31.これをあと9回も!?
「お前には見せたい場所がある」
そう言われて少年に手を引かれたのはミミ。疲れて木の幹に座っていたところ発見されて連れて行かれた。
どうやらフルリエルは消滅し霧の災害は解決したようだ。
気が付くといつの間にかミミは少年の腕に抱かれており日も見え始めていた。
「ここは……?」
どうやら途中で眠ってしまい彼が運んでくれたようだ。
「まあ仮拠点みたいなところかな」
気の抜けた彼の声にミミは困惑してついて行った。
廃村に廃鉱が合わさった贅沢な立地だ。何十年も昔に龍に襲われ、捨てられた場所のようだ。ここにはそれ以来龍が住み着きやがて忘れられた土地となっていた。
肝心の龍は……。
「えっと……」
「ああ、あれってやっぱり気になる?」
廃村の済に少し解体が進んでいる哀れな龍の姿があった。
「それはまあ……」
「今は皆の食糧になってるかな。大きくて運ぶの面倒だし放置してる。微生物が分解できない魔力豊富な肉だから数年は持つかな」
どうやら少年によって誰かの食糧にされてしまっているようだ。
「み、皆って?」
「まあ見れば分かるんじゃない。凶暴だから今はあまり近づきたくないけど君が来てくれたから少しは進展しそう」
「私が……?」
少年は廃鉱の方へ歩き鍵のついた鉄扉を開けるとそこには数人の子どもの姿を確認できた。しかしそれはミミにとっては馴染み深い子どもたちだ。
「ミミちゃん!?」
そこには居るはずのない少女ネペルの姿があった。
「ネペル!?」
感動の再会。二人は抱き合い涙を流してよかったと連呼する。
その傍らで目を光らせていた別の子どもたちが武器を持って少年の方に向けていた。殺気の籠もった目だ。
「まだなにか……?」
少年は怖気づくことなく一歩前に出た。
「そ、それ以上近づくな!」
大狼の獣人の少女が叫んだ。棒の先端に尖った石を括り付けている武器だ。槍のようにそれを構え少年を脅す。
「私たちの村をよくも!」
その隣にはナイフのように尖った石を構えた少女が。
「ん〜攫ってきたときに説明したはずなんだけどなぁ。ねえネペル。なんでまだ彼女たちを説得しきれてないの? 僕はちゃんと約束通りの子を連れてきたよ」
「すみません……何人かは説得できたんですけど彼女たちは言うことを聞かないみたいで……」
ネペルは困った表情をしており一応やれるだけやってはいたみたいだ。
武器を構えている子どもは3人でその他ミミを除いて6人はすでに降伏済みのようだ。
「血の気が多いのはいいんだけど僕を倒したって何も変わるわけじゃないんだから」
「だまれ! 父と母を返せ! じゃなきゃ本当に刺すぞ!」
鋭い目で睨む猫獣人の少女。言葉が強く勇敢に立ち向かっているが足は震えている。
「仲間を守る意思は評価に値する。だが同時に仲間を危険にさらしていることに気が付かないのは学習不足だよ」
「ここで止めれば良いんでしょ!」
「無理だよ。それができていれば村を守れたでしょ?」
当然の言葉に猫獣人は唸りを上げて自信をなくす。数的有利を取っていても相手は大人数十人を一瞬で蹴散らした相手。ここにいる子どもたちだけでは何もできないことは日を見るより明らかなのだ。
「まあ君たちの親を目の前で殺した僕が言うのもなんだけどさ……穏便に行こうよ」
「ぐっ……」
「これから僕は一人一人に種を返しに行かなくちゃいけない。本来君達は僕を責める立場じゃないんだよ。どんなに生活のためでもさ」
刃を向ける者、堂々とする者、両者の行動はどちらも正しく、間違えであった。
「それでも殺して良いはずがない!」
「君たちに事実を伝えるのは酷だがアレは生者の覇気ではなかったよ。既に君たちの親は死体も同然、寄生生物だったんだ。だから燃やして処分した。寄生された人間は死体すら残せない」
「嘘だ! あの優しい顔が死人の顔のはずがない!」
槍は彼のローブに触れる。力を入れれば血を見せることができるだろう。
「ここに大人と男がいない理由が分かる?」
「そんなのお前の趣味だろ!」
「男児は9歳から祈りを捧げ始め、それ以外は16歳以上から。君たちの村の習慣は全て自身の体を捧げる儀式だったんだ。君たちもそれを知っているはずだ」
「知らない! 体を捧げることなんてやってない! 皆元気だったの!!」
槍を振りかぶり少年を斬りつけるが石は破裂し棒は折れた。
「即席で作った武器にしてはなかなかだったけど僕には傷一つ付かないや」
「ぐっ……クソッ!」
猫獣人は軟体な体を活かして少年に一撃入れる。しかしびくともしなかった。
「やめなよミーニャ! 悔しいけどあいつの言ってること事実だよ」
人間の少女はそう言う。
「死体と暮らしてたっていいたいの!?」
「そうだよ! 私前々から思ってたもん……これは生者の覇気じゃないって。優しかったけど、街の人と比べるとなんか違った。視線が合わないと言うか……」
「な、なんで……本当に死体と暮らしてたって言うの? だったらちゃんと証拠出してよ証拠!」
すると突然動きを見せなかった少年がミーニャの首を鷲掴みして地面に伏せた。
「ぐあっ……!」
「簡単な話、君たちの体にも既に奴らがいるということだ」
左手で口元を強く押さえ暴れるミーニャを拘束する。そして右手で魔力の波に当てられると彼女は激しい頭痛に襲われる。
「アガッ……ぐっ!」
少年はその場から離れしばらく様子を見る。周りにいた少女たちも心配そうに様子を見守る。
その瞬間ミーニャは鼻血を出しながら口から水色の何かを吐き出した。
「うぇぇぇええ!」
水色の何かは地面を這いながら少女たちに近づく。
「な、なにこれ!?」
「あれって……!」
ミミはその水色の何かに見覚えがあり鳥肌を立たせた。
すかさず少年はそれを踏み潰し魔力で燃やし尽くした。
「脳喰らいの寄生虫。こいつが育てば君たちの脳はこいつの成虫に置き換わる。これで信じたか?」
ミーニャの鼻血はいつの間にか止まっており苦しさも消えていた。
「うっ……」
だが口からおぞましい虫を吐き出したことはいまだ衝撃的だった。
「あとこれを9回も見なくてはならない」
「「えっ……」」
その発言に絶望したのは残りの少女9人たちだ。
自分たちの体にもアレが……そんなふうに顔が青ざめていく。
「大丈夫。僕の仲間……及び従ってくれるなら痛みなくすぐに終わらせてあげるよ」
答えは一つしかないようなもの。
その様子を見て少年は嬉しそうだった。




