やっと
彼と出会ってからは怒涛のような日々だった。
休み時間には毎回俺の教室にやってきたし、放課後には毎日のように色々なところへ連れ回された。かなりしんどかった。
だけどなぜか悪い気はしなかった。彼は意地悪な性格だったし、俺にとっては苦手なタイプの人間だった、それなのになぜだろうか。
彼といると楽しいと感じた、とても不思議な感覚だった。
彼は俺について質問をすることが多かったが、自分のことについては一切語ろうとしなかった。
俺が名前を聞いても「お前に言う必要はないな。」の一点張りで、クラスでさえ教えてくれはしない。
彼は俺のために空から来た神様だったりして…。なんて考えた日も多々あったけど思い返してみればあれが神様の態度と言えるだろうか。彼はどちらかと言えば神様とは真逆の性格をしているし。
俺は思考を巡らせる度に毎回一つの答えを出した。「あれは神様などではない。」と。
「ねえ君さ、なんで俺に話しかけてきたわけ?」
「んーー、俺が神様だから。とでも言っておこうか。」彼はわっははと笑った。
ギクッとしたが、すぐに俺は彼から目を逸らし小声でこう言った。
「嘘つき…。」
「ん?何か言ったか?」と不思議そうに俺を見つめる彼に俺は呆れた表情で話した。
「君さ、俺の人生に色を塗るって言ってたけど…あれ本気なの?」
「ああ、本気さ。俺でないとお前の人生に色は塗れぬだろうと思ってな。」彼は真剣な表情で俺に話した。
あぁ、こいつガチで言ってんだ。まじかぁ…、厨二病拗らせ野郎じゃねえか…。頭の中でそんな彼への酷い言葉が右から左へと川を流れる水のように通り過ぎて行った。
俺達はお互いに名前も知らない関係なのに。
正直な話、俺の彼への信頼度はかなり少ないと言っていいだろう。初対面相手に「人生は楽しいか?」と聞く気前の良さ、会って数日の人間を放課後振り回したりする性格の悪さ。なんと言っても口の利き方が気に入らない。自分より一回り体の小さいやつにお前と呼ばれると少し癪に障る。
だが、そう考えつつも俺の思考は常にこいつへの期待でいっぱいだった。
その時、俺ははっと我に返り今日が通院日だったことを思い出した。右手に付けた腕時計を見ると診察時間の十分前を過ぎていた。この場所から病院までは近いから間に合うか。
俺はうーんと唸りながら「悪い、今日はもう帰る。」そう言い、その場から離れようとする俺に彼は「もう帰るのか。」と少し残念そうな表情を浮かべ呟いた。
俺はその表情に気づかないフリをしてその場を後にしようとした。
その瞬間だった、視界がぐらっと揺れ、脳みそがぐるぐると回るような感覚に襲われた。
俺は状況が理解出来ず、その場に倒れ込んでしまった。
目を覚ますと、長方形のマス目で区切られた見慣れたコンクリートの天井が目の前に現れた。
状況の把握に数秒かかったが、直ぐに理解した。ここは俺が通院している病院だということを。
俺は体を起こそうとするが、酷い目眩に襲われ、直ぐにまたベッドに倒れ込んでしまった。
すると急に、見慣れた医者の顔が俺の目の前に現れ、体を支えてくれた。
ゆっくりではあったが、なんとか起き上がることができた。
そして、すぐに医者が口を開いた。
「色くん。急だけど、君の病の治療法が見つかったよ。」
俺は最初、医者の言葉を聞いた時「こいつ、ふざけてるのか。」そう思った。
だが、そんな考えをかき消すように医者は言葉を続けた。
「ちゃんとした治療法はまだ分からないんだけど、実は君と同じ病を持った子供を見つけたんだ。だがその子は、六歳の時に既にこの病を治すことができていたみたいなんだ。」
俺は医者の言葉を真剣に聞いていたが、全く理解が出来なかった。
「その子にどんな方法で治したのか聞いてみたんだけど、やはり六歳や七歳くらいの子に聞いてはダメだね。全く解読不可能だったよ。」と呆れた表情で医者は言った。
「でもその子はこう言ってたんだ。」
『あのねあのね!保育園が一緒だった子が僕にえい!ってしてくれたの!そしたらね、急に目の前がピカッ!てしてキラキラってなってね!そしたら色んな色が見えてきたんだ!でもね、その時は赤色しか見えなかったんだよね…なんでなんだろう。』
その子はその後うーんと唸りつつも疲れて寝てしまったらしい。
医者が頑張って解読し、作り直した発言だろう。だが、医者の言う通り俺も全く理解ができなかった。
しかし、少しでも治療法の手がかりが見つかったのだ。俺は今までに無いほど気持ちが高ぶっていた。この気持ちをなんと表わせば良いのだろう。
「すまないね。こんな感じにしか聞き取れなくて。」
俺はいえいえと頭を振った。
正直十分すぎるくらいだ。まず、同じ病を持った子供がいたという時点でかなり手がかりになる。
そうだ。あいつにも報告しないとな。あれ?そういえばあいつは俺が倒れた後どうなったんだ?それになんで俺は目を覚ました時、ここにいたのだろう。答えは考えなくても分かった。きっとあいつが運んでくれたのだろう。
「俺を運んできてくれた男の子はどこにいますか。」うーんと考え事をしている医者にそう聞くと「ああ、その子ならきっと待合室に居るんじゃないかな。」とハッと我に返ったように話した。
ビンゴ!案の定あいつが俺を運んできてくれたらしい。
「すいません。少し急用ができたので帰ります。今日は色々ご迷惑おかけしてすいませんでした。検査はまた次の時にお願いします。」
俺は手がかりが見つかったことをいち早くあいつに伝えるべく医者に嘘をついた。
「あ!待って!さっきの話の続きを…。」
俺は興奮を抑えるように、その場から全速力で待合室へと走った。