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9.既視感しかない果物の名は……

 王都に来るのは久しぶりだ。2ヶ月ぐらい。


 でも景色がガラリと変わるわけでもなければ雰囲気が変わることもない。時の流れはゆっくりなのだ。


 でも妙に静かで人の出入りが少ないようにも感じる。やはり流行り病のせいなのだろうか。みんな口元を覆うマスクみたいなものをしていた。


 意味ないってそれ。


「一応よそ者を入れるほど余裕はあるみたいでよかった」


 僕は盗賊から奪った金貨をポケットに街並みを堪能する。


 密集する建物は村では見られない建築様式ばかり。コンクリートまでとはいかないがレンガを用いた建築を採用している。


 この街の奥には貴族街があって学園があって聖騎士団の本部まである。


 さらに北へ行くと王宮が。


 広すぎて迷子になるのは確定だがここの人たちは優しいし行きたい場所があれば聞くのが一番である。


 僕はどこにでもいそうな平凡な人に道を尋ねる。


「すみません、繁華街はどちらにありますか」


「繁華街は大通りをまっすぐに進んでいけば見つかるよ」


「ありがとうございます」


「お使いかな? 頑張れよ」


「はい」


 よそ者を受け入れるこの見事な姿勢……感動だ。


 ちなみに繁華街の場所など聞かなくてもわかってはいる。わざわざ聞いたのは店が閉鎖されている可能性があったからだ。


 まああの様子だと病気が蔓延している状況でも店は出ているようだ。


「しかしまあ村とは比べ物にならないほど文明の都だな」


 王都の拡大で僕らの村まで飲み込んで欲しいぐらいだ。


 遠くで賑わう声がする。


 流行り病など気にしない人達が店の前を行き来しているみたいだ。


「賑わいは十分。店も閉まってなさそうでなによりだ」


 ここに来た理由の一つは情報収集のため。流行り病のことを聞けば何でも教えてくれるだろう。


 ただし人に質問するときはルールを守らなければいけない。例えば……。


「おっちゃんこれいくら」


 僕はフルーティな果物を一つ握って店主に見せた。


「オルンジだな。一つ150マニー。三つ以上買うならまけてやるぞ?」


「じゃあ三つ頂戴」


「はいよ」


 袋に丁寧に詰めてくれる店主。僕はすかさず質問することに。


「それと聞きたいことがあるんだけど……王都で流行ってる病のことなにか知ってる?」


「流行り病か……もしかしてボウズの家族がもらっちまったのか?」


「そんなところです」


「オルンジは見舞い用ってことか。う〜ん、流行り病については俺もあまり詳しくねえ。うつるとかうつらないって話はよく聞くが俺はうつらねえと思うな」


 店主をやっているからこその自信だろう。何人もの客相手にマスクすらしないで対応しているのだから。


 だが聞きたいのはそれじゃない。


「どういう条件で感染するのかはわかっているんですか?」


「そりゃ医者じゃねえしわからないな。ボウズも気をつけたほうがいい。なんせこの病気は種を壊しちまうかもしれねえからな」


 種を壊す。どういうことだろう。僕の見立てではその周囲を欠損させ種を露出させるだけに感じたけど……。


 才能の塊である種が壊れるというのは初めての情報だ。


「そうなんだ……ありがとうおっちゃん!」


「おうよ」


 機嫌よく話してくれた。やっぱりものを買って質問すれば何でも話してくれるな。有用な情報はあまりなかったが聞けただけマシだ。


 だがまだまだ拾っておきたい情報がある。


「おばさんこれ頂戴」


 明らかにおばさんではない女性に僕はそう声をかけた。


「お、おば……こほん。それはリンドウで一つ50マニー。10個買うなら一つサービスするよー」


「10個も要らないかな一つでいいよ。そうそうおばさん、流行り病の事何か知らない?」


「おば……ふぅん流行り病ねぇ。詳しいことを聞きたいなら医者にでも聞いとくれ。あたしは何も知らないからねぇ」


「……ありがとうおばさん」


 僕は手に赤い実のリンドウを見つめながらそうお礼を言った。この実……りんごじゃねーか。オルンジもそうだったがオレンジそのものだ。


 そんなことはさておき流行り病のことだ。きっとこの王都を探し回れば患者の一人二人は簡単に見つけられるだろう。


 魔力の揺らぎが多い人に片っ端から声をかけて……。


「おん?」


 このリンドウ何か変だぞ。マリアのお見舞い用に買ったはいいが不思議な魔力を感じる。


 まあ植物にも魔力は宿るって聞くしそう不思議なことじゃないのかもしれないね。


 いい匂いが周囲を覆う。もうお昼時だろう。パンの香ばしい匂いや、肉の香り……。


 出店には串焼きだったりパンが売ってあるのか。気前のいい人達がいくつかまとめ買いをしている。


「僕もお腹すいたな。でも晩飯抜きにされてるしきっと昼飯もないんだろう。今日はここで買うか」


 僕は銀貨をいくつか手に取り出店に足を運んだ。




 ◇◇◇◇




 結局それらしい情報というのは集められなかった。


 流行り病の感染源は不明。うつることはないため何かがトリガーにならないといけない。原因はなんだ。


「あむ……」


 僕は出店で購入したパンを噴水近くのベンチで頬張る。


「うまい」


 近くに人馴れした鳩がいたためお裾分けしようとしたが逃げられてしまった。


 僕は動物に好かれてないようだ。


「ふーん……」


 切り替えていこう。どうせ夜までここにいるんだし。


 となれば次はミストラル姉妹の父、マルセを探すことか。説得しろなんて言われたけど無理だし会いに行く程度で済ませるか。


 マリアには悪いけどプリンで許してもらうことにする。


「どうせあの男は教会にいるだろうしわかりやすい」


 一度教会に行ったことがあるがそれはもうとんでもないほどの美人さんがシスターなのだ。マルセは鼻息荒くして祈りを捧げているんだろう。


「やっぱり説得できるかも……」


 僕は紙袋を握り潰して魔力で焼却する。


 ごちそうさん。


 教会は噴水からさほど離れてない。ここからでも見えるほど目立つ建物だ。


「あちゃー今日も多いなー」


 毎日数百人の人が祈りや懺悔しに来るだろうから忙しそうだ。シスターも数人動員で捌いている。こんなところに鼻息荒くしたマルセが下心満載で来るのだから迷惑極まりないな。


 順に並んで自分の番を待つ。


「女神の像……」


 何した人かは知らないけど知識の女神らしい。盗賊殺しの僕がここに来るなんてとんでもないところだろう。女神様、どうかご慈悲を……。


「次の方どうぞお入りください」


「あ、どうも」


 子どもだからシスターのにこやかで優しい顔を拝むことができる。これがおっさんとかだったら少し変わっていたのだろう。


「本日はどのような理由でこちらに?」


 祈りか懺悔かを聞いているのだろう。


 しかし僕がここに来たのは人探し。祈ることも懺悔することなど一つもないのだ。


「人を探してまして……マルセ・ミストラルがこの教会に出入りしていると聞いたんですが……」


「あら、あの方のご家族様ですか」


「はい」


 面倒くさいし適当に答える。


「でもあの人には姉妹だけだと……」


「隠し子です」


「え、隠し子?」


「はい、隠し子です」


「しかしあの方のお子様となれば女の子のはず……」


「隠し子です」


「えぇっと……」


「隠し子、です!」


 僕は満面の笑みでゴリ押した。

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