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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り head out
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head out Ⅷ

「ちょっと待って先輩! 団長のこと知ってるの?」

「ああ、知っている……悔しくて仕方ねえよ。で、お前たちは犯人について見当はついているのか?」

 これは全員で聞くべきだと思い魔道具の設定を変える。

 そこにテコたちが合流するが通話中だと気づかず話し始める。

「あの傷は闇属性の毒みたいなものだな。回復が効かない厄介な代物だ。一体誰がこんな芸当を……?」

「だからカイ団長だっていってんだろ!」

「ええっ⁉︎ ルゥ?」

 セレナが通話している事に気がつき声の出どころが分かるとイルヴィアたちも一緒に魔道具を囲むように集まり輪になり即席の会議が始まる。



 ◆   ◆   ◆   ◆   ◆



 騎士団の本部には転移魔法を発動できる部屋が存在し他の騎士団本部と王城に繋がっている。転移は古代の魔法であり個人で扱える者は現代ではいない。部屋自体が魔道具のようになっていて複数人の魔力が必要であるが誰でも使う事ができる。

「久しぶりに会えて楽しかったよ、カイ」

 カウコーはボレアース騎士団団長のカイ・エキウスとの会談を終え見送りのために転移の間へと赴く。

「新都市の進捗が聞けて俺もよかった」

「素晴らしい街になるから君も是非足を運んでほしい」

「そうだな……気が向いたら行ってやる」

「食べ物も美味しいから」

 こうなると話が長くなる事を知っているカイは早々に軌道を戻す。

「お前のところの風神と雷神は……ちゃんと手綱は握れているのか?」

 表情を変えずに間をあけ考えるフリをする。

「うーん、二人とも女の子だしね。こんなムサ苦しいところに長くは居て欲しくないかな」

「……そうか」

 わざとらしく話を逸らすから追求はせずに転移門の前まで進む。

 転移門は楕円の輪が台座の上に立っているだけで一見すると何かのオブジェのようにも見える。四方を囲む石柱に魔石が埋め込まれていてそこに魔力を流すことで楕円の輪の中の空間が歪み転移の門(ゲート)が開く。行く先は石柱のどれかに多くの魔力を込めればいいだけだ。

「じゃあな」

 カイはそう言うとカウコーの肩を叩いて転移の門(ゲート)へと向かう。

「またね、カイ」

 呼ばれて振り返ると不思議そうにカウコーを見つめて呟く。

「お前とは一度も手合わせすることがなかった。……お前はどんな能力スキルを持ってここにいる?」

 カウコーはいつもどおりの優しく穏やかな笑顔で返す。

「特別な能力スキルなんて持ちわせてはいないよ」

「簡単には答えられんか。……今となってはどうでも良いがな」

 そう言い残して転移の門(ゲート)へと入り姿が見えなくなった。

 見届けてカウコーは大きく息を吐いた。

「持ちこたえられたか?」

 護衛二人を先頭に部屋をでると不意に振り返り転移の門(ゲート)を見つめて呟く。

「強いて言うなら……大きな花を咲かせる種を撒くため、かな」

「団長、どうかされましたか?」

 先を進む護衛が気付き声を掛けるとカウコーは歩きだす。

 しばらく進んで階段を上り切ったあたりで背後から黒い刃物がカウコーの身体を貫いた。



 ◆   ◆   ◆   ◆   ◆




「カイ団長は特殊なスキルを持っているらしい。それでカウコー団長を殺したと……本人が言っていた」

 カウコーが最後に会っていた人物がボレアース騎士団のカイ・エキウスである事は間違いがなく別れた直後にカウコーは倒れた。そして自白しているのならば犯人は確定と言っても良い。

「でもどうして?」

 セレナの意見は誰もが思う。なぜ殺されなければならなかったのかと。

「ボレアースは王国に対してクーデターに加担しようとしている」

 にわかに信じられない言葉にファウオーとフラムが同時に声を上げる。

「すでに本隊は王都に入っている。団長も王都へ転移して合流しているだろう。別の部隊は王都北部のオストシュトラ付近まで来ているはずだ」

「ルゥ先輩は今どこにいるの?」

「俺は本部の足止めして今はオストシュトラに向かっている。あそこの領主とは知己でな……助けになりたい」

 少しの間をおき、よく聞いてくれと前置きして話をつづける。

「首謀者は第一王子のエクシム。奴は帝国と共和国と共謀している。2国とも最近政権がかわっている。これもエクシム王子の画策みたいだ。今度は自分の番だからその借りを返せと、2国を動かそうとしている」 

 溜め息を漏らしたフラムが確認のため尋ねる。

「その情報は確かなのか? 勘違いや偽情報では済まされないぞ」

「もちろん確かな情報だ。俺がいる獣人部隊は目も耳も鼻も効く」

 それでも信じるには証拠に乏しい。ルゥの言う事を信じたいが決め手にかけていてフラムもファウオーも判断しかねている。

「あの……良いですか?」

 シエルが恐る恐る声をかけると一斉に視線が集まり思わず後退る。

「えっと……テコが見に行ってくれていて、王城の周りにたくさんの騎士が取り囲んで中にもどんどん入っているそうです。北の、王都から離れたところで煙が上がっていて東の方にも大勢の人が近づいている……そうです」

「クソっ! 遅かったか!」

 ルゥは移動しながらだったようで周りの雑音が大きく聞こえてくる。

「頼むから信じてくれ! 共謀していたって裏切らねぇわけがねぇ! このままじゃオストシュトラもベルブラントも戦火に巻き込まれる。東は分からねぇが……兎に角エクシム王子はこの国を混沌に落とす気でいる」



「秩序ある世界を作る」

 テネブリス王に剣を突きつけてエクシムは宣言する。

 大広間にはボレアースの騎士が近衛騎士団と剣戟を繰り広げている。

「父上……いや国王ストゥールよ、貴方のやり方はぬるい。これではいつまでたっても大陸の覇者にはなれませぬぞ」

「……エクシム……貴様はそんな野心を……」

「野心なきものが覇者となり得ようか? 過去しか視えぬ貴方には到底理解できまい」

 テネブリスの王族は魔眼をもって生まれる。そしてその力は個人で異なり、その内容は王位の選定まで明かされることはなく、親が子の能力を知る以外に他者へは決して口外しない。当然、子が親の能力を知ることは無い。

「なぜだ……どこでそれを?」

「簡単な話だ。俺の未来視の魔眼で今この時の出来事を見ていたからだ」

 王位の選定は行われていないためストゥール王もエクシムの魔眼については知らず驚きを隠せない。加えて歴代の王家で自らその力について発言した者はおらず、王家が守ってきた掟が破られてしまう。

「4騎士団も解体する。東も南も脅威ではない。取り敢えず目障りになりそうな西は団長に消えてもらった。求心力を失えば必ず炎剣が中心に立つ。そうすれば風神と雷神が帝国と共和国に対処するしかなくなる。一層のこと潰しあってくれればうれしいのだがな」

「貴様という奴は……」

 エクシムの傍らにはトリニアスが宰相カエラムと視線を交らわせ、背後ではカイが不気味にほほ笑んでいる。

「トリニアス……お前も片棒を担いでいるのか?」

「父上の治世に関する能力は言うまでもなく、エクシムも認めています。私たちと一緒に新たな国を治める気はありませんか?」

 答えはわかっているのであろう。トリニアスの表情はすぐれない。

「これほどの血を流させて治める国とは……何なのだ?」

「言っているでしょう? この国にはまず秩序を正す必要がある。伝統に縛られていては才あるものが埋もれるだけだ。王よ……ここで果てていただこう」

 エクシムの合図でカイが飛び出しストゥール王に切り掛かる。だがその凶刃は防がれカイは逆に吹き飛ばされてしまう。

「あの人数をなぎ倒して来るか……さすがだな、パラディス近衛騎士団長」

 シエルの父、フォルト・パラディスが王を守るため立ちはだかる。

「バカな真似は止めておけ」

「貴公が相手ならば不足はなさそうだ」

 王宮内では乱戦が続くが半日ほどで全ての争乱はおさまった。


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