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11.大事な商品

「あのショタコンシスターめ」


 散々可愛がられた後だが話した内容は全く使えないものだった。ウイルス感染だとか適当な考察をしているだけで僕を抱っこしたかっただけらしい。


 日は傾き始めそろそろ夕焼けに染まる頃だろう。


 だいぶ拘束された……。


 教会を出て僕は新鮮な空気を吸った。


「帰ろう」


 袋には必要なものはあるし……あ、プリン忘れてた。


 マリアを鎮める偉大なプリン。既に意味はないのかも知れないがないに越したことはない。


「プリンのある店は……この路地から行けば近いかな」


 路地はあまり通らないほうが良いと聞くがその通りだ。暗いし人いないしで襲われたら大変なことになる。


 まあ変な人いても大抵の実力なら僕の一発で十分だし気にすることないか。


「ん……」


 カーテンがないガラス窓……中には人が倒れてる。


 この魔力はまさか彼も流行り病に掛かっているのか。苦しそう……。


 残念だけど僕にできることはないから去らせてもらおう。


 ──と、思っていたけど何やら彼以外の気配があの部屋にあった。遠目で見つめる部屋の中身にもう一人の影が。


 その影は病気の男の頭に手を乗せてなにかしているようだった。


 青白い魔力が何かを吸っている。しばらくすると影は消えて病気の男は安らかな表情で眠り始めた。


 死んだわけではなさそう。でも苦痛から解放されたような顔だったな。


「んん!?」


 纏う魔力が変わった……?


 いや治ったと言うべきなのか。放出する魔力量が正常になってる。


「魔力解放って治るんだ? でもなんかおかしいんだよなあ」


 治った。これは覆らない事実。だが纏う魔力が変わるなんてことあるのだろうか。


 いいやあり得ない。魔力の質が変わることなんて種が発芽したときと枯れた時だ。それも発芽にはそれなりの時間がかかる。今急に発芽したとは考えにくいし枯れたんだろう。


 屋根を飛び回る音。


 どうやらさっきの影が逃げているようだ。


「悪者でも今は両手塞がってるし見逃そう。それよりプリンでも買って帰るか」


 しばらくして僕はプリンを購入した後に王都の正門近くまで急いでやってきた。


 理由は5時になると門を閉められてしまうからだ。


「ボウズギリギリだぞ」


「すみません」


 どうやら危なかったようだ。子どもの出入りもあるため通常、正門は5時に閉まる。


 5時に閉門する理由は安全のため。それより後に森へ帰したら魔物に襲われる可能性があるからだ。


「20分もあれば着くかな」


 ふと視線が王都を出入りする馬車に留まり、さらにその荷台にある農作物に目を向けた。


 リンドウの持つ魔力と同じな気がする。遠くからじゃわからないし確認するか。


 僕は馬車に行かれないように近づく。


「おっちゃん何してるの?」


「うお! なんだ子どもか、びっくりしたぜ」


「何してるの?」


「俺は運び屋だよ。農民たちから商人たちに商品を届ける仕事をしてるんだ。なんだ興味出たのか?」


「商品ってこれのこと?」


 僕は採れたてであろう作物に触れる。果物に木の実、それから小麦っぽい加工済みの白い粉だ。


「おいおい傷はつけるなよ。大事な商品なんだからな」


「わかってるよー」


 やっぱりこの商品は僕の持つリンドウと同じ魔力を持っている。


 そんなわけがない。植物の一つ一つ遺伝子の情報が違うのだ。種類は同じでも少しの差はある。だが種類どうこうの話ではなくここにある作物全てが同じ魔力を持っている。


 おかしい。何かが変だぞこの作物は。


「ん、どうした?」


「この作物ってどこの作物なんですか?」


「アケルナー村っていう結構大きな村からだぜ」


 聞いたことはあるが行ったことのない村だ。何かと豊作な村と聞くが色々な物を扱っているみたいだ。


「川の神ってのがいるらしくてな。毎年豊作だって聞くぜ。おかげで俺たちも仕事ができて嬉しいんだ。ぜひお得意さんでいてほしい」


 川の神、それでこの魔力かなぁ。それにしては統一感出過ぎだし食べ物にしては魔力が大きすぎる。


 これは調べ甲斐がありそうだな。


「おじさん邪魔してごめん。そろそろ帰るね」


「おう、気をつけろよ」


 ベルタゴス領地の人達はいい人が多いな。


 だがアケルナー村の住人が良い人たちかどうかは今夜わかる。




 ◇◇◇◇




「助かったぜレイン。薬を置き忘れていることさえ忘れていた」


 何してんだ。


「貸し(いち)で」


「わかったわかった。将来のお嫁さんにセリアをあげるからそれで勘弁してくれ」


「それだけは絶対に嫌だ」


 貸し百でも貰いたくない。というか自分の娘を強制結婚なんてどんな神経してるんだ。


「冗談だ」


「結局なにもなかったの?」


「ああ、急いで帰ってきた割にはこの村は平和だったぜ」


 そりゃそうだ。首祭りの陰とかいうのは多分僕だからね。意識してないところで変なあだ名を付けられるのは嫌だな。しかも亜神教徒でもなんでもないし。


「油断はできないがひとまず心配はない。このまま4年後までなにもないと良いんだが」


 もう隠す気はないみたいだ。4年後の12歳の時セリアは聖人招集に行くんだね。


「あ、父さんこれマリアに渡してきて」


「お前は俺の息子じゃないぞ。っと……それはプリンか?」


 僕もあんたの子どもは嫌だと心の中に留めておく。


「そう。王都で三番目に安いやつ」


「その情報いるか?」


「絶妙な価格設定している方が逆に美味いまであるからね。一番美味いとか一番不味いとか極端な味より、慣れ親しんだ庶民の味が結局一番美味いんだ」


「それで三番目か」


「そう。じゃ僕はやることがあるのでこれにてさらば」


「また明日な」


 自室に戻る頃にはすっかり日は落ちていた。これぞ秋の気候ってやつだ。


 と、本日はハゲ親父から晩飯抜きにされてるし王都で買ったリンドウとかいう魔力マシマシな果物を頂くとしよう。


 結論から言うとこれを食ったら間違いなくヤバい。絶対何かが起きる。


 魔力に敏感でない人は気づかずに食べても仕方ないくらいに溶け込んではいるが僕の目は誤魔化せない。


 念の為半分に割って中が腐ってないかどうかだけ確認する。


「腐ってはないみたいだ」


 それより水々しい果肉で美味しそうだ。さてと何が起きるかなあ。


「味は前世のりんごそのもの。ピリピリはしてない、毒が入ってるわけでもなさそうだ」


 とりあえず完食。食べてる時なんともなかったし別に体に不調はないけど……。


 早とちりだったかな。でも間違いなくヤバい雰囲気だったんだよなあ。


 まあまあ大人しく明日まで待てば何かしら起きるだろう。


 『朝起きるとそこは暗闇の空間だった』っていうのはなしで。死ぬのは勘弁してほしい。


「はぁぁあ……」


 眠くはないけど筋トレして座禅したらいつかは眠くなるだろう。


 さあ見せてくれ。

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