川の事故にご注意を
キッチンの机の上で、みずほちゃんが勉強をしている昼下がりのある日……。
みずほちゃんの横で、勉強を見てあげる猫の僕。
椅子に腰掛け、机に手をかけ、時々みずほちゃんの鉛筆の先のところを、ガジガジカミカミ出来そうで、出来ない?、今だカジれる!? ってそのスリリング感がたまらない。
「稲穂……、遊んで欲しいの?」
ニャーン(遊んでは欲しい。でも、まず勉強を見ててあげますね)
みずほちゃんは、鉛筆を動きをとめて、僕の方を見て聞くから答えた。そして僕は、鉛筆の先に目を向ける。
けど、鉛筆は動かずにみずほちゃんは、僕を見ている
。
ニャニャ(勉強を早くやりなさい!)
そう言った僕を抱っこして、リビングへ僕を連れて行く。
そこには、テレビゲームをしているあずき先輩が「うぉあ…」「嘘だろ……」と、一人で喋っていた。
ソファの前に座るあずき先輩、その横のソファにみずほちゃんは腰掛ける。
「どうした? 勉強は終わったのか? おっとと」
画面では、大きな敵が、大きく火を吹き真ん中のキャラがギリギリ避けた。
そして僕はそれを見ながら、みずほちゃんにブラシをかけてもらい始めた。
「稲穂が、遊んで欲しそうだったから……まだ、途中……」
「そっか、稲穂は、みずほの事が好きだからな……。じゃー俺が、こいつを仕事に連れて行くからみずほは、勉強してな……」
そう言ってあずき先輩は、腰をあげ僕をみずほちゃんから受け取り……ゲームの画面は、次のステージへと進んだところで、みずほちゃんによってテレビの電源は落とされた。
「ありがとう、あずき。二人とも頑張って来てね」
あずき先輩に抱っこされ、神社の境内に入る。
神社には今日も誰かがやって来ていた。その人達とすれ違いながら社務所へとあずき先輩は入って行くと、お父さんが事務の仕事をしていた。
「お父さん、みずほが勉強中だから稲穂も仕事に連れて行く。だから稲穂の為に儀式を執り行ってくれない?」
顔を上げたお父さんは、僕達の方へ来ると僕を撫でる。
「稲穂は、今日は先輩のお仕事を見学か……頑張るんだよ。」そう言うとあずき先輩の方を見る。
「あずき、私も儀式は執り行ってあげたいけど、私とお前の絆でおこる奇跡であって、私に稲穂を変える事はたぶん出来ないよ」
「そうなのか……」
少し落ち込む、あずき先輩の頭を撫でながらお父さんは、「でも……」っと話を続ける。
「でも、あずき達みたいな、しっほの多く生えた猫達には奇跡がいっぱい詰まっている。同族のお前なら、稲穂を人間に変える力があったら素敵だね」
「お父さんの希望か……」あずき先輩は、少し渋い顔をするが、お父さんは笑顔だ。
「じゃあ行こうか」お父さんは、壁の小さな扉を鍵で開けて、沢山ある鍵のなかの内の、1つの鍵を取り出し、また扉を閉めて鍵を閉めた。
境内を経て、本殿へ行くと僕の横にあずき先輩が立ち、儀式を取り行うが僕の姿は変わらなかった。
「うーん駄目だな、稲穂を悪い今日はお留守番だ」
あずき先輩は、あっさり諦めた。お父さんは、少し笑うと……。
「あずきもう時間はないのかい?」
「いや、そうでもないなぁ。まだある。」
「じゃー今度は、一緒にやってみようか」
「いつも、思うが……お父さんは、気が長いなあ」
「そうでもないよ。娘はこれから忙しくなるだろうから、それを少しでも肩代わり出来たら……って思うのは父親として当然の事さ」
「そうか……おまえだけ大人になったんだな……。しゃぁないやるか――」
あずき先輩の残念そうな、でも、誇らしいような不思議な表情。そして僕達よりの先輩達の儀式は、執り行なわれ僕は、人間になれた。でも――。
「う――ん、みずほちゃんの時とはなんか違う……やっぱり――みずほちゃんにお願いしょう!」
僕が本殿から出て行こうとすると、あずき先輩が僕の服の背中を引っ張る。
「お前はどれだけ見学に力を使う気なんだ。そのままで、俺の仕事ぶりを見ていろよ」
「あずきにもどうしても稲穂の力が必要な時はあるけど、今日はあずきにどーんと任せておけばいいよ。見て習うというのも勉強だからね」
お父さんは、そう言ったので、僕はそのままあずき先輩の仕事を見学する事になった。たくさんの信号を渡った時、川が見えて来た。
大きい川の堤防は、マラソン用の道になっている。そこへ着いた途端に、あずき先輩は全速力で走りだした。
僕との距離は、どんどん離れていく。どんどん開く距離に、焦りながらいろいろな事を考えてしまう。
もしこれが僕の力が完璧な時だったら……とか。おもちゃを前にした時の瞬発力なら負けないのに……とか。僕はもっと美味しいご飯を食べて、大きくならないといけない……とか。
そう……もっと美味しい物を沢山と夢中で僕のご飯の事を考えていると……。
あずき先輩が草をかき分けながら、堤防を川岸へと降りていく。僕もあわてて目の前の階段を下りて、あずき先輩を追いかける。
僕あずき先輩を追って、たどり着いた先は、石が敷き詰められた開けた場所だった。
そこには浅瀬で、遊ぶ家族が何組もいる。ちょっと野生に帰るには、丁度いい場所だった。
小さな子どもを追いかけて、なんだか一生懸命説得してる大人達が居たり。子供達だけで、川の中の段差で、白く泡立った場所を狙って、虫取り網を入れて魚を捕まえようとする子もいたり、みんなそれぞれ野生に帰って楽しんでいる。
「誰が、危険なのかわかる? あずき先輩」
「川は、全体的に危険なんだよな……。小さい子供は反射的に行動するから、こういう場面は目が離せないしで、危険が事があるまでだいたいわからないんだ。しかしこの中の誰かが――」
僕達は、ふたてに分けて川しもの、海に近い方で注意深く見ていた。その時、川の中央に向かって歩いている男の子が、右足を出すもそのまま足を取られて静かに沈んだ。
「あずき先輩、小さい男の子がおぼれた――――!」
僕は、慌てて水へ入ろうとするが――。あずき先輩が、「絶対、お前は水に入るな!」って事を思い出し足が止まる。その間に男の子は、手の届かないところへ行っている。
僕の声で、敏感な子供達が騒ぎだす。その中の一人の女の「あそこ!あそこにいる!!」って声で、大人達が事実を知る事になる。
その先には、あずき先輩が居て、何かを持っている。それは紐でその先には、大きなペットボトルがあり、男の子は必死にしがみ付いている。
「大丈夫だからな。背中を下にラッコみたいにペットボトルを持てよ。大丈夫だからな」
あずき先輩は男の子が慌てない様に優しく言いながら、しばらくそのまま動かなかった、大人達が僕の周りを走り抜け走って来るのを確認すると、川の流れの早い部分へとペットボトルを持つ男の子を引っ張り通過させ川の流れのゆっくりとした流れの所まで引き寄せた。川岸近くなった男の子を、何人もの大人が助け出した。
男の子は、泣いているがどうやら大丈夫の様だ。まわりの大人に安堵の空気が広がると、あずき先輩がやってきて――。
「良かった――!!、マジコワ!マジコワ!」と、言って、体をさすりながら足ぶみをするのだった。
その後は、あずき先輩は、「こっから帰るのか……。バス乗るか、バス!」と言うので、市内バスに二人で200円払って帰って来たけど……監視カメラに変な風な映像として残り、心霊現象になってたらどうしょうと……その日は思った。
次の日には、新商品の猫缶について考えた。
おわり
見ていただきありがとうございます!
またどこかで。