夜の猫たち
夜中に出歩く猫二人。
いったい何をしているのやら?
「やっぱり24時間スーパーいいよなぁ……カリカリを、自分で選べて買うって最高だよな……」
「あずき先輩もうダメ――眠すぎて目が開かない……僕の事は置いて行って……おやすみなさい……」
そう言って草むらに入って行く僕の制服の後を引っ張って止めるあずき先輩。
「ほら、稲穂、野生に帰るな! おんぶしてやるから」
そう言って目を擦って、あずき先輩に支えて貰う事で、何とか立っている僕。
そんな僕の腕を両手を、パンパンと自立出来るかどうかを、手を少し離したり、腕をふたたび掴んで、支えたりを繰り返し確かめてるみたい。
でも、僕は眠すぎて立っていられなくなる時も近そう……。
「ほらおんぶしてやるから、寝るならここで寝ろ」
そんな僕の前にあずき先輩は、かがみ込むから僕は人間だけど、ちょっと液体になってもたれ掛かった。猫の僕だったら胴が伸びすぎて、おんぶじゃなくかったかも……。
「ありがとうごじゃいます」
僕は、ゆっくりあずき先輩の背中に乗る。
「あぁぁ……これは……立ちあがれない、すまん。稲穂1回降りろ、なっ?」
ーー眠い……。無理。
「お――い、稲穂? 稲穂さ――ん」
「何してるんですか?」
あずきの横には、瑞穂ちゃんと同じ歳の少年が、あずきの顔色をうかがう様にがかがみこみ座っている。
街頭の灯りに照らされる、色素の薄い茶色の髪、中性的な顔だちのこの少年は――。
「瑠璃?」
「あ――稲穂くんが寝ちゃったんですね。ちょっと待って、」
彼が向かった先には、ちゃろちゃん、めろちゃんがいて、三人は、少し話すとすぐにあずきのもとにやって来た。
猫の二人は、稲穂を引き剥がすと……。
「あずき、ちょっとあそこの高くなっているところの下で待って居いて」
と、ちゃろちゃんがそう言うので、待っていると二人で稲穂を両脇から抱えて歩いて来る。
稲穂はよちよち二人の真ん中で歩いてくる。
「行くわよあずきちゃん」
めろちゃんが、そう声をかけるとゆっくり稲穂の体重があずきにかかる。やっとの事、稲穂をおんぶして立ち上がる事が出来た。
「で、二人とも、こんなところで、何やってるの?」
一仕事終えたちゃろちゃんが、あずきに聞く。
「3人と一緒で夜間訓練。稲穂を子供のうちから夜に触れさせておかないとな」
「あずきちゃん、こんな赤ちゃんを夜遊びに誘うなんて不良ね」
「稲穂もお知らせ屋で、頑張ってるから赤ちゃんって事はもうないだろう、せめて子供って言ってやってくれよ、めろ」
「あずきちゃん、めろちゃん」
「そして私は、ちゃろちゃんよ」
「それは、知ってる」
ちゃろちゃんは、鞄から小さなノートを取り出して、めろちゃんと瑠璃くんに見せる。
「赤ちゃんと言えば……見てこれ、あずきの小さい頃あまりに可愛かったから、パパに撮って貰ったの」
「あずきちゃん、可愛い、黒い毛玉に、耳と顔ついてる」
「でも、ちゃろちゃん、本人の許可なくそういうの持ってるのは、良くないよ?」
「パパが、冬至くんに許可貰っているから大丈夫よ」
「それならいいか……」
「瑠璃もっと頑張れよ」
「僕も見る……」
「はい、どうぞ」
僕は、いつの間にか寝ていた様で、覚えていないけど……ちゃろちゃんとめろちゃんと瑠璃君が居た。受け取った。あずき先輩は可愛かった。小さくてぽわぽわで、黒い。水色のおめめがだけが、きらきら輝いていて……。
「ちゃろちゃんありがとうごじゃいます」
僕は、ちゃろちやんに、写真帳を返した。
「僕も赤ちゃんの時は、あずき先輩に負けないくらいかわいかったも――ん。今も負けてないもん」
「わかったから、降りろ……稲穂なっ?」
僕は、悲しくなった。おうちで一番ちゃほやされる位置に居たい。一番、抱っこされる猫は僕でありたい。それなのにあずき先輩が、赤ちゃんの時にあんな可愛かったなんて、未来、過去も一番でありたいのに……。
「赤ちゃんのあずき先輩が可愛かったから下りない……。僕は今も、子猫の赤ちゃんとして輝きたいの――!!」
「稲穂? お前何言ってるんだ……?」
「稲穂の気持ちわかるわ、ほら稲穂の写真もあるのよ、ほら、ここ」
「稲穂ちゃん、猫のプロ意識すごい、そこは立派な大人ね」
ちゃろちゃんとめろちゃんは、僕をたくさん褒めてくれて、ちゃろちゃんから見せて貰った子猫の僕も最強に可愛かった。僕は成長して最強の可愛さは、無くなったかもしれないけど……みんなの為に役立てる力が、あればそれでいいと思うんだ。
「あずき先輩、僕もう大人だから降りるね」
「じゃ……ほい」
僕は、地面に立って夜の街を歩く猫。夜明けの時間は、猫達の世界、そこで僕は大人になる……。
☆彡★☆★☆
何日か後の夜……。
「稲穂、これクリスマスサンタのあずきよ」
その写真は、サンタの帽子に中に入った赤ちゃんのあずき先輩……。首には、ベルとひいらぎの飾り……。あくびしてる……可愛い……あずき先輩。僕は地面に思わずうずくまる。
「僕、そんな可愛い首輪付けた事ない……」涙がこぼれる。
「僕は、まだ赤ちゃんだから! そんな可愛い首輪付けて思い出に残したい! あずき先輩、赤ちゃんなので、おんぶしてください!そしてスーパーで、そんな首輪買って――!!」
そうやって猫達の夜は深まるのだった。
おわり
見ていただきありがとうございます。
またどこかで~。