表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/50

シャダ王篇/第11話


 この世に、正しい答えはいくつあるのだろうか。人間は用意された価値を探して、自我の存在を確認する。正しいと思われる価値は、思想を象徴する十字架のようなもので、その影は幸福の行方を知らない──。



 ヒンメルの町を出発したユグムとリュベクは、行く手を(はば)む山間部をまえに、(ふもと)の町で情報を集めた。


「おかえりなさい。どうだった?」


 歩き疲れて宿屋に待機するユグムは、部屋へもどってきたリュベクに、さっそく声をかけた。


「やはり、山賊が徘徊しているようだ。迂回路も(けわ)しくて安全とは云えないが、遭遇を避けるには南下(なんか)したほうがいい」


「遠まわりするってこと? ぼくたち荷物は少ないし、高価なものなんて、なにも持ってないよ。それでも狙われるかなぁ」


「やつらが盗むものは、物品とはかぎらない。人を(さら)って売り飛ばすこともある」


「人間を、どうして……」


「最悪の場合、臓器をひき抜かれて終わりだ」


 戦闘奴隷(ストレンジャー)のリュベクは無表情で語る。生まれも育ちも異なるユグムは、「そんな……」と小声で(おび)えた。十八歳になったユグムは、大陸では成人男性として扱われるが、第三者の睛には世間知らずな少年に見えた。身長もリュベクのほうが十センチ以上高い。


 おもて向きは主従関係のふたりだが、性交渉という濃密な夜を過ごした以上、恋人同士らしい時間を期待するユグムは、思ったことを口にした。


「ねえ、リュベク……。せっかくふたりきりなのに、どうしてなにもしないの? そんなに遠慮しなくても、ぼくなら、だいじょうぶなのに……」


 ベッドに横たわる主人は、単衣の裾が膝上までめくれている。旅費を節約するためパッセの安い宿屋を選んだ結果、亀裂のある薄い壁から、すきま風がはいってきた。リュベクはコンッと軽く木目をたたき、「これでは、おまえの(あえ)ぎ声が筒抜けになるぞ」という。


「おれに抱かれるあいだ、高い声をがまんする必要がある。おまえに、それができるか?」


「な、なに、その云い草、信じられない……!」


 勢いよく頭から布団をかぶるユグムは、従者の指摘に腹が立った。とはいえ、初体験の夜は無我夢中で大きな声をあげてしまったので、一方的に非難することはできない。しばらく消えないおしり(、、、)の違和感も気になったが、ユグムにとってリュベクとの性交痛は、まったく不快ではなかった。


 初夜にて、ユグムの身体構造を細部まで知りつくしたリュベクだが、興奮や快楽の要素にくらべ、思考は至って冷静だった。手順をまちがえることなく前戯に時間をかけたあと、体内領域へ性器を挿入すると、充分すぎるほどユグムを喘がせた。雄性同士とはいえ、妙な感覚に捉われたのも事実だ。


 思えば、ユグムの態度は最初から友好的だった。見知らぬ傭兵(アムルーク)素性(すじょう)を疑いもせず、笑顔で話しかける挙句、性行為さえ求められるとは、リュベクの予想に反した。あらゆる意味で無防備につき、うっかり手をだしてしまった気分に陥る。リュベクは、ユグムの求める感情を理解したうえで、見境をなくすわけにはいかない立場なのだ。



「……おれは、おまえを守りたいだけだ。それがわからないのか」



 なにやら責められた気がするユグムは、そっぽを向いたまま「ぼくは知らない。そんな話、聞きたくない!」と、へそを()げた。子どもっぽい性格の主人に、リュベクは小さく溜息をついた。



✓つづく



[主要人物/世界設定解説]


■ユグム・ファーデン

 主人公、黒睛黒髪、上級貴族出身

 やや世間知らず、受け身、18歳


■リューベック

 隻眼の男、ユグムの従者、??歳

 島国出身、褐色の肌をした片刃剣使い

 基本的に無表情、右睛(みぎめ)は暗い紫色

 通称「リュベク」


■ランディ・エルピーダ

 見習い(修行中)の星読占者(ビナシオン)、21歳

 銀色の髪を頭巾で隠している

 睛の色は灰色

 通称「ラティ」


■アグリス・ツァガ・アドルノ

 ランディの師匠、年齢不詳

 快楽主義をよそおっている

 深緑の髪に虹彩異色(ヘテロクロミア)


■ヒュドル・シャダ・オウレンセ

 奴隷交易を仕切る男、42歳

 脇腹(わきばら)傭兵(アムルーク)時代の傷痕(きずあと)あり

 利己主義の酒豪だが多方面に人脈あり 

 通称「シャダ王」

 ※王様の意ではなく「オウレンセ」の

 「オウ」より当て字


■レオハルト・バルレッティ

 ヒュドルに忠実な部下、38歳

 黄金色(きんいろ)の美しい()の持ち主

 通称「レオ」「バルレ」



奴隷制度スレイブゾーン

 貧困層出身者は生命ある道具として

 主に労働や性的行為を強要される


✦王族や貴族が存在し、それぞれの

 管理区域を支配(統治)している


✦言語と通貨は共通で1パッセ1円(なり)

 魔法や半獣(人外)は存在しないが

 獰猛(どうもう)な肉食動物などはいる



[第十二話へ進む]

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ