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三人に愛されはしたけど、愛し合えたのはたった一人だけ

作者: 瀬崎遊

ちょっと長いですがお付き合いいただけたら幸いです。

【あらすじ、広縁→披露宴】 今日夫となった人に連れられて本邸とは別の小さな屋敷・・・とは呼べないほどの簡素な小さな家に案内された。

 その小さな家は見える範囲の窓という窓に鉄格子がはめられているのが見て取れた。


 玄関ホールにわたくしが入ると「こちらでごゆるりとお過ごしください」という執事の言葉を残して、外から(かんぬき)が降ろされる音が聞こえた。


 実家から連れてきた侍女の一人、ヨーラが慌てて玄関の扉を開けようと押したり引いたりしていたが、扉は当然のごとくびくともしなかった。

 さっきまで一緒にいたはずの夫は傍に居なくて、わたくしが実家から連れてきた三人の侍女しか家の中には居ないのか、人の気配はなく出迎えもなかった。


 ぐるりとホールを見回すと何度見ても窓枠には鉄格子がはまっている。

「他の部屋も鉄格子がはまっているのかしら?」

「こんな事があっていいわけがありません!!公爵はお嬢様をこんなところに閉じ込めようというのですか?!」


「落ち着いて。アグネス。閉じ込めようとしているのは間違いないと思うわ。お父様がこのことを想定していたのか、していなかったのかで話は変わってくるわね。・・・まぁ、暫くはおとなしくしていましょうか」

「お嬢様は落ち着きすぎです!!」

「怒っても疲れるだけよ。三人とも怒るよりこれからどうするかに思考を切り替えてちょうだい」


 アグネスもわたくしの結婚に付いてきてくれた侍女の一人。

 付き合いが一番短くて若い。

 アグネスを(なだ)めつつ、窓に近寄って窓が開かないか試してみた。

 窓はわたくしの力では開かないのか、元々開かないように作られているはめ殺しの窓なのか、開かなかった。


「夏は暑そうね・・・」

 呑気にもそんな事を考えた。

「でも冬はあたたかそうですよね」

 アグネスの言い分に思わず納得してしまった。

「そうね・・・」

 わたくしの結婚に付いてきてくれた最後の侍女エリカに「二階も確認してみましょう」と言われて二階の部屋の確認をすることになった。


 部屋にはベランダがあってベランダへ出るための窓は開いた。

 外には出られるけど、やはりベランダの柵に鉄格子がはまっている。

 他の部屋も確認したけれど、どのベランダにも外には出られるけれど鉄格子がはめられていた。

 二階の窓とベランダは内側に開く。わたくしの力でも難なく開いた。鉄格子はびくともしないけれど・・・。




「これはどういうことなのかしらね。何の説明もなく閉じ込められるのは不本意だわ・・・」

「ちょっとこの家は異常ですよ!!お嬢様は呑気すぎますよ!!もっと怒ってください!!」

「あら?わたくしが怒っていないとでも?」

「・・・怒っていないように見えますが・・・?」


 エリカは頭から湯気が出そうなほどに怒っている。

「エリカが怒っているからわたくしが怒る必要はないと思っているのかもしれないわよ」

 クスリと笑う。


「それに、閉じ込められてしまってから慌ててもどうしようもないでしょう?それよりも現実問題が大事よ。食料は確保できているのかしら?それに水も」

「すぐ調べてまいります!!」


 水に関してはわたくしが水魔法を使えるので心配はしていないけれど、食料だけはこの家から出られない以上どうにもできない。

 使用人三人の後をついてゆっくりと一階に降りて、わたくしは調理部屋へと足を運んだ。


 そこには立派な調理施設になっていて、最先端の冷凍冷蔵庫も設置されている。

 水に関しては手押しポンプが設置されていた。

 押してみると水は問題なく出てきたのでヨーラが大きな安堵の息を吐いていた。


「冷蔵庫の中身はいっぱい詰まっているわね・・・暫くは飢え死にすることはなさそうね」

「お食事の用意は誰がするのでしょう?私たちは調理は出来ないのですが・・・」

 エリカが不安そうにヨーラとアグネスの顔を見て「料理できる?」と聞いている。


「普通、結婚で料理人は連れてこないものね・・・まぁ、なんとかなるでしょう」

「下働きもしてくれる人がいないみたいですが、朝になると誰か来てくれるのでしょうか?・・・」

「洗濯は?それにお風呂のお湯は?どうすればいいのかしら?」

 三人は生活がたちいかないと考えているのだろう。


「それと!この家に私たちの部屋はあるのでしょうか?!」

「とりあえず一階のお部屋を確認してみましょう!」

 三人と一緒に一階を見て回る。


 先程の調理部屋のとなりに六人がけのテーブルが置かれた食堂があり、その西北側に使用人部屋と思われる部屋が五つあった。ベッドと机とクローゼットがあるだけの狭くて簡素な部屋だ。


「狭いわね・・・」

「お嬢様・・・。使用人部屋とはこんなものです」

 私はこの部屋を選びますと言って、アグネスとヨーラが両端の部屋を選んで、出遅れたエリカが仕方なさそうに真ん中の部屋を選んだ。


 ランドリールームも一応あって、そこにも手押しポンプが設置されていた。洗濯物に必要な道具と洗剤なども用意されていて、洗濯物を干せるようにロープもかけられていた。。

 外とつながるドアがあったけれど施錠されているのか元々開かないのか、ドアはビクとも動かなかった。


「室内干しだと洗濯物の乾きが悪そうですね・・・」

 わたくしは気楽な調子でヨーラに答える。

「わたくしの部屋のベランダに干せばいいわ。南向きだし、お日様がよく当たるわよ」

「お嬢様のお部屋に洗濯物を干すなんてできません!!」

 三人に冷たい視線付きでそう言われた。


「なら二階の北側の部屋のベランダで干せばいいわ。ちょうど鉄格子がはまっているからロープも掛けやすいでしょう?ここのロープをベランダの鉄格子にくくりつければいいのよ」

「それなら、まぁ問題ないです・・・か、ね?」

 エリカがそう答えながら用具入れの扉を開ける。


「掃除用具も揃っています」

「一先ず最低限の生活は出来そうで何よりだわ」

 三人が各々気になることを口にして頷いている。

 備品が置かれた部屋があってそこには様々なものが置かれていた。


 小さいながらも応接室があった。使うことはあるのかしら?とふと思う。

 テラスにはピアノが置かれていて、音を鳴らすと調律はちゃんとされていた。

「わたくしがピアノを弾けることを知っていてピアノが置かれているのかしら?」


 二階にもう一度上がりわたくしのための部屋だと思う部屋に入ると、南向きに窓があるので日当たりは良さそうだった。

 私が持ってきた衣装と、見慣れない衣装がクローゼットに詰められていた。

「この家に閉じ込めるのにドレスが必要なのかしら?」

 ふとした疑問が口をついて出た。


 天蓋のついたベッドに執務机、お茶を飲むための三人用の小さな丸テーブルが置かれている。

 寝転がることができる四人がけのソファーが一脚、寝椅子が一脚、シングルソファーが三脚点在している。

 部屋はかなり広いけれど飾り気がなくて空虚な感じがする部屋だった。


「部屋を整えたくても商人は・・・呼ぶことは出来ないでしょうね?」

「必要なものができたらどうすればいいのでしょうか?」

「そうね。ヨーラ。それはわたくしも心配だわ」


 部屋の中には廊下に出るための扉とは違う扉が一つあったのでノブを回してみると、抵抗なく開いた。

 脱衣所とトイレ付のバスルームだった。

 浴槽は足を伸ばして入れるほど大きなもので湯船に直接水が入れられるように、ここにも手押しポンプがついていた。


「ある意味お金をかけているわよね。感心するわ。一体いつから用意していたのかしらね?」

「そうですね・・・お嬢様、浴槽と水はありますが、どうやって水を湯に変えるのでしょう?」

「そう言われればそうね。でもまぁ、わたくしが火魔法が使えるので水さえ()れればお湯の心配はないわ。まぁ水もなくても困りはしないのだけど」


「ああ、そうでしたね。でもお嬢様が火魔法を使えることをこの家の者たちは知らないでしょうに・・・どのようにお湯を用意させるおつもりだったんでしょうね?それもこんなに大きなバスタブ・・・」

「さあね。公爵様は余程わたくしの存在が気に入らなかったのかしら?それとも丁重(ていちょう)に扱いたかったのかしら?よくわからないわね」


 さっきは気が付かなかったのだけれど、わたくしの部屋の扉の横には私が持ってきたものだろう木箱が三つ置かれていた。

「男手がないのが困りますね・・・空になった木箱をどうすればいいのかしら?」

 エリカが頬に手を当てて小首を傾げる。


「お嬢様になにかあっても困るので男性は入れないのではないですか?」

 こういうはっきりした物言いをするのはヨーラが多い。

「そういうものなのかしら?公爵様が下働きを人間として数えているようには思わないけど」

 三人は首を傾げて「閉じられた空間だと色々よくないことを考えてしまうのではないですか?」とヨーラが答えた。


「本当に木箱が空になったらどう処分すればいいのでしょうね?」

 ヨーラが頬に手を当てて「困ったわ」とまた首を傾げた。

「玄関に積み上げておけばいいわ。考えたくはないけれど、薪を用意してもらえなかったら壊して調理用や冬の暖を取るのに必要かもしれないわよ。それか日をおいて片付けに人が来るのかもしれないわ」


 三人が頷くのを見て、今日はもう疲れたので休みましょうと提案した。

「とりあえず今日はもう寝てしまいましょう!!わたくしお風呂に入りたいわ!!水を張ってちょうだい」

「今すぐご用意します」


「私の魔法で温めるからあなた達も下の浴槽に湯を張ってお風呂に入っておやすみなさい。あっ!それから外からこの家の中に入ってこれないようにしておいてくれる?」

「どうしてですか?」

「だって万が一公爵様が来られたらわたくし、消し炭にしてしまうかもしれないでしょう?」

 四人で楽しく声を上げて笑ってアグネスが「では、そのように」と答えた。


「お嬢様の身支度のために私が残るので、下のことはエリカとアグネスにお願いしてもいい?」

 ヨーラが二人に話しているのを聞いたのでその必要はないと伝える。

「ここでは人手が足りないわ。これからはわたくしも自分でできることは自分でするわ。だからもうあなたたちも下がりなさい」

 強く言って、やっと三人は不承不承(ふしょうぶしょう)という感じで部屋から下がった。


 小さな火の玉を水の中に放り込む。五つ入れたところで適温になった。

 着ていたものを脱いで洗浄魔法をかけてハンガーに掛ける。

 裸になって身体をざっと流すとお湯が少し減ったので水を足すと少し(ぬる)くなったので極々(ごくごく)小さな火の玉を一つ入れてからお湯に浸かった。


 よく解らないけど公爵()(ねや)を共にしなくていいだけ、幸せだと思うことにしよう。

 けれどわたくしが得ていた情報とは違うことに戸惑いを感じる。

 公爵は結構わたくしを気に入っていると思っていたのだけれど、余程上手に誤魔化すことができる人なのか?

 わたくしが知る限り、公爵には女の影などはどこにもなかったと聞いている。

 もしも女の影があったなら父が結婚を許すことはなかったはず。


 いつも着ている寝間着に着替えて風と炎の魔法で温風を出して髪を乾かす。

 色々な思考を考えついては除外していく。

 情報が足りなすぎるわ・・・。

 パチンと手を叩いて気分を切り替える。

 今考えるべきは明日からの現実問題ね。


 でも、これからの生活に不安が(つの)る。

 冷蔵庫も冷凍庫にもいろいろな食材が入っていたけど、使えばなくなる。

 補充はされるのだろうか?それはいつ?もしされなかったら?

 どうすればいいのだろうかと考えてしまう。


 わたくしには主として侍女の三人を守る責任があるのだもの。

 とりあえず誰かがここを訪ねてくるまでは様子を見るしかない。

 食材がある間に誰かが来てくれればいいのだけれど・・・。


 ちょっと深刻に考えてから思考を切り替える。

 食材を補充してくれなかったらまず玄関を燃やしてしまおうかな?

 ふふっ❤それとも先に公爵邸を灰燼(かいじん)()してやろうか。

 そんな物騒(ぶっそう)な事を考えつつ、3人の侍女たちよりも呑気な気分で夢の国へと旅立った。



 翌朝目が覚めると、ここがどこだか一瞬わからなかった。

 数度瞬きして、ああそうだ。昨日結婚したんだったと思い出す。

 それと共に小さな家に閉じ込められたことまで思い出して、侍女には見せられない不満げな顔になった。

 ベッドから起き上がってバスルームに洗顔をしに行くことにした。


 鏡に映る自分を見て独りごちる。

「結婚が嫌なら断ればいいだけなのに、こんなにお金をかけてわたくしを不幸にして、自分の首も絞めるなんて・・・公爵様って本当にくだらない人だわ。どんな理由があろうとこの先にあるのは離婚よねぇ・・・」


 クローゼットの中から一番簡素なドレスを着て、一階の備品室へと行くとエプロンの予備が何枚もあったので、エプロンを身につけた。

 調理場に顔を出したけれどまだ誰も起きていないらしく、人の気配はない。

 冷蔵庫と冷凍庫の中身を見てみると冷凍庫にパンが凍らせてあった。


 オーブンに火を入れてから食器を探す。

 上等なものが揃えてあったが見なかったことにして、高そうな食器にベーコンと卵を割り入れてそれらを四人分用意してオーブンに放り込んだ。

 高い食器もまさかオーブンに放り込まれるとは考えもしなかっただろう。


 オーブンの温度は低く温まるまでにはまだまだ時間は掛かりそうだ。

 鍋に水を入れて魔法で火の玉を一つ入れる。それだけでお湯が沸騰(ふっとう)する。

 野菜とハムを炒めたものを鍋の中に入れて塩コショウで味をつけた。

 調味料が色々揃えられていたので、一つ一つ味を確かめてみる。

 ブイヨンがあったのでスープの中に入れる。


 スープの味を見るとまぁまぁ良かったので小さな火にしてから、凍ったパンをオーブンに放り込んだ。

 卵に火が通るのにはまだもう少し掛かりそうだ。パンが温まる頃には卵にもいい感じに火が入るだろう。


 葉物野菜を水洗いしてマヨネーズにレモン汁と胡椒を溶いたものをドレッシングにした。

 パンにも火が通り卵も綺麗に出来上がったので、お皿ごとベーコンエッグを取り出しその熱いお皿の上にパンを載せた。


 食堂に全てを並べ終えた頃になって三人が食堂に現れた。

「お嬢様!!」

「おはよう!食事の用意はできたわよ。後はスープをよそうだけよ」

「も、申し訳ありません!!私たちがご用意するべきでしたのに!!」


「いいのよ。三人とも食事の用意はできないのでしょう?わたくしができるからこれからは食事の用意はわたくしがするわ。それ以外のことを任せていいかしら?」

「勿論です!!後のことはおまかせくださいませ」

「でも三人でこの家を保つのは厳しくない?掃除だけでも一日掛かりそうよ?」


「その辺りはなんとかやりくりしますのでお嬢様はお気になさらずいてください」

「そう?大変だったら言ってね。わたくしの部屋はわたくしが掃除するわ」


「と、とんでもないですよっ!!」

「そうですよ!お嬢様に掃除をさせるなんて!!」

「でも、他にすることもないし。自分の部屋くらいは自分で掃除するわ」


 四人で同じテーブルを挟んで朝食をいただきましょうと言うと、食べるまでにひと悶着(もんちゃく)あった。

 使用人とお嬢様であるわたくしが一緒のテーブルで食事するなんて!!ということらしい。短い言い合いの後、三人を説得した。


 温かいだけでも美味しく感じる朝食を食べ終わる頃に三人に聞く。

「お昼は十二時半でいいかしら?」

「はい。それで大丈夫です」

「じゃぁ、十二時半にまた食堂でね」


 ヨーラがサンルームでお茶を入れてくれる。

 いつも飲んでいるお茶とは違ったけれど、これはこれで美味しいと思うことにした。

 私はもっと香り高いお茶が好きだけど。

 お茶を半分ほど飲んだ頃、ふと思い立ってピアノの蓋を開けた。


 わたくしではない誰かの記憶にある歌謡曲をピアノで弾く。

 わたくしではない誰かは鼻歌を歌うことはできても、それを音符に変換することなどできなかったけれど、わたくしは音符に変えることができる。

 頭の中の音楽をピアノで弾いてみた。思うように弾けて凄く嬉しくなった。


 ピアノの腕前はプロにはなれないけれど、人に聞かせても恥はかかない程度には弾ける。

 弾いているととても不安な気持ちが薄れたので4〜5曲弾いて満足してピアノの蓋を閉じた。

 することもないし、覚えている曲を楽譜に起こすのもいいかもしれないわね。


 また一つ収入源が増える。

 問題なのは多分商人を呼べないこと。

 商会の仕事が(とどこお)ってしまう。

 エリカが傍に居たのでため息を呑み込んだ。




ーーーーーー



 わたくしキャローナ・エスパルダはうろ覚えながらキャローナ以外の記憶がある。

 けれどわたくしが知る限り物語の世界だとか、アニメの世界とかではないと思う。

 わたくしが知らないだけという可能性もなきにしもあらず、だけれど。


 わたくしはどれだけ思い出そうとしてもどこの誰だったのかなどの為人(ひととなり)については思い出せない。

 けれどキャローナでは知り得ないことを物心つく頃からたくさん知っていた。


 少々勉強の役にはたったけれど、前の生活では常識だったことも、今のこの世界では使えないことが多くて、わたくしの役に立つことは意外と少ない。

 それでも今の世界に合うように考え開発して色々と売りに出している。


 異世界転生、転移にはつきものの石鹸やポンプ、化粧水に魔法の開発。

 開発した色々な物は私の懐を(うるお)してくれている。

 商会が上向いているときに、その勢いを途切れさせたくはない。


 あれ?公爵はわたくしの商会のお金目当て?!

 窮困(きゅうこん)しているような情報はなかったのだけれど、人の欲は際限ないものね・・・。

 とにかく情報を手に入れなくては手の打ちようがない。


 はっ!そうじゃなくて!キャローナ以外の記憶が役に立つ!!っていう思考だったはず。

 料理の仕方は解るのだけれど、この世界の調理器具が使えるかどうかが問題だったけれど、問題なく使えた。

 昼ご飯は何にしようかなと冷蔵庫の中身を(なが)めて、何が入っているかもう一度確認した。


 とりあえず、わたくし以外の記憶のお陰で大切な三人の侍女とわたくしが飢えることなく暮らしていけそうだ。

 あって良かったキャローナ以外の記憶。

 後はわたくしの手が身体が思うように動くかどうかが問題なだけ。



 キャローナ以外の記憶があると自覚したまだ小さく幼い頃。

 その頃に魔法が使えることに気がついた。それまでは魔法の素養(そよう)はどこにもなかった。と思う。

 身体の中に血液とは違う何かが大量に(うごめ)いていることに気がついて、気がつくとそれは身体から出たがっていた。

 そしてわたくしは無意識にそれを吐き出した。


 それはわたくしの指先から大きな炎の塊となり、ゴウと大きな音を立てて吹き出た。

 突然のことに驚いたものの、私は魔法のない世界で()()というものがあることは知っていたので、だから子供ながらも冷静に対応できたと思う。

 炎をかき消して証拠隠滅(いんめつ)してからもう一度火の大きさを調節して炎の魔法を使ってみた。


 手の平の上に小さな渦を巻く風を起こしてみた。

 想像通りの風を出せたことに満足して、他に何の魔法が使えるか試した。

 使える魔法は風だけでなく最初に使った炎は当然として、水、土、雷、光、闇が使えた。

 魔法を混ぜ合わせると際限なく新たな魔法を作ることが出来た。


 心配だったのはこの世界ではわたくし以外の人が魔法を使えるのか、だった。

 まだ小さなわたくしには他の人が魔法を使っているところを見たことがなかったので、もしかすると私にしか使えないのかもしれないと考えたのだ。

 見かけていたかもしれないのだけど、気付いたことはなかった。


 半年ほど掛けてこの世界には魔法があることに確信を持った。

 それから両親の前で思わず漏れ出てしまったかのように、水魔法を使ってみせた。

 両親はわたくしが魔法が使えることが余程嬉しかったのか、とても喜んでくれた。


 その時に教えられたのは、普通は5歳の誕生日に魔法が使えるか鑑定してもらってから魔法が使えるようになるものらしい。

 わたくしには大きな力があるのではないかと両親がはしゃいでいた。


 5歳になって鑑定してもらってたくさんの魔法が使えることが解ったけれど、その時は誰も気が付かなかった魔法も使えた。

 その魔法は付与魔法で、使えることに気がついたのは8歳の頃だった。


 何の気なしに当時気に入っていて毎日つけていたネックレスに防御魔法を付けられたらいいのにな。と考えていた。

 その当時、貴族の子どもの誘拐が流行っていて、両親がくれぐれも気をつけなければならないと私たち弟妹に言い聞かせていた。

 そして危険だからと庭にも出してくれなくなったからだった。


 頭の中でなんとなく防御魔法を想像していると、頭の中に美しい魔法陣が浮かんだ。

 ネックレスにその美しい魔法陣を魔力で刻んでみると、ネックレスは防御魔法が付与されたネックレスになった。

 ネックレスを攻撃してみたらその攻撃を打ち消したので防御魔法が付与できているのは間違いなかった。


 そこで付与魔法に関して書かれている書物を読んでいると、付与魔法が使えるのは人類の1%も居ないだろうとのこと。

 家族に知らせたほうがいいのか悩んで、黙っていることにした。

 使える魔法の数だけでも目立つのに、これ以上目立つ必要はないと考えたからだった。


 そして学園に通うようになって知ったのはこの世界の魔法はとても弱いことだった。

 魔法を使える人数は多いけれど、その威力は本当にささやかなものだった。

 遺伝ではない何かの法則で魔法は受け継がれているが、年々弱っていっていることだけは間違いなかった。


 学園の中で見る他の人達が使える魔法は本当に弱くて驚いた。

 炎ならば蝋燭(ろうそく)に火を(とも)すことができる程度。


 水ならばコップに半分ほどの水を貯めることができる。それも飲水とは限らない。飲めない水が出てくることも多い。


 風は蝶が羽ばたくほどの風しか起こせない。


 土は片手に載るほどの土しか出せない。


 光と闇はもうこの世界には存在しない。と言われているほど少ない。


 光には癒やしが、闇には想像魔法を作ることができる。と書物には書かれていた。


 付与魔法はわたくしが使える魔法を魔法陣として完成させることができるうえに、その魔法陣を魔力で刻むことでその刻まれた品を持つ人がほんの少しでも魔力があれば発動できる。

 付与された魔法具を持っていても魔力が全くない人にはその魔法具を作動させることはできないものだった。


 無意識にネックレスに刻んだ防御魔法はあらゆる攻撃を弾き返すものになっていると思うけれど、攻撃されたことがないので、本当に反射と防御を両方使えるのか解らなかった。

 庭でネックレスを攻撃してみることも考えたのだけれど、反射で返ってきたら魔法で怪我をするかもしれないので、試すことは断念した。


 一応使えると思うことにして母と父の結婚指輪に、弟にはいつも剣帯している剣の鞘に、妹にはいつも身につけて欲しいとお願いしてわたくしとおそろいのネックレスをプレゼントした。勿論内緒で防御魔法を付与してある。



 学園に通うようになり、その頃まだ王太子だったロベルタ王太子殿下に使える魔法の規模が違うことを打ち明けた。

「深刻な顔をしてコソコソ話してくるから何事かと思ったら、魔法なら私も使えるよ?」

「魔法だけじゃなくて、付与魔法が使えるの・・・多分」


「付与魔法だって?!・・・えっ?なに?多分ってどういうことだい?」

「付与はできていると思うのだけれど、攻撃されたことがないので実際に付与できているかは解らないままなの」

「なら攻撃してみよう!」

 

 ロベルタ王太子殿下は青い瞳を輝かせて止める(ひま)もなく小さな炎をわたくしに向けて(はな)った。

 その小さな炎はわたくしにぶつかって、何事もなかったかのようにロベルタ王太子殿下を襲った。


 慌ててロベルタ王太子殿下に防御魔法をかけた。

「ロベルタ王太子殿下!!何かあったらどうするのですか!!わたくしが怪我するだけなら問題はありませんが、殿下に何かあったらどうするのですかっ!!」


「わ、悪かった・・・まさか反射してくるなんて思わなかったから・・・そう怒るな。とりあえず何もなかったのだから」

「二度としないでくださいませ!!」


 わたくしは顔を真赤にして手がガタガタ震えていた。

「ごめん。本当にごめん!!」

「だ、大丈夫です。落ち着いてきました。でも、本当に二度としないでください!」

「わ、わかった!!絶対しない!!」


 殿下はわたくしの付与魔法を見て驚いていたが、この国に必要な力だとおっしゃって、わたくしを妻にと申し出てきた。

 残念なことに、少し前にわたくしと公爵家との婚姻話が持ち上がっていたことや、ロベルタ王太子殿下にも隣国の王女との婚姻話が(まと)まりかけていたので、ロベルタ王太子殿下とわたくしの結婚はたち消えることとなった。


 わたくしからしたらロベルタ王太子殿下との結婚話はなくて良かったと思っている。わたくしにとってロベルタ王太子殿下はあくまでもいい友人でしかなかったので、妻にと望まれてもわたくしが王妃になる想像ができなかった。


 ロベルタ王太子殿下はわたくしを(そば)に置いておきたがったけれど、わたくしが女だということがネックになり、側近として傍におくことはどう考えても無理だという話になった。

 わたくしに婚約話が出る前で、ロベルタ王太子殿下が結婚していたらわたくしは公爵と結婚することなく王妃の文官になっていただろう。

 


 ロベルタ王太子殿下は卒業して直ぐに即位して、この国の王となられた。その直ぐ後に隣国の王女と結婚した。

 先王(せんおう)は誰よりも王としての能力はあるのだけれど自由が好きで、奔放(ほんぽう)な方だった。


 自分のしたいことをするためには王という地位が邪魔だと言い出して、息子のロベルタ王太子殿下に王位を譲って伴も付けずにどこかに行ってしまった。

 息災だと時折手紙が届き珍しい物が送られてくるそうなので、ロベルタ陛下は先王の口座にお金をせっせと()ぎ込んでいるらしい。


 わたくしが結婚するまで王妃様に何度かお茶会に誘われた。

 リリーシャ王妃はロベルタ陛下から何かを聞かされているのか、わたくしのことを特別可愛がってくれた。


 王妃に公爵との婚約は解消して側妃になれと言われた時は驚いて少し複雑な思いをしたけれど、ロベルタ陛下とリリーシャ王妃を見ている限りお二人の仲はいいように見えたので、わたくしはリリーシャ王妃の言葉は忘れることにした。

 それからは良き友人として振る舞うことにした。




ーーーーーー



 閉じ込められていても一週間もすればこの閉じた生活にも()れる。

 ある程度のことは魔法で解決できるし、キャローナ以外の記憶もとても役に立っている。

 なので食材以外の心配はそれほどしていなかった。


 結婚して一週間。本邸から人が来ない。

 生存確認にすら来ないのだ。

 わたくしが料理できなかったら、今頃飢え死んでいたかもしれない。

 なのに料理ができるかの確認も洗濯や掃除ができる確認にもやって来ない。


 結婚して十日。未だ誰も訪れてこない。

 冷蔵庫の中身が半分に減ってしまっている。このまま行くと後一週間しか持たない。

 どうすればいいのやら❤いよいよやっちゃおうかな?


「やっぱり燃やすしかないかしら?それとも風で扉をぶっ飛ばす?火よりか風のほうが危険度は少ないよね。万が一外に誰か居たら大怪我しちゃうかもしれないけど・・・❤」



 只管(ひたすら)暇なのはどうしようもなかったけれど、物騒なことを考えて時間を潰していた。

「あっ!ベランダから炎を飛ばして本邸を焼くのはどうかしら?どう思う?ヨーラ?」

「いざとなったらそうしましょう。で、この家の扉は風でぶっ飛ばしましょう!!」


 ヨーラの賛成を受けて今日やるか明日のほうがいいかしらとヨーラたちと話す。

 エリカが「とりあえず食材がなくなってからにしましょう」と言うので不本意だったけれどエリカの意見を採用することにして、一つ(うなず)いた。



 ちょっと暇を持て余しすぎてしまって、小説を一本書き上げてしまった。

 内容は勿論、結婚当日に離れの小さな家に閉じ込められた公爵夫人の話だ。


 結婚して十五日ほど経った日、サンルームでお茶をしていると玄関の扉がドンドンと叩かれた。

 エリカが「どちら様でしょう?」と問う。

「執事長のアウガンです!!なぜ扉が開かないのでしょうか?!」


 わたくしが扉の前まで行き、直接対応する。

「だって不用心でしょう?誰かもわからない人がいつ入ってくるかわからないなんて怖いわ。こちらも入室者を選ぶ権利がありますでしょう?」

「奥様!開けてください!!大切なお手紙が届いております!!」

「手紙・・・エリカ、開けてもいいわ」

「かしこまりました」


 エリカは細く扉を開けるだけでそれ以上は開かなかった。

「申し訳ありませんが、公爵家の執事の方の顔を知らないので、ご入室はお断りさせていただきます。私たち三人でお嬢様を守ることなど不可能なので」


「本日は王家からのお手紙をお持ちしました」

「ご苦労さまです。私が受け取ります」

 エリカが隙間から手を差し出す。

「王家からの手紙をあなたのようないち使用人に預けるわけにはまいりません」


 その言い分にエリカは納得したのか、わたくしの顔を(うかが)ってくる。エリカに入室の許可を出す。

 執事は一定の距離を開けてわたくしの前に立つと一通の封書を差し出した。


 ヨーラが受け取り、安全かどうか確認してからわたくしに差し出した。

 受け取って封蝋(ふうろう)を確かめ、開封されていないか確認する。

 封蝋はロベルタ陛下とリリーシャ王妃からのものだった。


「奥様」

「あら?わたくしのことを奥様と呼ぶなんて嫌味かしら?」

「いえ、そのようなことは・・・」

「では奥様ではないのにどうして奥様と呼ぶのかしら?」

「嫁いでいらした方のことは奥様とお呼びするものでございます」

「笑っちゃうわね」


 小馬鹿にしたような笑いを執事に向ける。

 わたくしは手にした手紙を(かか)げて少しばかり嫌味を込めた。

「ふふっ。他からの手紙なら捨てることが出来ても陛下からの手紙では捨てることは出来ないものね」


「奥様宛の手紙を捨てるようなことはいたしません」

「ふっ。どうかしらね。わたくし、この手紙を読んだら返事を書かなければいけないのだけれど、返事を出すことは可能なのかしら?」

「・・・勿論でございます」


「でもどうやって手紙の返事が書き上がったことを知らせればいいのかしら?鉄格子を(つか)んで(あわ)れに誰か〜!!誰か〜!!と懇願すればいいのかしら?」

「・・・明日の朝に取りに参ります」


「そう。でしたらその時に本邸にあるものでかまわないので本を十冊ほど持ち込んでくれないかしら?日が沈むとすることがなくなって暇で仕方ないのよ。それと刺繍糸と生地。できれば商人を呼んでほしいのだけれど、可能かしら?ここでの生活は自分で掃除も洗濯も調理もしなければならないので、持ってきた衣装では生活できないのよ。わたくし用のメイド服をしつらえてもらわなければならないの」


「奥様にメイド服など・・・」

「だってここではメイド服でないと生活できないのだと言ってるでしょう?わたくしを奥様と祭り上げていたいのなら、下働きができる人が二人と料理人が一〜二人必要だわ。雇い入れてくれるのかしら?」

「旦那様に聞いてみます」

「そう」


「あの、陛下からのお手紙の内容を教えていただくことは可能でしょうか?」

「それは無理だわ。考えずとも解ることでしょう?」

「そう、でございますね。・・・奥様は陛下となにか特別な関係でもあるのでしょうか?」


「特別といえるかどうかは解りませんが、陛下とは同級生なので学生時代から良くしていただいておりました。結婚するまでは毎年夏には別荘に招待していて、ご一緒させていただいておりました。今年も一緒に別荘に行こうと誘われているのですが、監禁生活ではお断りするしかないかもしれませんね。それと、ロベルタ陛下、リリーシャ王妃ともに定期的にお手紙のやり取りをすると約束しております」


「本当に、仲がよろしいのですね?」

「結婚前に公爵様ご自身がわたくしのことで陛下よりお言葉をいただいたと思いますが?」

「申し訳ありません。(わたくし)めは何も聞いておりません・・・」


「そう。公爵は陛下の言葉を軽く(とら)えたのね。そんなご様子ではこれから先々苦労しそうですわね。そうそう」

 わたくしは笑顔で手を合わせて執事を見る。

「ここに来てから十五日。食材の差し入れが一度もないのですが、私たちに飢え死ねということかしら?」


「も、申し訳ありません。すぐご用意させていただきます」

「お願いしますね。食材、本、刺繍糸、生地、商人、下働き、料理人、明日朝手紙を取りに来ることを忘れないでくださいませ。いざとなったら家に火を放って逃げ出しますけど」

「忘れたりしませんので、荒っぽいことはご勘弁願います」


 執事を視線だけで見送っていると扉が閉まるとまた外から閂が降りる音がした。ああ、名前の確認をし忘れたわ。まぁ、どうせ短い付き合いしかしないだろうし、どうでもいいか。




 陛下と王妃連名の手紙はご機嫌伺いと結婚生活はどうかという内容だった。それと二ヶ月後にある舞踏会には参加可能かとの質問だった。


 現状、監禁されているので舞踏会には参加できそうにもないと思うと返事を書いた。

 そして申し訳ないが、両親宛の手紙も同封するので渡してもらえないかとお願いした。

 陛下を経由しないと両親に手紙が届くかどうかもわからないのでと、書き綴った。


 翌朝、昨日わたくしがお願いした人以外の物を(たずさ)えて執事はやってきた。

 商人を呼ぶこと、下働きと料理人を入れることは却下された。

 それ以外のものは手に入れたので一先(ひとま)ず良しとした。


 冷蔵庫、冷凍庫にも大量の食材が入れられ、小麦なども追加された。

 これでまた2週間は生き延びられる。

 こんな生活、本当に不本意だわ。生きるために首を押さえつけられた生活なんて。

 わたくしが公爵夫人として(とうと)ばれなければならないのに、生きるために食べ物を公爵からめぐまれているようで我慢がならなかった。



 それからロベルタ陛下とリリーシャ王妃との手紙は約束よりも頻繁(ひんぱん)になった。

 わたくしの現状に驚いて、できることは何でもするとロベルタ陛下とリリーシャ王妃の二人からお言葉をいただいた。

 大変申し訳無いのだが、陛下に(すが)る以外現状を打破する方法がないので、甘えることにした。


 陛下と王妃からの二度目の手紙には大きな木箱五つ分の荷物が一緒にやってきた。

 執事に開封した木箱を片付けてもらいたいと言うと、中身が気になったのか、執事はそのまま開封の手伝いをした。


「ああ。良かった。お願いしていた作業用のメイド服を送ってもらえたわ!恥ずかしい思いをしてわたくしのサイズをお送りしてよかったわ」


「奥様は陛下にメイド服をお願いなさったのですか?」

「ええ。そうよ。公爵様はご用意してくださらなかったから・・・。あら。箱の中にもお手紙が入っているわ。ふふっ❤ロベルタ陛下とリリーシャ王妃がわたくしのメイド服姿を見てみたいそうよ」


 執事の眼の前で読み進めていく。当然手紙の中身は見せない。

「あら!嬉しい!!陛下が下働きをしてくれる人を二人と料理人を二人、送ってくれるそうだわ。どうしましょう!!使用人部屋が足りないわ!!エリカ。どうしましょう?」


「料理人の二人には二階の北側の部屋を与えればいいのではないですか?」

「それは困ります!!公爵夫人ともあろう方と同じ階に男性を招くなどあってはなりません!!」

 執事が紙のように白くなった顔で抗議してくる。


「あら、陛下もそれくらいのことは理解していると思うわ。多分料理人も下働きも女性が来ると思うわ」

「ですが・・・旦那様に許可を得ずに人を入れるなど・・・できませんよ」

「公爵様は陛下のご温情を断るということかしら?」


「そ、それは・・・」

「断れないでしょう?ならこの家に迎える以外ないんじゃないかしら?」

「それは・・・」


「今のままでは(ろく)な結果にはならないことを公爵様はどの程度理解していらっしゃるのかしら?初夜を済ませなかったくらいなんですもの。当然わたくしからの愛情は求めていらっしゃらないのでしょう?・・・わたくしを監禁してこの始末をどうつけるおつもりなのか公爵様に聞いてみたいところですわ」


「・・・・・・」

「まぁ、いいわ。今のところこの小さな家で快適に暮らせてはいるし、陛下が料理人を送ってきてくださったら食事もまともなものが食べられるようになるしね」


「お嬢様が作ってくださるお料理もとても美味しいですよ!!」

「そうですよ!!」

 三人が握りこぶしを作って力説してくれる。


「奥様が料理をしていらっしゃるのですか?」

「そうよ。残念なことに侍女の三人は料理ができなくて・・・かろうじて食べるものを作れるのがわたくしだけだったのよ」

「それは・・・気が付きませんで、申し訳ありませんでした。侍女の誰かが簡単な調理くらいできると考えておりました・・・」

「残念ね。調理できたのはわたくしだけだったのよ。でも公爵家の妻に簡単な調理程度のものを食べさせていればいいというお考えなんですね」


「い、いえ!!そのようなことは!!あ、あの、こちらから人を用意するので、陛下からの人員派遣はご辞退ください」

「残念だけどもう遅いわ。もうこちらに向かっているらしいから」

「そんなっ!!」

「では、退室を。公爵様によろしくお伝え下さいね」

「ちょ、ちょっと待ってください!!奥様は陛下に公爵家の暮らしをどのように告げたのですか?!」


「ありのままよ。結婚式の夜、別邸ともいえないほど小さな家に監禁されていると。陛下からの手紙が届かなかったら食べ物も届けてもらうことなく死んでいたかもしれないと。それから窓とベランダには鉄格子、扉は開かないように外から閂を掛けられていて、結婚式が終わってから妻としては迎え入れられていないこと、毎日(おび)えながら暮らしていると」


「そんなっ!!奥様は怯えてなどいらっしゃらないでしょう?!」

「そんなことはないわ!わたくしには連れてきた三人の侍女の責任があります。わたくしが死ぬのは仕方ありません。父とわたくしが結婚相手を選び損なったのですから。ですが、侍女たちを死なせるわけにはいきません。彼女たちには家族がいるんですもの。わたくしは彼女たちを助けるためなら過剰と言われようと、打てる手はすべて打ちますよ」


「それはどういう意味でしょうか・・・?」

「公爵様は腹を(くく)らなければならないということですよ」

「奥様は・・・物事を悪く(とら)え過ぎでございます。旦那様は決して・・・」


「今のわたくしの現状を悪く捉える以外どう捉えろと?安心してちょうだい。わたくしロベルタ陛下とリリーシャ王妃に嘘は伝えていないわよ。ありのまま全てを伝えているだけだわ」

「陛下はなんと?」

「公爵様と離婚してロベルタ陛下の側妃にならないかとおっしゃってくださっているわ。一応お断りはしているのだけれど、陛下御夫妻は本気みたいなのでいつまで断れるかは解らないところね」


「奥様は公爵夫人としての自覚はないのですかっ?!公爵家に(あだ)なす(おこな)いだとは思わないのですか?!!」

 興奮しきりの執事に冷静を心がけて答える。

「ええ。思わないわよ」

「そんなっ!!」


「だってわたくし公爵夫人だったことなど一度もないわよ?」

「ご結婚されたのだから公爵夫人でしょう!!もっと自覚を持ってください!!」

「こんな小さな家で監禁されて生活しているのに、公爵夫人の自覚なんてもの持てるわけ無いと思わない?ここで生活してる以上公爵夫人なんていう自覚は持てないと宣言しておくわね。では」


 執事と喋りながらもロベルタ陛下の贈り物を箱から出して行く。

 わたくし用のメイド服が三着入っていて、きっとリリーシャ王妃の遊び心ね

 手紙を読み進めると、わたくしを喜ばせる一文(いちぶん)が書いてあった。

 えっ!最近東の国から手に入れた食材だといって米と味噌、醤油、昆布が入っていた。


「ヨーラ!エリカ!アグネス!!陛下が食べるものに困らないようにと食材も差し入れてくださったわ!!これからも定期的に食材を送ってくれるらしいわ!!どうやら死ななくて済みそうよ!」

「陛下には感謝しても感謝しきれませんね」

「本当ね。これで最低限飢えて死ぬことだけはなさそうだわ!」


「奥様!!食材を切らすようなことはいたしません!!」

 執事は悲鳴のように叫んだ。

 ふふっ。いい気味。


 陛下!!ありがとう!!この世界に米や味噌があるなんて思いも寄りませんでした。何よりも嬉しいプレゼントです!!

 それに王都で流行っているという本が十二冊入っていた。

 箱の数が多いはずだわ。


「陛下にお返事を書くので明日の朝取りに来てくださいます?お返しができないのが辛いところだわ・・・あっ、そうだわ!わたくしが刺繍した布団カバーをお返しすることにするわ!」


「それがよろしいかと思います。陛下もお慶びになるのではないでしょうか?」

 ヨーラがイイ笑顔で言う。

 わたくしもイイ笑顔で「喜んでいただけたら嬉しわ」と笑った。


 執事は顔を引き()らせてわたくしが閉じ込められている家から出ていった。

 魂が抜けたようになっていたのに、閂をかけるのを忘れないのがちょっぴり腹立たしかった。


 さて、公爵は陛下がよこした下働きと料理人をどうするのだろう?

 送り返す?陛下が送り込んできた人たちを閉じ込めることは出来ないんじゃないかしら?

 ふふっ。楽しみ❤



 その日の夜、玄関ドアを開けようと外の閂が外される音とドアを力任せに叩く音が家の中に響いた。

 けれど中から扉が開かないようにしていたので公爵と思わしき人の(わめ)き声を聞きながら侍女の三人と無視を決め込んだ。


 陛下からの荷物には色々な物が入っていた。

 内側からつける鍵もそのうちの一つ。

 四人で頭を突き合わせて苦労して取り付けた。

 ただ力任せに来られたらどうにも出来ないのだけれど。


 両親からの報告書には公爵の現状が書かれていた。

 女がいるわけでもなく、ましてや男の恋人がいるのでもなかった。

 両親も陛下も公爵が私を現在監禁している理由はわからない。過去のことを掘り下げて調べてみると書かれていた。


 昨夜閂を外したのは執事だったのか、公爵なのか。

 公爵なら色んな意味で身の危険があるわね。

 外と繋がる扉は全て内側からも開かないようにしてあるけれど、男性の力だとこの家の扉など簡単に壊れてしまうだろう。

 


 陛下と両親に、公爵と思われる訪問を手荒く受けたけれど陛下が送ってくださった鍵のお陰で助かりましたと手紙の返事を書いた。

 それと暇にあかせて刺した超大作の布団カバーを箱に詰めた。その中には両親への手紙も入っている。

 翌朝取りに来た執事に渡す。


「ちゃんとお送りしてね」

「当然でございます!!」

「あっ!それと!閉じ込めているのだから公爵様も入ってこないように言っておいてくださいね。また陛下にお送りする内容が増えてしまいますから」

「昨夜なぜ扉が開かなかったのかお聞きしても?」


「ああ、ロベルタ陛下がわたくしの身の安全を気にしていらして、内側から付ける鍵を用意してくださったのよ。本当に助かるわ」

「陛下が・・・」

「ええ。わたくしの身を案じてくださっているのよ。特にリリーシャ王妃様が」

「そう、でございますか・・・」


「ええ。ロベルタ陛下がわたくしのことを心配されているので、公爵様に無体(むたい)な真似をしないようにとお伝え下さいね」

「・・・無体なことはしておられないと認識しておりますが、奥様がそのように(おっしゃ)っていたことはお伝えいたします」


「で、公爵様はどんな御用だったのかしら?」

「それは私めにはわかりかねます」

「そう。じゃぁ、陛下にお送りしてね」

 執事が陛下宛の荷物を(うやうや)しく持って、出ていった。


 やはり閂が閉まる音がした。

「公爵はなぜわたくしをこの家に閉じ込めるのでしょうね?」

「ほんとうですよね。この家を建てるだけでもかなりの予算を使っているわよね?」

「元々建っていたとか?」


「そうね。建ってから少しの時間は経っていそうよね。木の香りはもうしないもの」

「そうですよね・・・」

「他の使用人と話ができないのが痛いところですよね。情報が集められませんもの」

 アグネスとヨーラが顔を見合わせている。


 エリカは今わたくしの部屋の掃除の出来具合を確認している。

 もうそろそろわたくしの掃除も認めて欲しいところなんだけど、3人はちゃんとできていればいるだけ複雑な気持ちになるらしい。


「しかしお嬢様はいつ掃除の仕方を学んですか?」

「学んでなんていないわ。黙っていたけど、魔法でちょちょいっと・・・ね」

「魔法で掃除ができるんですか?!」

「窓を開けて風魔法でホコリを追い出しているだけよ」

「そうだったんですか・・・」


 二階から降りてきたアグネスが納得したと頷いている。

「後は普段から散らかさないことね。流石にそれは手で片付けるしかないから」

「さすがお嬢様。ではこれからは点検はやめますね。だからといって手抜きされませんように」


「わかったわ。気をつけるわ。でね、この家全体を私が風魔法でホコリだけ追い出すから、それ以外の掃除をお願いしてもいいかしら?」

「よろしいのですか?」

 三人が任せていいのかと少し不安げだ。


「それだけでも皆の作業が減るでしょう?」

「でももうすぐ陛下が下働きと料理人を送ってくれるのではないですか?」

 アグネスが言いにくそうにわたくしに聞いてくる。


「正直なところ、本当に人材が送ってこられるかどうかはわからないわ。いくら陛下でも公爵という身分の人に頭ごなしに人材を送ってこられるかというと微妙だと思うのよねー。それに誰かが送ってこられる前にわたくしたちが出ていくほうが先かもしれないし」




 それからも陛下との手紙のやり取りは続いたけれど、下働きも料理人もこの家に来ることはなかった。

 陛下からの手紙には人材は送ったけれど、公爵が頑として受け入れず追い返されたそうだ。


 送られてきた四人は陛下からの指示なのでと言って門前に座り込み、二週間立ち去らなかった。

 ロベルタ陛下から退去の指示書を受け取ってからようやく四人は王都へと引き揚げた。


 その四人が引き揚げたのと入れ替わりにわたくしの両親が公爵邸にやってきた。

 執事が苦虫を噛み潰したような顔をして言っていたので本当に両親は公爵邸にいたのだろう。

 でも、会わせてもらえなかった。

 公爵は一体何を考えているの?


 父は三日間本邸に泊まって仕事に呼ばれて帰っていき、母は今もまだ私に会わせろと本邸に泊まり続けているらしい。

 母は母で公爵邸に監禁されているのか、庭に出てくることもない。

 わたくしが離れの小さな家に住んでいることを知っているのだから、庭に出て小さな家を探すと思うのだけれど母を見かけない。

 そこまでしてわたくしをここに監禁し続ける理由がわからなくなった。




 それから3週間後、母はまだ本邸に居座っているらしい。

 母も限界で、公爵も限界が来たのだろう。

 公爵が私が住む家に正式訪問してきた。

 

「お久しぶりです公爵様。結婚式以来ですので・・・半年はお目にかかりませんでしたか?」

「嫌味を言わなくていい。私は全てをちゃんと理解している」

「そうですか?」

「君の母親に自邸(じてい)に戻るように言ってくれ」


「でしたらわたくしも母と一緒に実家に帰らせていただきたいと思います」

「それは駄目だ!!」

「いえ、ただ実家に帰るのではなく離婚していただきたいのです」

「もっとだめに決まっているだろう!!」


「ここでの生活はもう十分堪能いたしました。これ以上わたくしにこの家の生活をさせないでください。公爵様との関係に終止符を打ちたいと思います」

「私に離婚の意志はない!!」

「知ってますか?片方の気持ちだけでは結婚生活を続けることは不可能なのですよ」

「キャローナは本気で私と離婚したいと?!」


「わたくし、この家の中で誕生日を迎え18歳になってしまいました。女性は離婚して180日間は結婚できないので色々なことを(かんが)みても、再婚は20歳前後になってしまいます。そうなると行き遅れと言われる年になってしまいます。なので1日でも早く離婚、もしくは婚姻解消をしていただきたいのです」


「もう少し待ってくれ。あと少しで全てが片付くんだ。そうしたら・・・」

「わたくしは情報を集められる立場ではなかったので、公爵様に何が起こっているのか私は知りませんし、興味もありません。どんな理由があろうとわたくしを監禁する公爵様とやり直すことはできません」


「本当にあと少しで解決するんだ!!そしたら初めからやり直して・・・」

「無理です。何の説明もなく半年間閉じ込められたら気が狂ってもおかしくないのではないでしょうか?公爵様が私に()いた監禁は取り消せません。事情があったならその事情を初日に説明すべきでした。そしてわたくしの意見を聞くべきでした」


 母が強行突破してきたのか家の中に飛び込んできた。

「キャローナ!!!」

「お母様!!」

 母は勢いよくわたくしに飛びついてきて、その勢いに思わずたたらを踏んでしまう。


「キャローナ!陛下から婚姻白紙撤回状を預かっているわ!!」

 母が胸元から1枚の書類を出してくる。

 公爵がそれを奪おうとするが、母が脅しを掛ける。

「陛下からの書状に手を掛けるなんて公爵といえど許されませんよ!!」


 公爵がビクッとして手を引く。

 そしてその書類はわたくしの手の中に。文面を読んでいく。

「この書類はわたくしが署名するだけで公爵の署名は必要ないのですね」

「そうよ!事情が事情ですもの!!半年以上接触もなく閉じ込められていたのですもの!陛下は既に監禁罪という犯罪だと仰っていたわ!!」


「犯罪って・・・私はキャローナを守っていただけだっ!!」

「公爵様、公爵という立場になって冷静になって考えてみてください。監禁罪ですよね?」

「それは・・・」

「どんな理由があったとしても罪からは逃れられません」

「キャローナ・・・」


「折角の御縁を駄目にしたのは公爵様です。ちゃんとわたくしに相談してくださっていればこんなことにはならなかったと思いませんか?」

「ただ、私は・・・君を守りたかったんだ!!」

「それは解っています。けれど公爵様はやり方を間違えてしまったのです。とても残念です」


 わたくしは公爵の眼の前で婚姻白紙撤回届けにサインした。

 公爵はそれを見てその場に膝をつき、頭を抱えて声にならない声を上げていた。

 その公爵を振り返ることもせずに母が用意してくれていた馬車に乗って一路(いちろ)王都へと向かった。




「キャローナ!!やっと会えたね!!キャローナが結婚した途端に会えなくなるとは想像にもしていなかったよ!!」

「陛下、この度はわたくしのために色々と手を尽くしてくださったそうで、ありがとうございます」

「何をいう!!キャローナのためならどんなことでも躊躇(ためら)わずに実行してみせるよ。それに、本当は私の手など必要なかっただろう?」


 わたくしは極上の笑顔をロベルタ陛下へと向けた。

 ロベルタ陛下は嬉しそうに笑う。

「力の出し()しみをしたんだ?」

「わたくしの(魔力)は誰も彼もに見せていいものではありませんから」


「そうだね。一度家に帰ってゆっくりしてから今後のことを話そう。本気で考えて欲しいから先に言っておくね。私の側妃になって欲しい。考えてみてくれ」

「お時間をいただきありがとうございます。両親とも相談してまいります」

 ロベルタ陛下は満足そうに頷いて「下がってよい」と仰った。



 父と弟妹が迎えに来てくれて家族に囲まれて自宅へと連れて帰ってもらった。

 使用人の皆が一堂(いちどう)(かい)して「おかえりなさいませ」と出迎えてくれる。

 家族皆も嬉しそうな顔をしている。

 それを見て帰ってきたんだと、心から安堵した。


 自室は結婚前のままの状態で、持っていったものが足りないくらいで、心から安心できる場所だと心から感じた。引き締めていた色々なものが緩んでいく。

 既にお風呂の用意がされていて、ドレスを脱がしてもらって湯船に浸かった。


 あまりの気持ちよさにうとうとしていると「お嬢様」と声を掛けられて風呂から出され、マッサージを受ける。

 なんとか起きていようと思ったのだけれど目を開けていられず()え無く陥落(かんらく)してしまい、気がついたら鳥の鳴き声が聞こえて朝の日差しで部屋の中が明るくなっていた。


「お嬢様。おはようございます。ゆっくりおやすみできましたか?」

「ええ。公爵家の小さな家で暮らしていてなんともないって思っていたけど、気を張っていたのね。やっと休めたと思えたわ」

「ゆっくり休めたのなら良かったです」


「ヨーラたちはいつ頃帰ってこれそうかしら?」

「荷物をすべてまとめてからになりますので数日はかかるかと思います」

「三人は料理できないから・・・不便を強いられてなければいいのだけれど・・・」

「ご心配なく。野営になれているエリオットとサーガ、ヨランが護衛に付いていますから非常食位は持っていますよ」


 エリオットたちは我が家の騎士団員で、中でも腕が立つ三人だ。安心してヨーラたちのことを任せられる。

「お嬢様は他のことは考えずまずは疲れた心を癒やしてくださいませ」

「そうね。そうするわ」


「お食事はどうなさいますか?」

「お父様たちはどうしているのかしら?」

「お嬢様が来られるのを待っていらっしゃいますよ」

「ふふっ。そう。なら食堂へ向かうわ」

 音も立てずに使用人たちは動いてわたくしの準備をあっという間に済ませて、食堂へとわたくしを連れていった。


「遅くなってしまって申し訳ありません」

「いや、ゆっくりできたならいいんだよ」

「昨夜はお風呂の後のことを覚えていません。いつの間にか寝てしまったようです」

「お姉様は疲れていたのよ。大変な生活をしていたんだもの」

 妹がそう言うと、父が無理に作った笑顔を浮かべた。

「さぁ、せっかく皆が集まったんだ。美味しい朝食を食べようじゃないか!」


 口々に他愛(たわい)もないことを話しながら口に馴染んだ朝食を食べ終わると、疲れていないのなら話があると父から声を掛けられた。

 父について執務室へと向かう。

 今はもうわたくしも知っているけれど、父と陛下から教えられたわたくしが知っていることの答え合わせなのだろう。



 私が知っている話は公爵の愛が重いということ。

 愛が重すぎて(あが)めるだけで手も出せない。

 わたくしを愛しすぎていて手放すこともできない。

 そのジレンマから監禁した。

 それだけだと思っていた。


 実際は公爵宛に『妻の身が安全だといいな』というような手紙が何通も届いていたそうだ。

 その送り主は隣国に嫁いでいった公爵の実妹らしい。


 公爵の妹は兄である公爵のことを心から愛していた。

 それはほんの小さな頃からのことで、妹の世界は公爵一人で(いろど)られていた。

 兄に近寄る者には容赦がなく、男でも女でも徹底排除してきたらしい。


 それは言葉だけの(おど)しだけで済むこともあるし、直接的な暴力のこともあった。

 公爵という立場を利用した間接的な脅しもあったらしい。

 公爵の娘に逆らえない者を動かして、守る必要のない兄を自分勝手な思いで守ってきたらしい。


 妹にとっては兄以外の者は必要なく、両親ですら必要なかった。

 妹にとって両親は潜在的(せんざいてき)な敵だった。

 兄と自分を引き裂く一番の敵。

 両親にすら刃物を向け切りつけたことは四度ある。

 母親を一度切りつけ、父親も三度傷つけた。


 母親は一度傷つけられてからは妹を遠ざけるようになった。

 父親は妹と話すのに護衛騎士を傍に置かなければ話せなくなった。

 それからは公爵家は妹の成すがままになりかけた。

 公爵のご両親がこのままでは駄目だと妹を矯正施設に三年間入れ、出てきたときには妹はまともになったかのように見えた。


 妹は兄への執着を笑顔の裏に隠すようになっただけで、何も変わってなどいなかった。

 いや、年齢を重ねたことでただ好きだった兄にたいして色欲を抱くようになった。


 兄に抱きつき口づけを強請(ねだ)る。髪に口付けるだけでは納得せず、額に、頬に、唇にと要求は兄弟の域を超えるようになっていった。

 兄の手を取って胸を触らせようとしたり、夜更けに兄のベッドに裸で潜り込み、兄の寝間着を脱がせようとした。


 途中で目が覚めた兄が叫び声を上げて事なきを得たが、兄に執着しすぎる妹をこのまま家には置いておけないと両親が心配して、兄妹を物理的に距離を取らせることにした。


 両親は妹を遠くの国に嫁がせることにした。

 移動に五ヶ月かかり、四つの国の検問を受けなくては帰れない国へ。

 両親は四つの国と嫁いだ国に妹を出入国させないように通達した。


 両親は妹を見張るために妹が嫁いだ国へと居を移した。

 そして兄は若くして公爵を継ぐことになった。

 助けてくれる両親は生きてはいても傍には居ず、一人で色々なことを抱え込むしかなくなった。


 去ったはずの妹の脅威(きょうい)は無くなってはおらず、遠く離れていても公爵を追い詰める。

 子供の頃から妹に粘着されていたから公爵も人との交流の仕方がどこか(いびつ)だった。

 妹に壊されないように大切なものは手の中から出さず閉じ込めておく。




ーーーーーー



 公爵はキャローナに初めてあったときから気になる相手だった。

 妹に邪魔されていたので同年代の女性を見たことがないと言ってもいいほどだった。

 そこに美しくて(たおやか)なのに生命力に(あふ)れていて公爵に(いびつ)なところがない笑顔を向けてくる。


 公爵はキャローナを愛おしいと思った。

 大切にしたい。

 この腕の中で守りたいと。


 なのに、妹にベッドの中に潜り込まれた日から公爵は身体的に愛することが難しくなっていた。

 けれどもしキャローナを腕の中に(いだ)いたのならもしかすると愛せるかもしれない・・・。

 そんな夢を見ていた。


 公爵は期待を抱いたけれど、結婚式の口づけで愛しいよりも体が触れ合うことに忌避(きひ)感のほうが強かった。

 ベッドの中で男女がすべきことなどできはしないことに気がついた。

 公爵は披露宴の最中に決心した。


 大切なものは手の中に閉じ込めておくべきなのだと。

 そう思ったのは妹からの手紙のせいだったかもしれない。

 けれど公爵も歪だったのだ。


 両親から手紙の返事が来るまではキャローナを閉じ込めていてもいいと自分に言い聞かせた。

 片道で四ヶ月掛かる。妹がやってくることなどありえないことは解っていた。

 離れの家にキャローナがいると思うだけで満足できていた。


 キャローナと公爵の結婚は婚姻解消という形で結婚していなかったものとなった。

 教会に届け出た婚姻の書類も破棄された。

 人の記憶から消えることはないけれど、ロベルタ陛下が通達して婚姻は無かったものとなった。


 それでも公爵は満足だった。

 ロベルタ陛下からバツとして納税を五年間10%増やされたとしても。

 キャローナが誰とも結婚せずにいたらいいのにと心の中で願う。




ーーーーーー



 キャローナの元にはいろいろな人から婚姻の申込みが届く。

 その最たる人はロベルタ陛下だ。

 父も正妃としてならロベルタ陛下との結婚も考えただろうが、側妃では受け入れられないと言い切っている。

 私も側妃など、辞退できるのなら辞退したいと心の底から思っている。


 そう思ってはいるのだけれど、ロベルタ陛下だけではなくリリーシャ王妃までもがわたくしを側妃にと求めている。

 そして呼び出された父とロベルタ陛下とリリーシャ王妃の三人で話し合いを何度か繰り返し、父が説得させられてしまった。


「お父様どうしてですか?側妃など絶対認めないと仰っていたのに」

「明日、陛下と王妃がキャローナと話したいそうだ。昼食後王宮に行ってきなさい。感情的にならずに話してきなさい」

 父の様子がちょっと変だったこともあって、わたくしは素直に「わかりました」と返事するしかなかった。




 王宮の王と王妃の私室があるのではないかと思うほど奥に案内され、意外に質素な一室のソファーに腰を下ろした。

 (しばら)く待つとノックとともにロベルタ陛下とリリーシャ王妃が現れた。


 わたくしは立ち上がり、臣下の礼を執ってお二人を迎えた。

「キャローナ、楽にしてくれ」

「ありがとうございます」

 三人とも腰掛け、お茶とお菓子が並べられると、三人だけが部屋に残された。


 リリーシャ王妃の顔色がすぐれないように見える。

「リリーシャ王妃、お疲れですか?」

「そのことで話がある」

 私は姿勢を正して「お伺いします」と答えた。


「リリーシャは余命半年だと言われている」

 わたくしは息を呑んだ。

「三人の専門医に見てもらった。キャローナも聞いたことのある人ばかりだ。誰に調べてもらっても返ってくる言葉は肝臓に癌ができている。余命は半年。だそうだ。残念だが治療の方法がない。教会に何度も癒やしの魔法をかけてもらった。それでも何も効果がなかった。余命が伸びることもない」


 私は口を押さえて言葉にはせず「そんなっ!!」と漏らした。

「リリーシャは死ぬのなら自国へ帰りたいと願い出ている。私はその願いを叶えてやりたいと思っている。キャローナが今は側妃という立場を受け入れてくれたならば直ぐにでも帰国すると言っている。帰国して暫く経ったらリリーシャとは離婚して、キャローナを王妃として迎えて欲しいと望んでいるんだ」


「お願い。キャローナ。わたくしの最後の願いを叶えてちょうだい。側妃という建前で王妃教育を受けていて欲しいの。キャローナが王妃になる準備を始めたいのよ。そしてわたくしがこの地からいなくなったらロベルタ陛下を支える王妃になって欲しいの。こんなお願いキャローナにしかできないの」


「リリーシャ王妃・・・酷いですわ。断れないお願いをするなんて・・・」

「でもキャローナはロベルタのことを嫌いではないでしょう?」

「嫌いではありませんが、恋していないのですよ。陛下には失礼ですけど、お友達なんですもの」

「でも愛せるようになるわ。嫌いじゃないんだもの。お願い。ロベルタ陛下を・・・」


「わかりました。わたくしではリリーシャ王妃ほどの役には立ちませんが、わたくしのできる範囲でロベルタ陛下とこの国を支えます」

「キャローナ。ありがとう!本当にありがとう!!・・・これで何も思い残すことはないわ」


「キャローナ。今日中に側妃の手続きを終わらせる」

「かしこまりました」

「リリーシャはその手続が終わり、準備が整い次第(しだい)自国へと旅立つことになる」

「はい」


「今から王妃教育を受けてくれ」

「準備万端なのですね。・・・わたくしのできうる限りの努力をいたします」

 リリーシャ王妃に抱きしめられ何度も「ごめんなさい。ありがとう。愛しているわ」と言われた。

 ロベルタ陛下は何の感情も見せずに私達二人を見ていた。



 屋敷に帰ると父に執務室に来るように言われた。

 父の正面に腰を下ろすと、緊張の糸が切れてしまったかのように体の力が抜け、背もたれに体を預けた。


「大丈夫か?」

「どうでしょう?・・・」

「話を受けてきたのか?」

「断れないでしょう?」

「そうだな」


「リリーシャ王妃ほど若くても癌になるものなんですか?」

(まれ)ではあるが、あるらしい」

「聞いた話が全て嘘だったらいいのにと思ってしまいます」

「そうだな」


「リリーシャ王妃はあの状態で国に帰るなんて寿命を縮めるだけなのではないですか?」

「かもしれん。だが生まれ育った場所で死にたいという気持ちも理解できる」

「・・・そう、ですね」

 わたくしもあの小さな家で家に帰りたいと口にはしなかったけれど、思い続けていた。


「明日から毎日王宮へと向かうことになりました」

「王妃教育か?」

「はい」

「キャローナには苦労が付き(まと)うな。亡くなった妻に勝つことはできないぞ」


 父は悔しいような、悲しような、わたくしが王妃になれることがほんの少し嬉しいような、そんな複雑な表情をしていた。

「そう、ですね・・・。ロベルタ陛下もわたくしも、幸せに・・・なれるのでしょうか・・・」

 父は口を閉ざして手のひらで顔を(おお)った。




 わたくしが王妃教育を始めて十日ほどで王妃がひっそりと自国へと旅立った。

 ロベルタ陛下はわたくしが王妃になることを貴族に根回しを始めた。

 側妃にすると発表したばかりだったので、半数の貴族が反発しているように感じた。

 ロベルタ陛下が言うには今のところどこからも反発は受けていない。だそうだ。

 国民にはリリーシャ王妃に里心(さとごころ)がついて自国に帰ってしまったと発表された。


 わたくしはその発表を苦い思いで聞いていた。

「いくらリリーシャ王妃の願いとはいえ、他の理由で発表することはできなかったのですか?」

「できただろうな。でも私はリリーシャの望みを叶えると決めたんだ」

「・・・そうですか」


 わたくしが知る限り、ロベルタ陛下とリリーシャ王妃の間には恋愛感情はなかったように思っていたのだけれど、わたくしがいない間に二人の心は結びついたのかしら?

 どれだけ仲が悪くても病気だと解ったら距離はグッと縮まってもおかしくないのかもしれない。

 ロベルタ陛下がリリーシャ王妃を愛していればいるだけわたくしの立場は悪くなるだろうなと思った。




 王妃教育は恙無(つつがな)く進んでいる。覚える端から実践の仕事を回されるので忘れる暇もないというのが正しいかもしれない。

 担当している教師陣にも褒められている。

 けれどわたくしとロベルタ陛下はリリーシャ王妃を送り出した日から一度も会っていない。

 交流を深める気はないっていうことかしら?


 かつて友人だったこともなかったかのようにわたくしの存在を無いものとして扱うことにしたのか、ロベルタ陛下から一切声がかからなくなった。

 何度も何度もこれから先のことや、今考えていることを話し合いたいと手紙を出したり、側近の人たちに言伝(ことづて)を頼んだけれど、ロベルタ陛下からの反応は何もなかった。


 わたくしは少しずつ諦めるようになり、ロベルタ陛下のことでなにか一つ諦める度に心に小さな罅が入っていく。

 わたくしはロベルタ陛下に会いたいとは言わなくなったし、ロベルタ陛下もわたくしに会いたいと言ってこなかった。


 リリーシャ王妃が無事に自国へと帰り着き、リリーシャの両親、国王と王妃から感謝の礼状とお礼の品が届いた。

 リリーシャ王妃は旅で疲れていたようだけど、落ち着いた今は元気で友人知人と楽しいひと時を過ごしていると書かれていた。

 

 ロベルタ陛下にリリーシャ王妃を見送ってから初めて呼び出され、その手紙を読むように渡された。

「リリーシャを気遣うのはここまでだ。これからはこの国の王妃としてキャローナを立てていく。覚悟を決めてくれ」

「わたくしの覚悟は既に決まっています」


 ロベルタ陛下はわたくしの顔を見て、少し目を細めて嬉しそうに笑った。


 確かにわたくしを立てる政策は取られた。

 でも肝心なロベルタ陛下は変わらずわたしを立ててはくれない。

 ほんの少し仲良く庭を歩く、他の人たちの前で仲よさげに見えるように振る舞う。ただそれだけのことをしてくれない。


 受け入れられていたはずのわたくしはいつの頃からか貴族たちに(あなど)られ、(あざけ)られるようになっていた。

 ロベルタ陛下がそれを知っていたのか知らなかったのか、ロベルタ陛下がわたくしのために態度を変えることはなかった。


 父や同派閥の人たちが色々と手を尽くしてくれてはいるが、ロベルタ陛下の態度が変わらない以上何をしても無駄だというかのように貴族たちの態度は冷たいままだった。



 それからいろいろな品物がロベルタ陛下の名前で、わたくしの元に届くようになった。

 それは決してプレゼントなんかではなく、ネックレスや指輪に防御魔法と反射魔法の付与をして欲しいと届けられる。

 相変わらずロベルタ陛下とは会えていない。


 付与した数は十を超えてもロベルタ陛下の名前で付与の依頼は届き続けた。

 王妃教育に、どこから届くのかわからない仕事。それに付与魔法の依頼。

 それらをなんとかしようと目が回るほどの忙しくなった。


 貴族たちに認めてもらうためにはなんとしてでも王妃と認められるような実績を挙げなくてはならない。

 つれなくされても(おも)だった貴族たちに声を掛け、会食やお茶会に誘った。どんな小さな夜会にも参加した。


 苦情が上がっている場所へ進んで視察してまわり、なんとか貴族の信頼を得ようと動き回っているときに、リリーシャ王妃が病気だったために(とどこお)っていた仕事を片付けて欲しいとリリーシャ王妃の側近だった人たちから頼まれた。


 頼まれた仕事はどれもこれも期日に余裕がなく少しずつ信頼を得始(えはじ)めていたのにいくつかの約束を破らなければならなくなってしまった。


 わたくしの睡眠時間は二〜三時間にまで減り、体重は十kgも落ちた。

 それでも仕事はわたくしを追いかけてる。いや、自分から進んで仕事に没頭しているのかもしれない。

 父に仕事を減らせと言われたが、ロベルタ陛下の力を借りられない現状、立ち止まることもできなかった。


 やっと貴族たちの冷たい視線が緩みだし、仕事もしやすくなったある日のこと。

 その日は珍しく日が暮れる前にその日の内に(さば)かなければならない仕事をなんとか捌き切ることができて、一息つけるかと思った時だった。


 リリーシャ王妃が亡くなったという手紙が届いたという報告が上がってきた。

 情報は錯綜(さくそう)し本当のことを知るのはロベルタ陛下とその側近たちだけという状況になっていた。


 手紙を持ってきた使者に手紙の内容は何なのか問いただしてリリーシャ王妃が亡くなった知らせだと口を開いたのは使者が来た翌日になってからだった。


 ロベルタ陛下はリリーシャ王妃が亡くなったことを二日経っても三日経っても知らせてはくれなかった。

 一週間経ってから半年後にわたくしとの結婚式を執り行うとロベルタ陛下の側近から伝えられた。


 元々結婚の準備はしていたので結婚に関して慌てることは何もなかったけれど、ロベルタ陛下からリリーシャ王妃が亡くなったことも、結婚の話も直接話すどころか、知らせてくれることすらなかった。

 わたくしからロベルタ陛下にリリーシャ王妃の喪が明けるまで結婚は待ったほうがいいのではないかと手紙を出したが、それにも返答はなかった。


 もう何も諦めることはないだろうと思っていたのに、まだどこかにロベルタ陛下に期待している何かがあった。目に見えない罅はどんどん広がっていく。修復が不可能なほどに。

 わたくしの心は粉々に砕け散ってしまった。

 それに気がついた時、まだ結婚もしていないのにと少し声を漏らして笑ってしまった。

 



 陛下が半年後と言ったその日、ロベルタ陛下とわたくしの結婚式が執り行われた。

 わたくしの砕けた心は元には戻らない。

 極僅かな人にだけリリーシャ王妃が亡くなったことを伝えた。癌を患っていることを知っていた人たちだけだ。それ以外の人にはリリーシャ王妃が亡くなったことは伝えなかった。


 リリーシャ王妃が離婚したいと申し立てて離婚が成立し、再婚できるだけの日数が経ったということになっていた。

 その内容もわたくしにとっては初耳のことだった。


 本来は側妃となるはずだったわたくしが、ロベルタ陛下とリリーシャ王妃が離婚したため、繰り上がってわたくしが王妃になったと国民には思われている。

 側妃はあくまでも側妃であって、王妃になるなんて烏滸(おこ)がましいというのが大多数の考えだった。


 中にはリリーシャ王妃を悪く言う人もいて、リリーシャ王妃の話を聞くと心が痛むけれどリリーシャ王妃の願いだからと黙って聞いているしかない。

 救いはリリーシャ王妃を悪く言う人以上に、わたくしのことを悪く言われていることだった。


 わたくしのことは、うまくやった新たな王妃とか、リリーシャ王妃を追い出したキャローナ王妃だとか色々な噂が流れている。




 夫になるはずのロベルタ陛下は、リリーシャ王妃との美しい想い出だけを抱いて生きていくのか、わたくしのことを守ろうとはしてくれなかった。

 けれど砕け散った心は何も感じることはなく、わたくしは王妃という仕事をただすればいいのだと自分に言い聞かせた。



 ロベルタ陛下とは会ってもいないし、話もしていない。

 最低限のことくらい話し合っておきたいと思うけれど、話し合うことを思い描くだけで心が萎えてしまうようになってしまったので、こちらからはロベルタ陛下に関わらないと決めた。


 このまま心を通わすことのない仮面夫婦として作った笑顔で国民の前に立ち続けなくてはならないのは国民に対して申し訳なくて心が重い。

 リリーシャ王妃と話した時に覚悟はしたけれど、そんな覚悟など紙よりも軽い覚悟だった。

 現実はもっと重い。


 ロベルタ陛下はリリーシャ王妃が大切だったのだ。だから仕方ないと自分に言い聞かせても、自分の結婚生活に思いを()せて、ただ辛いものでしかないと(あらた)めて情けなく思った。





 二度目のウエディングドレスに袖を通しながらわたくしにとっての不幸な結婚の始まりだともう一度覚悟を決める。

 その時々、覚悟なんか決めても役に立たないことなど解っているけど、それでも儀式のように覚悟を決める。


 幸せになるために結婚するのではない。

 王妃という職務を果たすためだけの結婚だ。

 だから誰に(ないがし)ろにされようと、(あなど)られようとわたくしは前を向いて王妃という職務を果たす。



 髪が結われ、化粧が(ほどこ)され、美しく豪華な宝石を身に纏う。

 父に「二度目なのに幸せになれなくてごめんなさい」と謝った。

 父は唇を噛み締めてただ涙をこぼし、母は嗚咽(おえつ)をあげて泣いた。


 弟と妹も悔しそうに涙を流し、ロベルタ陛下を(ののし)った。

「この国の国王のことをそんなふうに言ってはなりません。たとえ誰にも聞かれていなくてもよ。わたくしは今から王妃と呼ばれる職につくの。切り捨てられるまではこの職を全うするわ。だから応援してね」



 わたくしにとって厳しい戦いが始まるのだ。

 今までの戦いは前哨戦でしかない。

 味方のいない王妃が何をどこまでできるのか、自分でもわからない。


 わたくしは奮い立たねばならない。夫となるロベルタ陛下はどこまで手を貸してくれるか解らない。もしかしたらリリーシャ王妃とくらべて足りないところばかりを心の中で(あげつら)うのかもしれないし、口に出して罵るのかもしれない。

 一番高い可能性は無視されることだけど。


 辛い。こんな結婚やめたい。幸せになりたい。

 どんなに願っても前の結婚の時もどうにもならなかった。

 自分の道は自分で切り開くしかない。

 決して(うつむ)かない。前を見て進む!

 必死で自分に言い聞かせ、いつもより意識して背筋を伸ばして顔を上げ、顎を引いた。




 聖堂での誓いの言葉も署名も問題なく過ぎていく。

 誓いの口づけも(とどこお)りなく終わり、式が終わる。

 国民に結婚したことを知らせるために国民の前に立ち、笑顔で手を振る。


 大きな歓声に国民には受け入れられたのだと嬉しくなる。

 ロベルタ陛下と二人、飛び切りの笑顔で国民たちに手を振る。

 豪奢(ごうしゃ)無蓋(むがい)(*屋根がない)の馬車にロベルタ陛下と乗り込んで、王都の中を巡る。


 国民の顔は皆明るくてその笑顔に私の心も救われる。

 わたくしが王妃になって、いいこともある。はず。

 きっと大丈夫。とまた自分に言い聞かせた。


 城に戻ってやっとひと息つける。

 この後は貴族たちとの食事会があるので、着替えてからロベルタ陛下とともに貴族が待つ大広間に向かった。


 貴族たちから祝いの言葉をいただいて、ロベルタ陛下が礼を述べ、今後の抱負を話す。

 良い未来を皆と約束して、食事会が始まった。

 すべての意識が食事に向かったことでホッと息が吐けた。


「疲れたかい?」

「はい。陛下もお疲れではありませんか?」

「まぁ、そうだな。私も疲れたよ。この食事会が終わるまであと少しだ。頑張ろう」

「はい。頑張りましょう」


 話した言葉はたったこれだけ。結婚式の前も最中も、その後もたったこれだけだった。

 食事会が終わって、初夜を迎えるための準備がすべて終わって、ロベルタ陛下が来るのを主寝室で待っていると、陛下の侍従がやってきて一通の書状を渡してきた。


 侍従はわたくしの返事も待たず、主寝室の扉を締めて居なくなってしまった。

 渡された手紙を開くとロベルタ陛下からで、リリーシャ王妃の喪が明けるまで初夜は行わないと書かれていた。

 無意識に体が震えた。


 わたくしは手の中の紙を握りつぶして怒りを散らすように、大きく長いため息を一つ吐き出した。

 二度目の結婚も綺麗な体のままなのかと情けなく思った。

 好きな相手ではないのだから良かったのだ。けれど私の心はズタズタになった。

 初夜を断るくらいならリリーシャ王妃の喪が明けるまで結婚しなければよかったのにと腹立たしく思いながら自室に戻り、一人で結婚初日の夜を終え、朝を迎えた。



 翌日からは公務に明け暮れることになった。

 結婚初夜にロベルタ陛下が寝室に来なかったことは翌日には知らないものはいないほど広まっていた。


 この噂のおかげでまた一つわたくしの立場が悪くなった。

 それを取り戻すためにどれほどの労力が必要になるのか考えるだけで目眩(めまい)がした。

 噂を知った怒り狂った父を(なだ)めるのにも苦労した。


 わたくしは必死で眼の前にある仕事をただ一つ一つ片付けていった。

 忙しければ忙しいほどロベルタ陛下のこと、結婚のことを考えなくていいので、進んで仕事の手を広げていった。

 城で使う書式を制定したり、新たな産業にも手を付け始めた。


 そのおかげなのか国庫にゆとりができ始めて、今まで手がつけられなかった設備の補強や修繕に取り掛かることができるようになった。

 城から手を付けずに国民に必要なところから手を付けた。

 主要道路の補修にも取り掛かることができ心から満足できた。

 頑張ったら頑張っただけの成果が出ることが嬉しくてしかたなかった。



 結婚してからもほとんど会うこともなく、手紙のやり取りもなく、必要最低限のやり取りしかしないロベルタ陛下とわたくしの仲を(あや)ぶんで、貴族たちから側妃の話が持ち上がった。

 ロベルタ陛下は側妃を持つことを拒否しているが、その拒否の理由はわたくしにはわからない。

 リリーシャ王妃を思っているからなのか、それ以外にあるのか。

 ロベルタ陛下の考えは本当に理解できなかった。




 目の回るような忙しさの中で、リリーシャ王妃の喪が明ける日がやってきた。


 リリーシャ王妃の一周忌の夜、ロベルタ陛下に執務室に呼ばれた。

 ほとんど立ち入ったことがないロベルタ陛下の執務室に呼ばれたことに驚きながら、わたくしは他人よりも冷たい態度でロベルタ陛下と向かい合った。


「こうやって話すのはいつ以来だろうか?」

 わたくしはその質問に返事をしない。

 向かい合って二人で話すのはきっとわたくしの前の結婚前以来初めてのことだと思う。

「リリーシャが亡くなって一年が経った。喪に服すのもここまでにしようと思っている」

「そうですか」


 自分で思うよりももっと冷たい声だった。

 わたくしの視線はきっとロベルタ陛下を(さげす)むような目だと思う。

 ロベルタ陛下はわたくしを見て、聞いて息を呑む。


「キャローナ。明日からは普通の夫婦のように過ごしたいと思っている。子供も欲しいし・・・」

「子供が欲しいのなら貴族の皆さまが(おっしゃ)っているように側妃をお迎えになったらいいのではないですか?」

「いや、私は君と・・・」

「ご辞退申し上げます。欲を吐き出したいのならば、侍女のシャリーンやアリカ、イースに相手していただけばいいのではないですか?今更わたくしと陛下が?ありえませんわ」


「!!」

 ロベルタ陛下の顔は見たこともないほど青ざめ狼狽うろたえていた。

「最初はリリーシャ王妃を想って関係を結べないのかと思っていました。ですがロベルタ陛下は侍女に手を出していました。わたくしにはロベルタ陛下が何がしたいのかさっぱり解りません」


「ちがう!違うんだ!!あの、えっと・・・性欲だけはどうにもならなくて・・・つい・・・」

「ではそのままお好きになさってください。わたくしとの関係をどうにかしようと考えないでください。ロベルタ陛下もわたくしに妻としての役目は求めないでくださいませ。今まで通り、政務以外では関わらずにいましょう」


「いや!だけど魔力をうまく使える子供が必要で・・・」

「わたくしとは関係ないところでお好きな方と子作りなさってください」

「いや!いや!いや!!私はキャローナと・・・」

「お断りいたします。私はほぼ一年、一人でやってきました。結婚前も結婚した後もロベルタ陛下はわたくしを助けてはくれませんでした。わたくしは心からロベルタ陛下からの手助けを求めていましたが」


「それは・・・」

「もう不要な会話は必要ありません!!」

 数枚の書類をローテーブルの上に置く。

「側妃を迎えるための書類に全てサインしてあります。お好きな方をお迎えください。ただ側妃にはわたくしに関わるなとお申し付けください。わたくしに関わろうとするならば、わたくしは政務から全て手を引き、ロベルタ殿下と離婚いたします。わたくしの話は以上です」


 わたくしは一礼して陛下の執務室を後にした。

 扉が閉まった後「キャローナ!!」とわたくしを呼ぶ声が何度か聞こえたけれど、聞こえなかったことにした。


 侍女たちの誰かが妊娠でもすればよかったのに、残念なことに誰も妊娠しなかった。

 侍女長がいろいろな意味で危惧(きぐ)して、ロベルタ陛下のまわりには老女にしか見えない侍女しか配置しなくなった。

 ロベルタ陛下はそれからは綺麗な身の上だけれど、わたくしがロベルタ陛下を受け入れることはありえない。




 翌日、元々予定していた視察へ朝早くから出かける。

 一ヶ月以上掛かる予定の旅程(りょてい)だ。

 かなり前にロベルタ陛下から許可はもらっている。

 ロベルタ陛下が、リリーシャ王妃の喪が明けた翌日からの旅程だと認識しているかどうかは知らないけれど、ロベルタ陛下の許可は取っているので問題はない。


 護衛は五人立候補してくれて付いてきてくれる。他にも立候補してくれた人はいたけれど、実力で選ばせてもらった。

 侍女たちも嫌がらずに付いていきたいと言ってくれるほどだ。皆が疲れないように無理せずゆっくり視察をして回る。


 国が直接お金を出しているところや、領主が届け出ていて国の支援金が正しく使われているのかを確認していく。

 領主が困っていることと、領民が困っていることの違いも聞いて回る。


 王妃の視察を喜んで迎えてくれる町もあれば、嫌そうに迎える町もある。

 嫌そうに迎える町には宿泊日数を増やして書類上の数字と現実を精査していく。

 

 嫌そうに迎える町は全部といっていいほど汚職にまみれていた。

 ざっと調べただけで見つかるくらいなので、もっと深く調べれはどんな話が出てくるのかと考えると恐ろしいと思う。

 領主を更迭して前もってお願いしていた人に領主代理を務めてもらう。



 一ヶ月の予定が二ヶ月掛かって予定の視察を終わらせ、王城に帰り着いた。

 城に戻ると腰に手を当てたロベルタ陛下がわたくしを出迎えた。


「お帰り。予定よりも随分と長かったね」

「いえ、予定通りです。おおよそ二ヶ月〜二ヶ月半掛かる予定でしたので」

「キャローナ!話がある!!付いてきてくれ!!」


旅装(りょそう)を解くことも許してもらえないのですか?」

「いや。・・・すまない。体を休めてくれ」

「ありがとうございます」


 自分で思うよりも疲れていたのか、お風呂に入ってほんの少しと思ってベッドに転がったら目が覚めたのは丸一日眠った後だった。


 目が覚めてとりあえず簡単な食事をして、執務机の上に積まれている書類に目を通し始める。

 裁可しながら城であったことの報告を聞く。


 時折書類の中にロベルタ陛下からの手紙が紛れているのは一体何なのか。

 二〜三行目を通して急ぎの案件ではないことが解ったのでロベルタ陛下からの手紙を()ねた。


「王妃が戻られたらキャロン商会の方がお会いしたいと連絡がありました」

「そう。明日の昼から来られそうなら来てもらってちょうだい」

「そのように伝えます」


 キャロン商会とはわたくしが手掛けている商会で、今ではこの国になくてはならないほど大きな商会になっている。

 わたくしではない誰かの記憶の知識をこれでもかと注ぎ込んで少しでもここでの生活が豊かになるように頑張っている。



 書類に目を通していると『ばーん!!』と大きな音を立てて扉が開かれる。

 部屋の入口で立っているのはロベルタ陛下で、腕を組んでわたくしを(にら)みつけている。


「話があると言ったのになぜ来ない?!」

「わたくしは陛下に話がないからです」

「私があると言っているだろう!!」

「わたくしは陛下と馴れ合うつもりは一切ないので最低限の接触でお願いします」


「夫婦としての時間があるだろう?!」

「今まで夫婦の時間などありませんでしたよ。それですべてうまくいっています」

「私はキャローナと夫婦としてうまくやっていきたい!」


「それは結婚した日に話し合うべきことでしたね。今はもうロベルタ陛下に興味がありません。お望みでしたら離婚を受け付けます」

「なっ!!離婚などしない!!学生時代からキャローナに私の妻になれと言い続けていただろう!?」

「結婚したその日から相手にされませんでしたけどね。城中の誰もが知っていることですよ」


「それはリリーシャの喪が明けるまでと思ったんだ!!」

「それで侍女たちに手を出していては意味もありませんね。この会話は二度目ですね?はぁ〜〜〜・・・面倒くさい。陛下はやり方を間違えました。わたくしの心は陛下にはありません。これ以上を望むのなら、貴族たちが言っているようにわたくしと離婚して、若くて可愛らしい方を王妃に迎えるべきでしょう」


「キャローナ以外を王妃に迎えるつもりはない!!」

「わたくしはロベルタ陛下の妻になるつもりはもうありません」

「そんな・・・」

 ロベルタ陛下は室内に入ってこないままその場で膝をついて頭を抱えた。


 わたくしはアグネスに扉を閉めるように伝えた。

 アグネスはいい顔をして、勢いよく扉を締めた。

 ゴンという大きな音とロベルタ陛下の情けない声が暫く聞こえたが、皆無視することに決めたらしく手元の書類に目を向けた。






 ロベルタ陛下と結婚して三年が経った。

 当然関係を持っていないので、わたくしは妊娠しないままだ。

 わたくしは陛下の子供を生めなかったことを理由に奥の離宮へと下がることになった。

 仕事もぐっと絞ることになる。


 ロベルタ陛下は自分が愚かだったと言葉の限りを尽くしてわたくしに謝罪をしたけれどわたくしの砕けた心は元には戻ることはなかった。

 本当にすまないと涙するロベルト陛下を見ても心が動かなかった。


 もうどうにもならないのだとロベルタ陛下に告げて、もう会いに来ないで欲しいと伝えた。



 わたくしとしては離婚したかったのだけれど、ロベルタ陛下が頑として離婚を認めなかった。

 その上側妃も受け入れていない。


 ロベルタ陛下はわたくしがロベルタ陛下の子供を生まない場合は、弟のジャックス殿下が三人の男の子をもうけているので、その子たちの誰かに王位を譲ると宣言した。


 貴族たちは色々と反発したが、ロベルタ陛下は側妃を持たない理由に、リリーシャ王妃が亡くなったことでリリーシャ王妃を尊重するために喪が明けるのを待っている間に、貴族たちがわたくしにしたことを上げ連ねた。


 ロベルタ陛下は絶対に貴族たちを許さないと言った。

 自分たちの利益ばかりを考えて王族を誹謗(ひぼう)するなんてと。

 わたくしから見たらロベルタ陛下は責任転嫁しているだけにしか見えなくて、余計に気持ちが()えた。


 侍女に手を出していなければ美談だったかもしれないが、侍女に手を出した以上ロベルタ殿下のしたことはわたくしを(おとし)めただけでしかない。




 ロベルタ陛下に少し前に尋ねた。

 リリーシャ王妃が居なくなってからどうして政務でわたくしの後押しをしてくれなかったのかと。

 聞いた答えが馬鹿らしくて脱力してしまった。


「だってキャローナに会うとこう、ムラムラしちゃって・・・押し倒しそうになるんだ・・・」


 ロベルタ陛下とは一生相容れないとこのときにまた思った。





 奥の離宮に下がり更に三年が経った。

 ロベルタ陛下とは奥の離宮に下がる前に会ったきりだ。

 ロベルタ陛下は何かと理由をつけては会いに来ようとしたが、わたくしが扉を閉ざして離宮の中に入れなかった。


 その代わりに週に一度離婚届をロベルタ陛下に届けている。

 今のところ全て却下されているが、いつかは受理されると信じている。


 更に二年が経って、ロベルタ陛下のサインが入った離婚届がわたくしの手の中に戻ってきた。

 自然と涙がこぼれた。


 ヨーラ、エリカ、アグネスも涙を流して喜んでくれた。

 わたくしの手で離婚届を提出して、受理書を受け取った。

 

 早急に離宮を片付け、ロベルタ陛下には会わないままわたくしは一足先に城を後にし、領地にある両親が住む家にさがった。



 百八十日が経ち、再婚できる日がやってきた。

 王妃の時代からわたくしの背後で見守っていてくれた護衛騎士にわたくしからプロポーズした。


 護衛騎士、エヴァインはわたくしのことを愛しているけど、身分が違いすぎますと断られた。

 二度目も断られ、三度目も断られた。

 それでも懲りずに四度目、五度目とプロポーズした。

 

「ねぇエヴァイン様。わたくしと結婚してくださらない?わたくしあなたに幸せにしてもらいたいし、幸せにしてあげたいの。お願い。結婚してください」


「キャローナ様・・・」

 少し困った顔をさせているのがわたくしだと思うと申し訳ないと思うけれど、その困った顔ですら愛おしい。

 エヴェインに愛されている自信もある。

 エヴェインの目が、態度がわたくしを愛していると告げている。


「今日が駄目でもまたプロポーズするわ。Yesをもらうまでずっとよ」

 エヴァインは頭の横に両手を上げて微苦笑を浮かべる。


「降参です。私もキャローナ様を愛しています。結婚の申し出をお受けいたします」


 わたくしは感極(かんきわ)まって思わず抱きついてしまった。

 人生で結婚式以外では初めての口づけをして、初めて心が温かくなった。



 一ヶ月後、小さな教会でエヴァインの少数の親族とわたくしの少数の親族だけの小さな結婚式を挙げた。

 笑顔と笑い声に溢れた温かい結婚式だった。


 三度目の初夜。今度こそはと震える身体をヨーラに支えられて主寝室へと向かう。

 ドアを開けるとエヴァインは既にわたくしを待っていてくれた。


 ヨーラに背を押されてエヴァインの胸に飛び込んだ。



 エヴァインの腕の中で目が覚めて顔を(のぞ)き見ると、言葉では言い表せないほど幸せそうな表情をしたエヴァインと視線が合った。


 わたくしもきっとエヴァインと同じような表情をしているだろう。


「愛してるよキャローナ」

「わたくしも愛しているわエヴァイン」

 心が温かくなる口づけをした。





 ロベルタ陛下はキャローナと離婚した後も再婚せず、側妃も迎えなかった。

 ジャックス殿下の二番目の男の子が25歳になってから譲位して、先王と同じように姿を消した。

分けることも考えたのですが、何故か区切りたくなくて。

長い話にお付き合いくださりありがとうございました。

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