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実力ある異世界人を目指して〜憧れの悪役は実力隠してやりたい放題  作者: グレープファンタジーの朝井
1章 先遣任務

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26/210

26.一番の敵は加減知らずの味方

「ん……?」


 レインは鼓膜が揺れるのを感じて目を覚ます。どうやらベッドで仮眠を取っていたところ雷に叩き起こされたみたいだ。


「体感二十分ってとこかな」


 ベッドに座ったまま背伸びをして体をほぐすとため息をついた。


「裏世界のドンになるつもりが初めての失敗をしてしまったか」


 結局レインは依頼の金貨を受け取れず仕舞いだった。依頼失敗の理由は間違いなく亜神の接触があったからだ。


 そこら辺の盗賊にビビりもしない彼が今では少し緊張している。


「二度目の接触になるけどあのときは運が良かったから倒せただけで……いや、考えないでおこう」


 唸る彼は一度思考を振り払いベッドから出ようとする。


「そう言えばこいつらいたんだった」


 完全に意識していなかったのか左右を見ると双子の姉妹が気持ちよさそうに寝ていた。


「あれだけベッドに入るなって言ったのに……」


 もぞもぞと体を動かし温かい方へ移動するセリア。掴んでいたものがなくなったのか腕を雑に動かすマリア。


「あーあーあー」


 彼は壊れたロボットのように頭がパンクしてしまったようだ。しかもガッチリと二人から捕まれ身動きが取れなくなる。


「ん……?」


 すると雨の音に紛れて叫び声のようなものが聞こえる。何を叫んでいるのかは分からないがとりあえず緊急の様子だ。


「やっぱ村は狙われやすいのかー」


 集まってくる人ではない複数の気配にレインは少しだけワクワクする。


 それと同時に無防備な寝顔を晒す二人を心配する。


「呑気に寝てる場合じゃないけどなあ」


 レインは二人にデコピンをお見舞いした。


「あでっ」


「あうっ……」


「よくこんな状況で寝れるね」


 結構強めに叩いたみたいだ。セリアはおでこを押さえたまま泣き目になりレインを睨んだ。


 一方のマリアは冷静に周囲を警戒する。


「なにすんだ、ばかぁっ。傷ついたらどうすんだー!」


「お姉ちゃん、そんなこと気にしてる暇じゃないよ」


「そうだぞー、寝起きに機嫌が悪いのはそこまでにしておくんだー」


 レインはにやりとセリアを挑発する。マリアが「なんで煽っちゃうの」という顔をしていたが、すこぶる機嫌が悪いセリアに手加減はできなかった。


「怒ったぞー! 私もやり返すんだぁあ!」


 デコピンに対して合わなそうな拳。レインは冷静に横に退けると彼女に足を掛けた。


「わちょちょちょ!」


 その瞬間、壁から突き抜けてくる魔物がセリアの前に飛び込んでくる。


 ゴキャっと一瞬音が聞こえると魔物はミンチになって外へ吹き飛ばされた。セリアの振りかざした拳がたまたま魔物に当たったみたいだ。


「わあーありがとー、セリアってばやさしーんだねー」


 レインは棒読みで感謝を伝える。


「ところで……どうやら寄生された魔物みたいだ。パラサイト系統かな? インフェクション系統ではなさそう」


 レインはチラチラっとマリアに視線を送る。


「え、なに……?」


「いや、ほらアレだよ。演技してっ」


 レインは小声でマリアに言った。


「あ、あー、村の人たちはどうなったのー!?」


 マリアは外の叫び声を聞いて不安がる……演技をする。


「ちっ……下手くそ」


 レインはマリアに聞こえるようにそういった。そして……。


「今セリアが殺したのが村の人かな? 柵周辺を警備していたそれなりに強い人だよ」


 明らかに犬の形をした魔物にそう言い放った。


「え……」


 しかしアホなセリアは直ぐに信じて動揺する。


「パラサイト系統は人間にすぐ寄生するからね。セリアも早く手を洗って来たほうがいいよ」


 散らばった肉片からウニョウニョとミミズのような生物が三人を目掛けて這う。


「いいよ……。それよりも村の人たちが……」


 セリアは手に伝う血に顔をしかめて悔しそうに呟く。


「寄生されたら終わりだよ、火で軽く炙って」


「わかった……」


「僕たちも早く逃げよう。この村はやがて破棄される」


 雷が地面に打ち付ける。


「私のお父さんは……!?」


 ここでマリアの渾身の演技が入る。


「王都にいるんじゃないかな。取り敢えず僕たちは逃げることだけに集中するんだ」


 レインは取り乱さなかった。その態度は二人に冷酷なイメージをつけてしまっただろう。


「レインの両親はどこにいるの……?」


「僕の家に戻ってこず、先に魔物が来たってことはそういう事だ。逃げよう」


 マリアは大きく目を見開く。レインはそれっぽい演技に満足して歩きだす。


「ついてきて」


 マリアは歩きだすレインに静かについていく。


「ちょっと待ってよ!」


 するとセリアがレインの腕を掴んだ。血濡れた方の手で掴んでいた。彼の顔がだるそうな表情になるのが分かる。


「レインはお母さんやお父さんのこと気にしてないの?」


「気にしてるよ。でもそれよりも大事なことがあるんだ。両親のことは後で考える」


「何を言ってるの……レイン。頭打っちゃった? 私はお母さんが死んじゃったときそんな風にはなれなかったよ?」


 確実ではない両親の死を今悲しむ訳にはいかなかったということだろう。レインはマッチを取り出して血を炙り始める。


「それはセリアが優しいからだね」


 ジジジっとセリアの血も焼き焦がす。


「だけど僕は優しくないから。任されたことだけをしっかりとやり遂げるのが僕だ。だからセリア……ごめん」


「え……?」


 セリアが油断していたその時、マリアの手刀が彼女の意識を刈り取った。


「よくできましたー」


 レインは軽く拍手を送る。


「お姉ちゃん絶対倒しに行くって言うから正解だったね」


「いやーあのセリアを気絶させられるなんて双子は凄いや。ああでも演技は下手くそだったか……」


「うるさい! 作り話でも、いきなりレインの両親殺すからびっくりしたんだよ?」


「死んでない死んでない。あのハゲが簡単にくたばるわけがないって。毛根はくたばったけど……」


 レインはセリアを担いで壁の穴から外へ出る。


「んー意外と劣勢なのかな? 霧でよくわかんないや」


 周囲に村人の気配はほとんどない。すでにどこかの一カ所に集まっているようだ。


「取りあえず倉庫だね。レイン、お姉ちゃん落とさないでね」


「わかってるよ」


 走る二人は霧を掻き分けて突き進む。


 魔物の死体がそこら中に転がっている。


「こりゃダメそうだねー」


「なにが?」


「冗談で言ったんだけど村は破棄になるかなーって」


「確かにボロボロだもんね」


「倉庫は意外と無事そうだ……ん?」


 倉庫を見つけたかと思うと村人たちは列になって外へ歩きだしていた。


「レイン! やっときたか」


「ハゲ……」


「あん?」


「じゃなかった。お父上様」


「遅かったじゃねえか。魔物にパクパクされたかと思ってたぜ?」


「お父上様は魔物に頭部をパクリと……いででで」


 頬をつねられる。


「セリアちゃんは連れてきているみたいだな。やればできるじゃないか」


 ビシバシとレインを叩いて喜ぶ。


「あの……皆はどこに行ってるんですか?」


 マリアは村の外へ移動し始める列を見てそう問うた。


「あーこの村は廃村決定だとよ。なんせ相手がパラサイトだからな。完全討伐は聖騎士団しかできないんだ。家もボロボロだろ? ここにいたら死んじまうよ」


「僕たちもあの列に?」


「ああ、お前たちで最後だ。あの列に並んできな」


「父さんは?」


「俺は最後尾の防衛だ。三人は真ん中で守ってもらえ」


 レインは軽く返事をすると列に割り込んだ。


「まあここからは安全だね。ハゲ親父がいれば後ろは安全だろうし」


「なんで?」


「僕の父さん昔は野生の鬼だなんて言われてた凄腕の騎士だったから。今はただのハゲ鬼だけど」


「そんなに凄い人だったの!?」


 周りの人の迷惑にならない程に驚く。


「この村って意外と凄い人が集まってるらしいからね。ぶっちゃけあのまま防衛し続けられたけど血の気が多い人ばっかだし……」


「あの時の叫び声ってまさか……」


「そのまさかだね。村がボロボロだったのも──」


「ええー……」


 二人は察しながら会話を続けるのだった。

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