39.不平等だ
入学早々だが少しだけ愚痴りたいところがある。別に批判ってわけじゃないからね。まあ肝心の愚痴っていうのは寮から学園までが遠すぎるってこと。
徒歩30分、寮より少し高いところに学園は位置しているため簡単に言えばダルい。まあチャリで通学する道が全部坂だと思っておけば想像はしやすいだろう。
とは言え、王都という少し発展した都会では列車や路面電車がある。王都内を大移動するなら列車で、学園まで移動するなら路面電車ってわけだ。
マニーかかるから利用してないけど。
「ふぅ〜素晴らしい朝」
入学式を終え初めての登校。学園の敷地に足を踏み入れたらいよいよ学園生活スタートだ。
「お、おはよ」
この声はマリアか。やけにガッチガッチした声だ。何かあったのだろうか。
背後にいるであろう彼女に視線をやるとどうやら本当にカチンコチンな表情だ。視線がぎこちなくどこか挙動不審だった。
「なにしてんの」
「いやぁ……緊張するなぁって……」
「昨日よりガチガチなんだが」
「それはレインがいたから不安がちょっとなくなってただけ」
の割には随分と暴れ散らかしてくれたようだけど。
「寮が別なのは何でだろうね」
なぜか男女の寮はそれぞれで距離が空いており、なんと女子寮は男子寮より学園から近いということだ。
──ふざけんなよ。
「それは僕の苦労を知ってていってるのかなぁ?」
徒歩5分の女子寮に思わず片眉が攣る。
「あそっか。男子寮って30分かかるもんね」
「離れている理由は分からないけど、男子寮がここまで遠いと差別を疑うよ」
「かわいそー」
……平常運転に戻ったか。こういうのは場慣れしていかないと学園生活が地獄生活に変わるからなー。
「あっ、ねえねえ」
「ん?」
マリアはなぜか気持ち悪いほどの笑顔で自分の顔面をアピールしてくる。
「私見て何か気が付かな──」
「いや?」
時が凍る。
「そんなわけないじゃん。ほらほら、よーく見てみて。どこかがあざとくなって──」
「え?」
再び動き出した時はまたしても止まる。
これあれだ。女子特有の何が変わったでしょうかだ。普段は大雑把で大袈裟なクセしてこの時だけは小動物の危機管理のごとく鋭く、繊細な精神になるのだ。
最初から一貫して大雑把な男子からすると、些細な変化にはまず気がつかない。
「おかしいなー……だいぶ変わってるんだと思うけど。じゃあヒントあげるね。どこかが短くなってまーす」
「は?」
昨日のマリアを思い出す。
今日のマリアを見ます。
あれ? 何も違わない。どうせ髪のことだろうとか思ってたけど絶対何も変わってない。どうなってるんだ女子。まさか髪の毛一本短くしたからって変化するわけじゃないからな?
自信満々な笑顔。わからん……僕には何が正解なのか全くわからない。短くなるって髪以外にあるのか!? いやわからん。
答えがわからないので彼女の全身をぐるりと見渡してから適当に頷く。
「あーあーはいはい短くなってるねー」
「やっと気づいたー。普段はこういうの好きなくせに」
そう言って手を後ろに組んで顔を傾けた。
やっぱり髪の毛だったか。
「好きかっていわれたらどうなんだろう」
髪は短い方が動きの邪魔にならないし管理しやすいからある意味好きだけど……。
「まあ時と場合にもよるよね」
前世の女性は髪の毛は命! っていうぐらい大切にしていたんだし、いざとなったら髪の毛とかで戦うんだろう。
「おしゃれの組み合わせとかあるもんねー。いやーでもレインが気に入ってくれて嬉しいなぁ」
「でも個人的にはもう少し短いほうが良いかなー」
あくまでも個人の意見だ。髪の毛がバサバサ動き回っていたら邪魔で仕方ないだろう。自分の動きにも影響されるし、長いことによって汚れとかを巻き込みやすいからね。
肩まで長さは要らないかなー。
「へ、へ? こ、これより短く? 本気……?」
と、何故かマリアは恥ずかしそうに視線を泳がす。
「何で恥ずかしそうにしてるの。君より短い人沢山いるよ?」
「えっ!? こ、これより短い……そ、それもう見えてるよね?」
「見えてる?」
首のことかな? うなじフェチとか言う多様な人もいるしまあ恥じるのは自然のことか。
「別に見えても良いんじゃない。でもまあそれが性癖って人も多いだろうけど一般的には見せても良いんじゃ?」
「れ、レインの貞操感どうなってるの!? それが性癖ってみんなそうでしょ! この短さでも男の人にジロジロ見られたんだからねっ!」
王都の男子はうなじフェチばっかりってことですか。いやーでもマリアはうなじ見えてないけどなー。
「やっぱりチラリズムが一番良いのか」
「そうだよ! って女の子に何言わせるんだよぉー」
「世界共通、チラリズムこそ真の正義なのか。それならもっと短くしたほうがドキドキも増えるんじゃない?」
「ドキドキどころか痴女になるよ!」
貞操感がおかしいのは絶対コイツだろ。うなじが見えただけでわーきゃー言うってお前フェミニズムか。
「どこが痴女なのさ。だったら僕の見たほとんどの女性はみんな痴女じゃないか」
「レインにはどんな世界が見えてるんだー!」
「ほらあの子も短いしあの子も短い」
「うぇ!? いや……別にあれは普通ぐらいでしょ」
「なぁにが言いたいんだマリア。とりあえず落ち着こうよ」
興奮気味で少し顔が赤くなっている。彼女は深呼吸した後、僕の目を見て言った。
「じゃ……じゃあレインは後何センチ短くして欲しいの……?」
少しだけ震えた声だった。
やはり女性の髪は命ということだな。別に切らなくてもいいけど理想の長さは伝えておくべきだろう。
「あと4センチぐらい」
「っ……!? ──わかった……」
そう言うとマリアはいきなり自分の腰に手をあててスカートの丈を調整した。気が付くとマリアは少しの風が吹いただけでも見えてしまいそうな超ミニスカになった。
何故だ、何故こいつはスカートの丈をいじったのだ。
「これでどう?」
「ん? どういうこと?」
「れ、レインが4センチって言ったじゃんか」
「髪の毛の話じゃなかったの?」
「え?」
「え?」
「スカートの丈……短くしてほしかったんじゃないの? 短い方が良いって言ってたよね?」
「えぇ?」
「んん?」
「マリアが『どう、どう』って聞いてくるからてっきり髪の毛のことかと思ったんだけど。何でスカートの話になってるの?」
「はっ……!?」
マリアはいきなり驚いた表情を作る。そして何かに気がついたのかしょぼくれた顔で脱力する。
「このアホレインは適当に返事したあげく、私に恥をかかせた……」
そう言ってスカートの丈を元の長さに戻した。
「僕が悪いのこれ?」
「ううっ……! これは私が悪いんだぁぁぁ……。 魅力がないからレインが気づかなかった。レインはこんな枝足よりムチムチのわがままが良いんだ。うう……」
わけがわからない。枝とか、わがままとか。
「このムッツリ!」
彼女はそう吐き捨て顔を膨らませた。
「はいはい教室行こうかねー。立ちっぱなしで疲れちゃったんだねー」
「むむむ……」
僕はご機嫌斜めになったマリアをいつもの調子でなだめ教室まで誘導した。最初の授業が始まるころにはすっかりご機嫌になっていてなんとかなった。
ちなみにマリアより短い子は数人クラスにいた。




