花火大会の始まり
花火大会の日の夕方、みずほちゃんとぼくはお母さんの前に揃って並び、あずき先輩は、お父さんとあーだこーだと、言いながながらそれぞれ浴衣を着付けていた。
僕の着物は、男の子用の作務衣で、はくだけなのだけれども、上の上着のちょうちょ結びがちょっとまだうまく結べない。人間は覚える事が、たくさんで大変すぎる。
着付けが終わったら、僕はまだ人間の姿で写真に写る事の出来ないけれど、家族みんなで写真を撮る。それが終わったらお父さんが、僕の絵を描いてくれ、僕にくれた。
あずき先輩も小さい頃は写真に写らなかったので、お父さんは毎回、絵に描いていたらしい。凄く上手!でも、描いてる間に、みずほちゃん達は、お出かけしてしまって少し残念だった。
「「いってきますー」」
僕達は、黄昏時に家を出る。夕焼けの色で少し赤くなったそらは、まだ残る昼の明るさの中にあって、とても不思議。その空にもうすぐ七色の色が、付くと思うととても楽しみ。
神社の鳥居を抜けたら、あずき先輩が「消」のカードをくれた。「消」カードを、顔の左側にやり、僕の顔を通って横ぎらせ、Zみたいな文字の形にカードを動かした。そして「しょうしつ」と念じながら言うとカードが消える。
「かっこいい……」
「子どもは、そういうの好きだよなぁ……」
「あずき先輩もやって――お願い――!」
あずき先輩は、『炎』のカードを取り出して――。
「ほのお」と言うと、あずき先輩の顔の前に炎がゆらめき、おへその辺りを基点として、炎のゆらめくカードを時計周りに一周させると、時計の数字の位置に炎が残る。
12の炎が、渦の様に基点のおへそ部分に集まると、1つの爆発になって炎が消えた。
そうすると爆発に紛れて、あずき先輩も消えていた。
「あずき先輩……?」
僕は心配になってしっぽをもさもさする。
「ここだ!」
あずき先輩は、大きな木の上にいた。
「『炎』でも、こんな使い方が出来るから覚えておけよ」
「凄い!魔法使いみたいね……漢字の力であがったの?」
「漢字じゃなくてジャンプし跳んだ。それに魔法使いじゃなくて猫又だぞ。」
そう言って先輩は、僕の髪をくしゃくしゃにした。
「やめて、今日は、花火の日だからお母さんに髪をきれいにして貰ったのに!」
「あ……わるい、わるい、しかし……お前は言ってる事が、どんどんみずほに似てくるなぁ……」
そう言って、僕を置いて先に進んでしまう。あずき先輩の浴衣は、黒地に裾の所に鯉の模様。
僕のは濃紺に、白いたて線が何本かついたやつ。なんかいいなぁ鯉……美味しそうだし。
「稲穂、迷子になるといけないから、手をつなぐぞ」
「仕方ないなぁ……しっかり付いて来てね」
「はいはい、稲穂お兄さん」
僕達が、歩き出すと本当に人通りが多い。いつもはそんなに居ないけど、今日は歩く人がいっぱいいる、なにより夕方なのに、子供達がいっぱいだ。駐車に、折りたたみの椅子で座っている人も居て驚く。
お店の前に、机を出しジュースを売っている店まである。机の隣の箱の中には、ジュースと氷がたくさん入っていてそこからだして机の前の人にジュースとお金を渡すらしい。
「稲穂、何にか買うか?」
「買う!……けど、考え中。でも、どうやって買うの? 僕達は見えないよ? 術を解いても耳としっぽはどうするの?」
あずき先輩は、長い布をだしたそれを、頭に結ぶ。
「ジャーン、これは手ぬぐいと言うんだ。これで、耳は隠せるし、浴衣だから今の所はしっぽも見えてない。もししっぽが出そうな時は、着物を押さえるか、着物の上から抱きついて見えない様にしてくれ。」
「へ――凄いね!あずき先輩は、毎日浴衣でいいのに」
「勘弁してくれ。逆に目立つ、じゃあ、何か欲しくなったら一度、『消』を解除するから言えよ」
僕達は花火を打ち上げている、市のスタジアムへ近づくとともに、空はすこしずつ夜の色になる。
その時ヒィュ――と音とともに花火の花が開いた、次々うち打上げられる花火はいろいろな色をしていて黒い空を、まるで僕のクレヨンの様にいくつもの色の花を重ねるが、やがて黒い空をあらわして消えていく。
たくさんのパンパン言う音が体に響く。そして少しのへんな匂いこれが、花火なのか…………。
………………。あずき先輩が、僕の着物を引っ張る、布があずき先輩方へよってしまい中のシャツが見えてしまっている。
「あずき先輩……、そんなに僕の袖を持ったら、やぶれちゃうよ!」
「そうだな。怖いな……、特に音が怖い」
「違う! 、破けるの! も――」
僕は、あずき先輩を連れて道のはしっこに行き、あずき先輩と一緒にあひるさん座りをした。そしてあずき先輩の背中をさする。先輩もなんとか猫にもどらないでいてくれるので、僕らはちょっと休憩をしてみる事にした。
「何してるの?」 僕の横に金魚の浴衣のちゃろちゃんが、あひるさん座りで居た。
「あずき、こわいの今だけだから頑張ろう」
ちゃろちゃんと色違いの金魚の浴衣のめろちゃんは、あずき先輩の隣に座ってた。
「あずきちゃんは、花火こわいのか……まぁこわいよね、花火。うーん、あずきちゃんが、元気になるように、二人にねこのお菓子あげるね。はい、どうぞ」
「「ありがとう」」
「じゃ……私達は瑠璃君のところに戻るから、ふたりとも花火楽しんでね」
二人が行った先を見ると瑠璃君が居たが、彼には僕達が見えてないようで、ちゃろちゃんが僕達の方を指さすと、手を振ると二人と一緒に行ってしまった。
「うまいなこのお菓子……」
「そうだね、もっと食べたいね」
「じゃ……行くか。怖いだけじゃ……つまらないからな」
「うん、行こう!」
僕達は、たくさんの人の中でゆっくりと進んで行った。
つづく
見ていただきありがとうございます!
またどこかで~。