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41.あだ名はラッキースケベ

 私は今回も強い目眩と頭痛に襲われた。病気ではない。こうなったのは学園に入学する前、女神の加護が定着したころだ。天命の導とも呼ばれる加護は私とは相性が悪かったのかもしれない。


「うぐ……ぎ……」


 頭が割れるように痛い。視界が赤く霞む……。


 私の死の予感がする……。


 そうだ……痛みでうなされて思い出せなかった。この強い目眩と頭痛は私が死ぬ前に必ず起こる現象だ。痛みで警告してくれているけど、この痛みで自分の死を回避する方法を考えるなんて不可能だ。


 今日を既に五回ループしているような気がする。どんな死に方なのかも、何が起こるかなどループ(ごと)にランダムで対策のしようがない。できないのだ。


 こんなに苦しいループを何度も……マリアが私に話しかけるところまではうまくいく。だけどそれだけじゃ止まらない。未来を変える方法があるはず。


 未来を……変える──。


「ちょっといい?」


「なっ……今度は誰ですか……」


 腕を掴んだのはどこにでもいそうな黒髪の少年だった。だけどこれは知らないループ。何もしていない、諦めて同じように繰り返したループだ。


「ってあれ……?」


 それなのにもかかわらず私はループから抜け出せた。頭痛が消える。赤く霧にかかった視界は鮮やかな教室を映し出した。


 正解を導いたのだ。もう助からないと思っていた。


 そして外から響く轟音。私の今回の死因は圧死のようだった。


「このまま外に出てたら危なかったかもね」


「あ……」


 言葉が出なかった。一回ループするだけでも自分が孤独に感じた。痛みもある、恐怖が増幅する。


 だけど冴えない彼は私を孤独にはしなかった。助けられた。


 たがが腕を引いてもらっただけなのに、私は不安の解放から肩の力が抜ける。


「自分の死を予言するタイプの加護か……」


 それに彼は私の加護を見抜くように言った。自分を理解してくれた。何度も痛みに悶える私を白い目で見ることなく、彼は心配したような瞳だった。


 これ以上彼に心配をかけたくない。


 だから私は彼の目を見た。強く。


 名前を聞いた。レインという名前だった。


 挨拶を交わした。握手はしていない。


 気づくと次の講義は彼の隣の席に座っていた。


「えっとあのぉ……」


 なぜか困惑しているような表情。一つの机に四人は座れる講義机だ。隣に座ったとしてもなんら違和感はない。なぜ困惑しているのか理解できなかった。


「僕の隣に来る必要はなかったんじゃ……」


「見てくださいあの席を。先ほどまで私が座っていた席です」


「うん、誰かいるね」


「ですからここに座ったのです」


「うん意味がわからないね。他にもスカスカな席あると思うけど」


 私がこの席がいいと選んだ。だからここにしか席は空いていなかった。


「ここ以外に空いている席はありませんよ?」


「いやどっからどう見ても空いているんだけど……」


「空いてません」


「はい」


 どうやら彼は私のことを理解してくれたみたいだ。レインくんの隣にいるマリアは私のことを睨んでいるようだけどそんなことは関係ない。


「ちょっとレインくん、この子はなんですか! 私が右腕ならこの子は左腕ってことですか!?」


「右腕になった覚えもなければ左腕になった覚えもないんだけど……」


「むう……誰ですかその女っ」


 そろそろ講義が始まる。始まれば席を移動させることはできない。マリアの声には耳を塞いでやり過ごそう。


「この子はミリアナっていうんだ」


「よろしくお願いします」


「よろしくじゃないです! レインくんの女は私だってこと知ってて言っているんですか?」


「マリアの男ではないが……」


「勿論存じてますが……男性は両手に華がお似合いでは?」


「僕は存じてないんだけど……」


「はぁぁぁあ!?」


「しかしあなたでは彼の手をいっぱいにすることはできないみたいですね。あなたは一本の花。私は両手で受け取らないと行けないほどの花束です」


「んなぁぁぁぁあ!?」


 マリアは煽りには弱いよう。レインくんとマリアが付き合っているという噂があったけど、この様子だと付き合ってはなさそう。


 そうであったとしても何か理由があって付き合っているフリをしているみたいだ。


「レインくん後ろにいきましょう! この子に寝取られるレインくんを見たくないです!」


「寝取られるとかいわないの」


「んん!」


 男性を乱暴に扱う女性は美しくない。だから引き留めなければ。


「んがっ……」


「レインくんに何を!」


「ふふふ……」


 今、彼の左腕は私の胸の中。後ろに行かれると私の席がなくなる。


「ちょっとぉミリアナさぁん? 外してくれませんかぁ?」


「もうすぐ講義が始まります。移動すると迷惑になるかもしれません」


「引きちぎれるー」


 絶対に離してはいけない。離すと引っ張っている反動でケガをさせてしまうかもしれない。


「くぅこのぉぉぉ……あっ……!」


「え……」


 な、何が起こったの……。


「うへー……」


 レインくんがわ、私の上に……。


「ごめんミリアナ。マリアが乱暴で……」


「だ、大丈夫です。えと……」


「あーごめんごめん。起き上がりたいんだけど君が離さないと動けなくて」


「はっ……す、すみません!」


 何も考えれなかった。異性に襲われた(事故)ことなかったから頭が真っ白になっ……た。


「まったくマリアめ。これじゃあラッキースケベってあだ名付けられ──」


「うわぁぁあ! レインくんが取られましたー!」


「おいぃ! 大声で言うな!」


 やばいかも……なんかざわざわし始めてるし注目も浴びている気がする。急いでマリアとミリアナを引き剥がさねば。


 でもなんだろうこの腕……全然離れない。

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