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3.

 校門を潜った村長は、未だ名残惜しそうに赤べことの抱擁を解くと、ホウと切ないため息を漏らし、すると俄にその並外れた哀愁に感染した渡り鳥たちが、空気中に隠されている魔法の羅針盤を見失ってしまい、村長が走り去った背後に馬糞のようにボタボタと墜落してゆく様を見て、アレは何の予言だと思う?と、半ば諦めの表情で訊いたのは校長で、既に事件の報告をこの教頭から受けていた彼は、二階の校長室の窓から、制止する守衛を踏み潰し堂々と入場する姿を見て、ちょうど尋常小学校で教わった、日本書紀に出て来る荒ぶる神々の姿をも思い出し、この『男の中の男』だったら、きっと生贄に埴輪などという回りくどい事はしないだろうと恐れた訳であり、それでも一縷の望みとばかりに、で、まだあの若造は、自分の意見を曲げんのか?と教頭に問い質したのだが、返事よりもその表情で察すると、仕方がない、とにかく今は、村長を出迎えよう、このままでは地震以外にも死人が出てしまう、ととても生きている者から出たとは信じ難い暗い声で云うと、それにまだ、私の腹の中に、青い宝玉が無いと決まった訳でもなし、と既にゴルゴタの低い階段を降りながら、独り言のように呟くのであった。


 一方村長は、自身の怒りの大きさと、更には男らしさを誇示する目的から、赤べこに乗ったままグラウンドを恐ろしい勢いでグルグルグルグル何十周と回ったのだが、天上からプッツン糸の切れた彗星のような、恐らくは規則正しい天体の生活を脅かし兼ねない、稚拙で冒涜的な凡そこの世ならざる光景に驚いて集まった生徒も職員も、皆その余りにバカげた勢いに、これじゃあ例え跳び箱や棺桶の中に隠れたって、一足一足がまるで最後のラッパのような猛牛の脚から逃れる術は無いと観念し、しかしこのままだと最終的には、村長と牛は獣臭いバターになって、結局は全員総出で小さなスコップを使って、イカ臭い(はらわた)のような残骸を、まるで賽の河原の子供らのように掻き集めて回らねばならなくなるだろうと、今からでも鼻を摘んで危惧したものだが、幸いにもその前に牛の方が目を回し、千鳥足で二・三歩あるいた後に、グニャリとグラウンドに倒れたので安堵したものの、投げ出された村長は悪態をつきながらも何とか立ち上がると、やはり目が回っていたので、その足取りはまるでジャマイカ辺りで見るような、ひどく覚束ないものではあったが、それでいてその態度の内には片足の船のコックのような親しみと憎しみとが確かに感じ取れたので、まだ物心もつかない子供たちですら笑う事を躊躇ったほどだが、校長よりも早く現れた教師の田中は、迷信よりは科学を重んじるといった、恥ずかしげもなく《モボ》を自認するような男だったので、凡そ盲目な無神論者たちの常である、怖いもの知らずの愚かな大胆さで、真っ直ぐにこの闖入者へと対峙していったのだ。

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