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5.僕の生きる様

 僕は今現在女の子の手を握っています。しかも超美人の。幼き顔立ちからは凛々しくも堂々とした顔があった。


 初めて過ぎる。前世でもこんなことしたことなかった。


 とまあこんな感じで語彙がおかしくなるくらいには可愛い子と手を繋いでいるわけだけど。


「ここでいいかな」


 彼女は血濡れた森より自然あふれる場所がお似合いだ。そこで色々と話をすることに。


「あ、あの……」


 プリチーガールからの質問だ。裏社会の支配者になる男はクールに対応せねばならん。


「なんだい」


「助けていただいてありがとうございます……」


 素直なお礼を言われたのは何年振りだろうか。セリアのお礼はノーカンだ。クソだあれは。


「どういたしまして」


 僕は彼女の顔を思い出して少し眉間にシワが寄った。


「お、怒って……ますか?」


 おっとしまった。目の前の子は全く関係ないのについ……。


 クールを取り戻して穏やかな対応をせねば。


「いやなんでもないよ。それより君は何故あんな場所に?」


 これじゃ嫌味か。好んで檻に入ってたわけじゃなさそうだし。まあこの世界クソみたいに治安悪いし多分襲われたか売られたかのどっちかだろう。


「家族を殺されて……それであてがなくて奴隷に……」


 選択肢にない自らの奴隷だったか。


 キツイことを思い出したのだろう、トンガリ耳の少女は泣き出してしまった。僕は今まで女の子の涙なんて見たことなかったから少しだけ慌てた。


 ちなみにセリアのやつはノーカンだ。


「私どうしたらいいのかなって……父も母も殺されて。信用していた仲間からも裏切られて里を……うぅ……」


 ……なかなかの超シリアスな過去をお持ちのようだ。残念だけど僕は慰めることなんてできない。適当な言葉で慰めても救いにはならないからだ。


 とりあえず僕は味方だということを伝えればそれでいいだろう。僕だって孤独なのだ。


 孤独同士繋がればそれはもう仲間であり僕がやるべきことは彼女の孤独に寄り添うこと。


 だがその前に一つだけ確認したいことがある。


「君はどうしたいんだい。家族を殺した者に復讐? それとも裏切った仲間への報復? 切り替えて新たな人生を歩む? 君の意見を聞かせてよ」


 過去に囚われすぎている者を僕のファミリーに入れるわけにはいかない。それは未練も同じこと。


 過去など全て無意味であり、それで成長するなんてまずありえないことなのだ。後ろを向きながら走る人生に何を見出せるのか。


 大切なのは明日へ繋ぐ今であるのだ。


 答え次第では僕は彼女を見捨てこの場を離れるだろう。


 さあ、どう出る?


「わ、私は……復讐したいです。家族を殺した者に。拷問のように殺した奴らをこの手で同じ目に遭わせたいです」


 ……どうやら過去の人のようだ。僕の欲しがる人材じゃない。過去は今を弱くし、そして曇らせる。


 後ろを見ながら走っても未来は見えない。初めから曇っているのだ、視界が。それじゃあ僕はここから離れるだけで……。


「でも、新しい人生を歩みたいとも思っています」


「──それはどういう意味?」


「もう取り返すことは出来ないんです。家族を、仲間を」


 ふむ……もう少しだけここにいよう。彼女はまだ最後まで言い切っていなかったみたいだし。


「復讐してもその後に残るものは虚無です。だったら新しい人生を歩んで行く方が楽なんじゃないかなって」


「楽……か」


「だから新しい人生を新しい仲間と一緒に過ごしたいです」


「ふーん。過去はもう見ないと?」


「……少しは、見ちゃうかもしれません。それでも永遠じゃないです。私は生きたいです。いろんなことを知っていろんなことをやってみたいんです」


 なるほどなるほど。逸材だ。少し振り返る程度ならいい刺激になる。


 過去の行動。それが彼女を成長させるなら良い仲間になってくれると信じてあげよう。僕が求めるのは変化。彼女はこの瞬間を持って変わった。


「僕の魔力に当てられたからかな? いつの間にか泣き止んでる」


「ほ、ホントだ……」


「たまには家族のことを思い出してあげなよ。それで悲しくなれば泣けば良い。それで強くなれるなら、僕は何度だって君の涙を拭いてあげよう」


 ひとまず確認したいことは出来た。残るは彼女が僕についてきてくれるかどうかの話だ。


 僕は立ち上がって彼女に手を差し伸べる。


「……これは?」


「僕はこれから残虐非道で血濡れた街道を歩くことになる」


 彼女は首を傾げた。


「誰にも理解できないような夢だ。他人の命を奪う存在に僕はなるかもしれない。君の家族を殺した者のように、罪なき人間を手に掛けることもあるだろう」


 彼女の顔が徐々に曇る。


「この手は正義には振りかざさない。許されない行為に対しての血濡れた手だ。僕はそれで世界を変えたいと思っている」


「……罪なき人間を殺す? それはおかしいですよ」


 やっぱり突っ込んでくると思っていた。彼女の家族も罪なきエルフだったのかもしれない。それを今、彼女の目の前で「罪なき人間に手に掛ける」と言った。


「罪なき人間を殺してなんになる、ということか……。残念ながらそれについて今は答えられない。僕はあるがままに人を殺すこともある。人以外にも魔物や魔獣、命あるもの全てを」


 心臓のような魔力を握り潰し嗤う。


 異世界と言ったら転生者の心がなくなるのは当たり前のことだろう。だがここまで残虐非道になることはなかった。ここまでひどくなったのは環境が躊躇(ためら)いをなくしていったからだと思う。


「成し遂げる全てに正義や悪など存在しない。その後に出される結果こそ正義や悪なのだ。行動するまでは正義や悪と判別できない。だから突き進む。たとえ罪なき人間を殺してでも」


 すると僕の頰にじんわりと温かい何かが広がる。殴られたのだ彼女に。


 殴られて当然のことを言ってのけたのだ僕は。やはり僕の思想を理解できる人間はそういないというわけか。


「最低! 私の前でそんな事が言えるなんて……あなたはそんなことを言うために私を助けたの!?」


 僕は伸ばした手を下ろした。


「ふむ……まあいいや。外に出したのは僕だし君は自由。僕もむやみに人を殺すわけじゃないし僕のことを喋っても始末するつもりはないよ」


 振り向いて歩き出し、切れた口の中を再生させる。結構ガッツリ殴られちゃったなー。


 でも騙して仲間になってもらうよりかはマシだ。やりたいことを先に開示するほうが精神衛生は良いだろう。


 はあ……奴隷集めてファミリー作ろうと思ったけど、別の方法考えなくちゃだなー。


「ちょっと待ってよ」


「僕はこれから家に帰る。君は自分のやりたいことをやればいい。なんせさっきとは違って自由なのだから」


 僕は嫌味を含んで言い放つ。


 彼女の表情がさらに曇った。


「この辺の事何も知らない。それに一応助けてもらった恩があるから……」


 面倒くさいな。僕のファミリーに入らないならついてこられても困る。


「じゃあこの手を取るのかな? 君が奪われたように、君も誰かのものを奪うのか? それでもついてくるというのだろうか?」


「それは……」


「君にはできないね。そういうことだよ。それにさっき君は僕を殴った。別になんとも思ってないけどそれって僕の生き方が嫌いだから殴ったんだよね。僕のことは忘れてもらって結構。第二の人生を歩むんだね」


 ゆっくりと歩き始め村に戻ることにする。


 しかし背後から近づく音。


「そんな言い方……そんな……」


 彼女には選ぶことすらできない。


 奪うことの優位性、奪われることの虚無感を。


 僕にはよく理解できる。だってこの世界は欲望で溢れているのだから。


「正解なんてない。もしかすると君の家族を殺したのは僕かもしれないね」


「ッ……!」


 何を殺したのかは覚えてないがトンガリ耳の生物は殺した覚えがない。つまりただの虚言だ。彼女が僕を追いかけないようにするための嘘。


「なんのために……!」


「言っただろう。成し遂げる全てに正義や悪など存在しないって。結果が善悪なのかは未来が決める。君の両親はもしかしたら殺されて当然の存在だったのかもしれな──」


 鋭利な枝。


 殺す気だ。


 素早い動きで確実に僕の首を狙ってくる。


 魔力で強化された彼女の体は僕を押し倒し地に伏せさせる。


 振り下ろした枝を掴んで止める。


「ぐぅううう! 母の! 父を侮辱する発言は許せない! たとえお前がカタキでなくとも殺してやる! それで未来の人たちの命は助かる! 助かるんだ!」


 その言葉に思わず僕は笑ってしまった。


「ふん……今の発言を、よく覚えておくんだ」


 僕は魔力を解放して少女を突き飛ばした。頭は打たなかったようで直ぐに立ち上がる。


「今の攻撃に害はないよ。それじゃあ」


 僕は待てと叫ぶ彼女の声を払い、闇夜に消えるように去った。

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