痛み
ユウト君が部長の家に居候して3日が経とうとしていた。ユウト君はまだ、親と会えていなかった。
ずっと部長の家に泊めてもらうわけにはいかない。
夜ご飯を食べてご機嫌な少年はアキコさんのお皿洗いを手伝っている。
部長を巻き込んでしまった罪悪感もあり、部長に提案をする。
「部長、ユウト君うちで預かります。ずっと泊めてもらうわけにもいかないですし...」
部長は一呼吸置き優しい口調で答える
「気にすんなって。親が見つかるまではうちにいたほうがいい。」
部長の優しさに甘えるわけにはいかない
「でも...」
ウイスキーを片手に、部長はカラカラと氷の音を立てている。
「それにお前、子どもを養える程のお金なんてないだろ?俺からすればお前も子どもみたいなもんだ。こういうのはおっさんに任せとけばいいんだよ。」
まあ確かに。お言葉に甘えるしかないが、それでも何もしないわけにはいかない。
先日ユウト君を追っていた人達は何が目的なのか。ユウト君の手の”ヒビ”と何か関係があるんだろうか。
「明日休日なのでユウト君ともう一度親を探しに行きます。」
さっきまで調子が良かったおっさんはウイスキーを飲む手が止まる。
「そうか...何かと物騒だからな。気をつけろ。いつでもうちに戻って来いよ」
部長の優しさを受け止、笑顔で返す。しかし、もう戻るつもりはない。
「ありがとうございます。」
俺たちの心配とは、裏腹に少年から、声をかけられる。
「おにーちゃん、ゲームしよ!今日は負けないから!」
ユウト君に心配をかけるわけにはいかない。笑顔で返事をする。
「今日もボコボコにしてやるよ」
部長が呆れた顔でこちらを見ている。
「大人気ねぇな...」
さっき、俺も子どもみたいなもんって言ってた人だれ?
ーーー 翌日 ーーー
「おにーちゃん、起きて!早くいこ!」
昨日、ユウト君と深夜2時までゲームをしあとそのまま部長の家に泊まらせもらった。
俺の布団の上をぴょんぴょん跳ねている。重たい...子どもって元気ね。
部長には話したが、ユウト君にはショッピングと伝えてる。本当の理由は言えない。
ただ....
「あと5分だけ...」
寝させてほしい。
「ダメ!!」
顔面に枕を投げられ、俺の睡眠は強制終了された。
頭がぼーっとする中、ダラダラと歩くうちに行き慣れたショッピングモールにつく。
くあー!っと大きいあくびをする俺を見て、ユウト君は呆れた顔をしている。
「まだ眠たいの?おにーちゃんゲーセン行こ!」
本当に子どもって元気ね。
「はいはい...」
南館と北館に分かれており、南館4階にあるゲームセンターへ足を運ぶ。
この3日間、情報収集をしていた。ユウト君の親への手がかり。
友野 優斗それが少年の名前だ。周辺の小学校とや警察、様々なつてを当たったが手掛かりはつかめなかった。しかし、とあるSNSの書き込みで、ユウト君の親らしき人の書き込みがあった。トモノ ユウト君、小学3年生を探す投稿。ダイレクトメッセージでやり取りを行い、今日の13時に落ち合う約束をした。しかし、会うのは俺一人でだ。悪い人でないか見極めが必要だからだ。
「ユウト君、トイレ行ってくるから、ここで遊んでて。勝手に動くなよ」
俺の方を見向きもせず、冷たく答える。
「赤ちゃんじゃないんだから、早く行ってきて」
ユウト君に送り出してもらい、待ち合わせをしていた南館6階の屋上駐車場へ向かった。
待ち合わせ場所には、20代くらいの男女がいる。明らかに親ではない。
しかし、少しでも手掛かりが必要だ。勇気を出して声をかける。
「あのー...13時から待ち合わせしていた...」
声をかけると、好青年が食い気味に答える。
「ユウト君を保護してくれてる方ですね!!ありがとうございます!」
しかし、素性がわからない人のユウト君を預けるわけにはいかない。
「失礼ですが、ユウト君の親じゃないですよね?あなたたちは...」
次は、巻かれたロングヘアーがよく似合う、女性が答える。
「私たちは公安警察よ。あなた先日、物騒な集団に追われたでしょ。秩序を脅かす連中を取り締まるのが私たちの仕事よ。」
そう淡々と答えながら、どうやら本物の警察手帳を俺に見せる。
続けて好青年が答える。
「ユウト君の親御様も我々で保護しています。あとは、ユウト君を任せてください。これまでのご尽力に感謝いたします。」
青年は深々と俺に頭を下げる。
人から頭を下げられるのは初めてで慌て俺も頭を下げる。
「とんでもないです!事情は分かりました...どうかユウト君をお願いいたします。」
ユウト君を預ける約束をし、ゲームセンターで夢中に遊んでいるユウト君を呼びに行く。
「おにーちゃんお帰り」
「ただいま。ユウト君そろそろ行こうか。」
少し声が重たかったのか、ユウト君もお別れを察したのか、小さく答える。
「うん...」
ユウト君は無言のまま小さな手で力強く俺の手を握ってきた。。俺も答えるように強く握り返す。
エスカレーターを2回乗れば6階に行けるが、下に降りるエスカレーターに以前の少女がいた。
驚いた表情でこちらを凝視し、呼び止められる。
「やっと見つけた!あなたたち待ちなさい!」
握った手は離さない。小さな手を引き、エスカレーターを駆け上がる。こんなところで邪魔されるわけにはいかない。公安警察の好青年と女性がそこにいる。
前に進みたいが、小さな手はそれを拒む。震えている。
「ユウト君、大丈夫だよ。お兄さんとお姉さんがお母さんのところへ連れてってくれるよ。」
ユウト君は涙を流し、男女2人に力強く叫ぶ
「お母さんを返せ!!」
こんな感情を爆発させている、ユウト君は初めてだ。呆気にとられ、とりあえず宥める。
「ユウト君落ち着いて、彼らは悪い人じゃ...」
その瞬間、わき腹に鈍い痛みが走り、倒れこむ。
「おにーちゃん!!」
少年の心配する声が聞こえるが、あまりの痛みと急所への攻撃で呼吸がうまくできず意識が朦朧としている。それでも力を振り絞る。
「.....なんで....」
その3文字がやっとだ。
好青年は不自然な笑みを浮かべたまま、小さな震える少年の手を引っ張る。
もちろん少年は抵抗する。
「放せ!俺の母ちゃんを返せ!!」
痛みはあるが、抵抗せずにはいられない。
「やめろ...ユウト君を放せ...!」
ユウト君を握る、青年に飛び掛かる。青年はユウト君を女性の方へ投げ、そのまま俺にボディブローをいれる。今日2発目の攻撃は、耐えられない。そのまま地面にうずくまる。
「おにーちゃん!!」
ユウト君の声が聞こえる。
うずくまりながら、彼らに問いかける。
「なんで、ユウト君を...」
公安警察の女性が、動揺もなく淡々と答える。
「だから言ったでしょ。私たちの仕事は、秩序を脅かす連中を取り締まること。即ち、始末すること。この少年もお母さんと同じようにね。」
女性の手は、ユウト君の首を締め上げる。足が地面から離れバタバタと抵抗している。ユウト君の小さな声が聞こえる。
「おにいちゃん。助けて...」
「やめろ...やめてくれ...」
うずくまる俺は言葉で抵抗するしかなかった。なんで動かない...俺の身体...!
青年と女性は笑っている。何がおかしいのか理解できない。できるわけがない。
ユウト君は、もう動かなかった。
「あぁぁぁ!!」
怒り、悲しさ、悔しさ、様々な感情が押し寄せ心が壊れそうだ。
「心配しないで。あなたもすぐに会えるわよ。」
女性はそう言いながら、ユウト君を絞める手を放し、俺の方へ近づく。
もうどうでもいいと思っていた瞬間、立体駐車場を下るワゴン車がそばを通る。後部座席から、以前の大男が俺を車に引き込み、エスカレーターですれ違った少女が運転をしている。逃げるように車を走らせる。
「小さな少年は間に合わなかったわね...」
大男が悲しげにぽつりと漏らす。
まだこの状況を受け入れることができない。
「車を戻してくれ...お兄ちゃん、助けてってユウト君が...助けないと」
俺の動揺を、運転席の少女は諭す。
「少年はもう助からない。あなたの責任じゃないわ...」
少女の冷静な言葉に、現実が押し寄せ嗚咽を漏らす。
「うぅぅ....あぁぁ....」
そして、身体と精神の痛みと負担が限界にっ達し、静かに眠るように気を失った。




