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34.黙っていたのに……

 表は下の上ぐらいのスペックで裏では自分の出せる最大のスペックで挑む。裏があるから普段とは違った特別感が出るのだ。


 というのは嘘で普通にフルスペックで生活するのは疲れるからである。


 ドンのように表も裏もフルスペックで構えるのはさすがに精神がきつい。単なる憧れ、元は一般人なのだ。


 というわけで今は頑張って裏のスペックを演技している。今日はしばらく放置していた仲間からの呼び出しがあって拠点にいるのだ。


 現在はベルタゴスから遠くに離れた古代遺跡に拠点を移している。普通の人間はおらず裏社会で生きる人間にふさわしい場所だ。まあ単に魔物が強すぎて人が寄ってこれないだけだけど。


「報告いたします。現在の依頼数は394件。着実に我らのギルドが定着しつつあります」


 この子は僕に槍をぶっ放してくれた猫耳の子だ。ミーニャという名前があったらしいけど僕が新たに与えた。今ではペゾルという名前だ。かわいいでしょ。


 由来は異世界数字の(ペゾット)からきている。5番目ってことだね。


 昔はシャーシャー言ってたのに今では従順なファミリー。まああれから6年経ってるし慣れたんだろうけど。


 いろんなことあったけどひとまず仲間づくりは完了したかな。初期の10人から増えて今では数え切れないほど居る。もちろん顔すら合わせたことない人も。


「そうか。それは嬉しいことだ。だがファミリーの数に対して依頼数が少なくないか?」


 把握しているだけでも500はいるのに。そっから数えるの諦めて3年経ってるんだよ。今どんだけだよ。


「ご安心を。ギルド以外にも表向きの仕事で荒稼ぎしております」


 荒稼ぎって言うな。


「なるほどな」


「それにギルドの依頼は全て単価が高いものなので……」


 ギルドギルド言っているが僕たちは真っ当なギルドを運営しているわけではない。俗に言う闇ギルドだ。


 物品の高額取引、マニーの貸し出し、超危険なモンスターの討伐、破壊活動、通常では手に入らない素材や食材などの取引とか……まあヤバいことばっかしてる。


 依頼があれば暗殺なんかも普通にやるだろう。まあ目的のない殺しはしないってみんなに伝えてるし断ることもあるけど。


 一応クスリには手を出していない。


「依頼の失敗件数はどのぐらいだ?」


「今年はまだ6件です」


「順調だな」


 さまざまな理由で失敗することもあるがこなしている依頼に比べると微々たるもの。ギルドに泥を塗るわけでもない。


 あ、ちなみにギルドとは呼んでるけど冒険者を募っているわけじゃない。全て僕たちのファミリーで依頼をこなしているんだ。


 まあエリートファミリーとか幹部クラスの出番はほとんど無いけど。ちなみに僕宛に依頼が来たことは一度もない。


 なぜなら幹部連中が僕の仕事を取っていくからだ。許せん。


 それに僕が勝手な行動しようとすると幹部からお叱りを受ける。トップである僕が叱られるってどういうことだよ。


 とまあマリアに出し抜かれ聖騎士団の学園に入学することは黙っている。


「で、僕を呼んだのには理由があるだろう? まさかようやくこの僕に依頼が回ってきたのか?」


 ま、まさかとは思うけど学園のことがバレたわけでは……なさそうだ。


「あ、いえ……。ドン様の手を煩わせないよう我々が依頼を引き受けていますので」


 裏の僕の名前はそのままドンだ。思いつかなかっただけとは言わせない。ファミリーネームはスコタヴィーという言いづらいものにして嫌でもドンと呼ばせることにしている。


「そうか。では何用か?」


「はい。我々は表社会進出により名前が一気に広まりました。しかしその影響でベルタゴス王国が我々に敵対気味でして……」


 そりゃそうだ。犯罪集団だし仕方ないもん。でも僕たちがいないと困る人も少なからずいる。各国のギャングたちが大人しくなったのも僕たちの影響があってこそだ。


 戦争だなんて言い出したら今ある均衡が簡単に崩れる。流石にしないだろうけど。


「それがどうかしたのか?」


「聖騎士団団長ソリスが声明を出したのをご存知ですか?」


 え、知らない。


「知っている」


「亜神教徒の影響あってか国の監視がさらに厳しくなるそうです。我々もその対象で受ける依頼によっては捜査が入るそうです」


「ふーむ……ベルタゴスのギルドは監視が弱まるまで殺人系統の依頼は全て弾いておけ。法に触れるやつはギリギリを攻めるように」


「承りました。では本部の依頼は通常通りでよろしいでしょうか?」


「いや……」


 ぶっちゃけ本部はベルタゴスにあるわけじゃないからいいけど、たまに囮で依頼しに来る騎士がいるしな……。


 一応厳しい審査を抜けた依頼じゃないと受けないようにはしているんだけど、本部に来られるだけでマズイからな。


「エリート以上の依頼のみ受け付けることにする。身分の確認や依頼履歴の確認を怠るな。加えて新規の客は全て弾け」


「報告しておきます」


 まあバレても全面戦争でなんとか黙らせることができるがそれだと面白くない。聖騎士団は前世の警察のような扱いで、顔色を伺いながら行動しよう。


 裏社会で生き抜くには逃げも選択に入れるべきなのだ。


「それでその……ここからは個人的なお話になるのですが……」


 ペゾルが急にモジリ始めた。


「なんだ」


「実は私聞いちゃったんです……」


「え……」


 ま、ままままさか!? 学園のことがば、バレた!? 昨日の今日だぞ、いくら何でもバレるの早すぎるだろ。


「ドン様のご友人のマリア様からこっそりと……」


 こっそりって、盗み聞きだろ。マリアまで監視の対象に入れてんのか!? 確かにマリアなら独り言で僕のこと喋りそうなんだけど。それでバレたならバカ過ぎる……。


「それで……えっと……大変仲がよろしいようで……」


 仲はいいように見えるし聞こえるだろうね。もう14年も一緒だからな!


「ま、ままままぁ……そうだな」


「しばらく独り言を聞かせてもらったんです」


 そろそろヤバいこと言っているのに気づいたほうがいい。いやでも僕が言えたことじゃないから何も言えない。


「な、なんて言ってたんだ……」


「『これでレインと一緒に青春が……』と」


 お前ふざけんなよマリア。バレちゃってるじゃんか。


「続けて『それに剣で守って貰いたい……キャー』と」


「……うむ」


 僕の冷や汗が止まらない。部下に黙って僕は表で聖騎士団ゴッコ……間違いなく殺される(半殺し)。


「これってどういうことなんですか、ドン様っ。 私これを聞いただけで胸が熱くなって、裏切られたって感じがしちゃって……」


 あーあーあーこれ言い訳できないやつだ。幹部で情報回ってパーになる。張り付けにされて火炙りに処され僕はしばらく謹慎になるんだ。


 うわあああああ。


「う、裏切っては……ない……」


「裏切ってます! 私たちが一番だと思って思ってたのですから……」


 い、いやそんな事言われても僕にも自由というものがあって……それにアレは罠だ。僕の意志じゃない。嵌めたマリアが悪いのだ。


「うまく言いくるめられてしまって……仕方なかったのだ」


「つ、つまりドン様のご意思ではないと……?」


「不可抗力……それに拒絶はできん」


 聖騎士団の学園に入学すると言った以上取り下げることはできない。


「拒絶できない……それはつまり魅力的だったんですか!? 私たちが居ながら!?」


 表は聖騎士団、裏は闇ギルドのトップ……確かに魅力的だった。


「両方取ったということだ」


 み、見苦しい言い訳だ。これはどうにもできない。


「……両方、ですか? それって私たちも隔てなく接してくれるということですよね?」


「え? いやまあ区別するつもりはないけど……」


「……それならお許しいたします。ズゥーヴァや他の幹部たちには内緒にしておきます」


「許してくれるのか?」


 な、なんと心優しきペゾル。前まではあんなに牙を剥いてきたのに……。感動した、これが成長というものか。


「勿論です。隔てなく私にも……ふふっ……」


「すまない。これからは自重する」


「いいんです。1人増えようと接し方が変わらないのなら許します。マリア様とお付き合いされることに目を瞑ろうと思います」


「ん……?」


 あ、あれ……なんか僕マリアと付き合ってることになってるけど……。


「な、なんで僕がマリアと付き合っていることに……?」


「え? さっきのお話でそうおっしゃられたので……」


「ん? さっきの話って僕が聖騎士団の学園に入学することだよね?」


「えっ……」


「えっ……」


「は、はい? ドン様もしかしてベルタゴス学園に通われるつもりですか!?」


「えっ」


「えっ」


「さっき許してくれるって……」


「え……」


「え……」


 ──どうやら僕は間違った選択をしたみたいだ。というより会話がそもそも噛み合ってなかった。


 その後マリアとの誤解は解けたが学園のことはしっかりと叱られた。裏社会のトップってこんなに苦労するんだなー。

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