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出会い

ここから本編スタートになります!

ピピピピピピピピピピ!!

不愉快なデジタル音に至福な時間の終わりを告げられる。

無理やり現実世界に戻され、現実か夢か曖昧なまま、手を伸ばしこの世で1番嫌いな音を止める。


人様を起こして満足気に静かになるヤツに、腹が立つ。1週間の始まりとしては最悪だ。

「可愛い彼女にソータ君起きてって言われたら最高な気分で起きれるんだろうな...」


いかん、本音が漏れた。きっと現実か夢なのかまだ曖昧なのだ、きっとそうに違いない...


6畳半のワンルームの窓から差し込む日差しが眩しい。カーテンを閉めてやりたいが、お天道様の命令には流石の俺も逆らえない。

よっと、ベッドから立ち上がろうとするが俺の体は動きたくないらしい。

「いたたたた...これ会社行けんのかよ...」


両腕と両脚、お腹が痛い...

うちの会社のレクリエーションが週末に行われ、社員のメンバーと登山をした。

年甲斐もなく、若さを活かし頑張ったものの最近はロクに運動もしていないせいか、身体(からだ)中が筋肉通で痛い。後悔してるかって?

愚問だ、後悔などするわけがない。答えは一つ、そこに山があるからだ。たぶん...

「はぁ...準備だるいなぁ...」

ため息混じりに本音がまた漏れる。


仮病の理由を考えてると、プルルル!とスマホに着信が入る。画面には菅原部長と表示されている。社会的に俺より地位の高い人間からの着信は出ずにはいられない。電子音恐怖症になりそう...


「おはようございます。部長、高橋です。」

可愛い彼女に〜など情けない声ばかり吐いていた割には流暢に声が出てくれた。


「あ、高橋おはよう。今日の会議の件だが、えーっと俺が今日不在だからお前が発表してくれないか?資料とアジェンダは先週作っといたから、会議の進行頼めないか。」


出社確定コースに絶望すると同時に一つの疑問が浮かぶ。

「先週の金曜日に会議は部長が進行されると、おっしゃっていませんでした?どうかされましたか?」

若干問い詰めるように聞いてしまったことは反省してるが、嫌な予感がする...


怪訝そうに俺が問い詰めると、気まづそうに部長が答える「あーえーと、実は昨日から脚が...コホン!コホン!咳が酷くてな。ほら俺、喘息持ちじゃん?」


と、わざとらしい咳払いをしているが、そんな設定初めて聞いたよ...

そういえば昨日の登山で俺と張り合う40代のおっさんの存在を忘れていた。

はぁ...と聞こえないように本日2度目のため息を吐き「喘息の症状で脚の筋肉も痛くなるの初めて聞きましたよ...」と皮肉混じりに答える。


下手な嘘がバレた40代男性は年甲斐もなく懇願してくる。

「ほんまに申し訳ない!今度、お酒でもご飯でもなんでも奢るから!このとおり!」


どのとおりだよ。電話越しにごめんとジェスチャーをしている部長が目に浮かぶ。そんな、甘い話にこの俺が...

「部長......今度最高に美味しいウィスキーで手を打ちましょう。」乗ってしまった。何を隠そう俺は無類のウィスキー好きだ。


部長も気分が良くなったのか、ふんっ!と自慢気に語りだす。

「この前、最高に美味しいスコッチウィスキーを見つけてな。今度、高橋にもご馳走してやろう。」


若干上から目線なのは、今回は許すとして、さっさと準備して家を出ないといけない。

「今日の会議は僕に任せてください。部長もお身体を大切にしてくださいね。失礼します。」


大人の男同士の汚い契約を結び、俺は会社の支度を始める。


そういえば、今日夢で子ども?と話してたような...まぁいいか。なんか大事なことを話してたような気がするが思い出せない。

地球外生命体からの警告だったのかも!と心躍るが、アニメや漫画の世界じゃあるまいしな。

小中高大学と平凡に生き、順調に社会の歯車として回り続けている俺にはあり得ない話だ。

所詮、俺には「通行人B」くらいの役がお似合いだと自分に言い聞かせ、家を出た。


言われた通りに、会議の進行を務め19時には帰路につく。いつもと変わらない変哲のない日常だ。


そう、1人の少女と会うまでは


その少女は耳にイヤホンをし、横断歩道を本を読みながら渡っている。

歩行者信号は青い光が点滅し、赤くなる。目と耳を別のことに向けている少女が気づくわけがない。

自動車は無慈悲に少女へと距離を縮めていく。


「危な...!」咄嗟に声が出たが、俺の声を強く鳴らされたクラクションが掻き消し、少女へは届かなかった。

しかし、当の少女はピクリとも動じていない。

運良く、少女の1メートルくらい手前で車は止まった。

車のライトに少女は照らされている。スポットライトのように照らされる少女をただただ綺麗だと思った。


「おい、あぶねーだろ!ちゃんと周りみろ!」と強面の男性に叱られている。当然だ。

しかし、悪びれる態度もなく彼女は無言で信号を渡って行った。そうこうしているうちに青信号になっており、小走りで俺もついでに渡らせてもらう。

意図してはいなかったが、轢かれそうになった彼女に追いつき、その後ろを悟られないように歩く。


身長は150㎝程度だろうか、黒いミディアムヘアを下ろしている。黒いパーカーとグレーのリュックを背負い歩く背中は小さく見えた。


4月初旬でしばらく夜は肌寒い。先ほどの出来事か、肌寒さが原因なのか分からないが小さい身体(からだ)は僅かに震えている。

その小さな身体がピタリと止まる。


「そのまま轢いてくれたらよかったのに。」


彼女は前を向いたまま、言葉を発する。誰に向けられた言葉なのか分からず、声を出すことができなかった。

すると少女は踵を返し、ゆっくりとこちらへ振り向き。俺に向けられた言葉だったことを理解する。


「君はそう思わない?」


急な問いかけに言葉が詰まる。しかし、俺に向けられた言葉を返さずにはいられない。


「えーっと...死ぬのは怖いかも...」


正解はないが自信なく答えた返答が気に入らなかったのか、彼女は再び正面向き「そう...」と一言だけ残し、遠ざかっていく。


今日は疲れた...家に帰り、すぐに眠りについた。ベッドにダイブし、立ち上がることができない。睡魔というブラックホールに飲み込まれ、そのまま眠りについた。


数日が経ち、あの横断歩道を渡るたびに先日の光景を思い出す。彼女が発した言葉の意味を深く考えてみるが、答えが出ない。一つわかることは、彼女にとって死は身近にあるということだけだ。


寝る前に死ぬことが怖くなり、寝れないなんて誰もが経験することだが、日頃から死を意識する人は少ないだろう。

俺もその1人だ。早く死にたいとは到底、考えられない。できることなら、200歳くらいまでは生きたい。


いつもと同じ道を歩いていると、後ろから声をかけられる。鋭い針のような女性の声に身体が反応する。先日聞いた声と同じ声だ。


「君にとって生きるってどういう意味?」


ほとんど初対面の人によく話しかけれるなと思うが無碍(むげ)にはできない、してはいけないと思った。

しかし生きる意味...哲学か?と思ったが以前俺が答えた言葉に対しての疑問だろう。

とりあえず、聞かれたからには答えるのが男だ。


「逆に死んでもいいと思えない...まだ若いし、やりたいことも沢山ある。」


俺にとっては死とは悲しいものだ、受け取り方は人それぞれだが、彼女が言った「轢いてくれたらよかった」という言葉は理解できなかった。


「別に私も死ぬのが怖くない訳じゃない...ただ生きる意味が分からなくなる時がある。この世から私という存在がなくなればいいって...」


俺とは違う価値観、環境の世界に身を置いていたのだろう。彼女にかける適切な言葉が思い浮かばない。彼女は俺の返答を待たずに続けた。

「こんなこと赤の他人の君に言うべきじゃなかった。ごめんなさい」


そういうと彼女は俺を追い越し、先日のように寂しそうに闇へと消えていった。


できる男なら彼女を呼び止め、励ましの言葉でもかけるのだろう。しかし、そんな見え透いた優しさは彼女には無駄だろう。そう臆病な自分に言い聞かせた。


俺の仕事はデスクワークが基本だ。代理店のような仕事で、他企業の商品をエンドユーザーに販売する。ありふれた仕事だ。

作業仕事は1日が経つのが早い。社員のみんなに「お先に失礼します」と一礼をし「お疲れ様〜」という返事を聞き、会社を後にする。ありふれた日常だ。ただ、最近帰り道だけは日常とは異なることが多い。


仕事場は市街地にあり、それなりに栄えている。旧居留地だったこともあり異国感を漂わせている街は、国籍の壁を超えて毎日賑わっている。


そんな喧騒とした街の真ん中に彼女はいた。視線を下に向けて、耳を両手で塞ぎ何かを探している。

彼女がいつも無線型のイヤホンをしていたのを思い出す。イヤホン落としたのだろう。2回しか会って少ししか話したことはない。俺から声をかけても、お節介だろうな。

人の波に紛れて彼女の横を通りすぎようとするが、見ていられなかった。持病のお節介病が出てしまう。


「なんか探してる?手伝おうか?」


両耳を塞いでいる彼女には俺の声が届かない。

しばらくすると、俺の気配に気づいてくれた。


「なに?」少し恥ずかしそうに彼女は呟く。

「何か落としたのかなって...探すの手伝うけど」


図星をくらった彼女は小声で答える。

「いや、何も落としてない...帰る」


俺と話をするのに意識が向き、耳を塞ぐのを忘れていた彼女は思い出したかのように咄嗟に両耳を手で塞ぎ俺から遠ざかっていった。


話しかけても声は届かない。彼女よりも速いペースで近づき肩を2度軽く叩き、彼女にあるものを差し出す。ノイズキャンセル機能付きのワイヤレスイヤホンだ。普段、俺が使ってるものだが...何もないよりはマシだと思った。

「多分落としたのイヤホンだろ?これ貸すから」


彼女は少し驚いた表情をしていたが、喜んでいるのかどうか感情までは分からない。

「ありがとう...」そう呟きながらイヤホン両耳に着けてくれた。


「それじゃ、気をつけて」そう言い残し彼女とは別方向に歩き出す俺を次は彼女が止める。

「みみせん...」

うまく聞き取れず再度聞き返す。

「え?」

少し大きい声で返事をしてくれた。

「イヤホンじゃなくて、耳栓。落としたの。聴覚過敏って聞いたことない?」


「聴覚過敏...」

耳にしたことはある。普通の人が気にならない生活音も過剰に聞こえて、不快に感じるらしいが、知識としてある程度だ。


「うるさい音が嫌いなの。工事の音に電車の音とか。」


「たしかに俺も花火の音とか、風船が割れる音は苦手かも...」急に音が鳴るからビックリする...


彼女は少し微笑みながら答える。

「それは、君がビビりなだけじゃない?」


否定はできない...ただ、彼女の笑顔を見れたのが少し嬉しかった。

「イヤホンありがとう。そろそろ帰るから、耳栓買ったらイヤホン返す。」


「ああ...気をつけて」右の掌を彼女に向けて見送る。


家に帰ろう。

気ままに上げていきますので、ぜひ気長に読んであげてください♪

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