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15.奪う者と追う者

 王都に到着後直ぐに騎士団相談窓口というところで噂を流した。


 アケルナー村が汚染された作物を輸出しているというなんとも意地悪な情報だ。証拠にアケルナー産の果物を毒に犯して提示した。嘘がバレれば牢獄行きだがまあ大丈夫だろう。


「へふー」


 後はアケルナー村がどこにあるのか聞くだけだ。ぐちゃぐちゃにするのは今夜にしてと……。


「おん?」


 ぶらりぶらりと適当に路地を歩いていたら昨日と同じ場面に出くわした。顔の見えない人物が寝込んでいる少女の頭を掴んでいる場面だ。


 少女は恐らく流行り病の魔力解放に掛かっている。


 不思議と眺めていると何やら彼女から取り出しているようだった。


「あ……」


 赤色……才能の種、火属性か。


「──ッ!?」


 僕は窓ガラスを蹴破り室内に侵入した。顔の見えない人物は僕を見るなり直ぐに戦闘態勢に入った。


 慣れてるな。


 幸いにも少女の種は奪われていない。


「通りすがりのやんちゃボウズでーす。間違えてガラスに突っ込んじゃいましたー」


「──死ね」


 シュンと小柄な体が消えた。


 声は高く少年にしては動きが柔らかい。女の子かな?


 左からナイフが接近する。


 と思いきや左からは魔法が飛んできている。殺傷能力の高いランス系統の魔法だ。


「殺さないでー」


 ナイフの刃を指と指の間で止め、魔法は近くにあった机でガードする。


「なっ……!?」


 パキンとナイフの刃を折ると彼女は後退した。


 いい判断だ。でなければ僕の拳がその腹に貫通してただろう。


 突き上げた拳が空を切ってしまった。


「なんて子どもっ! 腹を抉り出そうだなんて」


 意外とすばしっこい。攻撃が当たらないのはストレスだ。防御の一つでもされたら嬉し買ったのだが……。


「君も子どもじゃないか。感じるよ才能の種。たくさん持ってて羨ましいなー」


「──ッ!」


「今自信なくしてたでしょ? だよねー人から奪うのが自分の才能だなんて言えないもんねー」


 確定だ。アケルナーの奴らは王都にいる人々を弱体化させて種を奪っている。


 流行り病が同時期に現れるのは君たちの仕業だったのだろう?


「──絶対に殺す!」


 知った者は確実にと言うやつだろうか。


「残念だけど君も僕の素顔を見ちゃってるから見逃すつもりはないよ」


 生憎今はローブを着ていない。ここで潰さないと僕の素顔がばら撒かれて終わりだ。


「──アイスフィールド」


「──レジスト」


 魔法を外から干渉して打ち壊す無属性の魔法。成功率は二割とギャンブルだったが近くで病人が倒れているためやるしかなかった。


「嘘!?」


「人が見えないのか? 罪なき人間を魔法の餌食にするなんて人としてなってないね」


「くっ……! うるさい!」


 僕を対象にした魔法。


 レジストする必要がないのはありがたい。


「隙だらけだ」


「や──!」


 魔法行使には前隙があることを忘れてしまっていたのかな。


「ぐうっ!」


 男女平等パ〜ンチ!


 彼女の顔の骨がバキッと割れると大きく吹き飛んだ。衝撃を与えるだけの拳を顔面で食らったのだから当然。


 叩きつけられるように路地に出る人物は息を切らしながらも魔法を唱える。


「回復魔法はあまり意味ないと思うけど……」


 全身を擦りむいたようだ。


 膝からは血が流れている。


「弱いね属性魔法。奪った物は弱体化するんだね」


「ヘラヘラと……わかったように言葉を並べるな!」


「おおレイピアか」


 隠し持っていたか。あれで突かれるのはヤバい気がする。


 チラリと部屋の中を見ると少女私物であろう鉄剣が立てられていた。


「悪いけど借りるよ」


 スッと剣を抜く。


 踏み込む影の人物の突きを皮一枚で躱してレイピアを叩き折る。


 そして影の人物の首を掴んで鉄の刃を腹へ突き刺す。ドシュット背中まで貫通したようで彼女の動きが止まった。


「あ……が……」


 剣を上下させ可能な限り内臓を損傷させる。


 僕の動きに合わせて彼女が震えるのがわかる。


「おっ……」


 痛みで苦しんでいたのにも関わらず剣を掴んで引き抜いた。


「タフだね──」


 僕がそう言う前に彼女は屋根に登って逃げ去った。


「逃げ足も速い。初めからそうしていれば腹に穴なんか開けられなかっただろうに」


 さてさて追いかけてもいいけどまずは剣を返さなくちゃ。汚れちゃったしきれいにしてあげないと……。


「うっ……うぅ……」


 少女がベッドから這い出て呻きを上げている。


 戦闘音大きかったし起きちゃったか。


「あ……ぐっ……」


「苦しそうだね。治してほしい?」


 少女はボヤケた目で僕を見ていることだろう。現実か夢か気づいてない。そんな状態で彼女は僕の問いに頷いた。


「いいよ。出世払いね」


 剣の血糊を全て払い鞘に納めた後彼女の肩を掴んで治療を始める。顔を見られるとまずいので……。


「──スリープ」


 現代魔法じゃ効き目が弱いな。


「──夢見鳥の楽園(レルオーラ)


 古代魔法で眠りについてもらおう。


「剣を貸してくれたお礼だしやっぱタダでいいよ」


 治療は3分程度で終わった。慣れてくると早くなるんだろうけど精度は落ちる。限定的だし明日には使わなくなるだろう。


「これでよし。ガラス代の請求は勘弁してね」


 人の集まる気配がする。騒ぎを聞いて聖騎士団を呼び出したのだろう。早いとこ抜けてあの子どもを追いかけないと。


「それじゃ──」


「いか……ないで」


 腕を掴まれた。


 一瞬ドキッとしたが彼女は夢の中。ただの寝言でしかない。僕に言ったわけじゃないしその手を払った。


 無意識だし可哀想だとは思わない。


「こんな悪い人の腕を掴むなんてすごい趣味してるよ君」


 そう言い残し僕は逃げ去った。


 後少しでも遅れていたら聖騎士団に囲まれていただろう。




 ◇◇◇◇




 魔力痕跡はバッチリ残っている。それに垂れた血の痕だって。


 王都を出た後まっすぐ森を突き抜けている。


「道じゃない最短距離だ。治癒魔法掛けながら逃げてるし相当深手だろうね」


 借り物の種で使う魔法で致命傷は治せないのだろう。逆に君は自分の巣穴に僕を誘導しているのだ。


 君のミス一つで仲間がどうなるかわかっていないだろうに。


「人の気配が増えた」


 走って数十分。魔力を辿るに彼女はこの辺の近くの村に姿を隠しているのだろう。


「誰かがこっちに向かっている……?」


 あの時の人間じゃない……エルフか?


 多様種族の村。ベルタゴスと同じってことはここがアケルナー村か。


 ガラガラと何かを転がすような音だ。荷物でも運んでいるのか……あれ、あの子って?


「周囲に目印っぽい物は……」


 あれは確か僕がこの前助けたトンガリ耳の女の子だ。アケルナー村に保護されたんだね。


「な、なに?」


 彼女が台座か祭壇みたいなやつに触れると急に意識を失った。


 すると彼女の姿はどこかに消えて運んでいた荷台も消え去った。


「はいぃ?」


 何が起きてるんだ。あの台座に触れるとワープするということか?


 見た目は苔むした像。田舎の田んぼにありそうな両手を合わせた像に似ている。


 そしてその近くにはヤバそうな古代文字とまっさらな書物が置いてあった。


「……これあかんやつじゃないの? 福音書みたいなカルトじみた本で──」


 僕がその書物を手に取りページを開いたときだった。


『──すけて……』


 微かにそう聞こえた。薄い声の少女の声。透き通ったその声は聞き覚えがあるようなないような……。


『──たすけて』


 まただ。今度ははっきりと聞こえた。


 助けてという一言。


「助けて? そもそも君は誰なんだ。助けて欲しいなら報酬を払わないとだめだぞ」


 ……喋らなくなった。というよりかは聞こえなくなった。


「意味深な言葉を残すあたりしっかりと異世界してるよなあ。僕なんて鍛えることしか考えて──」


 背後を見て瞬きしたその時だった。


 いきなり空が暗くなって明かりが消えた。夜だ。


「は、はぁぁあ?」


 ワープしたわけじゃない。夜になったのだ。


「ちょ……アケルナー村ってこんなギミックあんの?」


 前を向いて像のあった方に目を向けるが……。


「ええ!?」


 そこには何もなかった。なんの悪い冗談だ。僕は夢を見たとでも言うのか?


「日は完全に沈んでないけど……」


 異空間と呼ぶべきだろう。ただの村がそんな高度な罠を仕掛けられるのか? 考えにくい。


 それにさっきの像はあのときに似た魔力を感じた。去年僕らの村を襲った災害だ。


「それにしても『たすけて』か……」


 もしアレが助けてと言ったのなら意味がわからない。何を思っての助けてなのだ。


「考えてもキリがないな。今はアケルナー村の事だ」


 まだまだ僕も未熟だからね。聖騎士の旅団に匹敵する戦力相手にどれだけやれるのか……。


 ひとまず1人ずつ数を減らしていくか。

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