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2.それでも僕は鍛える

 体が軽い。気持ちの良い朝日が見える。ここはどこだろう。天井が見えて窓が見えて……窓窓窓窓窓……。


「──ッ!?」


 窓!?


 古びた木造の枠に少し汚れたガラス板。病院……というわけでもなさそうだ。民家のような……それも結構昔ながらというような見た目だ。


 なぜこんなところに。いや、それよりもなんでだろう。体は軽いがうまく体が動かない。矛盾しているがしていない。


 まさか後頭部を打った後遺症だろうか。体のほとんどの感覚がない。


 ほら、手だってうまく動かせない。目の前にある手は不器用に目の前を飛んで小さなグーを握ることしかできない。


 そう、小さなグーを。小さなグー……小さな……グー?


 開かない手より僕は、自分の手が小さいことに驚きを隠せない。


 測定機で計測不能の握力を叩き出した勇敢な手は、いつの間にかプリチーな拳になっていた。


「ぅあ……」


 ど、どどど、どうなっている。目の前にあるのが僕の拳というなら僕は!


 ──赤子になってるぅぅぅぅぅうう!?


「おぎゃぁぁぁぁああああ」


 くそう。何がどうなっているんだ。僕の自慢の体がリセットされている。そして現代とはかけ離れた建築様式。すすのように霞んだ黒い木造の建築はまさかタイムスリップしたのでは!?


『ご飯の時間かしら?』


 うわっ! びっくりした。女性……しかも顔つきは日本人じゃない。東アジア特有の幼っぽい顔でなくシュッとした美人だ。


 なんだなんだなんだ。何が起きているんだ。


 ──あれは……なんだ。


 僕の混乱した意識の中に飛び込んできたのは黄色いモヤのようなもの。それは目の前の女性の周りを覆っている。


 さらに周囲に見える家具にも、空気にも黄色いモヤは飛んでいた。


 花粉……ではなさそうだ。それなら僕は今頃くしゃみ三昧で死んでる。だったらこれはなんだ。


『泣き止まないわね』


 何を言っているんだ。日本語でも英語でもない。少なからず僕の生きた世界の言語じゃなさそうだ。


 その時僕のぷにぷにの腕に赤い跡を見つけた。


 どうやら腕を振り回した弾みでどこかにぶつけてしまっていたのだろう。切って血が出ていた。


「おぎゃあ、おぎゃあ!」


『あらあら怪我してるの? 直ぐに治してあげるからねー』


 目の前の女性は僕の傷を見るなりそこへ手を当てた。次の瞬間黄色いモヤが集中して僕の体の中に流れ込んできた。


 内側からむず痒いような、不快な感覚がする。


 次の瞬間僕の腕は綺麗になっていた。裂けた皮膚は真っ白でハリのある皮膚へと元通り。普通掠り傷でも一週間の回復行程を経てから傷が塞がる。それに跡だって普通に残る。


 目の前で起きたことは奇跡としか言いようがない。そしてそんな奇跡を起こす力に僕は見覚えがあった。


 ──魔力。


 マナやオドみたいな呼び方でも良い。こんな非現実的な力を持っているのは魔力以外に存在しない。


 故にここは『異世界』である。


 タイムスリップでもない新たなる未知の世界だ。


 なぜ僕がこんな世界に来たのだろう。夢にしてはあまりにもリアルで、更に前世の記憶を反映できる時点で夢ではない。


 夢とは架空の記憶が埋め込まれ違和感のないように世界を作っているのだ。


 しかしこの世界は違和感だらけ。よって現実離れした世界であるが現実なのである。


 試しに僕は魔力に触れそれを体中に巡らせた。扱い方は本能でわかっている。僕の体内にも魔力が存在しているみたいだ。


 ぐるぐると巡りに巡って……ぽん!


 どうやら体が自由に動かせるようになったみたいだ。仮にこれを『身体強化』と呼ぶならとてつもなく効率的だ。


 前世ではあれだけ悩んだ筋肉のデカさをどこに仕舞うのかを解決できる。


 魔力に蓄えいざとなった時に解放する。そうすれば見た目細マッチョでベンチプレス300とか上げれるんじゃないだろうか。


 いやいや、自惚れるのはよくないな。


『嬉しそうねー』


 女性が僕に語ってきた。相変わらずなんて言っているのかは理解できない。


 そして多分だが僕はこの女性から生まれてきた。つまり彼女は僕の母親ということになる。


 どういう原理なんだ、僕の実母は二人いることになるじゃないか。


 とまあそんな話はさておき。母親がこんなにも美人だったら僕の顔はきっとスマートでカッコいいんだろうなー。


 もしかして、美少年っていうことも……。


 ふと僕は気配を感じて母親の顔から目をそらす。


 そこにはたくましい男の……ハゲがいた。


 しかもその男は母親の側にくっついて僕をあやしている。


 終わった……多分このハゲが僕の父親だ。


 母親は二十代前半、父親は二十代後半。この歳でハゲは流石に僕の将来が危うい。


『おーよしよし可愛い我が子よー』


 おいハゲ痛いって、髭がジョリジョリで痛いってば。


 父親の不快さに僕はパンチをかましてどかす。


 すると大きく後方にぶっ飛ぶ父親。


 どんと壁に激突すると父親は力なく地面に伏せた。


 あごめん、魔力で身体強化したまんまだった。


 使い所は考えないといつか人を殺してしまいそうだ。


 まあなんにせよ、この空気に漂う魔力……興味深い。筋トレに次ぐ新たなパワーを感じる。真の意味で体が自由になるまでは楽しませてもらおうか。


 既に僕の計画では朝昼晩筋トレならぬ魔トレをするように計画を立てた。


 少し触れただけでもわかったが前世の筋トレが否定されるほど簡単に鍛えられる。


 いや、1レベルと50レベルだと成長速度に違いが出るか。それに鍛え方を初めから知っているのだから。


 これまでやっていたことがもう活かされていると考えると、あの時自分が正しいことをしていたのだと再認識できる。


 ああでも単体の力に頼りっぱなしはだめだってドンも言ってたし……喋れるようになったら筋トレし始めよう。


 ドンみたく、強大な力を手に入れたあとに『死にたいのか、お前には無理だ(イケヴォ)』とか言ってみたいなー。


 支配者ってパターンをいくら想像しても尽きることはない。そしてこの魔力という第二のパワーもある。


 ふふふ……これで僕は自分の野望に近づくことができた。


 新たな一歩は新たに始められることなんてそうこない。この奇跡、存分に使わせてもらおう。 


「あぶぅ……ばば、ぶう」


 手を掲げ、僕はニギニギする。


『あらあらご機嫌ねぇ』


 やっぱり母親が何を言っているのかわからない。いつか話せるようになった時はいい子でいよう。僕がこれから成し遂げることに両親はひどく傷つくだろうから。


 その時が訪れるまで僕はいい子でいることにしよう。


 いやー実に楽しみだ。


 異世界で最高の支配者になる。


 いいや、実力のある異世界人になる!

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