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あずき先輩

 今、僕のおうちにあのお兄さんが居る。


 みずほちゃんに連れられ、神社へ行くと猫の僕の頭を撫でてくれた。あの優しかった、髪の長いお兄さん。

 あのお兄さんが、僕の隣で……今、アイスを食べている。


「僕は……」

 僕は、お兄さんを見る。


「うん? 」


「僕は……」


「なんだ? 」


「アイス食べたい! アイス食べたい! アイス食べた――い! 」


 ★☆★☆★


 事の起こり凄く簡単なのだけれど……。


 今日、猫のお知らせ屋のお仕事が終わって家に帰ってからも、僕は人間の姿のまま冷蔵庫の扉を開けたり、閉めたりして遊んでいた。


 その時、玄関の鍵を開ける音がした。誰が帰って来たのか確かめなきゃ、そう思って僕は玄関を(のぞ)きに行く。


 そこには神社で、よく見かけるお兄さん居た。


 僕の家の扉をちゃんと閉めて、ちゃんと鍵をかける。


 僕は、突然のお客さんのお兄さんに舞い上がり、お兄さんの周りをうろうろしたら……お兄さんに黒いしっぽが3本あった……。


「あっ……」

 僕のしっぽは、たぶんしたにさがった。


「これ、冷蔵庫開けたのお前だろ? 開けたらちゃんと閉めろよな」


 と、言ってお兄さんは、アイスを1つ取ると、椅子に座って食べ始める。僕もその横に座り、お兄さんを見るけどやっぱりお兄さんで、しっぽがある……。3本も……。


 お兄さんは食べてる途中に、帽子を取ると、「あっちぃ――」って言って帽子で、パタパタと自分の事を(あお)ぎだす。


 おにさんの髪の間からは黒い猫耳が。


 僕のしっぽはとってもさがった。


「あずき? 」


「あずき()()だろ 」

 と、言って僕に、あずき先輩の帽子をかぶせた。帽子からは黒猫のあずきの匂いがした。


 お兄さんはあずきなのか……。わかったような、わからないような……。


 でも、1つわかった事がある。アイスは、とても美味しそう。


「あずき先輩、僕もアイスが食べたいです……」


「駄目だ、子猫はすぐお腹を壊すから」


「僕は……」

 僕は、帽子クシャっとつぶしてあずき先輩を見る。


「うん? 」


「僕は……」


「なんだ? 」


「アイス食べたい! アイス食べたい! アイス食べた――い! 」


「そして優しいお兄さんが、あずきじゃ、いや――――――――! 」


 僕は顔を机に伏せる。人間になると水がいっぱい目から出る。これでは僕の水分が、すぐになくなっちゃう。そして凄く泣きつかれたので、そのまま床に降りてねっころがる。ヒャーヒャーの床の冷たい感じが、とっても気持ちいい……。そのまま寝ちゃうくらい夢心地。


                    ☆★☆


 夕方起きるとみずほちゃんが帰って来ていて、ご飯も用意してあったので、ご飯を食べる。

 お腹いっぱいになった僕は、みずほちゃんに狩りの練習を教えてあげるため、猫用おもちゃで一緒に遊んだ。


 いっぱい遊んだ後……少し眠たくなった僕は、寝床(ねどこ)に行く。しかしそこには、何か1つ足りない。


 (あずき……? あずき先輩が居ない! どこだどこだ?)


稲穂(いなほ)、あずきを探してるの? あずきは、このキャットタワーの一番上で寝てるよ。ほらここ」


 みずほちゃんは僕を持ち上げて、キャットタワーの一番上で眠る、あずき先輩を見せてくれた。先輩は僕がにゃーーと、呼んでも目を薄っすら開けてまた寝てしまう。


 ガーン、あずき先輩が、僕にかまってくれない……。


「ほら、そんなに鳴かないの。今日は暑いのに、あずきは忙しくかったらしくて、『疲れた……』って言って帰ってきて、ご飯食べてすぐねちゃったんだから。あっそうそう!」


 そう言ってみずほちゃんは、僕のごはんが入っているところを探してる。


 だから、僕も一緒に探してあげる……にゃ~にゃ~世話が焼けるにゃあ~。


「あった! それにしても稲穂(いなほ)は、ご飯の場所だけはすぐに覚えるよね」


 そう言って、僕に猫用のおやつを出してくれた。


「はい、あずきが稲穂にあげてって」


 一番美味しい猫おやつ。素敵! すんごい素敵なの――なんで? どうした……の……あずき……。


 僕は、お昼の事を思い出して少しだけ反省した。


 そして寝た。


 ☆★☆★☆


 朝、起きると、巫女姿のみずほちゃんに抱っこされて境内(けいだい)の中を歩いていた。ご神託がくだりましたって言うの忘れちゃったの? そう言うのは良くないなぁ……と思いながら、心地良い振動で眠くなる……。


稲穂(いなほ)!、やっと起きたと思ったら、また寝ないで! まったくもう」


 本殿に着くと、僕は床に置かれる。


 眠気と、床の冷たさと、誰かの優しく、強い気配……最初は怖かったけど、お父さんから感じる気配とも似ているなぁと思ったら、安心できる様になった。


 人間の姿になった僕は……みずほちゃんを見つめる。


「ご飯まだ食べてないよ?」


稲穂(いなほ)……」

 みずほちゃんは、僕を連れて一礼したのち、本殿を出ると自宅へと帰った。


稲穂(いなほ)、鞄の中にご飯入ってない?」


 僕は人間の時に、制服と一緒に用意された鞄の中を探ると、おにぎりとお茶が入っていた。


「あった――!」


「人間のあずきは、よくこのダイニングテーブルで鞄の中のご飯を、食べているから稲穂もこれからはここで食べていいよ」


 おにぎりは、ふっくらでも形が崩れない程度の強さで握られている。具のおかかも、とっても美味しい。

「ご飯ってこんな味なんだ……美味し――い」


「良かったね、稲穂」

 みずほちゃんは、机にほおづえをつきながら僕を、にこにこと見つめている。


「お茶も美味しい。なんで今まで、飲めなかったんだろう?」


 もしかしてみんな、美味しいものを内緒にしてた? 僕は、みずほちゃんを見つめる。僕に内緒の美味しいもの、ほかにはないのかなぁ?


「稲穂、そんな顔しても人間のご飯は、食べちゃダメだからね。食べていいのは、鞄の中のご飯だけ。いい?稲穂」


「でも……あずき先輩は、アイス食べてたし……」


 僕は美味しいおにぎりを、見つめながら話す。


「あずきは、しっぽが3本もあって、漢字も書けるようになったからいいの」


「じゃ――僕もしっぽ3本で、漢字が書ける様になる! わぁ――(うれ)しい、美味しいアイスが食べられる!」


 僕も、アイスが食べられる様になるなんて、なんて幸せ。しっぽは、明日はえるだろうか? 漢字ってあの絵だろう……漢字も、明日には書けるかもしれない。


 これから仕事から帰ったら、どのアイスを食べるか決めないといけない。凄く迷うだろうから、今から考えておかないとな。迷っているうちご飯が無くなり、みずほちゃんに片付けての仕方を教えて貰う、ゴミの分別についてはもう完璧かもしれない?


「じゃあ私、行くね」

 僕がご飯を食べると、いつのまにかすっかり着替えたみずほちゃんは、学校へ出かけて行った。


「あら、稲穂(いなほ)は、まだお仕事いかないの?」


 今度は外の水やりを終えただろう、お母さんがやって来た。


「いいみたい、あっお母さん、ほく漢字書ける様なるの、凄い?」


「うん、凄いわぁ」


「でも、漢字ってどうやって書くの?」


「そうねぇ……ちょっと待ってて」

 そう言うとお母さんは、二階に行ってクレヨンと紙を持って来た。


瑞穂(みずほ)の幼稚園の時のだけど、小学校では違うのを買う事になったから、稲穂(いなほ)はこれ使ってね」


 そう言って紙の下に、新聞紙をひいてくれた。使ってみたクレヨンは、色がどんどんあふれてきて凄く楽しい。どんどん書ける。何枚目かの紙を描き終わった時、出発の時が来た。


「どうしたの?」

 パソコンとにらめっこしていたお母さんが、顔をあげる。


「お仕事なの」


「そうなの? じゃ見送らないとね」


 靴をはいている間に、扉をあけて貰って「行ってきます」「いってらっしゃい」の声に見送られ、僕は我が家を後にする。


 たどり着いた先は、住宅街だった。


 そして僕の目前には、スーツ姿の男の人がいる。彼は建物の影に隠れているが、一軒の家の入り口を見てる様だ。 


 僕は、彼の横を通り過ぎ、表通りに出る。


 (もうそろそろ……)


 道路には、沢山の車が行き()い音をあげて通り過ぎる。人々は話ながらも、その速度は落ちることはない、しかし信号が変わると皆、揃ったように動きを止めた。


 その時、僕の伝える『虫の知らせ』の受取人が、自転車に乗ってやって来きて、動きを止める。


 僕は、その警察官のお兄さんに、近づき右手を掴む――。


貴殿(きでん)に謹んで申し上げまする。そこ横道に、怪しい男の人がいるので捕まえてください」


 そうすると彼は、僕の指差す方向を見つめ自転車を降りる。警察官のお兄さんは、ゆっくりと僕のもと来た道を進むと、スーツ姿の男の人を見つけた。


 スーツの男の人は、視線の先にあった家から出て、裏庭に向かうおばあちゃんと、入れ替わりにその家の扉を開けまさに入ろうとしている所だった。


 警察官のお兄さんは、すぐに誰かに連絡すると、おばあさんに静かに声をかけ、安全な所まで移動させた。

 しばらくすると警察官が、何人か集まり家をとり囲む。


 そして出てきたスーツの男の人は、あっけなく捕まり、僕は家に帰る事が出来た。


 家に帰ると、キャットタワーの前に椅子を置いて、あずき先輩に声をかけた。


「あずき先輩……昨日はごめんなさい。そして猫のおやつありがとう」


 そう言うとあずき先輩は、細目を開けてこっちを見てゆっくり「ミャアーオ」と鳴いた。


「あずき先輩、撫でていい?」


 そう言って返事を、待たずに撫でた。


「あずき先輩、ふあふあ、素敵――!」


 そう言って、何度も撫でたらガブッてやられた。いつもの通り痛くないけど、すこし心が、へこんだ。


 あずき先輩は、向こうを向いちゃうし、踏んだり蹴ったりだ――。


 ……寝よう。



 次の日、起きたらあずき先輩が、隣に寝てたので、また安心して……また寝た。



 おわり

見てくださりありがとうございます


また、どこかで~。 そう言って寝た。

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