3.味のしないガムは吐き捨てよう
誓いを立てて8年の月日が流れた。僕は努力を止めることも怠ることもせず、妥協なしで苦難を乗り越えてきた。
とっくの昔に言葉はマスターしていて今では魔法の勉強もしている。絵本みたいなやつじゃなくてワケのわからない記号が載ってるやつだ。
どうやらこの世界には10の種という魔力の属性が存在しているようだ。
種にはそれぞれ、火、水、土、木、風、光、闇、無、造、終という属性がある。
詳しく分けると火、水、土、木、風、光、闇の7属性が主な主要の属性。
そして無、造、終の3属性は特殊な属性である。
聞いたこともないような属性が2つあるがまずは7属性についてから。
7属性は魔力に属性の種を植え付けるとこで発現する付与魔法みたいなものだ。
単純に威力が上がったり、相手に強いデバフのようなものが与えられる。よく使われる現代魔法がこんな感じだ。
ファイアーボールなら相手に火傷を。
ウォーターボールなら味方の傷を洗う。
ダークボールなら相手の魔力に干渉する。
みたいな感じにそれぞれに役割があるのが7属性だ。
そして特殊な3属性は7属性より少し特殊なだけでできることはほぼ同じ属性だ。
『無』はまさに魔力をそのまま行使すれば現れる属性で、味のないかき氷みたいなものだ。シロップが7属性ということだ。
無属性は基礎であり誰でも使える属性である。
『造』は簡単に言うと創造の属性。ありとあらゆる万物を生み出す属性だ。召喚系統の魔法を行使したいならば絶対に必要な種となる。
『終』は魔力を使ったあとに出る残りカスのようなもので、煙となった一瞬だけ現れる属性だ。
終属性も誰にでも現れる属性だが、これが現れない人間は魔物化する。世界で唯一危険視しなければならない属性だ。
終属性の現れない人間は魔力の燃えカスを体内に蓄積し、やがて暴走する。いわば終属性を失った人間は病人というわけだ。
とまあ基本的に気にすることは魔力を使ったあとに、ちゃんと燃えカスを体外に排出できるかどうかだ。
ガムを噛んだら吐き出すみたいに味がなくなったら捨てることを意識すればいいだけ。
無属性では心配ないんだけど7属性行使の後に発現しやすいから特に気をつけろって母親が言ってたっけなー。
でも残念。僕は無属性の種しか持っていないようで7属性を得るには他人から分け与えて貰うしかないのだ。
絶対にそんな事しないけど。
属性以外にも天命の導っていう面白い力があるらしいけどそれは14歳になってからの話だ。
ちなみに僕の産まれた場所は町外れにある村の平民だった。
世界の人族の七割を占めるごく普通の家系だ。
しかしそんな平民でも一応チャンスはある。平民は平民でも実力が認められれば貴族にでもなれるのだ。
つまり実力主義。
世界のほとんどが力を求め、安定した生活を送るために頑張っている。そのため僕はこの家の期待の星……なわけない。
隣の家のコイツが期待の星だ。
「んー?」
セリア・ミストラル。僕と同い年だ。
そして隣にいるこれが妹がマリア・ミストラルだ。
ちなみに僕の種が無属性と終属性の初期装備しかないから期待されてない……というわけでもない。単純にセリアという人物が優秀すぎるからだ。
剣術と魔力の両方に恵まれ、さらにパワーも恵まれている。
なぜだ。僕はこんなにも努力しているというのに。目の前のコイツは平気そうな顔をして自分の恵まれた才能に感謝していないのだ。
まったく……ちなみにセリアは種が三つ。妹のマリアが四つだ。
いつも才能に羨む僕は彼女たちの稽古を視察中。
二人が剣を打ち合い、その父が指導する。僕は堂々とサボってる。視察なんて嘘なのだ。
ちなみに種一つの差はテストで言う赤点を取るのと取らないに等しいのだ。つまり僕は赤点が一枚以上あるということ。
ふざけんな。
それに対して彼女たちは種を三つ以上持っててつよつよだ。
数は妹のほうが多いが、総合的に見れば姉のセリアが優秀だ。それもまだまだ成長段階だからわからないというのがさらに恐ろしい。
いずれ平民でなく貴族になりそうで羨ましすぎる。僕だって金欲しいよー。
と、サボっている僕をみかねてなのか彼女たちの父が僕を稽古に誘う。
もちろん断るわけにはいかないので僕は胸を張って木剣を構える。
ただの稽古。そこに僕の本気は存在しない。なぜならここで勝つわけにはいかないからだ。
圧倒的な才能を前にして僕はただの平民。一般ピーポーである。
そう負けに行くのだ。なぜならすでに僕の計画は始まっているから。僕の夢にまで見た夢。裏社会の支配者になるために。実力ある異世界人になるために。
だからこんな場所で実力が露呈するのは許されないことである。
「ふんご!?」
僕は彼女たちの凄まじい太刀を顔面に受け止める。
「レインよわーい」
当たり前だ、そうしてるのだから。
◇◇◇◇
裏社会の支配者、すなわちドンになるためには必然的に共犯者が必要なのだ。
だがしかし僕と似たような志を持つ人間がそうゴロゴロいるとは思えないのだ。さらにはファミリークラスで組織を大きくしたい。
同じ志を持つ人間でも僕の下につく覚悟がある人でないとだめなのだ。よって力の差を見せつけて下につかせるしかない。
同じ志を持つものが無条件に人の下につくようなことするはずないからねー。
というわけで仲間探し兼小銭集めとして僕は夜に蔓延る盗賊くんたちを訪問することに。引き抜き営業の始まりだ。
裏の世界で生きる彼らの中にもしかしたら……そんな人がいるかもしれない。
「いたいた」
ガラの悪い男数人が廃遺跡に腰を下ろしている。
かつて神聖であった場所だろう。そんなところに尻を乗せるとはなんと罰当たりな人だろうか。
まあ僕は神なんか信じてないけど。
男たちは武装を解除して酒片手に揺れだす。荷馬車の襲撃に成功したようだ。ガタイのいい男の手にチャリチャリとしたお金の気配を感じる。
僕はローブでその身を隠して……。
「ッ……!?」
ガタイのいい男の首をもぎ取る。
血の噴水。
男は体を痙攣させて絶命した。
「やあやあ盗賊の皆様方。ちょっとお尋ねしたいことが」
僕は男の首を片手に弄ぶ。盗賊たちは恐怖の表情を浮かべた。
「ぼ、ボス!」
「やっぱり彼がボスなんだね。先に殺しておいて正解だったよ」
群れは頭を潰せば降伏してくれる。そんな思いから僕はこの盗賊のトップを先に殺した。
彼らは動くつもりがないのか棒立ちだ。
「お、お前何しやがる! 子どもごときにうちのボスがやられちまったのか!?」
「人は脆い。子どもに刺されても、大人に刺されても結果は同じだ」
男たちは次々にナイフを取り出してみせた。
「戦う気はないよ。ただの勧誘だよ勧誘。君たち良ければ僕のファミリーに入らない? 僕の下についてくれよ」
僕が君たちのボスより強いってことは証明済みだ。ここで襲ってくる馬鹿はもうウンザリなんだよ。
「誰がてめぇなんかの下につくんだ! おいお前ら殺っちまうぞ」
盗賊たちは殺気ムンムンの雰囲気だ。どうしてだろうね。ボスを倒した人間に立ち向かうのは。
不意打ちだったにしろ真っ当な戦略だと思うけど。
「ボスのカタキぃ!」
「なるほどそういうことか」
復讐に燃えたから仲間にはなれないということだな。じゃあ彼らは必要ない。僕のファミリーに他組織を心配する人間はいらないんだ。
手を前に突き出し歯向かってきた男を細切れにする。
直ぐに血のスープが出来た。肉と骨の一部が残る。具沢山で豪勢なスープである。
「なっ……!?」
「じゃあ次に期待だね」
僕は血塗れた銀色の刃で彼らの首筋を睨んだ。