第18話
汐のにおいと波の音に惹かれ、いつまでも水平線をながめるユグムは、新たな体験をした。
「すごいや、これが海……? なんてひろい……」
沖あいに浮かぶ船を見つめ、初めての景色に感動していると、かたわらのリュベクから「遊泳禁止のようだな」と水をさされた。海岸には、いくつか看板が立っている。季節は春だが、水温は低く、海水浴場は封鎖されていた。
「足くらいなら、はいれるかな?」
「服が汚れるからやめておけ」
「う〜ん、残念。せっかくここまで来たのに……」
「ギタールの町は、夏場のほうがにぎわうからな。海開きといって、浜辺に屋台もならぶ」
「へえ、愉しそう! 海ってきれいだね。ぼく、ずっと見ていられるよ。ねえ、あそこのお城には、誰が住んでいるの? ギタールの領主は、たしか王様の親戚だったよね?」
「ああ、代々の領主は、王族の外戚にあたるようだ」
高台に建つヨンソン城の外壁は、幾何学模様の彫刻が美しい。華やかに色づく権力の象徴とは裏腹に、港町には古くからの土着勢力が住みついているため、西陽がかたむくころ、町の一区画は物騒な雰囲気へと変わる。
貨物船や客船が行き交う港を一望できる展望塔から、しばらく海をながめていたユグムは、汽笛信号の音が響く波止場近くの宿屋へ落ちついた。港町の見物は後まわしにして、軽い食事をすませて湯を浴びると、薄地の布を素肌へじかに着てリュベクをベッドに誘った。疲労感は強いが、異質なぬくもりがほしくてがまんできなかった。
「あははっ、リュベクったら、くすぐったいよ!」
白い肌の首筋や鎖骨に舌を這わせるリュベクは、要求に応じるかたちで性行為におよぶ。ユグムの躰から布を床へ落とすと、じぶんも裸身になって蔽いかぶさった。木製のベッドが、ふたりぶんの体重で深く沈んだ。
「リュベク……、リュベク……!」
従者の息づかいに腰がふるえだすユグムは、山越えの疲れなど忘れてリュベクと愛し合った。二度目となるきょうは、初夜のときより激しく興奮したが、リュベクの背中へ腕をまわし、ぎゅっと、しがみつく。互いに快楽を捉えて性行為に集中すると、やがて絶頂を遂げた──。
「……ハァハァ、……ハァハァッ」
「……だいじょうぶか」
「う、うん……、気持ちよかったよ……」
「そうか」
「……リ、リュベクは? 気持ちよかった? ぼくたち、ちゃんとできてる?」
「ああ、できている。なにも心配するな」
じかに重なる体温に安らぎを覚えて眠くなるユグムは、恋人の腕のなかで寝落ちした。火照る身体を息めるリュベクは、主人と親密な関係をおさめる状況に、眉をひそめた。互いの欲望を完全に満たせる恋人同士だが、永続的な営みをくり返すには、身分差が懸念された。
✓つづく




