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実力ある異世界人を目指して〜憧れの悪役は実力隠してやりたい放題  作者: グレープファンタジーの朝井
5章 逃走任務

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129/180

129.勝確

「なんで悔しそうな顔してるの?」


 正常になったマリアはムスッとした表情で座っていた。


 あの後2人は得た物を全て持ち出して、作業エリア隣にある廃工場へ訪れる。


「だって……てっきりそういう流れになるかもって思っちゃったから……」


 彼女はゴモゴモとしていてはっきり言わない。


「……口移し?」


「言うなばか!」


 レインは気にしてない様子で答える。


「口移ししたら僕までああなっちゃうからね。魔道具で吸引しないとアホが2人生まれるだけだ」


「というかなんで魔道具なんか持ってこれてるの? 普通、検査あったりで持ってこれないはずだけど?」


「まあそこは企業秘密で」


「けち! 大体吸引器の魔道具なんていつ使うの?」


「餅を喉に詰めるおバカさんがいるかもしれないじゃないか」


 レインは小さい時の彼女を思い出して言う。


「なんで覚えてるの!」


「まあ出番はあったみたいだし結果オーライ。ただあの魔素を突破できるような魔道具はストックにないんだよね。ほとんどが戦闘サポート系のものばかりだし……」


「先言おうとしたこと全部答えるじゃん。じゃあ今のところ手詰まりってこと?」


「そういうわけでもなさそう。そもそもあそこに何があるのかも分からないし」


 あの時レインが感じていたものは単なる濃ゆい魔素だけではない。その奥に潜む巨大な魔力体と気配。間違いなく学園側が用意した抜け道ではないと確信できる。


「う〜ん。ぶっちゃけ脱出ルート探すほうが早いのかもしれないかな」


「今はミリアナとメリアがやってるよ。心臓エリアへの侵入は厳しそうだけどそれ以外はそれほど時間は掛からないと思う。そっち側からも心臓エリアには侵入できないんだよね?」


 警備の厳しさは変わらない。むしろその他の警備を欠いてまで心臓エリアを守っている可能性がある。


「心臓エリア攻略は骨が折れるだろうね」


 例えるなら、四六時中隣に看守がいる状況である。目も多く付け入る隙はほぼないだろう。


「なりすましとかは?」


「厳しいだろうね。特殊メイクの達人がいたとしてもこの狭い刑務所で扱える道具には限りがあるだろうし」


「透明になれれば楽なんだろうけど……ここって派手に魔力使うとバレるもんね」


 結界の効果に触れることになる。少量の魔力であればバレることはないが、魔力を纏った時点で厳しい状況になることは間違いない。


「結界を破壊できれば心臓エリアを経由しないでも脱獄することはできるんだけどね。でもそれは心臓エリアにあるであろう結界の制御機を触る必要があると思う」


「へー」


 心臓エリアをスルーするために心臓エリアに侵入する。本末転倒である。


「でも看守が言うには完全な制御はできてないって」


「盗み聞きしたの? やっぱりレインってこういうことになると頭がキレるよね。普段からそうしてれば補習で居残りすることもないのに」


「僕のやる気はそんなことでは動かない。勉強は嫌いだね。もともとセリアを聖女候補から引きずり落とすために入学したんだし」


 マリアは思い出したかのような表情をした。どうらや当初の目的を忘れて学園生活を満喫していたようだ。


「でも将来は国を守る聖騎士になるのもいいよね!」


「セリアはそれを嫌がったから聖女になろうとしたんでしょ? 家族を守れるなら自分が犠牲になるタイプだし、メイルと一緒さ」


「お母さんか……今思えばあの時必死で守ってくれてたんだよね。村のみんなも守ったし自慢のお母さんだよ」


「流石に亜神には勝てなかったけどね。でも力を失ってもなお、あの2人を相手にできた。本来であれば勲章ものだよ」


「聖女の力があったら確実に勝てたよ。知識の女神の力はまがい物なんかに負けないんだから」


 今のソリスの2代前に当たる聖女。それが彼女たちの母親だ。


「亜神教会……なんでそんな組織があるのか分からないよ。神様は2人で十分なのになんであんなまがい物なんかを崇拝するんだろう。そんな人がいなければ今ごろお母さんは……」


「ベルタゴスもようやく亜神教会解散に向けて動き出したね。1代前の聖女が無残な殺され方をして以来本気になったんだろうけど。もう少し早く動いていればソリス団長の負担も減っただろうに」


「聖女喰らいだよね……? 遺体の破損が激しくてどんな最期を迎えたのかは聖女喰らい本人にしか分からないけど、仲間たちが引退するほどらしかったから……」


「今の聖女も同じように殺されたら、次は……」


 実際、聖女候補である4人は亜神教会に狙われつつある。強くなる前に狩ると言う意思を感じられるためか、聖女喰らいが直接出てくるとは限らない。


 出てくるとしたらそれは確実に誰かを消し去るためだろう。


「──怖い……」


 声は掠れ、体は震える。セリアにもしもがあればと考えてしまう。


「ソリス団長が負けるとき、それはベルタゴスの最大の危機だと思うよ。もしかするとディモギエル本人が直接降臨する可能性もある。臨時であるだろうけどセリアが聖女になる可能性はかなり高いだろうね」


 レインは家系に元聖女がいると可能性は高くなるだろうと考察する。


「……嫌だ。亜神教会幹部の下位ですらあの強さだったのに、聖女喰らいなんて……」


「聖騎士団は兵仗士(ひょうじょうし)なんて呼び方をしているらしい。執政官の役目を担っているとは聞くけど、一体何を一纏まりに執政官なんて名乗ってるんだろうね」


「分からない。だけど聖女喰らいも、村を襲ったアイツだって執政官だよ」


「聖騎士団の戦力で勝てる相手かは分からないね。亜神も相手にしないといけないだろうし」


 マリアが亜神教会の存在を深く考えたのはこれが初めてではない。


「亜神教会の動きが活発になってから闇ギルドが力をつけつつあるし。今噂になってるドン? の勢力だって拡大してるんだからね」


「最近噂になり始めたよね。どのぐらい危険視されてるの?」


「アエリナって聖人が強すぎるって言うぐらいには。本人は悔しがってたらしいけど、実力は相当な物だって聞くよ」


「大方メリアに聞いたってところかな」


 マリアの表情が暗い。レインは彼女が母親のことを思い出して泣き出してしまいそうと思ったのか話題を戻すことにする。


「ひとまず先の心配よりは今の心配をしよう。僕らの夏休みが消滅することが今何よりの心配だ」


「確かに」


「僕の言った通り結界の制御自体完璧じゃないらしい。だからこそ付け入る隙があると考えてるんだ」


「電気とか魔力で動いてるってこと?」


「考えられる可能性は魔力だと思うね。電気だと維持のために装置を知り尽くさないといけないからね。それで制御が完璧じゃないとかあり得ないし魔力で動いている結界だと思う」


 電気機器と魔道具。似ているようで用途が全く違う。魔道具は魔力があれば半永久的に動ける装置で、致命的な故障がなければ性能を変化させずに稼働し続けられる。


「じゃあその装置に致命的な細工を施せば……」


「僕らは晴れて自由の身になれる。破壊行為に触れない正攻法。魔道具の扱いは慣れてるから一時的に効力をなくせると思う」


「結界を発生させる装置が見つかればほぼ勝ちってこと?」


「そゆこと。後は脱出経路を確保するだけでいいしこれは勝ったな、完璧だ」


 ただレインは完璧にこの計画が進むとは思っていない。肝心の結界装置が心臓エリアにあったら詰むのだ。そうなった場合、マリアたちを完全に切り離そうと考えている。


「じゃあ私は一旦ミリアナたちと合流するね」


「気をつけてね」


「うん」

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