20.お金で動く人
王都に立ち寄ったのは武器の調達のため。
と言っても子どもに危ないものを渡す店主はどこにもいなわけで……。武器に見える武器は買えないということになる。
遠距離の武器を買いたかったんだけど弓と矢は完全にアウトな部類の武器だ。そこで僕が目につけたのは金物屋にある太い鋼糸だ。
針金みたいに結構太いけど自由に形を変えることができる。
一本の長さは結構ある。伸ばしてみないとわからないけど武器にするには満足できる長さだ。
「おっちゃんこれ四つ頂戴」
一見するとただのお使い。鋼糸が武器になるとは誰も予想ができないだろう。
「毎度あり」
よっしゃ武器ゲットだぜ。
今夜はリベンジ戦。それに備えて少しでも扱えるようにならないと。
前回の襲撃では想定外なことがいくつもあったし引くしかなかった。まさかあんなものを味方につけていたなんて思うはずがない。
まあだけど今回は鋼糸という遠距離武器がある。完全な戦いにはならないと思うけど今度こそ仕留めきれるだろう。
「──おい聞いたか」
「ああ聞いた。たった一つの村に聖騎士団が五千も攻め込むって話だな?」
金物屋を出ると白衣装を纏った騎士の二人が話していた。
「流石に多すぎやしないか? 調査にしては過剰戦力過ぎる。団長はなにを考えておられるのか」
アケルナー村のことだろう。生憎村人の半数は殺害済みで動員すべき騎士の数は半分程度でいいのに。
というかもしかしてアケルナーの人たちって夜にあった襲撃事件を王都に報告してないんじゃないか?
「明日の朝に号令が掛かる。久しぶりの大行動だ。遅れないようにしないとな」
これはいいことを聞いた。襲撃時に合わせられたら僕が五千もの騎士を相手にしなくちゃいけないところだった。
それにそれだけ大規模に騎士を動かすとなると団長は必ず出てくる。今の僕じゃとても相手にできない人だ。
「まだまだ未熟だな……」
鍛えが足りない。
何者にも負けない力を得てこその裏世界の支配者だ。団長レベルは後一年で追い越す。その一年後は龍だって簡単に殺せるようになる。
いつだってドンの教えは正しかったのだ。だから僕は信じ続ける。
◇◇◇◇
軽快に乱す足。木々の間を走って逃げるのは兎の魔物だ。
臆病過ぎるため逃げ足が速く魔力に敏感な優秀な生き物だ。鋼糸の練習相手としては無難な相手だろう。
「ほっ……」
指先から放つ鋼糸はまっすぐに飛んでいき、木に絡まると一本の罠ができた。
それを軸に鋼糸を編み込んでいく。
蜘蛛の巣のように張り巡らし小さい範囲の檻。魔力に敏感な兎は安易に近づけないだろう。
「ぴぎゅ……!」
右手の人差し指を引いて親指の位置を動かす。
僕から最も近い位置の糸が兎を追いかける。
警戒してなのか僕から離れて真ん中の位置まで後退した。奥まで逃げなかったのは鋼糸の檻があるからだろう。
「外側に行けば行くほど不利になっていくが大丈夫かな?」
魔物に言葉は通じないが雰囲気作りのためそう言う。
今度は人差し指を戻し、中指薬指を引いた。そして親指を動かすと今度は真ん中の糸が動き始める。
構造はシンプルに作っている。引いた指に合わせて動かせる糸の場所が変わるのだ。
小指を引けば僕から一番遠い糸が動くということだ。親指は基本的に動かしていればどうにかなる。
適当に動かして糸が魔物に届くようにしているだけだ。正確度はCぐらいかな。
「ぴぎゅ、ぴぎゅ!」
逃げ惑う魔物は追ってくる鋼糸に夢中でだんだんと他の鋼糸の位置を忘れてくる。
右手の正確度はCなのだ。これでは武器としては有効打になり得ない。つまり正確度Aとなる決め手が必要。
そう決め手だ。
「残念だったな!」
僕は左手の親指を思い切り引いた。
すると魔物を追いかけていた糸が解けて一瞬で糸が集まった。ピンッと外れた糸は勢いを乗せて魔物の体を締め付ける。
ギュッと。
そして空中に留めて見せた。
「どうだこれが罠の力だ! びっくりしただろう」
魔物はぐうの根も出ないのか諦めたように脱力した。
一撃捕縛。全方向から糸が飛んでくるからまず避けようがないけど。まあメリットは確実捕縛にあるけどデメリットはまた鋼糸を張り直さなくちゃいけないところだね。
そういうときに左手を使いましょう。
人差し指と中指、薬指で編み直し。小指で再構成だ。この時捕縛した魔物は細切れになるから注意が必要だ。
「あーっと言ってるそばから」
うっかり殺してしまった。まだ練習したかったのに。
鋼糸でやれることはある。罠設置はもちろん部位切断、部位捕縛、範囲攻撃にガードまで多種多様だ。
僅かな動きでも糸に反応があれば誤魔化しきれないことも。
「グルァァァァァア!」
こういう攻撃的な魔物から先手を打たれることもないというわけだ。
「今度は君が相手をしてくれるのかな!」
ヤバそうな病気を持ってるウルフくんの登場だ。目があっちに行って顔面がイボだらけだ。近づきたくねぇ。
こんなときにも鋼糸は役に立つ。
「グガァァア!!」
緑色に変色した爪。付いた血を放置したからこうなったみたいな色をしている。
鋭い爪にはなかなかの迫力がある。それも目の前のギリギリで止めたらね。
「ガードだよウルフくん」
先に右手の親指を動かすことで鋼糸が僕の目の前に来る。どこに糸が来るのかは僕にもわからないが大抵は全身を守ってくれる。
「でも親指を曲げている間は君に攻撃ができないんだよねー」
近接ガードをしてしまえば僕は動けなくなってしまう。攻撃に必須な右手の親指を固定しているからだ。
だが僕もバカじゃない。糸の組み方は数え切れないほどあるんだ。このまま人差し指を引けば……。
「グルア!?」
「君の体を拘束することだってできる」
中指から小指まで引くと無造作に魔物を拘束した。
「ガウガウ!」
ヨダレを垂らして錯乱している。
「グルオオ」
「ガガガ……」
自分の分身を生み出したのか……。
本体は間抜けにも宙吊り。僕が親指を引けば本体は細切れだけど複数体相手にはちょうどういい。
「ほいさ!」
仕切り直しで本体を遠くに投げ飛ばす。糸も全て解除して複数体に向けて順番に攻撃を仕掛けた。
分身は部位破壊で簡単に消滅する。精度はあまり良くないのか本体ほど動きはよくない。
ただ叫ぶほど数が増えるので一体一体チマチマ相手をしていると数で圧倒される。
「ガウルルル……」
シュルっと鋼糸の操作数が増える。このままでは互いが絡み合って危ない。
「複数戦はまだ慣れてないみたいだ。早いけど切り上げさせてもらうね」
爪で掻くように右手を胸に引き寄せる。
すると周囲に広がっていた鋼糸が支えを無視して一瞬で圧縮する。
支木は芯から折れて魔物の方に倒れだす。オマケに圧縮した糸が魔物たちを斬り裂いて血になった。
「ここまで派手になるとは思ってなかったなー」
これが範囲攻撃。
一撃必殺であるため使っていた鋼糸は千切れて使い物にならなくなった。残り三本。これだけあれば十分に戦える。
「鋼糸はロマンの塊。ドンは糸では戦わないけどこういうスタイリッシュな戦術もありだよね。ふぅ……」
疲れた。ただの鋼糸では強度が足りないから魔力で補っている分魔法と同等の持久力。長くは舞えないのが残念だな。
とはいえ遠距離であることは変わりない。手の内は多いほうがいいのだ。
今夜はもう一度襲撃を行う。エルフの少女には悪いけど10万マニー掛かってるから悪くは思わないでくれ。
僕はお金で動く人間なのだ。




