朝日の中で
昨日の夜、あずき先輩につれられ山へ入った。
山は僕達の神社より草木が多くて歩きにくい、沢山の動物が居るのにどこにいるのかわからない。ちょっと怖いところ。
「あずき先輩、あそこにビニールが引っかかっているよ? 拾わないと……」
木にカラフルなビニールが、絡まっていた。
「いいんだ」
「何でいいの?あずき先輩が、ゴミはひろえよって言ったでしょう? 気になるならひろえ難しくないだろ?って言ったでしょう!」
僕は、ビニール袋と軍手とゴミを挟む金属を出した。でも、木の高い位置にあって取れない。
「あずき先輩やって、はい、道具」
「ああ、わかった」
あずき先輩は、ビニール袋にゴミを入れた。
「ありがとう、しまうからちょうだい」
「はい」
僕は、あずき先輩からゴミ掃除道具の一式を貰った、道具を受け取って、鞄に汚れがつかない様にしまった。道具は、鞄に入って消える。ビニールを手に持っていると……。
「あそこ、廃車が落ちているぞ。なんかするのか?」
「しないよ、何で? 僕は何にも出来ないよ? そこのガラスも危険だから出来ないし、もう、ゴミは拾ったからいいよ」
「そんなものか? もし拾いたくない時はどうするの?」
「ゴミは、たぶん無くならないけど、だから気負わずやるかっていてたでしょう? ゴミを外で捨てなければプラス、マイナス、ゼロって言ってなかった?」
「そうなのか?」
今日のあずき先輩は、いつもと違ってちょって変……。
(ハッ、まさか……また眠い……とか?)
あずき先輩は、山の頂上近くの切り倒され大きな切りかぶの前まで、僕を連れて行ってこう言ったのだった。
「でも、稲穂、山の神は、人間の山を汚す行いについて、泣いているぞ、怒っているぞどうする? 我ら山猫は、もともと山の神に守られた存在、お前になら山の神の哀しみがわかるはず!」
そこには小さくうずくまって、泣いている女の子が居た。白い着物を着たおかっぱの女の子は、一人で、ひざ抱えて泣いていた。
「みずほちゃん?」
みずほちゃんは、長い髪でこんな所にいるわけないでも……、みずほちゃんを守っている本殿に居る誰かと同じ、存在を女の子から感じる。
僕が、彼女の肩に手を伸ばした時に――。
「稲穂――!」
僕を呼ぶみずほちゃんの声がした……。
僕は、あずき先輩の手を取り「もう、帰る時間だよ!」と言って手を引っ張った。女の子は、連れていけない。女の子はたぶんこの山のかなめだから……。
僕は、あずき先輩を連れて走る。どれだけ走ったかわからないけれど、その公園には、るりくんとちゃろちゃん、めろちゃんが居た。
そして手をつないでいたはずの、あずき先輩は居なくなっていた。気持ちが、薄ぼんやりして哀しかった。
三☆☆☆ ☆☆★☆
何で、今まで忘れていたんだろ……。あの女の子は、あんなに哀しんでいたのに!
「みずほちゃん!ごめんなさい! でも、僕についてきて!」
「どうしたの稲穂?」「稲穂ちゃんどうしたの?」
みずほちゃんとめろちゃん、二人は、驚き、戸惑っている。でも、話をしている暇はない!
「お願いみずほちゃん、そしてめろちゃん僕達をみんなの所へ連れて行って!」
僕は、みずほちゃんの両腕を掴みみずほちゃんに伝えると、振り返りめろちゃんにもお願いした。
「わかった。行く。めろちゃんお願い 。お母さん……行ってきます。」
「瑞稀、お母さんも絶対行くわよ。めろちゃんお願い」
「わかった……、ついて来て!」
「あい!」「「はい!」」
めろちゃんは、シャボン玉のラッパーをふぅ~と吹くと、僕達のまわりにシャボン玉がまわる。それを確認さするとめろちゃんは走る。走るとともに、夜の闇が深まる……。
たくさん走って行くと、闇をまとう大きな猫を、封じようとするお父さん達を見つけた。
「お父さん!その猫さんを完全に封じないで!」
でも、懸命に大きな猫をとらえようとしているお父さんには聞こえない様で、なおもお父さんは唱え続けている。それはあすぎ先輩やちゃろちゃんも同じで……。
その時、めろちゃんの大きなシャボン玉が、大きな猫を包みこんだ!
「みんなの力を少し、和らげてるから三人は、各自、力を弱める様に伝えて!」
「「はい!」」
僕はちゃろちゃんの視界に入る。様にジャンプしながら――。
「ちゃろちゃんあの山猫の封印するのをやめて!お願い!」
「稲穂、どうしたの!? 結界の中に居なきゃ!」
ちゃろちゃんは、驚いて笛を吹くのを辞めたので――僕は、慌てて伝える。
「あの山猫は、僕達と同じなの!! 自分の主人を守りたいだけなの! だからあの女の子の為に封じちゃだめなの!!」
「でも、あの子は稲穂を連れて行こうとしたのよ?!」
「じゃ……もし、おじさんが、凄く困ってて自分達の力だけじゃとうしょうもない時は、どうするの?!」
ちゃろちゃんは、自分の左手を掴み、僕から目を背けて……。
「主人が、そんな目にあったら……主人が止めても、主人が助かる方法を探すわ……。もしそれが馬鹿げた方法だとしても……」
めろちゃん……? そう言った、めろちゃんから凄く大きな哀しみを感じた。
「わかった……稲穂の言う通りにするわ」
改めて、山猫を見るとみんなの力は弱まり、山猫が大きく苦しむ事は無くなった。
シャボン玉の中で山猫は、やがて小さくなり……、冬の芝生の様な茶色に少し近い、うすだいだい色で、手足に黒いしまが入った、小さな猫になった。
山猫を解放するとその猫は、あやかしの道を歩きだす。どんどん進む、猫の行く先はきっとあの時の女の子のところ。
山猫は、やがてゆっくりと歩く様になり、泣いてる女の子に近づくと体を擦り付けて小さく鳴く。
ニャーン
同じ猫ならわかる、その哀しみ……。
お父さんは、静かに祈祷を始める。そしてその横でみずほちゃんも並び立ち、お父さんに合わせて祈祷に言葉をそえる。
静かに朝日が登って来ると、ちゃろちゃんが横笛を吹き始める。
僕とあずき先輩は、豊穣の祭りの踊りを舞った。
お母さんとめろちゃんは、それを見ていた。
最後の祈祷で、山猫が人間の姿、山育ちの少年の姿になった。そんな彼の前に、お父さんはかがみ込む。
「すまない……私達に出来る事は、とても少ない。でも、今度、私達の家に来る時は、『おじやまします』って言って玄関を開けて遊びにおいで。きっとうちの猫達が、きみの相談にのってくれる」
「本当?」山猫は、こわごわ聞いた。
「うんうん」「忙しいなければ、遊んでやるよ」
僕達の言葉を聞いて彼は、少し元気になったようだ。
「あずき、稲穂、助かるよ。仕事があるから軽はずみ約束出来ないからね」お父さんは、残念そうに言った。
「パパに、この山の事伝えおくわ、おせっかい好きだから手を貸してくれるはず」
ちゃろちゃんもそう言ってくれると、始めは険しかった山猫の表情もだいぶあたたかい表情へと変わっていた。
「ありがとうございます。ごめんなさい皆さん、よろしくお願いします!」
そう言って山猫は、頭を下げた。女の子は、相変わらず泣いていたけれど……帰る。僕らを見る為に顔をあげた。黒いおめめが、涙に濡れて宝石の様に光っている。
いつか、あの子が泣かなくていい日は来るだろか?
みんなに大切なものも一人の人間にあっけなく壊される。逆に、みんなが壊したものも一人の人間によって、もとに戻る時はある。
世の中不思議で、よくわからない。
でも、みずほちゃんやお父さん、お母さんのいる人間の世界なら僕は、守っていいと思うんだ。
難しい事は、わからないから、僕の答えは、これでいいと思うんだ。
あずき先輩には、積極的にかまってもらいます!
おわり
見ていただきありがとうございます。
またどこかで。