表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/50

幕開け/第1話


 大火に燃える宮殿へ駆けつけた救世軍の騎士は、黒布(こくふ)に身をつつんで立つ裸足(はだし)の生存者を見つけた。


 輪廓(りんかく)のやわらかな、十四、五歳くらいの少年と、その足もとに片膝(かたひざ)をついて頭をさげる男がいる。従者らしき男は負傷しており、切れ長の左睛(ひだりめ)に、大量の血が噴きだしていた。


 

 支配者の権力が衰退し、民心を失ったとき、管理区は無秩序状態に(おちい)る。領地のいたるところで戦乱が起き、過激派組織は奴隷(スレイブ)の収奪を目的として動きだす。策謀家は無法の兵士を雇い、かつての王族や上級貴族の血筋を滅ぼす勢いで侵略した。



「そこのきみたち、早くこちらへ! われらはアスピダの救世軍である!」



 鎧馬から腕を差しのべる騎士は、鉄兜をしているため人相(にんそう)を確認することはできない。正義の盾(アスピダ)の騎士長として連隊を(ひき)いる青年は、罪なき者を見定める能力に(すぐ)れ、各地でやまない暴動を鎮圧していた。しかし、武力に頼らず、真に平和な社会をつくりあげていく努力こそ、怠ってはならない。


 響きわたる大砲に交じる悲鳴、惨殺された男たち、連れ去られた女たち、苦喚の声、泣き叫ぶ子どもにふりおろされた(やいば)が空気を切る音、屍体が()ける臭い、残酷すぎる日常の破壊。あれ狂う群集は、わずか数時間で少年の小さな国を灰にした。


 不条理な夜に無力だった少年は、その黒い()に惨劇を灼きつけ、(くちびる)(ふる)わせた。



「……(みんな)……いってしまった……。ぼくは……、これからどうすれば……」


 

 領地を奪われ、血筋まで()やされた少年は、いまや天涯孤独である。はり裂けそうになる心と、憎むべき無念さにめまいがして倒れると、隻眼(せきがん)の男は、馬上の騎士へ少年の身をあずけた。



「待て。おまえはどこへ行く気だ」


「……おれのことはいい。あとから追いかける。その子を助けてくれ」


 

 隻眼の男はリューベックと名乗り、戦火のさなかに姿を消した。意識が遠のく少年は騎士の腕に支えられ、長い長い夢をみた──。



 かしこに燃える大地は、(ほろ)びの臨終(いまわ)に血の色の風を吹かす。この哀惜の念は、誰が忘れることができよう。たとえ何千年の時が流れようと、攻め落とされた大地に、栄光はよみがえる。そしてふたたび、新しい治世が始まる。



 すべての生きている人のため、

 きみがいるその場所で……。



✓つづく



[主要人物/世界設定解説]


■ユグム・ファーデン

 主人公、黒睛黒髪、上級貴族出身

 やや世間知らず、受け身、18歳

 代々の領地を(ほろ)ぼされてしまう


■リューベック

 隻眼の男、主人公の従者、??歳

 島国出身、褐色の肌をした戦闘奴隷

 基本的に無表情、右睛(みぎめ)は暗い紫色

 通称「リュベク」


■グウェン・アレッツォ

 アスピダの騎士長、勇敢(ゆうかん)な青年

 細身だが鍛えている、26歳


■ダンテス・リェイダ

 アスピダの騎士のひとり

 馬の世話と読書が好き、23歳


■ヒュドル・シャダ・オウレンセ

 奴隷交易を仕切る男、42歳

 脇腹(わきばら)傭兵(アムルーク)時代の傷痕(きずあと)あり

 利己主義の酒豪だが多方面に人脈あり 

 通称「シャダ王」

 ※王様の意ではなく「オウレンセ」の

 「オウ」より当て字


■レオハルト・バルレッティ

 ヒュドルに忠実な部下、38歳

 黄金色(きんいろ)の美しい()の持ち主

 通称「レオ」「バルレ」



奴隷制度スレイブゾーン

 貧困層出身者は生命ある道具として

 主に労働や性的行為を強要される


✦物語の舞台はニュクスという大陸

 五つの領地にわかれて管理され、

 海には自治区の島が浮かんでいる


✦王族や貴族が存在し、それぞれの

 管理区域を支配(統治)している


✦言語と通貨は共通で1パッセ1円(なり)

 魔法や半獣(人外)は存在しないが

 獰猛(どうもう)な肉食動物などはいる

 

✦大陸の気候は温暖で、雨量は少なめ

 各地とも砂礫(されき)や岩場が多い地形だが

 いろいろな名産品や食料がある



[第二話へ進む]


※グウェンによるユグム救出直後の展開を知りたい方は、少し先の第三話をご拝読ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ