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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第1章 騎士学校編 他し事
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ルゥの初任務Ⅲ

 早朝、皆が目を覚ますと中型の魔物が数匹重なって倒れていた。討伐したのは当然ルゥだ。世闇に紛れて忍び寄ってきた魔物をシェルティオが発見し知らせた。野生の魔物は実力差が分かればすぐに逃げ出すのだが、実力差を知る前に風の爪に引き裂かれてしまっていた。ルゥも無闇に命を奪うつもりはないから前方の数匹を倒して残りは見逃した。

「これは……?」

 ヌンクの従者や団員が魔物の亡骸を囲っている。

「この辺りでよく見かけるブラッドドッグ……夜中にこんなやつが襲ってきていたのか?」

「こいつの毛皮はかなり高く売れる。損傷も少ないし状態もいいぞ」

 寝込みを襲われたことに恐怖はないのかとルゥは呆れていたが、気が付いたのはシェルティオだから自分も人の事は言えないと頭を掻く。

「すごいの! これはルゥ隊長が倒したのかの?」

 一番興奮していたのは領主のヌンクだった。

「獰猛で素早くて群れで協力して獲物を狩ると聞いたことがあるの! しかも歩く音を消すスキルを持っていると聞いたことがあるの」

「やけに詳しいですね……どこでそんな知識を?」

 単純に疑問だった。騎士でも遭遇したことがあるか仲間の誰かに聞かない限りは魔物の知識など得る機会はない。冒険者の知り合いでもいれば話は別だが、ただの一領主がそのような繋がりを持つとも思えなかったからだ。

「街の冒険者と呑む機会があっての、その時に色々話を聞かせてもらった、の」

「いや本当に冒険者から聞いたのかよ⁉︎」

 そんなことはないだろうと自分の中で否定していた答えだったものだから思わず声に出してしまった。

「ほっほっほ、意外じゃったかの? オストシュトラ周辺も魔物がたくさんいるから冒険者たちには頑張ってもらっているの。たまに労いに行くと面白い話を聞かせてくれて、その時に聞いた知識だ、の」

 ゼピュロスの領主も民衆よりであったが、ここまで寄り添うことはない。貴族であることに違いはないからどこかで平民とは一線を引いた感じがある。ルゥの知る領主とはそういう人種なのだと思ってきた。実際に見てきた領主はそういう人物だ。

 珍しい動物を見るような目でヌンクを見ていたらにっこりと微笑みかけられ少し焦る。

「儂、変わり者じゃろ? よく言われるの」

「本当に変ですね。ヤバいですよ……いい意味で」

 思わず笑ってしまったがこの領主は周りをよく見ていると感じる。心が読めるのかと思うほどにこちらの考えていることに合わせてくるのだが、それは個々人を観察しているからだろう。とぼけたフリをして抑えるところはしっかりと抑えている。

「食えねぇな……」

「はて……? この魔物は食用にもなるのかの?」

 時折見せる天然ボケも愛嬌になって慕われているのだろう。そばにいた従者に無理だと言われて残念そうにしていたが、食事の用意ができたと言われると自ら団員を呼び集め全員での朝食をとった。


 2日目の道程は山を越えていく。山といっても小高い丘が並んでいて少しずつ標高が上がる。緩やかな斜面を登って下っての繰り返しだけだが一日中となるときついものがあり、特に団員は慣れていないことに加えて夜中に魔物に襲われたことへの危機感を持つようルゥ隊長からお叱りを受けていたこともあって周囲の警戒に気を張りすぎてしまっていた。

「そこまで警戒しなくてもいいから……」

 そんな有様で団員の方が先にバテてしまい度々休憩を取ることになってしまう。今のペースでは到着が遅れることは確実であるため今後の方針と食糧の確認にヌンクと従者たちを集めて話合いを行う。

「1日、2日遅れても別に構わないの」

「食糧は少し余分に持っていたので2日ぐらいならギリギリ保ちます」

「魔物を捕まえて食べるのはどうかの? 冒険者が飢えを凌ぐために食べたことがあると聞いたことがあるの!」

「勘弁してください。魔物のなんて食べられるわけ……」

「ゼピュロスじゃ普通に食品加工して売っていましたよ」

 ボレアースでは魔物を食べる習慣がないことを言った後に思い出し後悔するが、どのような加工をすれば食べられるのかと従者が食い気味で質問を浴びせてきたので主の元には似た者が付き従うのだと改めて思う。

 余談だが、この従者にはグーテスの実家のウェッター商会の事を伝えた。

「とにかく、遅れてしまう事になり申し訳ありません」

「みな初めての任務で緊張しておるのじゃろ? 必死に頑張ってくれておるのだから問題ない、の」

 従者たちも頷き主人の考えと同じであることを伝えてくれる。自分の不甲斐なさを恥じると同時にこの主従をなんとしても無事に送り届けるのだと気を引き締める。

 ルゥは団員を集めて周囲の警戒をできるだけ前方だけにして余計な体力を使わせないように配置を変えた。ルゥは最後尾から左右と前方を広角で見渡し背後はシェルティオに任せた。

「あまり広い範囲を見る必要はない。自分が注意できる程度で良い。鼻が効くやつは先頭へ……耳のいいやつは左右に分かれて目のいいやつがフォローをしてやってくれ」

「はい!」

 意外とうまく機能してスピードが上がり予想よりも先に進むことができた。この日の夜は魔物に襲われることもなく静かに過ごせた。


 3日目も順調かと思われたが問題が発生する。

「道が塞がっておるの……」

「……これは迂回するしかねぇか」

 高低差のある道が終わりを迎え、ここからは比較的広く見通しの良い平野で舗装された街道が続くのだが土砂崩れが起きたように道は大きな岩や木で塞がれ高い壁を作っていた。

「なぜこんな……? この辺りには山なんてなかったはずなのに……」

 それでも目の前は土砂で塞がれ通れなくなっている。不可思議な光景に流石のヌンクも気落ちしているかと思ったが、予想とは少し違う険しい表情になっていた。

「まさかこのようなことまで……」

「明らかに人為的だが……何か心当たりでも?」

 ルゥの問い頷くと苦笑いを見せる。

「心当たりしかないの。儂がオストシュトラに戻ることを疎む連中がいるんだの」

 道中での振る舞いから人から恨まれるような人物とは思えなかったが、平民に寄り添うことはきっと同じ貴族からは疎まれるのだろう。だがそれだけでここまで大規模な妨害を行うのだろうかと疑問に思う。

「なあ、あんた……何かやったのか?」

 腕を組んで少し悩んで見せたが頭を振って困った表情で答える。

「特に何もしておらんのだがのぉ……儂、普通じゃよ?」

「いや、短期間で荒れ果てたオストシュトラを住みやすい街に豹変させて食糧の流通経路の開拓や犯罪者の取り締まりで治安も向上させといて、他の貴族に嫌がらせされたり犯罪者集団からも命を狙われているでしょう!」

 従者もなぜ忘れるのかと呆れ顔で説明する。そして何故護衛がそんな事を知らないとルゥに問いただす。

「聞いてねぇからに決まってんだろ。……くそ、もしかすると騎士団内に関与している奴が居るのか?」

 新人ばかりの部隊で護衛につかせる事自体が異様であったが合点がいく理由が見えそうであった。

「どうなってやがる? 俺の憧れの騎士団を汚しやがって……首謀者見つけてぶっ殺してやる」

 罠である可能性が高いが進める道は一つしか残されていなかった。相手が何者かわからない以上下手に動かない方が良いのだが、道のりは戻るよりも進む方が早い。

 それに敵が誰であっても勝てる自信があった。何よりも騎士団内に領主の命を脅かすことに手をかしている誰かがいる事が許せず、捕まえて洗いざらいをはっきりさせたかった。

――この人たちも仲間も騎士団も俺が守ってやる

 密かな闘志を燃やながらルゥは一行を率いて先へと進む。


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