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6.可愛いバラにはチカラあり

「レインー、レインー、起きてー、修行に付き合ってよぉー」


 そんな可愛らしい小鳥の囀りで目が覚めた。声の主は多分セリアだろう。もう少し寝させろや……と言いたいが実はそこまで眠くはない。


「少し待っててー」


 少し大きな声で言い僕は二度寝した。これが最高に気持ちがいい。


 今度呼ばれるときは夢の中だろうなー。なんて考えてる暇もなく親父に叩き起こされた。


「おい、レイン。可愛い馴染みが起こしてやってんだ、起きろッ!」


 親父じゃねぇー!


 そこはその可愛い馴染みとやらが部屋まで起こしに来るところだろう。


 朝イチでおっさんの顔なんか見たくないよ。などと思いながらも僕は仕方なく起きた。


「ふぁ〜」


 昨日はいい人材を逃してしまったことで少々気が滅入ってしまった。同い年か年上ぐらいのエルフだった。


「レインーおはよー」


 薄青髪は肩の上で切り揃えられた少女。美人というか可愛いよりの顔立ちで人気が出そうな見た目だ。目は珍しい黄色。クリクリでイメージが良い。抱き締めたらいい匂いがしそうだがそれは妄想の中の話である。


 抱き締めたら最期。死ぬ。


 抱きしめ返されて全身の骨がバキバキだ。


「朝から元気が良いね」


 コイツの紹介とかどうでもいいから今は別のことでも考えるか。


「んもう……あくびなんかしないでよ」


「ふぁ〜……ごめん。今日はゆっくり寝ておこうと──」


「レインはいいよね! 私は未来の聖人? になっちゃって街に村からでていかないといけないんだー!」


 それ言っちゃだめなやつじゃない!?


「良かったじゃん。こんな偏僻な村からでていけて」


 やっぱり騎士の言っていた聖人招集の一人はセリアか。昔から何かしらの才能を隠してることには気づいていたし驚きはしないよ。


 でもなんかずるくね!?


「よくないー! もうレインとは剣を合わせられないって考えるとつまんない……」


 僕と剣を合わせたって良い事はないが。


「どうせ弱いものいじめしたいだけだろー? 考えが見え透いてるぞー」


「ち、ちが……うわぁあん。もうレインの意地悪!」


「んがっ!?」


 いきなりかかってきやがって。もう少し間というものを学んだほうが良いよ。


 まあ無駄だと思うけど。


「あっ、また考え事しながら戦ってる。だからいつも負けるんだよ?」


 だよ? じゃない。考えても考えなくてもやることは一緒だから。僕の実力がこんな場所で露呈することだけは避けなくてはいけないのだ。


 というかさっきの不意打ちじゃないか。


「ええーそうかなー? 僕そんな顔してるかな?」


「してる、絶対してた。あっ」


 セリアが剣を弾き僕は剣を落とす。


「ほらぁやっぱり考え事してたんじゃん」 


 それ見ろと言わんばかりの表情だ。


「ニヤニヤ……」


 ドヤ顔やめろ。


「たまたまだよ。そもそも実力差が違うからね」


 才ある者に負けるのはなにもおかしなことじゃない。


「違うよレインが手を抜いてるの。わかるよ私には」


 実際そうだがコイツには才能も力もあるし勝つのは無理に近いまであるのだが……。


「手は抜いてないよ、顔がそう見えるだけでしょ。さっきまで顔いじってきてたくせによくそんなことが言えるね」


「えーでもー」


「でもじゃない。実際に僕は種が二つしかない。それも基礎だ。植え付けた種の量に伴い魔力量も増えるって君のお父さんも言ってただろう。一の差と二の差じゃテストで赤点を取るか取らないかって差があるんだ」


「てすとって何?」


 そう言えばこの世界ではまだ知らない単語だった。つい口が滑ってしまったようで……これは失態だな。


「と、とりあえず君の父さんは偉大で、僕の父さんはハゲってことさ」


「はげぇ?」


 かわいらしく頭をかしげるセリア。


「ハゲはね、頭ツルツルってことだよ。僕のお父さんは頭もツルツルで中身もツルツルってこと」


 僕は訳の分からない話題で話を逸らす。


 興味をテストからハゲに移すのだ。嘘は言ってない。実際毛無しの道を選んだのは父親なんだし。


「でも種って渡せるんでしょ? 関係ないんじゃないの?」


 クソむずい儀式と成功率がゴミだからやらない。


 そもそも僕は貸すのは好きだが借りるのは嫌いだ。自分の力で天辺に登りたい。


「いや親の方針でね。それに僕のお父さんは貸し借りしない性格なんだ。つまり余計に頑固ってこと。見た目も岩みたいだし」


 ちなみにお父さんはただのスキンヘッドだった。あの歳でハゲられたら僕は一生引きこもっていたことだろう。


 ちなみに父の容姿はジョリった髭が、毛のない頭にマッチするゴリラといえばわかりやすい。


「そういえばなんの話してたっけ?」


 僕は確認のためセリアに話題を振った。


「レインの頭がツルツルってことだったよ」


 ふむ、完璧だ……話題を逸らせて僕は満足だ。


 なんか悪口言われた気がしたけど、実力バレに比べたらハゲバレしたって構わない。そもそもハゲたって魔力パワーで生やすし……。


「ん?」


 なんか……後ろから凄い圧が来てるよう、な?


「おい、レイン。誰の頭がハゲだってぇ?」


 おっと親父だ……まずい。


 ハゲハゲ言い過ぎて釣られてきたようだ。


「あっ、いやぁ。こ、これはぁその、そうだセリア説明してやってくれ。さっき僕たちはどんな話題で話したんだっけ?」


 大丈夫、さっき言った言葉と同じ言葉を言えばいいから。頼む。


「レインのお父さんがハゲってことだったよね?」


 おいこら、さっきと違うじゃねぇか。


 しかもツルツルがハゲになって、より一層口が悪くなってるやんけ。


「ありがとうねぇセリアちゃん、ちょっとレイン貸してくれないかな?」


「やだ、今はレインと、レインのお父さんの髪の毛の話してるの。だから駄目」


 はい終わったぁ、今日は晩御飯は無しだろうな。それ以前に今日生きているか分からない。


 今日は野宿確定だ。


 今度、セリアから話題を逸らすときは気をつけるようにしないと。


「セリアちゃん、ちょっとでいいから貸してくれないかな?」


 セリアはプクッと頬を膨らませて言う。


「だめ! ハゲに借りるものはないってレインが言ってた」


 もうお前は黙ってろ、余計なことを言うんじゃない。そもそもなんで貸し借りしないっていう話がそれになるんだよ。


「あ、借りる髪の毛ないんだったー」


 スキンヘッドだから髪は存在しないだって?


 やかましいわ。


「つまり、レインは私と修行するの、だから貸せない」


 何も『つまり』ではない。ワケの分からないこと言ってるけど助かった。ふむ、なんとかこの空気から抜け出せそうだ。


 いや元はと言えばセリアがバカだったからこうなったのか。


「よしレイン、今日の晩飯無しな」


「ええ、そんなぁそれはないよぉ」


「あはは、レイン怒られてるぅ。情けなーい」


 ……気に食わない。


 自由なのはいいけど自由過ぎるのもなー。これも彼女が聖人とかいうやつに選ばれたからだろう。


 その後、親父の圧から開放された僕は再びセリアと剣を交わす。


「あのさセリア、もう少しだけ賢くならない?」


 悪口ではない。ただ空気を読みましょうね、という話だ。


「ならないー! めんどくさいもーん」


「ちっ」


「今舌打ちした?」


「いやーしてないよー?」


「気のせいかー」


 頭はアレでも剣の腕とパワーは凄まじいね。彼女いわく自覚がないから逆に怖いところでもある。


 打ち合ってる剣が悲鳴を上げてるのが分かる。工夫しないとセリアの剣をまともに受け切る子どもはいないだろう。


 ああ技術力が半端ないマリアを抜かしてだけど。


 これも才能の差か……。


「そういえば妹のマリアは何をしているの?  いつもだったらセリアのお父さんと来るのに」


 ふと疑問に思った事を口にする。


 妹のマリアは姉のセリアと違い利口で賢い。顔立ちはセリアに似ていて可愛らしいが、性格が少し変わっている。といか終わってる。


「あ、えっと、そのー」


 こいつまさか座学が嫌で抜け出してきたな。勉強苦手なのは知っているしセリアのつける隙があるとすれば知能だ。


 よっしゃー今ここでやり返せるかも。


「ハハーン。さては座学が嫌で抜け出して来ちゃったのかな?」


 勝ち誇ったかのように僕が尋ねるとどうやら違ったみたいだ。


「昨日の夜からマリアの体調が悪くて。それでお父さんは付きっきりで……お医者さんを呼ぶにも薬を買うにもかなりのマニーが必要なんだ。レインにはマニーが何かわからないと思うけど」


 そんなこと3歳児でも知ってるし、まさかこいつまた僕をバカにしてるのか?


 マニーは僕の人生であり、命より重いんだ。


 まあ今はそんなことは置いとこうか。


 セリアは深刻そうな表情をして言ったが僕をバカにできる余裕はあるようだ。妹を心配しているというよりかは父親が近くにいないことが心配のよう。


 まあ、セリアの事だし意識して言った訳じゃないか。父親が好きなんだな。


「でも体調が治り次第、セリアとマリアはまた剣を打ち合えるってことね」


「そう!」


 そうとなれば決まりだ。元はと言えばマリアが体調不良になったから、朝イチでゴリラの顔見なきゃいけなかったんだ。


 ゴリラに起こされず、そして気持ちよく寝れたんだ。


「王都で流行ってる病らしいから家には入らないでね?」


「入るわけないじゃん」


 ベルタゴスの王都か。流石に聖騎士団の声がかかって一度は行ったか。


「レインは私のこと好きだから変なことするんだもーん」


「えぇ……好きより嫌いだよこんな生意気なガキ」


「うわぁぁあん。レインがいじめたー。女の子泣かせたよおー」


 嘘泣き、虚言、わざとらしい演技。地雷め。


「……さて僕は森で食料の確保でもしにいくかな」


 こういうときは無視が一番だ。セリアの扱い方はこの数年で身に刻まれている。明日にでもなれば忘れているだろう。


 僕は彼女の『待ってー』に捕まらないよう得意な隠れんぼをしてやり過ごした。

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