174.魔戦
「皆さん!」
再び現れる魔法陣からソリスは警戒するように言った。その魔法陣は生徒の足元にも現れており彼女はさらに絶望することになる。
「そんなっ……!」
全員の姿が半透明になりそれぞれの場所に飛ばされる。
マリアたちは『ヤカン』レオニクスの前に。
ルイス、ガリィ、ユノン、レイリアの4人は『魔人グラビウス』グラビウスの前に。
ルーツ団長含めその他騎士たちは『ノドグライ』ジョーの前に。
聖騎士団第1部隊とソリスは『セクレタリー』『オルガン』の四天王2人を前に。
『ダブル』のメリーとマリオネットは魔王城、門の前に待機していた。
「君たちはいい3人組だね。聖騎士の卵。1人はあの魔法剣を扱うのか、勇者の親戚だねぇ」
レオニクスは構えを取り3人を前に油断をしない姿勢を取った。周囲には魔物たちが大人しくレオニクスたちを観戦していた。
「あなたは……!?」
「私は魔王軍が四天王の1人、『ヤカン』のレオニクス。私を倒せば実質君たちの実力は魔王軍の3番目の実力に位置することになる。そのまま殴り殺されるかもしれないけどね!」
地面を叩き割るほどの踏み込み。
「いきなり転移しました。それに彼女……気をつけてください。彼女の魔力、かなり練り上げられています」
「殴られたと思ったらいきなり転移するとか……ついてないんだけど」
マリアは頬を押さえながら立ち上がる。
「御託は結構。さあ、今夜の相手は上物だ」
地面に左拳を叩きつけ地面を浮き上がらせる。衝撃で姿勢を崩したミリアナから狙うことにする。
「──戦術形態・乱」
レオニクスは空中で留まり魔力を一斉に解放した。
彼女を中心に全方位へと空弾を放つ。舞った砂埃すら撃ち抜く豪快な連撃。メリアは結界で防ぎ、ミリアナは致命傷は避けたがかなり被弾する。マリアは少ない被弾で済んだ。
「──魔脚・空烈」
動きはゆっくりだが威力のある空弾。
「この練度の攻撃……くっ……近づけない!」
「いきなり純粋な人間と戦闘するのは好きじゃないけど、魔王の命令となれば仕方ないよね」
いきなり始まった戦闘にミリアナとマリアはついていけてない様子。戦闘慣れしているメリアが唯一反撃に出られる。
「おっと……魔法剣か」
レオニクスの頬を掠めた。
「でも簡単に撃ち落としちゃう」
空弾で全ての魔法剣を撃ち落とす。
「反応速度が並ではありませんね。マリアさんたちは交代交代で隙をついてください。私がその隙をつくりますから」
「わかった!」
「剣士はこれだから厄介だ。私は1人なのに寄って集ってかなっ!」
言葉に反して彼女は楽しそうだった。
煌めくマリアの突きを片手で弾き返しつつ、魔法剣を素手で叩き折る。
歯を食いしばるマリアは弾かれた反動を殺して凄まじい力で横に薙ぐ。
「おお……!?」
バシンと白刃取りして彼女を押し返す。
両手が塞がった好機を逃さずミリアナが火属性を付与した刃でレオニクスの脇腹辺りを斬りつけた。
「っ……かぁぁあ!」
彼女はそのままマリアをミリアナにぶつけて追撃の魔法剣を撃ち落とす。
「──魔掌底・実烈」
強く踏み込んで空気を押し出す。空気が瞬間的に加速し前方広範囲に伝播するように波打った。
3人の鼓膜に深刻的な大ダメージを与える。
「ぐがっ……」
「──魔神殴殺拳」
ミリアナの腹に直撃。一瞬の出来事で彼女も何が起きたか理解できていなかった。空に飛んだ時ようやく自身が一撃受けたことに気づき嗚咽を漏らす。
「ミリアナ!」
「威力は抑え気味に……殺したら勿体ないから」
内臓には損傷が起きているが致命傷ではない。
「あまり楽しくない戦闘になって欲しくないし。今度は君かな!」
「マリアさん!」
華麗に飛んで跳ねるレオニクスはマリアの足元を落下地点として踵落としの構えで落ちてくる。
「がっ!?」
咄嗟に両腕でガードしたマリアは、パキンと骨が折れる音がする。だが構わず防御し続ける。
「今の人間ってこんなに我慢強いんだ。じゃあ仕方ないか、ここで楽にしてあげる!」
「──宝剣襲撃」
「と思ったら来るよねぇぇ!」
マリアをそのまま台にして宙に浮く。
「──魔掌底・空烈」
魔法剣を地面に押し戻す圧倒的な威力。だが数本の魔法剣がすり抜けてレオニクスへ突き刺さる。
「何本もの剣の中に本命を混ぜてた……やるねっ!」
乱れた呼吸に撃ち落とされていた魔法剣は次々にレオニクスを突き刺す。
「いい誘導。だけどこれだけじゃ何か足りない。こんなにちまちまとした攻撃では私は殺せないよ!」
魔力が爆発する。
突き刺さっていた剣は巻き戻るように跳ね返ってくる。
────
「なんだコイツは!?」
地面からは伸びる塔のような巨大生物。周囲には魔物も群がっており騎士団らは常に警戒態勢を取らざる得ない。
「ルーツ団長!」
「あれはかなり骨が折れる相手だな。俺たちの得意とする魔物相手なら……役に立てそうだ」
「役に立つ……? それはボクをこの場に鎮めるという意味であってる?」
巨大生物は騎士団を睨む。
「なっ……コイツは魔物じゃねーぞ!」
「残念。周りにいる子たちは魔物だけどボクは違う。ボクは『ノドグライ』のジョー。聖騎士団は僕の情報を届けられてなかった。そう考えたほうが良さそう」
ジョーは地面に潜る。
地響きのような唸る音に彼女が地中で活動していることが分かる。
そして静かになった。
「なんだ……?」
周囲の魔物はそんなジョーの動きに合わせるように騎士団たちへ襲い掛かり始めた。
「団長! さっきのやつは!?」
「知らん! だが周りの魔物を減らす時間をくれて助かった。これならいける!」
声を上げながら戦う騎士たちは魔物の数を次々に減らしていく。
「ッ……!? いつの間に集められている?」
魔物を倒すことに夢中になっていた騎士たちは一箇所に集められていた。それをルーツが見ると直ぐに散るように命令する。
「味方に攻撃が当たるぞ! 散れ!」
すると突然、地面が蠢くような凄まじい振動を発した。先程の巨大生物が動いているのだろう。
「なぜこのタイミングで……」
魔物たちが一斉に逃げ始める。それを見たルーツは何かがおかしいと気づくと彼女の思惑に気づくのだ。
「逃げろお前たち!」
だが気づいたときにはすでに手遅れだった。
地面を突き破ったジョーは一箇所に集められた騎士たちを丸呑みにした。バクッと一気に戦力を失った騎士たちはジョーの攻撃に怯む。
「みんな……」
「これで1割ほど削れた。さあ、攻撃しないと倒せないよ」
「よくも俺の息子たちを食いやがったなぁぁぁ!」
「ふん、危ない」
即座に地面に逃げるジョー。
「待てぇ!」
「ボクはこんな戦い方をするんだ。君たちを喰らい尽くすまではこれで……」
ジョーは食らった騎士たちを例の集落まで送り返した。もはやジョーの役目はこれで終わっている。騎士団の戦力は聖騎士団の足元にも及ばない。
団長のルーツも特別な力を持っているわけでもなく、ありえないほど役に立たない。聖騎士の一般兵レベルである。
「とんだ興ざめだ。レオニクスが嘆くのも分かる」
騎士団の存在自体ほぼ必要がない。
なのになぜ存在しているのか。自治であれば冒険者や聖騎士団だけで十分である。
「もはや攻撃の必要もない。魔物たちで消耗させた後に喰らってあげよう」
────
重力攻撃が地面を変形させる。魔人の名に相応しい厄介な攻撃と練度。中には地面を掘削するまで強力な技を放ってくる。
ルイスやガリィはすでに満身創痍の様子だ。
それをユノンやレイリアがサポートする形で回復の時間を取る。
「近づけない……どうやったら彼女に近づける。俺たちがまだやってないことはなんだ……」
魔王のバフにより強化された四天王はかなり厄介なようで、隙のない魔法に体力だけ削られる。
「ユノン、お前アレをどう捉える?」
「えっ、ボクですか!? えーと……身体を1つも動かすことなくボクたちを近づけさせないよう上手く立ち回っている気がします。近接は対応できないのでは? と感じてます」
「だよな。他の聖騎士たちも相手しながら近づくことさえさせないなんて……絶対に何かあると思うぜ」
「しかしなぜでしょう。まるで俺たちを殺そうとはしない。しようと思えば風穴を開けるだけで十分僕たちを殺すことができる。彼女の目的は一体……」
魔法すら撃ち落とされる事実。
「やはり近づくしかないのか」
「オホホホホ。近づけないようですね。私めの魔法はそれぞれの位置を感知するものです。こっそり近づこうとしてもこのように──」
「ぐはっ!」
ルイスは魔力を消しながら接近を試すが押し潰される。
「連携、魔法に体術、剣技……もはや見れるものは見終わったのも同然です。他の戦力測定が終わるまで私めは自身の魔法でも極めておくとしましょう」




