14.普通に犯罪かも
清々しい朝……のようだがなんだろう……体がだるい。
実際にはだるいなんてレベルじゃないぐらい倦怠感があるんだが精神力の図太さでなんとか抑え込めた。
前日の夜には怪しい雰囲気の果実を頬張ったのだがおそらくビンゴだったのだろう。まさか僕が探し求めていた流行り病の発生源が食物だったとは。
アケルナー村……場所は把握してないがまた王都で聞き込みをしていれば情報が手に入るだろう。
にしても相当きつい。治そうと思えば一瞬で治るけどそれじゃ意味がない。まずはマリアの症状と比べて他人を治せるようにならないといけない。
僕の根は腐っても目の前の人を助ける心は残っている。
「体が不調過ぎて心配されそうだな」
うつったなどと言われるのは面倒なので自然な形で接触したいが……。
「セリアに鉢合わせ無いようにしないと……」
勘だけはいい野生児なので近づかれたら終わるのだ。
「──レイーン」
僕を呼ぶ声。噂をすればセリアだな。また稽古に付き合えだの言うつもりなんだろう。だがお生憎と今の僕は体調不良で拳すら握れない。すり抜けさせてもらうよ。
窓から裏に飛び出し慣れた動きで、喉越し最高の麺のようにヌルリとミストラル家に入った。
普通に不法侵入である。
「えっ……ちょ……」
マリアが窓から入ってきた僕をみて驚いたようで……何故か下着姿だった。
「あ、ごめ──」
バチーッンといい音が響くと僕は一回転して倒れた。
◇◇◇◇
「女の子の部屋に無音で侵入してくるとかあり得ないんだけどっ!」
僕は目隠し状態で両手を縛られたまま椅子に固定された。
「ごめんごめん、マリアに用事があって」
家に入る前に一言声をかけるべきだったが普通に忘れていたな。しかも相手は女の子、やらかした。
「もうっ! 年頃の女の子の素肌覗くだなんてレインのバーカ!」
「反省してます反省してます。だからあんまり騒がないで……」
セリアがこちらに着てしまう。
「わかってるよセリアお姉ちゃんが面倒なんでしょ」
「僕の天敵だ。あれだけはなんとかして抑えないといけないかも……」
「全くレインがそこまで変態だとは思わなかったよ」
8歳の女の子がそんなセリフを言わせるのは些かやり過ぎたのだろう。前世とはほとんど女の子と接しなかったから扱いがわからないなぁ。
「それでなんの用なの?」
「ちょっとだけ流行り病について調べようかと。シスターさんからもらった薬あったでしょ? 効果が現れる前に試しておきたいんだ」
これは建前だ。
病気治療の実験体にするなんて言えるわけがないだろう。それにシスターの薬はただの栄養剤にすり替えているためいくら待とうが効果は現れない。
「試したいこと……別にいいけど変なことはしないでね」
「うんしないよ。だからこの目隠し取って両腕も解放してほしいな……」
シュルシュルと布が取られると僕は自由の身に。今から君は実験されるというのになんて無防備な。
「で、私は何すればいいの?」
「何もしなくてもいいよ。ちょっと確認するだけだから」
僕はマリアの肩を掴んで魔力を流し込む。
繊細な魔力だ。体の隅々まで行き渡る極細の魔力。
やっぱり、流行り病はアケルナー村の作物に紛れてやってくるのか。僕の持つ症状とマリアの持つ症状が完全に一致した。
「なるほどね〜」
魔力回路。しかも種を覆う大事な部分をピンポイントで傷つける病気。こんなの裏がない方が珍しい。奪おうと思えば直ぐに奪える状態の種。
四つ持ちの彼女が二とか三になる前に治療しないと。大事な才能だ、それだけは守ってあげたい。
「終わった?」
「うん、なんとかね」
「なんとか? なにかしたの?」
「いや何も」
治療はほぼ終わり。
魔力回路を支配していた魔素を、全て押し出し置き換えるだけで簡単に治せた。あとは魔力回路の自己再生を待つだけ。
「あれ……なんだか体が少し楽になったかも」
「シスターの薬が効いてきたんじゃないかな?」
んなわけがない。自然に治療するだけでも数年は掛かるのに飲み薬一つで直ぐに良くなるはずがない。
「そうかもしれないかな。ねっ、そういえばあの薬はレインが届けてくれたんだよね?」
「運んだのはね。貰ったのは君の父さんだと思うよ」
「ありがとっ!」
「お礼を言われるまでもないよ」
「素直に受け取っとけばいいのに。後で仮として恩を残しておけるしね」
その手があったか。まあどうせすぐに忘れるし意味ないけど。
「そういえばマリアはアケルナー村に行ったことあるの?」
「場所は知らないし行ったこともないけど聞いたことはあるよ。確かベルタゴス王都の教会で見たかな? 金色の獣人の人が確かアケルナー村の人だった」
獣人。この辺ではあまり珍しくもない種族だ。ベルタゴスは多様文化を尊重しているみたいでいろんな人をウェルカムしているようだ。
今では文化は統合され新たな文化となっているようだが。
「昔見て聞いただけだから、もしかしたら間違ってる記憶かもしれない……」
「十分だよ」
「そうそう、アケルナー村の評価はベルタゴスではかなり高いみたい。忠誠心が凄くて無理な税にも文句一つ言わずに支払うそうだよ」
税……だと……?
この世界にもそのような巻き上げチューチューシステムがあるとは。ここでも政治家は他国に操られて金製造機になるのかよ。
「まあただ忠誠心が高いだけじゃなくて村の人達が優秀すぎるってのもあるけどね」
「優秀すぎる……ねぇ」
「聖騎士団の話を聞くに素質である種を複数所持している人が沢山生まれるそうだよ」
種……才能の塊であるそれが複数所持で大量に……?
なんだろうこの異様な点と点が線になる感覚は。
王都で流行っている病は人の才能、いわば開花する前の種を剥き出しにする病気だ。埋まっていた種を掘り返されたと表現するのがもっともだ。
アケルナー村……これはもしやビンゴか?
「それは将来有望な村だ。反乱されたりでもしたら王都は立て直せないんじゃないか?」
「そのために高い税を掛けて資金的に強くならないようにしているんだよ。あそこの村は言っちゃえば聖騎士団の旅団に匹敵するほどの戦力があるんだって」
普通に強いやん。数百人で構成される村が旅団に匹敵するのはかなりの戦力があるといことだろう。
いや考えたらおかしいぞその戦力は。
「そんなに強いなら聖騎士団にでも志願すればいいのに」
「詳しくはわからないよ。でも村には村の規則があるからね。滅ぼされないように自衛に力を入れてるんだと思うよ」
「なるほどね」
アケルナーの作物の闇を知ってるし、悪巧みしてるとしか思えないんだが。
「そういえば王都で流行ってる病の出所がわかったんだってさ。どうやら屋台に並べられている食べ物から感染しているようなんだよ」
本当の出所はアケルナー村。屋台からなどと、わざわざ口にしたのは信用ができるからだ。
「新種の病原体かな。それとも食中毒?」
「うーん、食中毒に近いらしいけど特殊だし聖騎士団も良くわかってないらしいよ」
「そうなんだ。でも原因がわかってよかったよ。王都でずっと流行ってたら気軽に行けなくなるしね」
「まあ王都で飲み食いしなければ大丈夫らしいし」
それよりも病気の巣窟を崩すほうが安全か。ドンの教えでは自ら行動しないことが鉄則らしいし聖騎士団に情報を流して放置すれば大丈夫か……な?
「ねねっ」
「んー?」
顔色の良くなったマリアがニコニコしながらとある物を見せびらかしてきた。
「そ、それはっ!?」
「1枚10万マニーの金貨。子どもが持てるお金じゃないけどこないだ行った王都で拾ったんだ」
それと同時に病気も拾ってきたと。いやまずそれネコババだろ、犯罪だぞ。それを僕に見せびらかして何をするんだ!?
「な、なんのつもりかな?」
「私はこの病気に散々苦しめられてね。体中痛いし吐き気も凄かった。だから凄い恨みがあるんだよね」
「──つまり?」
「私を病気にさせた店主に一発蹴り入れてきたらこれあげるね」
依頼……10万マニーの依頼だ。
「け、蹴り?」
「あー後もう一つ。その食品全部ぐちゃぐちゃにしてきてよ。怒られてもいいからさ。10万マニーだよ? やってきてよ」
「それは僕に依頼してるんだよね?」
「ん? そだよ」
店主に蹴り、食品をぐちゃぐちゃにする。
つまりアケルナー村の村長は生け捕りでそれ以外はぐちゃぐちゃと言うわけだね。
「クックックー。いいだろう、その依頼承ろうじゃないか」
「証明はどうしようかな……まあレインなら嘘つかないだろうし口頭でいいよ」
それはなんというか危ない橋を渡り過ぎでは。
「何その目。やる気満々じゃん。そんなに私のことを想ってくれてるの? やーもうレインのスケベー」
そろそろお仕事の時間だ。こんな呆けた馬鹿は無視して王都に出よう。
「もう行っちゃうの?」
「うん。どうせなら早いほうがいいでしょ?」
「むう……確かに」
名残惜しそうな感じだったが彼女が僕を引き止める理由はないしすぐに王都へ向かった。




