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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第1章 騎士学校編 他し事
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ルゥの初任務Ⅱ

 獣人族といっても種族は様々である。狼、猪、犬、猫、熊、鳥、魚など多種多様で出身も多方面に広がる。ルーツがはっきりしない種族が多く発祥は分からない。それ故に憶測で語られる事も多く、いつの間にか魔族の成り損ないだの禁忌に手を出したエルフが産み出した化け物だの蔑みの対象になっていた。

「それを言い出せば……ヒト族も対して変わらないのに、の?」

 ルゥにとって北の領主は極寒の大地と同じ、いやもっと冷たく我慢を強いる存在だと思っていた。排他的で選民思想が強い。その割には厳しい環境に追いやられた所謂負け組の貴族ばかりで獣人を差別し弱く貧しい者たちを見下す。それは明らかな八つ当たりだった。無能のクセに手柄をたてて王都や他の領地に移ろうと躍起になっている。そのうえ増税や一部の貴族同士で便宜を図って自分たちの待遇だけを良くしようとするため領民の不満は溜まって行く一方である。

 それでも他の地域と違い大規模なテロや暴動が起きないのは騎士団の影響が大きい。武力は王国随一のボレアース騎士団の管轄で事件を起こそうものなら簡単に首が飛ぶ。それは領主であっても例外ではなく不正や事件を起こせば簡単に捕縛し罪の重さに応じて処罰を下す。

 騎士団としては只々公平であるだけなのだが民衆は貴族に鉄槌を下す正義の騎士団ともてはやす。

 そんなボアレース騎士団でも獣人族の扱いは違っていた。獣人が住みにくい土地柄ということもあるのだが何故か採用を見送られる事が多く、いつしかボレアース騎士団に獣人族は入れないと噂が立つ。

 実際には団員の中にも獣人は多くいる。特色を活かした戦い方をする者が多く、戦力として十分な資質を持っていれば入団できる。だが一芸に秀でただけでは役割を果たせず入団試験を受けても不合格になることが多い。求められているのは総合力の高さだった。



「珍しいね、カイ。君があんなに高い評価をつけるなんて」

 王都で行われる各騎士学校の上位成績者選抜会議でゼピュロス騎士団団長のカウコーはボレアース騎士団団長のカイ・エキウスに話しかける。

「何処ぞの風神が叛意した時に討てるようにしておかなくてはな」

「王国の剣は相変わらず物騒だね」

「王国の盾が不穏な戦力を次々に招き入れるからだろ?」

 カウコーはすぐに問題児たちの顔が浮かび苦笑する。

「増員に積極的なのもその為かい?」

 カイは首を横に振ると手で首をきるジェスチャーをする。

「採用と教育の担当責任者を首にして他全員を更迭した。奴ら実力ではなく己の好みで採用してまともな教育もせずにいたからな。立派な背信行為だ」

「斬ったのか?」

 少し強張った表情で聞いてしまったからカイも相応に空気を振るわせる。だが短く息を吐くと空気は緩む。

「辞めさせただけだ。機密保持のために領内からはしばらく出られんがな」


 カイは平均的な騎士と比べれば背が高いわけではなく小柄に見えるが溢れ出るオーラで実際よりも大きく見える。敵に対しては周りを威嚇し縮こまらせるから余計に大きく見えるだろう。

 剣の実力も確かで“王国の剣”は騎士団だけではなくカイの異名でもあった。

 カウコーから目を逸らし近くにいたルゥに視線を向ける。

「あいつは色々と使えそうだしウチを志望したんだ。文句はないな?」

 カウコーは事前にルゥがボレアース騎士団を志望している事をカイに伝えていた。本人を直接見ないうちは判断しないと公平を装っていたが意識はしていた。カウコーが勧めてくる事が珍しく、要らなければ是非ともゼピュロスに欲しいと言っていた事には驚いたし興味を引くには十分な言葉だった。

 蓋を開ければ全騎士団がルゥに高い評価をつけることになった。 

 視線に気がついたルゥが二人の元へと来る。

「お前には期待している。よろしく頼む」

 ルゥの胸に拳を当てて通りすぎるとそのまま会場をあとにする。

「彼は無骨なところもあって冷たい印象もあるかも知れないけど、本当は熱い奴だから」

「ええ、わかっています。それより口添えしていただきありがとうございました」

 頭を下げると肩を軽く叩かれる。

「私が言ったのは要らないならゼピュロスが貰うとだけさ。君は実力で勝ち取ったんだ。自信を持って頑張れ。ゼピュロスにいるみんなも、きっと君の活躍を期待しているさ」

 もう一度軽く肩を叩いてカウコーも背を向けた。ルゥは見送りながら感謝の言葉を呟いた。



 やる気に満ち溢れて入団するも何もする事がなく安穏とした日々が過ぎていった。

 ようやく与えられた役割は素人同然の獣人数名の基礎訓練だった。教育係を任されたが、ルゥ自身もまだ団内の決まり事を把握しきれていない。取り敢えず全員が同じ部隊と仮定して陣形や役割分担を決めて動くシミュレーションを繰り返した。それを見られていたのかは定かではないが今回の護衛任務にそっくりそのまま割り当てられてしまったのだった。

「今日はここで夜営します。テントを張るのでそこでお休みください」

「あい、分かった。みなはどこで寝るのかの?」

 ヌンクはまだ組立途中のテントを見ながら素朴な疑問を口にする。手際の悪さは素人目にも明らかで人数分のテントを張る頃には夜が明けてしまいそうだった。

「何人か交代で見張りをしますのでご心配なく」

 事実であるのに手際の悪さの言い訳をしているような気分になる。

「そうか……夜は魔物も増えるから怖いの。みなも疲れておろう。儂も見張りの手伝いをしようかの?」

 何を言い出すのだと驚きで思わずいつもの調子で声を出しそうになる。瞬間的に落ち着きを取り戻して声色を整える。

「領主様がそんな事をすればお付きの方も気を遣われるでしょう? それに見張りも俺たちの仕事ですから、その……ゆっくりと休んでいて下さい」

「そうかの……悪いの? ではお言葉に甘えさせてもらおうかの……?」

 やはりこの領主は変わり者だ、そう思うと同時にこれが本来の領主の在るべき姿なのだろうかとも思う。見てきた貴族は誰も彼も碌でもない人物ばかりだった事もあるかもしれない。

――つまりはこの人だったら良かったのに……て事か。


 夜営の準備は日が暮れるまでには何とか整った。食事の用意はヌンクの従者が買って出てくれた事で正直ほっとした。ここ迄のやり取りを見兼ねての事で申し訳なさが先に立つが食事は大事だから頼む事も考えていた。

 見張りの順番を決めたがあまり意味はなかった。案の定居眠りで見張りの役目を果たせた者はいない。初めての任務で気を張って疲れているのだから仕方がないと思う反面、これから騎士団員としてやっていけるのかと他人事ながら心配になる。他の団員が見張りの時はシェルティオに任せてルゥもしばしの休息を取る。

 少しずつ眠りに落ちそうになって、ふと明日も何も起きなければ良いのにと思ったところで少し目が覚める。

「ああ……これがアイツの言ってた……フラグか」

 自慢げに笑うセレナの顔を思い浮かべながら今度こそ眠りについた。


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