そこでなにをしている」
性奴隷のひとりラーギルという青年が、窓口の男へ殴りかかり暴れていた。
「このクソじじい、いいかげん解雇にしてくれよ。つまんねぇ客ばっか寄越しやがる」
ラーギルの好みは年増の男である。しおれたからだをじっくりなだめすかしてやり、相手の胴体にまたがって受ける体位が基本だ。「おらおら、どうだ? 最高に気持ちいいだろう!」と口は悪いものの、整った容貌は人気が高く、暇つぶしに快楽を求める若者たちには、あつらえむきの性奴隷だった。窓口の男は、ラーギルがきらう年代の客を案内する傾向があった。
「これで何十人目だ? おれに若造の相手をさせるんじゃねぇ。反吐がでるぜ」
「ラーギル、黙りなさい。そこのおまえたち、性奴隷を独房へ連れていけ。躾なおす」
「独房なら、じぶんから行ってやるさ。ただし、レオ。顔は打たないでくれよ? 売りものの美貌が、台無しになっちまうからなぁ!」
独房での調教に怖気づくどころか、笑みを浮かべるラーギルは、挑発的な態度でレオハルトとの会話を愉しむと、近くの階段をおりていく。あとから薄暗い独房へはいってきたレオハルトは、「さあ、やれよ」と余裕そうに腕をひろげる性奴隷の手足を鎖で拘束すると、衣服を取りはらって裸身にした。ラーギルは脱毛処理を面倒だといってしないため、受け身でありながら脇下や恥部は黒黒しかった。
「剃毛を怠るとは何事か。ラーギル、今夜の食事は抜きにします。水はあたえますが、糞尿の世話は朝までしません。眠っても強制的に覚醒させますから、せいぜい無様な姿を晒して反省なさい」
云いながら、舌を噛まないよう口枷を装着されるラーギルだが、「どうせなら派手にやれよ」とばかり腰を突きだした。体罰に処したくても、売りものの肉体に深傷を負わせるわけにはいかない。躾なおしは必要だが、ふりあげた腕をおろすレオハルトは、ラーギルに背を向けた。
ギタールの港町には地下施設があり、肉体奉仕の場となっていた。触民と呼ばれる貧民層の人間や、買収された奴隷層の人間で構成された簡易宿で、昼間は立ち入ることはできない。夜になると、主に中流階層の利用客が足を運び、窓口でパッセを前払いしたのち、朝まで快楽をむさぼった。
独房の階段をあがってきたレオハルトは、受付を担当している窓口の男を一瞥すると、微かに眉を寄せた。三十代くらいの一般庶民で、乾燥した唇をへの字に結んでいる。利用客に対しての愛想はよく、ラーギルの扱いにも、とくに問題はない。娼男には属性があるものの、利益を優先した結果、好みにそぐわない客を相手にする場合もある。もとより、性奴隷が不服を申し立てるなど、厚かましいにも程があった。
「レオさま、本日は久しぶりに蒸気船が入港しましたね。……なるべく早めに、上玉を何人か寄越してくだせぇ」
使いものにならなくなった触民が、別室に安置されている。報告を受けて検めにやってきたレオハルトは、医学の知識があった。換気窓から鼻先をよぎる臭気に、思わず顔をしかめた。栄養水準が低い環境で育ち、性奴隷となった者たちの多くは、交接過多による衰弱症が原因でこの世を去ってゆく。
✓つづく