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実力ある異世界人を目指して〜憧れの悪役は実力隠してやりたい放題  作者: グレープファンタジーの朝井
1章 先遣任務

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32.お別れ

 あれから丁度3年の月日が流れた。アクベンスは聖騎士団の地下牢に収監。あれ以来覇気はなく複数所持していた(タネ)は2個のみとなっていた。


 今回のアケルナー村の企てた計画が王都中に知られると国民は驚きを隠せなかったようだ。中でも亜神の儀式が国の脅威であったそうだ。


 儀式は今回の災害にも関与していると調査が進み、あれ以来ベルタゴス領地にある危険区域を除いた全ての地域を洗いざらい調べ直したという。


 すると未発見の遺跡が二つほど確認できた。だが祠の中も遺跡の内部も特に気になるものはなかったという。


 アケルナー村は事実上地図から名を消し今では跡形もなく自然が支配した。周辺の村などは霧の災害にて壊滅的な被害を受けたが復興が進み今では依然と同じ水準で暮らしている。


 小さな災害は頻発するものの生命を脅かすほどではなかったようだ。


 さらに情報はあり以前に王都で話題になった首祭りの(ローブ)の情報も入っており、今回の霧の災害とは別件扱いで慎重に捜査がすすんでいる。


 災害半年後、王都で流行っていた謎の奇病も解明され、ベルタゴス領地は落ち着きを取り戻していた。


 しかし霧の災害の影響か森に住まう魔物の姿が激減。生態系が崩れ見たこともない魔物がベルタゴス領地を支配し始めているとのこと。


 これにはベルタゴスの聖騎士団が動員され、霧の魔物の残党を狩りつつ外来魔物の討伐が決行された。


 最終的に霧の災害が収束したのは今年の夏頃のことだった。このことがあってか聖人招集の計画が随分と遅れた。


 王都に聖人が集結するのは年明け。


 ミストラル家は今年中に王都へ移住するそうだ。


 だがこれに猛反対したのはマリア・ミストラル。その姉であるセリアを引き止めようと村を巻き込んでの大喧嘩。これにより父のマルセはマリアの同行を拒否し、同じく貴族の地位も拒否した。


 マルセ、セリアの二人は貴族の地位が与えられたがマリアは村人のまま村に残されることとなった。家名を名乗れなくなりマリアはただのマリアとなった。


 そして今日、セリアが王都に移住する日だ。12月半ば頃の遅い移住。彼女は最後の時間を大切にしようと潜り込んだ場所は……。


「何してんのセリア」


 朝レインがベッドから目覚めると隣にはニコニコと笑顔を向けるセリアがいた。


「ばぁっ! いひひ、驚いたかー」


 可愛らしい笑顔で愛嬌を振りまくもレインは背を向けて再び寝始めた。


「ちょっとちょっとー。私最後だよ? もう会えなくなるかもしれないんだよ? なのにそんな態度でいいのー?」


「ちょっとちょっとー。ここ僕の部屋だよ? その気になれば会いに来れるのに? なのに最後とか言って思い出作っちゃっていいのー?」


 同じ流れでセリアを煽ると彼女は頰を膨らませて背中をポカポカ殴った。


「うぎゃー生意気! 素直に嬉しいって言えー!」


「暑い暑い、赤ちゃんって体温高いからねー」


「それってかわいいってこと!? ──あでっ」


 バカになったセリアをデコピンでなおした。


 レインはその流れでベッドから脱出すると彼女はゴネる。


「うわぁーん、いつもマリアと寝てるくせにー。なんで私の時だけ逃げるのぉー」


「あのさ、いくら何でも年頃の男女が同じベッドで寝るわけがないだろう。マリアは隣の部屋。時々来るけど大抵は自分の部屋で寝てるよ」


 追い出されたマリアはレインの家に居候させてもらっているみたいだ。


「ちっ……羨ましい。私もお父さん殴れば良かった」


「おい……」


 大喧嘩中に見せたマリアのナイスパンチ。これが家を追い出される決め手となったそうだ。


「──ねぇ」


 レインが何処かへ行こうとしたらセリアが裾を掴んで離さない。


 毛布の中から手を伸ばして引き寄せ始める。


「な、なに……」


「行かないでよ。私最後だって言ってるじゃん」


「だったら今すぐにでもマルセのところに戻ったほうが良いよ。今頃大慌てで君を探してるだろうね」


「じゃあレインが隠して。こっちに来ないと隠れられない」


 このままゴネられるのもダルいと感じたのか、仕方なくベッドに座ることにした。


「その無防備なところを直さないと王都で痛い目見るかもよ。今はそんな感情ないんだろうけどいずれ黒歴史になる」


「はへ?」


 何もわかってなさそうな返事。


「とりあえずいいか。そう言えば聞く機会がなかったから聞いてなかったけどどうして聖人招集に行こうと思ったの? 選ばれたからってのは無しで」


 簡単な答えを求めてないからこその発言だ。セリアには難しい質問だが案外言葉を詰まらせずに答える。


「う〜ん、皆を守ろうって思ったからかな? あの日のこと思い出すだけで今でも震える。だけどそんな私が聖人に選ばれたならやるしかないって割り切っちゃって」


「聖人……もし聖女として目覚めたら君は後戻りできないよ。死ぬまで世界の奴隷さ」


 名誉ある聖女を奴隷として表現した人間は初めてだろう。セリアは苦笑して「なにそれっ」と濁した。


「聖女はベルタゴスを守るだけじゃない。他の国でも遠征することがある。危険は常に伴う。特に亜神教徒の接触がね」


 二人まで減ってしまった女神を補うかのように現れた存在。それが亜神。彼女らは女神に敵対し女神のいない世界に作り変えようとしている。


 もちろん聖女も例外ではなく亜神教徒の迫害対象。


「大丈夫だよ。ソリスさんは聖女として15歳から21歳まで戦い続けてるんだよ。今だってまだまだ現役。世代交代はまだまだ先だから」


「……聖女の平均寿命は23歳。10歳で聖女となるものもいれば25歳で聖女になる者もいる。平均して聖女になってから7年と少ししか生きられない。本当にそれでいいの?」


「最短の聖女が3ヶ月だもんね。それでも最長17年。7年も守り抜けたらそれで十分だよ」


 セリアは毛布に顔を埋める。


 なんだか気まずい雰囲気になる。


「まあそれでも聖女候補から選ばれる必要があるし君が確実に聖女になるわけでもない、大丈夫、セリアより優秀な人間いっぱいいるし選ばれないよ」


 顔を膨らませて怒るがすぐに冷静になる。


「そうだとしても聖騎士の一人として頑張るよー」


 顔は膨らんだままだ。


「聖騎士か……」


 選ばれずとも茨の道を進むようで覚悟が決まっている。


「よーし! 元気出てきたぞー。会える頻度はかなーり少なくなるけど私なら頑張れる!」


 バサッと毛布から飛び出るセリア。寝転がっていて気づかなかったが彼女の髪は腰よりも上ぐらいでかなり長くなっていた。


 寝巻き姿のままベッドから飛び出すと水色の髪が派手に揺れた。


「……さあレインよー。お見送りのために準備したまえー」


「ふぁ……二度寝しよ」


「ちょっとちょっと、勇気分けてよ。このままバイバイはだめだってー」


「わかってるわかってる。君の出立前には起きとくからさ」


「ほんとにぃー?」


「はいはい、昼前には出るんでしょ。準備してこい」


「うへへ、行かないでーって泣かないでよ」


「泣くのは君だから気にしないでいいって。ほら、マルセが君を探してる。行ってこーい」


「はーい」


 タッタッと自分の家かのように部屋から出ていく。レインは普通に二度寝した。




 ◇◇◇◇




 昼前。村の入り口では大勢の村人が彼女たちの出立を見送っていた。マリアはセリアの出立に顔を見せていないようだ。


「レインこれあげる」


 馬車に乗る前、彼女はそう言って青い八面体のキーホルダーを二つ渡した。


「なにこれ、ラ◯エル?」


「何言ってるの? これ私からのお守りだよ。もう一つはマリアにあげて」


「あー流石にこの世界にエヴ◯はないか」


「それ次会うときまでに持っといてよー」


「なんで?」


「むむむ……レインってば忘れっぽいからそれ見て私を思い出して欲しいの!」


「ああ……うん。多分見なくても忘れないと思う」


 レイン苦い思い出が脳に焼き付いて離れない。半分トラウマのような記憶もあるようだ。


「えー? ほんとかなぁ……?」


 勘違いしたセリアは嬉しそうにニヤニヤと表情をつくる。


「セリア、そろそろ行くぞ」


 と、ここでマルセがセリアを呼ぶ。


「すぐいくー!」


「──まあ、とりあえず持っとけばいいんでしょ」


「うん! じゃあまたね!」


「はいはーい」


 沢山の村人に見送られながらセリアは馬車に乗り込む。


 一方レインは二人が見える位置に陣取り高級そうな馬車を見ては目を輝かせていた。


「高そうだ」


 金だけを見ているレインはセリアのことはあまり目に入らずただ適当に手を振っていた。


 ゆっくりと動く馬車がやがて村を出ると速度を上げ始める。もう戻ってはこれない。


 馬車の中でセリアは俯き唇を噛んで泣いていた。声を押し殺し色んな人との別れを思い出すと目が熱くなる。


「レインバイバーイ!」


 こうしてセリアは王都へ旅立った。

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