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141.そこには誰がいるの?

「ぐっ……暑い……」


 誰かいるの?


 目覚めようとしても意識が誰かに持っていかれているようでうまく動けない。


 夢……? いや金縛り? 現実と区別がつかない闇の部屋にいる気がする。私は地下から戻ってきて部屋で寝ていたはずなのに……。


 黒いモヤの中に何かが動いている気がする。でも現実と夢の狭間に居るようでハッキリとは認識できない。私は何を見ているの? どういう状況なの?


『……ち……こっち……』


 だ、誰? 誰かが私を呼んでいる。ミリアナでもメリアでもない少女のような声に体を刺激されてる。


 痛い、この痺れるような感覚。血が止まって全身に力が入らない。まるで雷に打たれたかのような焼き付く痛みだ。


『……誰も気づけない。気づかない。誰も助けないし、助けられない。それがぼくの力』


 誰!


『ぼくに名前はない。だけどこれだけは言える。自分は正真正銘の女神だと』


 女神!? 名のない女神なんて聞いたことが……。いやまさか、雷の女神? なんで私と対話ができるの。


『雷の女神なんて響きが悪すぎる。ぼくは人々に活を入れるために生まれた存在。即ち断罪の女神。このイカズチの力を持ってすべての民に罪を償わせる。女神を利用し、挙句の果てには忘れた代償を払うときが来た』


 ……意味がわからないし、それを宣言するためにわざわざ私の頭に話しかけてきたの? 痺れて動けないしどうなってるのこれ?


『準備は済んだ。ぼくはこの時をもって罪を清算しに行く。そのためにはあなたが必要なんだ』


 話聞いてないし。そもそも心読まれてるのって気持ち悪い。もともと女神には何かと因縁があるから近づけさせたくないんだけど。


『女神と因縁……気になる話だ。ぼくは誕生したばかりで他の女神のことをよく知らない。でもぼくより弱そうだ』


 弱そうって君は戦えるの?


 生まれたばかりの女神に力なんてなさそうだけど。信仰がなければ女神はお飾りでしかないのに。


『ぼくの逆鱗に触れたな小娘。まあいいや。どうせあなたはぼくに会いに来る。ここからは逃げられないし、逃がすつもりもない。ここにいる矮小な存在たちはいずれぼくを崇める教団に成り果てるのだ。この忌々しい結界も直に破壊してくれるだろう。さあ、ぼくを忘れた代償を払いに来い』


 代償も何も私は──。


「ぐっ……」


 全身に血液がまわる。痺れていた体は温かさが戻った気がする。明らかに異常な存在に目をつけられた。自分のこと女神だって名乗る異常者に心を読まれるなんて。


 変なこと思ってないといいんだけど。女神様は好んでいるけど亜神は嫌い。彼女の話し方、振る舞い方には女神の「め」の字もなかった。どちらかというと亜神。私の大嫌いな種族だ。


 奴らを崇拝している頭のおかしい集団も大嫌い。母を奪った罰は未だに与えられてない。それは私が弱いからだ。


 あのときのラッシュで思い知った。人形相手に役に立てていなかった。メリアの魔法剣がなければ今頃私だって偽物になっていたかもしれない。力不足だってのはわかる。けど昔と変わらないのは違う。努力しても何も縮まった気がしない。技、技術、技法なんて小細工は亜神には通用しない。必要なのは圧倒的な魔力と力だけ。


 ──すべてを理不尽に吹き飛ばす力が。


 母はそんな理不尽な力で散った。思い出したくもない。母の遺体は遺らなかった。血は雨で消え、肉体は霧になったってお父さんが言っていた。


 許せるはずがないのに、自分は弱いままだ。


 あいつにフルリエル程の神聖さは感じられなかった。少しでも成長しているなら踏み切れる気がする。本物の女神だって言うなら練習相手にはなるかもしれない。


 でも、それでも力が通用しないなら私は一体何を目指せばいいの? これ以上の力は手に入れられない。魔力は産まれたときから決まり、筋肉量は遺伝に大きく左右される。


 華奢な母に似た私には技しかない。それも理不尽な力には対抗できない。レインを巻き込んでまで入学したのに何一つ得られたものがない。


 お姉ちゃんを超えるのが不可能だって感じた時にはほぼ諦めていたけど、学園で何かが変わるって信じてた。


 でも実際は屈辱を味わっただけ。


 周りには強い人しかいない。自分はそんな強い人の戦力を温存するための道具。そんなものになるために学園に入った訳じゃない。理不尽で圧倒的な力を手に入れるために学ぼうとしたんだ。そしてお姉ちゃんを力尽くで止める。


 もう家族を亜神の餌にはさせたくはない。お姉ちゃんの邪魔をしてもお姉ちゃんを止める。そして誰も居ない静かなところで3人と……。


「……逃げてるだけじゃん」


 心がもう諦めてる。


 変な女神にも目をつけられたし運命を受け入れるしかないかも。嫌だなあ、怖いなあ。お姉ちゃんだったら勇敢に立ち向かって行くのかな。


 同じ血なのにここまで差が出るなんて。


「やめやめ! 考えるのやーめた!」


 強い人には強い人をぶつけるのがセオリーなんだから。お姉ちゃんや私じゃなくても他の誰かでいい。脅威に対して勇敢に立ち向かう人がいれば私たちは平和に過ごし続けられる……。


「まって……」


 そう言えばあの時母は私たちを守って亡くなった。フルリエルはまだあの場に残っていたはず。誰がフルリエルを追い払ったの?


 幹部の1人は母が仕留めた。その後は? なんで何も覚えてないの? 記憶があやふや。


 空がまだ暗かったのは覚えている。だけど誰が村を守り続けたの? 村にフルリエルと対等に戦い続けられる人はいなかったはず。そもそも亜神に対して夜明けまで抑え続けられる人間がこの世界に居るとは思えない。居るとしたら勇者ぐらい。


 あのあと村はどうなったっけ……。


 フルリエルの気配がプツリとなくなってから記憶がない。どうして思い出せないんだろう。


 わからない。


 母に会いたい。


「ぬぅ〜ん……」


 気持ちが良くない方に傾いている気がする。この作戦が成功しても自分にとってのメリットが少ないからかなあ。


 ここに留まっておけば強くなれる?


 いや、難しいかもしれない。


 自分が変わるキッカケを早く見つけないと。

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