19.今会ったらまずいやつだ
アケルナー村を襲撃してから12時間後。僕は大量に虐殺したとは思えないほどの振る舞いで堂々と王都を歩く。
その時の王都の様子が少し変わっていた。
活気がないに近い雰囲気だ。出店は全てシャッターや休業の貼り紙をしていて人気がなかった。
代わりに今日は教会が大忙しのようだ。
普段は大人で溢れる教会だが今日に限っては子どもが多い。みんな希望に満ちた表情で教会に入っていく。
「そういえば今日は天命の導を授かる大事な日か」
天命の導は14歳に授かる特別な力。こうして毎年12月初めになると教会で力を渡される。厳密に発現するのは15歳の時だが。
今日の教会には何人に女神が舞い降りてくるか……。
「ふむ……」
それよりも街に聖騎士が多いことが気になるな。出店が全て閉鎖されていることもあってかいよいよ本格的に問題視し始めたというところだろう。
王都の流行り病。アケルナー産の作物の回収かな。全部回収するには相当な労力が掛かるだろうが流石は聖騎士、険しい顔一つせず笑顔で対応し協力金を渡している。
それにあの女騎士……妙に親近感が湧く雰囲気がある。こんな事言っていいのかわからないけどおっとり天然バカだあの騎士は。
接する人々全員に優しいし、子どもからの人気もある。業務中だろうに子どもの相手までするなんて尊敬に値するね。
「ソリスー!」
背後から穢れなど知らなさそうな女の子が道の脇から走ってきた。
ソリスとはあの子どもに囲まれている女騎士のことだろう。今は業務中だ、空気ぐらい読んであげなよ。
と、横目で流しているとなにもないところですっ転んだ。どてーんという風に派手に転ぶと彼女の目には涙が浮かんだ。
「……可哀想に」
膝と肘を擦りむいている。手に持っていたであろう何かが宙を舞って僕の方へ飛んできた。
「花……?」
見たことない花だった。
流石に男に花は似合わないのでお返しすることに。僕は泣く彼女に向かって花を返すことにするが……。
「はいこれ落としたよ」
「うわぁぁあん!」
と、痛みでそれどころじゃないみたいだ。
「あーえっとぉ……」
それどころか僕を見てさらにギャン泣きしている。このままでは僕がいじめたと思われかねないし……。
「ちょっと我慢しててねー」
魔力を細めて彼女の傷口にチクッと何本か刺した。
普通は光属性がなければ怪我の治療なんてできないけど、無属性でも細胞の刺激ができれば簡単な傷ぐらいは治せる。
「よし」
まっさらで痛々しい傷は塞がった。これで彼女が泣く理由はないし花を返して終わりだ。
「ほい、これ落としたみたいだから返すね」
女の子は涙を貯めてから花を見た。
そして塞がった傷を見て驚き目を見開いている。
なんともアホみたいな表情だ。こんなことのために時間など使っている暇はないというのに。
「あ……ありがとう……」
「どういたしまして」
怪我治療に対してか花に対してのお礼かはどうでもいい。今は聖騎騎士が多いし目をつけられたら面倒で……。
「はいそこまでですよ〜どこに行くんですか〜」
と、弾んだ声に僕の腕が掴まれる。
「え、えと……どちら様で……?」
聖騎士だ。それもすぐ近くにいたあの女騎士に捕まった。だから早く去りたかったのにこの女の子のせいで……。
別に悪いことはしてないので話せることを話してすぐに解放してもらおう。
「私はソリス。君は?」
「レインっていいます……どうぞ頭の片隅にでも」
「その謙虚な挨拶誰かさんに似てますねー」
いきなり知らんやつ出すのやめてくれ。話がごちゃごちゃになる。
「それでは僕は用事があるのでこれにて失礼させていただきまーす!」
「待ってください」
「うっ……」
挨拶はした。質問にも答えた。残る理由などなにもないはずだ。
「まだなにか?」
「あなた結構幼く見えるんですけど……歳はいくつですか?」
「8歳です」
「8歳ですか……ふふふ、まだ可愛らしい時期だと言うのにその無愛想は嫌われてしまいますよ?」
こいつ子供相手になんてこと言うんだ。僕だってやりたくてやってるわけじゃない。なんかこう……ソリスと話していると脳裏にあのゴリラがチラついてしまう。
何故だろう。
「団長!」
するともう一人の騎士がやってきた。こっちは男のようだ。
「また子どもの面倒見ているんですか。良いことではありますが今は控えてください」
「わかっていますよ。それより見て下さいこの子ども。昔のあなたにそっくりですよ」
「えっ……」
「騎士様にそっくりだなんて僕にはそんな大層な役目は担えません」
僕が首を振り謙虚な姿勢を示すと男騎士は頷いた。
「確かにそっくりだ……こんな子どもがまだいたなんて……」
「あの、盛り上がってるところ悪いのですが……用事があるのでそろそろ帰りますね?」
「ああすまない。子どもに気を使われるなんて大人として恥ずかしいところだ」
ホントだよ。
「ちょっとルイスさん。まだ彼には聞きたいことが……」
「遠くから見てましたがこの男の子が女の子を泣かせたわけではありませんからね」
「そうだったんですか!? それは大変失礼しました」
そう言うとソリスは頭を下げてきた。
「転んだ少女の傷の手当てをしてくれていたみたいだ。もしかして君は光属性が使えるのかな?」
「はい使えます」
説明が面倒でつい嘘をついてしまった。だが騎士はいっぱいいるのだ。同じ人に出会っても接点がない限り僕の嘘がバレることはない。
「その歳で種を開花させているなんて凄いな。俺も光属性を持っているが開花したのは13の時だったぞ」
「あの……長くなりますか?」
「おっとすまない。君は用事があったんだな。うちの団長が引き止めて悪かった。後できっちり言っておくから安心してくれ」
「団長の私が部下に説教されるだなんてみっともないじゃないですか」
やっぱりそうか。彼女が聖騎士団団長ソリス・アグライアだ。まさかこんなところで会うとは。
にしても近所のお姉さんって感じがして何がすごいのか分かんないぞ?
「じゃあ僕は行きますね」
ファミリー作りをしている今、目をつけられたくないためそそくさに退場する。
ソリスが僕のことをじっと見ていたが特に理由はないだろう。その傍らで助けた女の子はキラキラとした目を向けてくれていた。
子どもって純粋で良いな。




