3人の立ち位置とダリルお父さん
3人の旅
ミリア、リリィ、ダリルの3人は、今日も手を繋いで歩いていた。心地よい風が吹き抜け、リリィはご機嫌に鼻歌を歌いながら、ダリルの肩にしがみついている。彼らの旅の目的は二つ。リリィの目が治せる方法を探すこと、そして3人で幸せに暮らせる場所を見つけること。それは、ゆっくりとした、けれど確実に進む旅だった。
ミリア
「ダリルー!疲れたー!」
ミリアは大きな声を出しながら、ダリルの背中をポンポンと叩いた。元気そうに見えるが、実は彼女は歩き続けるのが少し大変そうだった。
リリィ
「お腹減ったー!」
リリィも同じように、ダリルの肩の上で騒いでいた。彼女はいつも明るく、二人を和ませてくれる存在だ。
ダリル
「そうだな……でも、この辺りに街はなさそうだし、今夜は野宿するしかないかもな。」
ダリルは辺りを見回しながら答えたが、見渡す限り人里離れた道で、街どころか家一軒見えない。
ミリア
「やだ!外は怖い!」
彼女の声には少し怯えが含まれていた。普段は強がりを見せるミリアだが、実は少し怖がりなところがあったのだ。
リリィ
「怖いの?」
リリィは無邪気に首をかしげ、ミリアに尋ねた。
ダリル
「へー、ミリアって怖がりなんだな。ぷぷ。」
ダリルはからかうように笑い、ミリアに目を向けた。
ミリア
「怖くねーし!むしろ外好きだし!」
彼女は少し照れくさそうに言い返すが、その声にはほんの少しの震えが混じっていた。それを聞いたダリルは、にやりと笑ってミリアを見つめていた。
その時、遠くに建物が見えてきた。
ダリル
「お、建物が見えてきたな。」
ミリアはその言葉に反応し、勢いよく叫んだ。
ミリア
「いやっほーい!これで野宿は回避だ!」
だが、近づくにつれて、その建物がかなり汚く、古びていることが分かってきた。薄暗く、屋根もところどころ崩れかけている。辺りを見回しても、その建物以外には何もなかった。
ダリル
「今日はここに泊まろう。」
彼はため息をつきながらそう言った。旅慣れている彼にとって、こうした宿にはあまり抵抗がなかった。
リリィ
「うん。」
見えないリリィはすぐに賛成し、楽しそうにダリルにしがみついたままだ。
ミリア
「えー!ここ?本当に大丈夫なの?」
彼女はその薄暗い宿を見つめながら、少し震え声で言った。
ダリル
「なんか怖いのか?」
ミリアはその言葉にピクリと反応し、強がるように胸を張った。
ミリア
「いや、怖くねーし!むしろワクワクするぐらいだし!」
だが、その声にはやはり少しの不安が感じられた。リリィはミリアの手を握り、無邪気に言った。
リリィ
「怖いなら、一緒に寝てあげるよ。」
その言葉に、ミリアは一瞬驚いたが、すぐに笑顔を見せてリリィをぎゅっと抱きしめた。
ミリア
「ん〜、優しいね、リリィは!もう、ほんと大好き!」
ミリアは思わずリリィを抱きしめ、彼女の温かさを感じていた。リリィはくすぐったそうに笑い出した。
リリィ
「んはは、くすぐったいよ、ミリア!」
ミリアも笑顔になり、リリィをそっと放した。その時、ダリルが優しく声をかけた。
ダリル
「ほら、行くぞ。さっさと中に入ろう。」
ダリルの言葉に促され、ミリアとリリィはその古びた宿へと向かって歩き始めた。宿の中がどんな場所なのか、少し不安は残っていたが、リリィとダリルと一緒なら大丈夫だろうと、ミリアは思っていた。
宿屋の店主クライ
薄暗く汚れた宿屋のドアを開けると、鈍い音が響き、店主のクライがカウンターの後ろから顔を出した。彼は少しヨレヨレの服を着た、中年の男性だった。店の空気はどことなく古びていて、少しカビ臭さも感じる。
クライ
「い、いらっしゃいま……わーー!」
彼は驚きのあまり後ろにのけぞった。クライの驚いた声に、リリィはすぐに反応した。彼女は音に敏感で、突然の大きな声に驚いてしまった。
リリィ
音に敏感で驚く
「うわー!」
リリィはすぐにミリアにしがみついた。彼女は驚いた表情を浮かべ、恐怖で震えたように見える。そんなリリィを見たミリアは、すぐに彼女を抱きしめた。
ミリア
「大丈夫だよー、怖くないよー。」
ミリアはリリィをぎゅっと抱きしめ、安心させるように優しく背中を撫でた。リリィは少し落ち着きを取り戻し、ミリアの腕の中で震えが止まった。
ダリルは眉をひそめ、宿の店主に向かって声をかけた。
ダリル
「どうかしましたか?」
彼は穏やかに問いかけたが、店主クライは未だに怯えた様子で、ダリルに向かってしどろもどろに話し始めた。
クライ
「ご、ごめんなさい……お金ならありません……!」
店主クライは、ダリルの顔を見るなりさらにビクビクしながら後ずさった。どうやら彼は、ダリルが何か強盗か、悪人だと思い込んでしまったらしい。ダリルはため息をつきながら、頭をかいて申し訳なさそうに言った。
ダリル
「あのー、俺たち客なんですけど……泊まりたいだけなんですが……」
その言葉に、クライはようやく事態を理解したようで、顔を赤くしながら恥ずかしそうに謝った。
すると、ミリアがそれを見て笑い声をあげた。
ミリア
「あははは! ダリルの顔にびびってんの、あははは!」
彼女の笑い声に、リリィもつられて笑い出した。
リリィ
「あははは、ダリル怖くないのに!」
二人の無邪気な笑い声が響く中、ダリルは再びため息をついた。これはもう慣れている反応だった。ダリルは背が高く、鍛え上げられた体と鋭い顔立ちのせいで、いつも人々に誤解されがちだった。
ダリル
「はぁ〜……またか。」
彼はぼやくように呟いた。昔から何度もこういう状況を経験していたのだ。自分の強面のせいで、見知らぬ人々が怯え、誤解する。それは子供の頃からずっと続いていることで、彼にとってはもはや日常茶飯事だった。
クライ
「そ、そうでしたか……お客様なんですね! 申し訳ありませんでした! どうぞお入りください!」
店主はようやく態度を改め、慌てて彼らを宿に案内し始めた。リリィとミリアは笑いながらダリルの後を追い、宿の奥へと進んでいった。
ダリルは少し疲れた顔をしながらも、二人の笑顔に少しだけ微笑んだ。そして、三人はこの宿で一晩を過ごすことになった。
薄暗い部屋での一幕
宿屋の店主クライに案内され、3人は薄暗い部屋に通された。湿気がこもり、ジメジメとした不快な空気が漂っている。ミリアは部屋を見渡し、明らかに嫌そうな顔をした。
ミリア
「ヤバいってここ、やめよーよ。」
彼女の声には嫌悪感が滲んでいた。こんな汚れた部屋で夜を過ごすのは、誰でもためらうだろう。リリィも咳き込む。
リリィ
「なんか、コホッコホッ……」
埃のせいで喉を詰まらせたリリィが咳き込むと、ミリアはすぐに反応した。
ミリア
「だ、だだめだ! リリィが埃で……!」
ミリアはすかさずリリィの口に布を巻き、埃を吸い込まないように防いだ。
リリィ
「ありがとう、ミリア。」
リリィは、優しい笑顔をミリアに向ける。ミリアはその笑顔に、少し照れくさそうにしながらも、嬉しそうに答える。
ミリア
「んー、ちゃんとお礼できましたねー、偉いよ、リリィ。」
彼女は優しくリリィをぎゅっと抱きしめた。リリィはその温もりに満足そうに顔を埋めた。
ダリル
「おーい、クライさん。少し掃除してもいいか?」
ダリルは部屋を見回し、クライに声をかけた。すると、クライはすぐ真後ろに立っていた
クライ
「はいどうぞご自由に。」
クライは静かに答えたが、その静けさがミリアを驚かせた。
ミリア
「ぎゃー!なんだよ、真後ろに立つなって!」
彼女は飛び上がって驚いた。リリィはそんなミリアの様子を感じて、楽しそうに笑った。
リリィ
「あははは!」
ダリルもつられて笑い出す。
ダリル
「ぷぷははは!」
ミリアは顔を赤くしながら、照れ隠しのように言い返した。
ミリア
「ちげーし、びびってねーし!」
彼女は必死に強がるが、明らかに驚いていたのは誰の目にも明らかだった。
掃除開始
ダリルは昔から綺麗好きだった。彼が騎士団にいた頃も、宿舎で掃除をして「掃除の鬼」と呼ばれていたほどだ。今も、その習慣は変わらない。彼はすぐに掃除道具を手に取り、部屋を片付け始めた。
ミリアもまた、孤児院での生活で培った家事能力を発揮する。獣人族の高い身体能力を活かし、素早く部屋の隅々まで掃除を進める。彼女は義足にもすっかり慣れており、軽快に動き回っていた。
リリィはダリルに肩車されながら、ハタキを手に持ち、ポンポンとダリルの頭を下げて叩く、彼女はその動作に合わせて楽しそうに歌を歌い出す。
リリィ
「綺麗になれ、綺麗になれ〜♪」
その歌声には、どこか温かい魔力が込められていた。ダリルはふと、リリィがポンポンと埃を叩く場所が、徐々に光を帯びていくのを見た。こびりついたカビも、埃も、その光と共に消え去り、部屋全体がピカピカに輝き出していく。
クライの心の中
クライはその様子をぼんやりと眺めていた。彼はまるで夢でも見ているかのように呟いた。
クライ(心の中)
(何なんだ、この人たちは……それにこの歌、癒される……ああ、思い出す……あの頃を……妻と娘がいた、あの幸せな時を……)
彼の目には涙が滲んでいた。リリィの天使のような歌声が、クライの心の奥に眠る優しい記憶を呼び覚ましていた。
ミリア
「おい!店主!泣いてないで、働け!」
夕食の準備
掃除が一段落した頃、ミリアはキッチンに向かった。彼女は料理も得意で、孤児院では子供たちのために毎日腕を振るっていた。
ミリア
「この宿、きったねーけど、食材は豊富だな。」
ミリアは素早く材料を取り出し、調理を始めた。彼女の手際は非常に良く、次々と美味しそうな料理がテーブルに並べられていった。
ミリア
「みんなー、ご飯だぞー!」
彼女が呼びかけると、リリィがすぐにダリルの肩から降り、元気に駆け寄ってきた。
リリィ
「わーい! ご飯、ご飯!」
彼女の顔はいい匂いにつられて輝いていた。ダリルもにっこりと笑い、テーブルに座った。
ダリル
「クライさん、一緒に食べませんか?」
彼は微笑みながらクライを誘った。しかし、クライはまだダリルの容姿に怯えていたようで、少し腰が引けていた。
クライ
「は、はは……ひゃい。」
この強面で、優しいセリフ、でもこえー
ダリルの微笑に反応しながらも、少し緊張気味に答えるクライ。その反応に、ダリルはまたもや「ひゃい?」と首を傾げたが、気にせずテーブルに着く。
そして、四人で囲む温かい夕食が始まった。笑い声が部屋中に響き、楽しい時間が流れる。クライも次第にリラックスし、リリィとミリアとダリルのやり取りを見て、久しぶりに心から笑うことができた。
リリィの歌声と、ミリアの料理、そしてダリルの優しさに包まれたこの時間は、まるで家族のような温かさに満ちていた。
旅立った3人と残されたクライ
リリィ、ダリル、そしてミリアの3人は、次の目的地へと再び歩き出した。彼らの後ろ姿を見送るクライは、去っていく彼らに深く感謝していた。ふと、宿の中を見回すと、以前とはまるで別物のようにピカピカに輝いていた。
クライ
「あの人たち……本当にすごかったな……色んな意味で」
彼はため息交じりに呟いた。その言葉には、感嘆と感謝が入り混じっていた。元々薄暗く、汚れていたこの宿が、今やまるで新築のように清潔で明るくなっていた。まさに奇跡のようだった。
そんな宿の変化は、瞬く間に噂となった。今まで寂れていた宿には、次第にお客が増え始めた。まずは数人の旅人が訪れ、それが口コミで広がり、やがて1人、また1人と新しい客が続々とやってきた。
そしてある日……
クライの宿は、かつてのような賑やかさを取り戻していた。お客たちは笑顔で宿を訪れ、昔のように暖かい雰囲気が漂っていた。そんなある日、クライは驚くべき再会を果たす。
娘と妻が戻ってきたのだ。
クライの娘と妻は、以前、何らかの理由で宿を去っていた。しかし、宿が繁盛し、昔のような活気を取り戻したことを聞き、ついに彼女たちも戻ってきた。
クライ
「まさか……またこうして、みんなで一緒に過ごせるなんて……」
彼は、久しぶりに家族と再会できたことに感動し、目には涙が浮かんでいた。かつて失われた幸せな日々が、再び彼の元に戻ってきたのだ。
クライは、これも全て、あの3人のおかげだと思わずにはいられなかった。ダリル、リリィ、ミリアの3人が、ただ宿を掃除してくれただけではなく、その歌声と優しさが、この宿に新たな命を吹き込んでくれたのだ。
クライ
「私は忘れません……本当に、ありがとうございます。」
彼は感謝の言葉を何度もつぶやきながら、宿の中を掃除していた。そして、ふと、リリィの歌声を思い出し、鼻歌を口ずさんだ。あの優しくて、温かい歌。彼女の歌は今でもクライの心の中に響いていた。
そんな幸せに満ちた宿は、再び繁盛期を迎え、その名を『クライヤード』と改め、さらに多くの人々に愛されるようになった。今やこの宿は、リリィの歌声とともに語り継がれる場所となり、訪れる人々に癒しと温もりを提供し続けている。
クライは宿の片隅で微笑みながら、これからもこの場所で、誰かの心を温めるために働き続けるだろう。
ダリルの育成日記
やっぱり男の俺が、二人の女の子を育てるのは正直なところ難しい。時々、母親がいた方がこの子たちにとっては良いのかもしれないと迷うこともある。しかし、俺にできることは精一杯やってやろうと思っている。
リリィは目が見えない。だから、俺がいつも寝かしつけていたが、最近はミリアも一緒に寝たいと騒ぐようになった。仕方なく、二人と一緒に寝ることになったが、ミリアも14歳だし、まだ寂しがりなのかな。俺は自分の親と一緒に寝たことなんてなかったから、正直なところ、どう対応すればいいのかよくわからない。
ミリアは子供が大好きで、特にリリィの世話をよく焼いている。リリィに本を読んであげるのも日課になっている。彼女の声は透き通っていて、聞いていて心地よい。だが、感情が豊かすぎて、感動的な場面になるといつも涙で詰まってしまい、言葉が出なくなる。その度に、何を言っているのかわからなくなってしまう。
そして、不思議なことに、ミリアが泣き出すと、いつもリリィがミリアの頭を優しく撫でて慰めている。そんな時、リリィの方がお姉さんのように見えてくるのは不思議だ。とても微笑ましくて、俺はついついその光景を眺めてしまう。
ダリル
「俺は何を見せられているんだ?」
毎回こんなことを思いながら、でもその光景に癒されている自分がいるのも事実だ。この二人が、いつもこうして優しさに溢れたまま成長してくれることを、心から願っている。
俺が母親役だって? いや、そんな大役が務まるかどうかはわからないが、この子たちが幸せに育つためなら、何だってやってみせる。母親役だって構わない。そう思えるくらい、今の生活が俺にとっても大切なものになっているんだ。
この二人の笑顔が、俺にとっての宝物だ。