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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第1章 騎士学校編 他し事
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入団後のあれこれ

 セレナたち3人は騎士学校を自主退学しゼピュロス騎士団へ入団した。

 通常、有望な人材を他の騎士団と取り合うことがないように各学校の成績上位者は選択希望会議を経て希望する騎士団へ優先的に入団できるようになっている。

 唯一の例外はイルヴィアだった。在学中に突出した力が認められて入学から僅か半年でゼピュロス騎士団へ入団を果たす。この時に行われたのは成績表と希望する騎士団を本人の署名入りで各騎士団へ送付し承認を得る方法をとった。彼女の場合、入学前から高い能力を持つことは噂になっていて政治的な根回しは行われていた。

 本人が希望するのであれば会議を開く必要もないから各騎士団は悔しい気持ちを表に出さずに承認のサインをした。

 それから1年も経たずに、しかも3人もとなれば怪しまれても仕方がない。

 王国の各方角を守護する騎士団にとって国内でのパワーバランスは本来ならば関係がなく、他国との戦闘の可能性が高い西と北の戦力強化は国としては喜ばしいことではある。だがそれを理解していても軍事組織として強くありたいという気持ちが妬みを生み、やがてその感情は間違った方向へと導いていく。そうなれば反乱の意思があるのではとあらぬ疑いをかけられかねない。

 だから今回は一般入団試験を行った。

 団員数十名と各隊長クラスが相手になって所定の場所へ辿り着けるかのテストを行い、それに合格したと中央の近衛騎士団へ報告して入団の承認を得た。一般入団試験は騎士学校創設以来行われる機会が減っていたが、他の騎士団では年1回は行われている。

 だから“今だけは“特に問題になることもなくすんなりと入団することができた。

 シエルだけは何者かに狙われているとの噂が広まりつつあり、当初の通り騎士団預かりとされた。

 入団の経緯は違ってしまったが、四人はゼピュロス騎士団の見習い騎士となった。


「おい、ルーキーども。俺らと勝負しろ」

 入団の手続きを終えたセレナたちは団長のカウコーに呼び出されて会議室へと向かっている。襲撃時に話せなかったある計画についてだと聞いた。そこにはルゥも呼び出されて一緒に話を聞くことになっていた。

 そこにヘルマ、アルドーレ、ロージアの三人が会議室の前で待ち構えていて声をかけてきた。

「えっと……皆さんと違ってあたしたち忙しいので声かけないでください」

「そっかぁ……忙しんならしゃーないか。俺らみたいに暇ちゃうもんな。……わかった! 2度と声かけへんわ。邪魔して悪かったな…………ってなるかい‼︎」

「ノリツッコミが長ぇよ……」

  ロージアをはじめとして全員が白けているなかシエルだけが笑いを堪えていた。

「俺らはお前らの部隊長様やぞ! ……知らんけど」

「所属の発表はまだだからわかんねーよ」

 アルドーレは散々説得しても聞く耳を持たないヘルマの事は諦めたが理不尽に絡まれるセレナたちが心配でついてきた。

「とにかく! お前らは勝った気でおるかもしれんけどな、実力の違いをはっきり見せたるから顔貸せ!」

「鬱陶しいから嫌だって言いましたよね? 団長に呼ばれているので失礼します」

「ええ……忙しいって言ったのに……今はっきりと鬱陶しいって……」

 アルドーレとロージアを交互に見ながら狼狽えるが二人からも「鬱陶しい」と言われて涙目になりつつ抗議する。

「お前ら団長にはあいつら止めろって言われたのに突破されて悔しくないんか⁉︎ 俺らが任務失敗して団長に恥かかせたままでええんか⁉︎」

 ヘルマの「団長への恥」という言葉に何も言わないが目が反応していた。

「別に恥だなんて思っていないよ、ヘルマ」

 会議室の扉はいつの間にか開かれていて中からカウコーが顔を出す。

「先日の勝負に納得がいってないんだね。僕もまさか建物1棟壊すほどだなんて思っていなかったからね」

「ほん……っとうに申し訳ありませんでした!」

 グーテスが膝に顔が引っ付きそうな勢いて体を折るとセレナとソルフィリアが以前と同じような姿を思い出し、笑いを堪える。

「話を始める前にひと勝負してみるかい?」

 カウコーの言葉にヘルマは喜びの声をあげていたが両脇の二人は大きくため息をつく。

「そうだ! アルは最新の弓を揃えたいって言っていたよね? 彼女らに勝てたら稟議の承認をしてもいいよ」

「おら! さっさと行くぞ!」

 明らかに目つきが変わり体中の筋肉が活性化しているように見えた。

「ロージアは……そうだな……私とゆっくり話がしたいと言っていたね。半日ぐらいなら君の為に空けても良いよ」

「ヘルマ……アル……足、引っ張んじゃねぇぞ⁉️ ガキンチョ共、ついて来い!」

 ロージアもまた目の色が変わり歩きだす。アルドーレとヘルマも後に続いた。

「……え、おう……急に? あいつらどうしたん?」

 セレナたちはカウコーが何かを企んでいる顔を見ると諦めて勝負に応じることにした。



 グーテスが壊した建物の瓦礫はきれいに片付けられて何もなくなっていた。

 広く平坦なこの場所は騎士たちの訓練場になっており数人の騎士が何組かに分かれて剣術や隊列を組んだ訓練を行っていた。

「今日は一人増えとるけど……エエぞ、4人でかかって来い!」

「いや、俺は今日そのつもりで来てないからパスで」

「ええ⁉️ 先輩入らないの?」

「ああ、任せる」

 口を尖らせながら文句をいうセレナに背を向けて面倒くさそうにカウコーたち観戦組の方へと向かう。

「参加しなくても良かったのかい?」

「どうせ違う騎士団になるんだ……今からでもチーム連携は練習しておいた方が良いでしょ?」

「君は良い指揮官になりそうだ。腕のたつ指揮官ならカイも喜ぶだろう」

 ボアレース騎士団長カイの名を聞いても表情は変わらなかったが、獣人特有の尻尾だけは落ち着きがなかった。


「人数が同じになったから負けましたって言い訳しても良いぞ」

「負けませんから問題ありません」

 ソルフィリアが平然と言ってのける姿にセレナは喜び、グーテスは溜め息を吐く。

 初めて見る彼女の強気な姿勢にシエルは大いに驚いていた。

「アタシと戦ったときもあんな感じだったよ。グーテスと二人で足止めするだけかと思ったらちゃんと戦って負けちゃったからね」

 イルヴィアの話を聞いて一層目を輝かせて3人を見つめる。

「シエル……アタシたちも勝負しない? ふたりでテコと手合わせしてみたい」

 思いもよらなかった申し出に目を見開いて振り返り、すぐに独り言が始まる。この場にいないテコと相談しているようだった。

「あの……テコは良いよって言っています」

「ほんと? やったー! じゃあここから北に動物もあまりいない平原があるからそこでやろう」

 そう言うとシエルの手を引いて動き出す。シエルは一瞬カウコーと目があった気がしたが、恐らくイルヴィアとのアイコンタクトだったのであろう。これも団長の計画の内でまた手のひらで踊らされているのだなと思いながら連れ去られて行った。

 いつの間にか周囲で訓練中であった騎士たちが集まって観客として周りを囲み、円の中心にいる6人に視線が注がれていた。

 一方でセレナたちは連れ去られるシエルを横目に見つつも今は眼の前の3人から目を離すことができなかった。強敵であるヘルマたちに挑発をしかけたが生意気な口をきく見習いに対して頭は冷静になり、代わりに向けられる殺気が以前とは違い本気のものだった。

 それでもソルフィリアは動じることなく言い放つ。

「単に相性の問題ですから。今日も勝てます」

「イルヴィアにも同じことを言ったらしいじゃねぇか? で……俺らには勝てるってどういう事だよ⁉️」

「言葉どおりの意味ですが……何か?」

「もう……あんまり煽らないで……」

「いいじゃない! あたしたちの実力、存分に見せてあげましょう」

 カウコーが両者の間に立って手を上げる。

「これは決闘ではなく試合だから無茶はしないように」

 腕を振り下ろすと同時に発した「始め」の声が響き渡り両者共に動き出した。


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